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「ささるアイディア」刊行記念 鼎談トークイベント もっとディープに「ささるアイディア」 鳥羽周作 + 松永 光弘 + 川村 真司(全8記事)

一つ星シェフが、「ミニストップの弁当」を監修したワケ セブンに勝てる、“わざわざ行くコンビニ”を作る戦略

NY発のセレクトショップで、“未来の日用品店”をコンセプトとする「New Stand Tokyo」の主催で行われた『ささるアイディア』刊行記念イベントに、人気レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作氏、クリエイティブディレクターの川村真司氏、そして同著の編集者・松永光弘氏が登壇。本記事では、広告で数字やバズを求めることの弊害や、鳥羽氏が監修したミニストップ「タレ弁」のエピソードなどが語られました。

過去に評価された作品を「手本にしてはいけない」

松永光弘氏(以下、松永):川村さん、さっきのいろいろ見ておいたほうがいい、要素分解したほうがいいというのは、どういうものを見ればいいんですか?

川村真司氏(以下、川村):何でもじゃないですか。ジャンルにもよるので。でも、うちの会社のことで言うと、広告とかコミュニケーションデザインをするので、基本はそういうものは見なさいと言います。

ただ、絶対手本にはしてはいけないから、教則本として例えばカンヌとかD&ADとか、そういうものの受賞作品を10年分ぐらい掘り下げて、全部要素分解したほうがいいよ、と言います。広告に限った話ですけど。

でも最終的には、建築とか映画とか、やっぱり異ジャンルのものを見て、そこからさらに抽出できるようになったほうがいいよという話をします。

松永:「手本にしてはいけない」という話がありましたが、それはどういう意味ですか?

川村:やっぱり見ていくとメソッドが見えるので。それだけの数を見ると、例えば広告とか、こういう文法で作られているということが、淡く見えてくるんですね。

それで作ればある程度のものにはなるんですけど、すでにメソッドが存在しているものなので、ここに何をはめるかみたいな、ある種流れ作業にしかならないんです。自分がおもしろくないのが一番の理由ですけど、表現としても新しくないから、「別にそれ、俺がやらなくてもいいよね」みたいな話になるんですよ。そういうのはでっかい代理店さんがやればいいだけです。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):めっちゃわかるわ。

川村:だったら、「そうじゃないもの」を見つけるために、「これはやられているから、そこは行かないでおこう」という指標にできるんです。やられてないんだったら、どんなにそれがちっちゃいものでも、僕はすごく価値があると思っていて。じゃあそれをやる、と決められるじゃないですか。

バズらせ目的のSNSは「本筋」ではない

松永:そういえば、鳥羽さんはついにインスタをやられるように……。

川村:ついに(笑)。

鳥羽:いやいや。僕、人の料理とか気にならないから、レストランに行ってもまったく写真を撮ったりしない。興味がぜんぜんないんですよね。だから、(他者のInstagramの手法の)まねしようと思ったことがないし。

いつも自分の中でゴールを決めて、それに対して調理方法でどう解決するかしか考えていないから、ぜんぜんそういうのは見ないし、気にもしてないし、そういうほうがいいですよ。

自分が考え抜いた結果、みんなと同じ文化になるような本筋にたどり着いたならそれはそれでいいんだけど、「みんながこうだからこう」みたいな話は一番おもしろくないし、あんまり価値がないですね。

川村:確かに。

鳥羽:Twitterとか、バズらせようと思ったらいくらでもできるけど、それはバズらせることが目的になってしまっているじゃないですか。「いいレシピを作りたいな」と思ってやったら結果バズったのはいいんだけど、バズらせようと思ってやるのは本筋じゃないから。

松永:なるほど。

鳥羽:つまらないんだよな。薄くなってしまう。

松永:ですよね。川村さん、汚名返上のチャットのコメントがあります。

川村:汚名返上? 何ですか? あ、褒められてる? 

松永:はい。読み上げますね。

川村:また身内ですか。

松永:「川村さんは、高みを目指している物腰柔らかなところが素敵です」と書いてあります。

鳥羽:テラオ!(スタッフを呼びながら)こっちもないの?

川村:鳥羽さんは? 

松永:鳥羽さんは何も……。

川村:誰か急いで(笑)。

広告で、数字やバズを求めることの弊害

川村:でもすごくよくわかりますけどね。自分の中では、もともと広告畑出身と呼ばれるのも、ちょっと違和感がある。確かに広告を長くやっていたし、そのプロフェッションとしてやっていたんですけど、広告ってどちらかというと、マーケティングとか数字のところだと思っていて。

プレゼンテーションしてターゲットはこれで、数字がいくらでこうやったらこうできるはずです、みたいな。そんなわけないんですよ。でもずっと自分が広告をやっていたジレンマがあって。

別に今でも広告はやるんですけど、僕はアナリティクスとかストラテジーとかはすごく嫌いです。もちろん短期的なものは見るし、狙ったものもあるんですけど。それより、もっと誰が見ても「あ、これぶっ刺さる」みたいなもののほうが、より近道だと思う。そこをやっていきたいという気持ちで今、なんでも屋をやっているんです。

鳥羽:数字だけではない部分を追い始めると、何でもやらないといけなくなってしまう。今、川村さんも言ったように、数字を追いかけるとか、バズを作るとか、広告目線だけでやると瞬間風速と切り取りになる。さっきも言いましたけど、切り取りの感動は深度がめちゃくちゃ浅いんですよ。

文脈ということになると、広告にまつわる何かをやらないといけないし、デザインも含めてアウトプットまで面倒を見るとなると、いろいろやらないといけないこともある。そうすると、いい広告を作ることが目的になるのではなく、広告がちゃんと手段になるのがいいと言うか。これからの広告業界は、広告という手段を通して、本当にいいものを世の中にどう根付かせていくかみたいなほうに、たぶんなっていく。

そう考えると、もっとソフトを強くしていかないといけないというか、ソフトの強い人とやる仕事が増えるようになるので、僕は博報堂ケトルさんとシズるという会社をやっているわけです。

川村:本当にそう思いますね。クリエイティブなものは、やっぱり瞬間最大風速的な問題がある。やっぱり今の課題は、すごく持続性というか。

鳥羽:そうそう。サスティナビリティの話とかね。

川村:どう感情を持続させるか。それと、プロダクトを作ってプロトタイプ系のアワードを取っても、次の年に見たらもうサイトもクローズしている。だいたいそうです。

実際にいいものだったんだから、なんで続けないのと思う。ビジネスモデル的にうまくいかなかったとか、けっこうリアルな話もあると思うんですけど、そこまで含めてプロデュースできて作れるようになると、本当に世の中が良くなると思います。

名前から設計した、ミニストップの「タレ弁」

鳥羽:今は、世の中を良くするための設計図の範囲が広くなっているんですよ。単純な切り取りで世の中を良くしよう、みたいなことに限界を感じている人が増えている。だから、みんな一極化するわけですよ。

僕は料理パートを担います。じゃあ、コミュニケーションは川村さんお願いしますとか。それぞれのプロとチームを作ることで、世の中を良くする設計図を再現できるチームが必要だなと。だって建物だったらそうじゃないですか。設計する人がいて、施工する人がいてとか。

やっぱりチームでやらないと、世の中の大きな設計図はちょっと難しい。全部が全部切り取りになってしまうと、つながらないし。そうなると、たらればですけど、10年残るコンビニのアイスを今度川村さんが作るとなったら、アイスでレストランを体験させるにはどうしたらいいかというところから、一緒に考えられると思うんですよ。

ただ、そのアイスをおいしくするのではなくて。それは、別にハーゲンダッツでいいわけだから。でもハーゲンダッツではなく、今回のアイスは「5分待って食べる」ことに価値があったということです。

ミニストップの「タレ弁」、あれは名前から考えたんですよ。「#タレ弁」と打つ。「鳥羽さんの言うタレ食ったよ!」「タレがうまい」と絶対なるわけですよ。あれは、タレ弁という名前でなければだめです。

コンビニの弁当は、原価にすごい制限があるから、おいしくするのは難しい。食材にいいのは使えないです。そうなった時に、調理じゃなくて調味、味付けですよ。カップラーメンは調味ですよね。だっていい食材は何も使っていないから。その調味を、コンビニという制限の中で最大限発揮するために、食材ではなくてタレをおいしくしようと考えた。それがタレ弁です。

タレがうまいと全部うまいと言い切ってしまうコミュニケーションで、SNSも「タレがうまかったです」という反応になりました。

川村:そこから入って作っているのはすごくおもしろいですよね。

鳥羽:いや、まさにもうハッシュタグの名前から料理を考えたりするので。

川村:すごいおもしろい。

鳥羽:でも、いいものを作るのが当たり前になった時に、広がることが大事じゃないですか。いいものを作った頑固親父のラーメンがぜんぜん食われなかったら、もう悲しいわけですよ。だからいいものを作ると同時に、それをたくさんの人に届ける責任まで担う。

他のコンビニではなく、「ミニストップ」の弁当を監修したワケ

鳥羽:僕はいつも思うんだけど、1つの店舗に20人しかいないで、「余っている野菜を使います」みたいな話があるじゃないですか。悪いことじゃないけど、絶対そんなに意味ないんですよ。だって、鬼のように人参のB級品が余っているのに、1店舗で使うたかだか1キロの人参なんか、ぜんぜん世の中を良くしない。だったら、ファミリーレストランで使える仕組みを考えたほうがいいじゃないですか。

だから、僕がコンビニをやる理由はそれです。だって僕、「sio、客単価2万で高いから行けない」と言われたんですよ。意外に僕の料理なんて誰も知らないし、食べてないんです。でも、料理で世の中を幸せにしたいといったら絶対ローソンのアイスのほうがたくさん食べているし、ミニストップもそうです。それをおいしくしていくことが大事だし、それと同時にsioもやっているのが大事というか。

そうなった時に、じゃあコンビニのメニューをおいしくするために、どうしたらいいか。それがみんなに喜ばれるために、コミュニケーションをとるにはどうしたらいいか、となってタレ弁が考案されたんですよね。

川村:おもしろい。最初の話でおっしゃっていた、料理というものが当然あって、前後がちゃんと見えているから、ある意味これは「前後」の後のところから入ってプロダクトにいっているのが、すごくおもしろいじゃないですか。

鳥羽:そう、そう。しかも、ミニストップでやっている意味があるんです。セブンイレブンの弁当がおいしいというイメージが、なんとなくあって。ファミリーマートとローソンがあって、ミニストップがある中で、なんでミニストップを選んだかというと、やっぱりミニストップはアイス、ソフトクリームをわざわざ食べに行くコンビニですよね。

川村:そのイメージがありますよね。

鳥羽:そう、そう。でも弁当とかのイメージがなくて。ファミリーマートとローソンがそこそこおいしい弁当をやったとしても、「まぁセブンよりはなぁ」みたいになってしまうんですよ。でも、ミニストップは数も少ないから、もしかしたらこのジャンルだけは、僕がやったらミニストップがセブンに勝てる可能性があるなと思ったんですよ。

タレ弁がコンビニで1番になったら、タレ弁を買いに行くコンビニになるじゃないですか。

川村:いやぁ、なるほどね。

鳥羽:そうすると、アイスとタレ弁という2つの軸ができて。またミニストップは数が少ないから買えないんですよ。それが良くて。わざわざ行くコンビニの代表格にするために、タレ弁をやったんです。

松永:そうか、わざとか。

目指すは、「感動体験」のプラットフォーマー

川村:完全に天才クリエイティブディレクターですね。

鳥羽:マジですか? もう俯瞰から見てますよ

(会場笑)

松永:上から俯瞰していますよ。天才ですよね。

鳥羽:今回はたまたま僕がこういうのをうまくやれて、売れているんですけど。一緒にやったらもっと深くまでいけるじゃないですか。それをやりたいですね。

川村:めちゃくちゃおもしろいと思う。

鳥羽:たぶんいろいろあると思うんです。例えば今ミスタードーナツに何か課題がありますといったら、「世の中の人に何をどう届けたらミスタードーナツが強くなるか」から考えて提案するのが、めちゃくちゃ楽しいんですよね。

川村:やられた。おもしろい。

鳥羽:だから俺、コンビニとか行くといろいろ感じてしまうわけですよ。「これ、もうちょっとやったらいくのにな~」とか「おにぎり、これ絶対いけんのにな~!」とか。「この名前を付けると、相当おいしくしないと難しいな」とか、あるじゃないですか。

川村:確かにね。

松永:確かにねぇ。

鳥羽:だから俺、ファミレスのサラダのカットだけ全部やらせてもらったら、相当おいしくなるとか、アイデアがあるんですよ。葉物ばっかりではなくて、キュウリはこういうカットなら、もっとジューシーになっておいしくなるとか絶対あるんですよ。そういうのもう思いついてしまっているから、やりたいわけですよ。

川村:公共事業ですね。

鳥羽:まぁ、そうです。そしたらもう入札制ですよ。

松永:公共事業(笑)。

川村:鳥羽さんという公共事業。実際、全部が一律にぐっとレベルアップするならばおもしろいですね。

鳥羽:そう。でも、ある程度指針ができたら、それをどう越えていくかという、また次のレベルでのカラーの出し合いになっていく。

川村:発想は完全にプラットフォーマーですよね。もう完全にインフラ作ろう、それでみんなでよくなろうぜ、という考え方。

鳥羽:だから、本当に一緒にやりたいなぁと思っているのは、僕の会社は感動体験を作るiPhoneみたいな感じにしたいんですよ。その感動体験の設計図をどんどんOSのような感覚に捉えていく。それをやりたいんですよね。

川村:最高ですよね。

ゴールなく、「延々と作って上がる」

鳥羽:だから、どんなコンビニの300円のアイスも感動させる。5分待って食べた時のあの感動もあるし。レストランだったら、食事の2時間全部で体験させて、帰りも何かやるとかいろいろあると思うんです。

その食にまつわるすべての感動体験の設計を考える。居酒屋だって感動させる。2,000円の客単価で感動させる居酒屋を考えたことなんてないじゃないですか。安くてうまいがいいじゃないか、みたいなところを、さらに感動させるために何が必要かを考える。

川村:おもしろいなぁ。

鳥羽:逆に言ったら、そのコミュニケーションを一緒にやったら、「居酒屋のコンサルティング、すごい角度からくるなあ」と。

川村:全部そうしたらいいよ、ということだよね。

鳥羽:そうそう。それをみんなが導入して、またみんなの基準値が上がったら、そのさらに上をいこうと、また僕たちで考える。延々と作って上がる、作って上がるということを一緒にやりたいな。

川村:すばらしい。一緒にやりたいなぁ。とりあえずやるって言っておこう。

鳥羽:今日もう言ってるから、そのうち急に本当にそうなっていて、みんなが「あれ?」と思うという話はあると思いますよ。

川村:「あの時のあれ!?」みたいなの。

鳥羽:そう。「やってるんだ!」みたいな。

川村:やりたい。有言実行ですからね。

鳥羽:僕、一緒にやりたくない人には絶対おべっか言わないから。もうそういう時はテンションダダ下がってしまっているから、「うーん」みたいな反応になる。

川村:気持ちわかる。僕、最近それですごく悩んでて。すぐ顔に出るって言われるんですね。

鳥羽:俺もよく言われてしまうんだよねぇ。

川村:「絶対バレバレだからやめろ」って。

鳥羽:シズってない。

川村:そうそう。

鳥羽:でも川村さんとコンビニの弁当とか……。

川村:ねぇ、スタートでやりたいですよね。

鳥羽:やりたいですよねぇ。

川村:ぜんぜん考えたいなぁ。

鳥羽:10年後になったらそれが定番になっているとか。

川村:デフォルトがこれっていいなぁ。

鳥羽:基準値のインフラを上げていく作業は、めちゃくちゃ尊いと思っています。

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