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「ささるアイディア」刊行記念 鼎談トークイベント もっとディープに「ささるアイディア」 鳥羽周作 + 松永 光弘 + 川村 真司(全8記事)

「モチベーション」がいつまでも枯れない人の共通項 「sio」鳥羽シェフが語る、おもしろいクリエイターの特徴

NY発のセレクトショップで、“未来の日用品店”をコンセプトとする「New Stand Tokyo」の主催で行われた『ささるアイディア』刊行記念イベントに、人気レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作氏、クリエイティブディレクターの川村真司氏、そして同著の編集者・松永光弘氏が登壇。本記事では、「『ささるアイディア』とは何か?」や、クリエイティブにおける「課題」の重要性などが語られました。

クリエイティブは、目的ではなく「手段」

川村真司氏(以下、川村):僕らもこの間、ミントなんですけど、食い物を作ったんですよ。コクヨさんと一緒に「Minute Mint」っていうのを作って。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):コクヨさんはおもしろいからな。

川村:おもしろいです。彼ら最高ですよね。そのミントは、1分と3分で溶けるミントなんですよ。だから、口の中に入れておくと、だいたい溶けたところで「1分経ったな」っていうのがわかる。

鳥羽:それ、超ヤバいですね。

川村:つまり時計みたいなミントなんですよ。誰も欲しがってないんだけど、あったら欲しくなるみたいなのでやっていて。それも、やっぱりコントロールの仕方とか、新しい価値の持っていき方なんだよね。

鳥羽:体験ですよね。

川村:そうですね。だから「やってみたい」と思ってもらう。実際便利かどうかはわからないけど(笑)、これまでなかった価値じゃないですか。

鳥羽:でもめちゃくちゃわかります。川村さんはクリエイティブを絶対手段にするから。たぶんクリエイティブって「手段」なんですよ。何のためにそれが必要かというと、「何かを体験させるための手段」としてなんですよね。そのアプローチにクリエイティブを入れるという。

クリエイティブをやることが目的になっている場合って、大したことないんですよ。あくまで手段で、その先にあることに対するクリエイティブだと、けっこういいものになる。今のミントもそうですよね。「1分で消える」という体験価値のためにクリエイティブを使っているから、価値があるんだと思う。

川村:そうそう、体験ですよね。

バーベキューの醍醐味は「味」ではない

松永光弘氏(以下、松永):鳥羽さんのアイスって、確かに5分、6分待ってというものですが、あれは作った時から想定していたんですか?

鳥羽:そうなんですよ。サンプルは本当にカッチカチの状態でくるんですね。ぜんぜんおいしくないんですよ。「カッチカチじゃん。なんなら歯が折れるぐらいじゃん」って。「これ何なん? 絶対おいしくないじゃん」って言って。弁当に関しては、僕らは作ってから8時間後に食うんですよ。その状態でおいしいかどうかが大事だから。

コンビニにしろ何にしろ、「人の手が離れて、一番悪い状態でどうなるか」を検証しているんです。アイスに関しては、来た状態ではやっぱり硬いのでぜんぜんおいしくなくて。

とあるテレビ番組でこのアイスが審査された時、どういう状態で食べたのかわからないけど、不合格になっちゃったんです。別にそれはぜんぜんいいんですけど、5分経ってソフトクリームが滑らかになった状態で食べてくれてたら、ちょっと違ったかなと思って。

やっぱり「おいしさを置いていかない」というのは、僕の仕事の一番のところなので、それに対して「体験価値をどう作るか」みたいなことですね。

川村:フォーミュラを変えるとかじゃないんですよね。それに対して、「5分待ってから食ってくれ」って、作ったプログラムをある種ハックしている。そのソリューションもおもしろいと思いました。

鳥羽:おもしろいのが、コンビニってまあまあ近いじゃないですか。だから5分ぐらい、3分ぐらいって、意外とちょうどよくて。買って帰って食べたらちょうどいいんですよ。

僕、エゴサが大好きなので見ちゃうんですが、Twitterでめちゃくちゃ上がっているんですよ。「5分経ったら最高でした」みたいな。僕も「あざっす」しか返さないですけど、やっぱりうれしいですよね。

松永:僕、実際やりました。待っている間に「これ、どうなっていくんだろう?」という気持ちが高まりますよね。

川村:結局料理もそういうところ、ありますよね。

松永:あります、あります。

川村:朝起きて食べるからおいしいものもあるし。もっと言うとバーベキュー型の食事もそうですよね。あれって、味も大事ですけど、それより一緒に焼いている体験があって。

鳥羽:そうそう。バーベキューって、本当はほぼまずいですからね。

(会場笑)

感動体験さえ与えられれば、領域は何でもいい

鳥羽:どう考えてもまずいですよ。あんな訳のわからない火加減で、なんならちょっと生でも気にしないで食うじゃないですか。あんなの普通に家で食ってたら、「絶対嫌だな」ってなるけど、それが許される空間があって。

川村:そのプロセスですよね。

鳥羽:そうそう。みんなで訳のわからない買い物に行ってやる感じとか。そういうところなんですよね。だからやっぱり、味だけじゃない。もちろんおいしく作るんですけど、それよりも大事なこともある。それをわかった上でやることが、もしかしたらすごく大切で。

川村:それを、プロジェクションマッピングでピョロロローンみたいなのじゃなくて、ちゃんとやるっていう(笑)。

鳥羽:そうですね。

川村:「ちゃんと考える」っていうことを一緒にやりたいな。

松永:そうですね。

鳥羽:これは、言い換えると「ささる料理」だし、「ささる感動体験」という感覚で、全部の物事をやっています。うちは「感動体験を作る会社」と言っているので。

だからそういうことを川村さんと一緒に、ホテル、コンビニ、ファミレスとか何でもいいんですけど、めちゃくちゃやりたいですね。

川村:すげえやりたいです。

松永:何がいいですかね。

鳥羽:正直何でもいいです。

川村:うちの会社の名前はWhateverで「何でも屋」なので。

松永:そうですよね。

鳥羽:僕も、最近二子玉にアジア料理の店を出して、料理のジャンルにこだわらないんですよ。だから、正直何でもいいですね。

川村:感動体験さえ与えられれば、別に何でもいいんですね。

鳥羽:そうです。事務の人に「Excelうまいですね」と言っても「そりゃそうでしょう」となるように、「料理うまいですね」と言われても、「そりゃそうでしょ」という感じ。だから、何でもいいっちゃいいんですよね。

松永:それって、「もともと体験を重視しているジャンル」がいいんですか? それとも「体験のことを忘れていそうなジャンル」がいいんですか? どっちがおもしろいのかな?

鳥羽:どっちでもいいです。

松永:「え? ここに体験持ち込むの?」みたいなのが良さそうな気はしますけど。

鳥羽:いや、「できていないところに体験を持ち込む」のもいいし、「できているところに、さらに新しい価値を作る」というやり方もけっこうあると思うので。

感動だけではない、価値体験の作り方

川村:鳥羽さんもそうかもしれませんが、シェフといっても外面的な料理をするだけで、それ以外の仕事が増えてきている人が多そうですよね。

鳥羽:本当ですか? 僕、そこはわりと現実派で、おいしくない料理は作りたくない派なんですよ。

川村:そこは、ルーツとしてちゃんと持っておくんですね。

鳥羽:そうですね。地方に、ガストロノミーみたいな体験価値のレストランがよくありますよね。実際行ってみると、料理が出た瞬間「おお!」とテンションマックスになるんだけど、食ったら「はーん」となってしまう。なんか疲れてきてしまうというのか。

松永:なるほど。

鳥羽:もう一山越えてくれよと思ってしまって。けっこう地方って、「おもてなし力」が強すぎちゃって疲れるんです。皿数が多いし、時間が長いし。だから、最近僕の店の料理はめっちゃ少ないんですよ。

自分で会食コーディネートの超天才かもって思うんだけど、会食する時って、絶対しゃべりながら食うんですよ。だから絶対、量は少ないほうがいいんですね。

量を多くすると、しゃべって食わない上にお腹いっぱいになっちゃう。それに会食にはホストがいることが多いから、「気を遣って残せない」とか「残すと恥ずかしい」みたいなことがある。特に女性は、最後だけ調整できるようにして、絶対量は少なくていいと思って。最近、自分も会食するようになってわかったんです。だから、そうやればウケるかなと思って。

川村:すんげえ楽しいよね。

松永:なるほど。

鳥羽:そう。会食は少ないほうが超いいんですよ。そういう時に、皿数が多くて、ガストロノミーみたいになっちゃうと、お客さんが話をしているのに、サービスの人は料理の説明をしなきゃいけないから。

川村:あるある。それわかる。

鳥羽:僕が今考えているレストランはそこじゃないんですよね。だから青山にあるHotel’sというレストランは、まさにホテルのような感じで、クオリティの高い料理を出していて。そういうところもめちゃくちゃ行き届くようにしているから、超いいですよ。今僕が一番楽で気持ちがいい店ですね。そういう体験価値の作り方ですよね。

今のレストランのシーンって、さっき言ったガストロノミーだったり、煙が出てくるような仕掛けに凝ったりになるから。会食で煙を出されてもね。「今日のアジェンダはそれじゃないんです」ってなっちゃう。

川村:アジェンダね。

松永:なるほど。体験と言っても、ただ感動するだけじゃなくて、「よりその場を効果的に機能させる」という体験の作り方もあるわけですね。

鳥羽:あります。

どうすれば「ささるアイディア」が出てくるのか?

鳥羽:さっきのお話を聞いていて思うんですけど、川村さんはアーティストじゃなくてめちゃくちゃクリエイターだと思うんですよ。アーティストとクリエイターの違いは、ちゃんとクライアントが浮かんでいて、それに対してクリエイションをしているかどうかだと思っていて。

「ささるアイディアってどうすれば出てくるの?」とよく聞かれるんですが、それは単純に「ささってほしい相手のことを想像しているかどうか」なんですね。そうすれば確実にささるという。なぜかと言うと、単に「ささってほしい相手は誰か」と「その人たちが何を求めているか」をまずキャッチして、それに対してクリエイションという手段で解決しているからなんです。

松永:なるほど。

鳥羽:「ささるアイディアって何なんですか?」って言ったら、シンプルに「相手が喜ぶものでしょ」「求めているものでしょ」っていうくらい。自分が実際に会食してみてわかったこともありますね。そのための手口はたくさんあるっていうか。

松永:今回、この本を出版するにあたって、15人に話を聞いたじゃないですか。本にはもちろん書けないですけど、やっぱり印象として「みんなしつこいな」と思ったんですよね(笑)。

川村:諦めないってことですね。

松永:そう、「諦めずによくそこまでしつこくやるな」みたいなことが共通していた気がします。

鳥羽:でもこの15人のメンツを見ると、「派手派」と「地味派」に分かれますね。

川村:(笑)。

松永:その話題がきますか。

鳥羽:これ、水野学さんも言っていたんですけど、これは「良い・悪い」の話じゃないんですよ。僕と川村さんは、すごく地味ですね。僕はこういうふうに見えるけど、柄物とか色物はぜんぜん着ないから。

川村:超わかります。僕も「ねずみ野郎」って言われるんですよね。

松永:確かにね。

(会場笑)

川村:いつも、ねずみか黒ばかり着ているから。

クリエイティブにおける「課題」の重要性

鳥羽:僕はふだんの服は、無地のネイビーが多いんですよね。それが「良い・悪い」ではなくて、タイプの話。もともとのタイプが「派手の5」とか「派手の10」の人もいれば、僕はたぶん「地味の6」ぐらい。

川村:(笑)。

鳥羽:地味なんだけど、地味すぎない真ん中あたり。たぶん川村さんは「地味の3」とか。

川村:そうね。別名、職人気質系ですよね。

松永:それはどういう意味があるんですかね(笑)。

鳥羽:どっちが良い・悪いじゃなくて、水野さんは「地味な人と仲良くなる確率が高い」とおっしゃっていて。

松永:そうですね。

川村:確かに。

鳥羽:僕は彼らともすごく仲がいいし、いい人で好きですけどね。逆に水野さんはけっこう地味だし。

川村:そうなんですね。

鳥羽:逆に、PARTYの伊藤(直樹)さんは地味だけど、地味の派手目で。

川村:すごくわかる。前に一緒の会社だったからわかる。

鳥羽:わかるでしょ?

松永:地味の派手(笑)。

(会場笑)

川村:地味と派手のバランスですね(笑)。

鳥羽:そう。伊藤さんはずっと帽子を被っていらっしゃるんですけど。それがご自分のスタンスで、よっぽどの時じゃないと「帽子を取らない」と言っていて。でも、最近ちょっと髪が長くなって、帽子を取っていますけどね。

(会場笑)

松永:地味と派手か。なるほどな。

鳥羽:それで今日、川村さんはたぶん黒で来ると思ったから、僕は白を着てきて。

(会場笑)

松永:(笑)。本当に?

鳥羽:本当、本当。

川村:すげえ。もう手のひらの上で転がされてる?

松永:うん、転がっていますよ。まずいですね(笑)。

鳥羽:お二人とも、たぶん地味な感じで来るのかなって。でも、そういう服装のTPOも、結局相手とか場所に合わせる想像力だから。ささるアイディアってたぶん、想像力なんですよね。

松永:そうですね。

川村:想像力っていうのは、すごくある。それもあるし、課題。課題が見えたら、答えは絶対出るに決まっている。だからその見つけ方だよね。

鳥羽:そうです。みんな、課題が見つけられないんですよね。

川村:そうなの、そうなの。本当はここが一番クリエイティブを発揮しないといけないところなんですけど。

300円のアイス作りと、1万円のコース作りの「熱量」

松永:ちょっと素人を代表して質問してもいいですかね? 僕的に言うと、その「粘着質なまでの細かい想像力」は、どうやって身に着けたんですか?

川村:粘着質……。

松永:いや、粘着質って自分で認めにくいと思いますけど、その細かい想像力はどうやって身に着けたんでしょうか?

川村:僕は、「諦めない派」であることは自覚しています。というか、一番高い山にやっぱり登りたい。というかみんなを登らせてあげたくて。それは僕もそうだし、クライアントもそうだし、体験する人も含めて、そのためなら何でもするんです。そのためなら靴でも舐める。

鳥羽:俺も、まったく同じことを言っていますよ。

川村:本当? そうなんですね。一回途中まで登った山も、一番高い山じゃなかったらとっとと下りて「こっちに登ろう」とかやっちゃう。これが気持ちいいじゃないですか。やっぱり一番高い頂に立つのが楽しいから。

鳥羽:めっちゃわかるわ。だから、人から「なんでコンビニでやるの?」とかいろいろ言われるんですよ。松屋もやっているんですけど。別にみんなが喜ぶんだったら何だっていいんですよ。ジャンルとかないんですよ。

だから、「300円のアイスを作るのと、1万円のコースのお皿を作るのは、僕の中では一緒だから」とよく言っていて。そっちが判断しているだけで、別に僕は同じ熱量でやっているから、そうじゃないんだよと。「食えばわかる」って思ってやっているんですけど。

だから、「いいことをするためだったら何でもやる」というのはある。みんなが喜ぶならYouTubeもやる。さっきまでめちゃくちゃテンション低かったのに、「どうも! 〇〇です!」とやれちゃうのは、いいことをするためなら何でもできるからです。

(一同笑)

鳥羽:だから、愛情があるんですよね。

松永:愛か。

川村:でも、本当にそれが楽しくてやっているから、逆に「なんでそこまで粘れないの?」って思います。

鳥羽:でもね、たぶん川村さんや僕もそうですけど、一緒に働く人にとっては地獄で。

(会場笑)

「これでいくぞ」と言っていても、プレゼン直前になって「やっぱあれやめよう」とかぜんぜんあるんですよ。それが当たり前。だから「シェフ、1ヶ月後のコースを考えてください」とよく言われるんですが、そんなの意味がないんですよ。1ヶ月前に考えたものなんて、そんなの1ヶ月後にやるわけないから。絶対変えちゃうから。もっといいものを思いついちゃうから。

川村:わかります。

鳥羽氏と川村氏の「モチベーションの源泉」

鳥羽:もっといいものを思いついているのに、やらない理由がないじゃないですか。

川村:「ここが見えているのにそっち行くの?」っていう。

鳥羽:そう。「そんなのねえよ」っていう感じ。うちの会社もたぶん同じ。

川村:同じですね。完全に迷惑をかけている自覚はあります。

鳥羽:あります。

川村:でも、いいことですからね。さっきのYouTubeじゃないけど、これをやらなきゃこっちに行けないんだったらいくらでもやるし。

鳥羽:結果、みんなが幸せになっているというのはあるんですけど。僕は夜中の3時とか起きているので、普通に会社にメールしてますからね。何かアイディアを思いついたら、Facebookメッセンジャーで緑の点が付いているやつに狙い撃ちしてメール、とりあえず送ります。「これどう?」って言って。反応がわかんないと超イライラしちゃうので。

松永:もうなんかブラックというレベルじゃないですね(笑)。

鳥羽:そうですよ。

松永:漆黒(笑)。

川村:やり方による。

鳥羽:社長が寝ないからみんな休めないっていうね。一番ブラックなかたちになっちゃっている。

松永:でも社長が世の中への愛に満ちているから、やっぱりそれは無下にできないですよね。

川村:それをみんな知っているからじゃないですか? やっぱり「ここへ行こう」と思ってがんばっているだけだから、いくら大変でも「ついていこうぜ!」ってなる。

松永:そうですね。

鳥羽:逆に、そうじゃない人は辞めていくしか選択肢はないので。例えば、「10億円の価値がある会社にしましょう」みたいな話にはあんまり価値がない。それなりにあるのかもしれないけど。

要は、例えば僕や川村さんが「世の中の人をハッピーにしましょう」とか「笑顔にしましょう」と言っても、それはやってもやっても終わらないんですよ。延々と課題があるからモチベーションは下がらない。でも10億円みたいな話だと、達成するとその先がなくなって、けっこう人生がおもしろくなくなっちゃうんですよね。

だからやっぱり、「終わらない課題を見つけること」「課題を何にするかということ」はめちゃくちゃ重要だな。その課題解決手段が川村さんはクリエイティブのほうだし、僕は料理だっていうだけで。けっこう、こういうふうにやっている人はおもしろい人が多いんですよね。

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