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「ささるアイディア」刊行記念 鼎談トークイベント もっとディープに「ささるアイディア」 鳥羽周作 + 松永 光弘 + 川村 真司(全8記事)

「うちのコースは最初のスープがおいしくない」と解説したワケ 一つ星シェフが語る、コース料理での「感動」設計法

NY発のセレクトショップで、“未来の日用品店”をコンセプトとする「New Stand Tokyo」の主催で行われた『ささるアイディア』刊行記念イベントに、人気レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作氏、クリエイティブディレクターの川村真司氏、そして同著の編集者・松永光弘氏が登壇。本記事では、みんなが幸せで経済も回った「昭和のコンテンツ」についてや、うまくいかない時のマインドの持ち方などが語られました。

「うちのコースは最初のスープがおいしくない」と書いたワケ

川村真司氏(以下、川村)お皿以上のものが込められるんだってなっていったのは自然の成り行きですよね。そこからの発想はすばらしいですよね。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):それを最大にするために最初にやったのが、noteでのコース解説です。「うちのコースは最初のスープがおいしくないんです」というnoteを書いて、「なんだそれ」みたいになるじゃないですか。でも、2皿目がおいしくなるように設計しているから、1皿目がおいしすぎてはだめです。そういうことをnoteに書く。そうすると食べた人が「確かに」。

(一同笑)

川村:言うんかい。

鳥羽:「1皿目……。2皿目うまいわ。複雑だわ」みたいな感じになる。

川村:全部手のひらの上ですよね。

鳥羽:これから僕がやろうとしているビジネスもそうですけど、予約の時点で、前段階でnoteを読んで予習をします。食べて答え合わせします。家に戻って、余韻の中でまたnoteを読みます。前・中・後みたいな。それをプラットフォームにしたサービスを作ろうと思っていて。

例えばホテルでも採用できると思っていて。憧れのホテルを予約したら、ホテルから、「うちのホテルではこういう楽しみ方をしてください。お部屋のアメニティはこんなこだわりがあります」みたいな案内が来るのを見てから行く。そして、「本当だ。このアメニティ、オリジナルのオーガニックだ」「水も全部うまい」みたいな体験をする。

そして、体験後にそのお水をECで買えるとか、人にプレゼントできるとか。僕、予約ギフティングができるプラットフォームを作ろうと思っているんです。デジタルコンシェルジュがいて、体験した写真をあげるプラットフォームを作る。「お客さま本日はありがとうございました」とやりつつ、そのホテルのお客さま同士でコミュニケーションをとる。そういうアイデアがあるんです。けっこうよくないですか。

川村:枠組みはもう完璧です。

鳥羽:幸せのおすそ分けができる。結局SNSがそうなんですよ。「○○のレストランに行ってうまかったよ」と言って「いいですね」とみんなで共有したいんですよ。だから幸せのおすそ分けができるプラットフォームみたいなサービスを作る。SaaSみたいなことはすげぇやりたいですね。

みんな幸せで、経済も回った昭和のコンテンツ

川村:根幹がすごくヒューマン・インサイト(ターゲットの人たちが共通して持っている感情)ですね。おすそ分けしたり、幸せなことをシェアしたいという願望。

鳥羽:やっぱりこれからシェアの時代になっていくと思います。SpotifyもそうだしApple Musicもそうで、どんどんいいものをシェアしていく。そこで儲けるのではなくて、そこじゃないところの価値を作っていく時代がいいなぁと思います。

だからサービスを入れること自体に金を取るんじゃなくて、もっと別のところでマネタイズする。幸せのお手伝いをすることで、誰かが幸せになってマネタイズできるみたいな仕組みを作りたいなって。やりましょうよ。

川村:やりましょう。やること3つ4つ出てますけど、とりあえず、全部社長も聞いてるから「やろう」って。

(会場笑)

鳥羽:けっこういい感じになるのはわかっているし。たぶんそういうことをやれる人が意外と少ないんです。僕らがやっていることとかが、新しいビジネスモデルの礎みたいになって、今後こういうのがどんどん出てくる気がすごくしているというか。

川村:最高ですね。

鳥羽:CMを作る時代から、CMの前から一緒に作って、その後CMで作った商品をどう世の中に根付かせるかまでやる時代なのかなという気がしています。

川村:おもしろいですね。『仮面ライダー』とかもそうですよね。コンテンツがあって、ライダーショーがあって、店頭に並んでみんながベルトを買いまくる。そのトータルのシステムがすごくわかりやすいですよね。

鳥羽:仮面ライダーごっこで子どもたちは町で遊ぶ。

川村:みんな幸せ。しかも経済は回ってる。

松永光弘氏(以下、松永):確かに。

鳥羽:けっこう昔はそういうコンテンツの良さがあったのが、いつの間にか切り取りになってしまった。広告が強くなりすぎた時代があったんだと思うんですよね。プロダクトよりも、広告でおもしろいことを作る時代。そこにプライオリティがある時代があって、物事の本質がなくなってしまった。

川村:そうですね。でも本当そこは幻想だからね。それが今すごく霞んできて、元に戻っていくということを考える。

鳥羽:たぶんコロナで、物や時間が有限だとみんな気づいたから、すごく目利き能力が上がったと思うんですよね。情報も増えたし。みんながより本質的なもの、よりいいもの、ちゃんとしたものを選ぶ時代になったから、プロダクトがよくないと広告もよくならない。広告だけがいいものは、売れなくなっているから。

今日、けっこういい話になってしまいましたね。

松永:いや、いい話ですねぇ。

うまくいかない時のマインドの持ち方

川村:すげぇいい話。でも1人にしか質問を……。

鳥羽:やばいやばい! 時間がやばい! 質問1人しか聞いてねぇじゃん。

松永:僕はずっとさっきから時間のことが気になっててぜんぜんしゃべれずにいるんですけど(笑)。すでにチャットに書き込んでいただいている方がいらっしゃるので、もう1人いきますか。簡単に言うと、うまくいかない時の過ごし方。マインドの持ち方について教えてほしいという質問です。

川村:うまくいかない時、僕は寝ます。え、そういうことじゃなくて? 違うの? 

松永:微妙に理解が及んでいないんですけど……。

鳥羽:うまくいかない時、どういう気の持ちようでやればいいか。

松永:「特に自分がその分野で人よりも劣っていることを自覚した時に、どう進むか悩む」と。そういう時のマインドの持ち方ですね。

鳥羽:僕は、その話を今前向きに聞くと、自分を知ることがめちゃくちゃ大事だと思っていて。

松永:うん。

鳥羽:別にみんながみんなクリエイティブディレクターとか編集者になる必要もない。自分に合っている役割・ポジションは絶対にあるんですよ。それを知っていることが大事で。知らないのに4番バッターを目指してしまうのが一番酷です。

最初からセカンドを目指します、でも別にいいと思う。自分のいいところ、何が得意かを知ることで、戦い方はいくらでもあるから。ピッチャーになれないから人生としておもしろくないという考え方は、めちゃくちゃマイナスです。

料理業界って「シェフになれなかったら料理人として生きていけない」みたいな話があるけど、うちはぜんぜん。僕はシェフに向いてないやつに、「お前シェフやめろ」「お前広報のほうが向いてる」って言って、広報をやってる折田というスタッフがいるんです。

だから、上に立つ人間はその見極めをちゃんとして、居場所を作る責任がめちゃくちゃあると僕は思っています。そこは会社として、すごく大事にしていますね。

川村:めっちゃいい話や。

鳥羽:まず自分を知る。だから、僕けっこうスタッフにプレゼンさせるんですよ。「僕はシェフに向いてないです」みたいなプレゼンをめちゃくちゃ評価する。「僕は単純作業がすごい得意なんで」とか、そういうことをちゃんと会社が評価する、評価基軸も作ってあげるべきだと思う。

周りの人より劣ってるって言うけど、劣ってる部分なら、僕だって電気を消せないし。でも、秀でている部分もそれぞれじゃないですか。だから、そこをちゃんと知ることがよくて、そこをポジティブに捉えるのがいいのではないかなと僕は思っています。

松永:確かに。知ると。

入社した若手の可能性を探るためにやっていること

川村:似た話だと、クリエイティブディレクターという職分が正しくはないんだけど、ずっとデザイナーとかアートディレクターをやっていると、なんとなくドラクエでいう武闘家とか賢者とか「クラスアップしますか? どうしますか?」みたいに見られることがあって。うちは、その選択は本人に聞くんですね。

自動的にクラスをあげることをしないのは、ちょっと職種が違うんですよね。同じ物作り、同じクリエイティブに携わるんだけど、やっぱりクリエイティブディレクターになるとチームを見ないといけない。

鳥羽:そうそう。もうちょっと俯瞰ですもんね。

川村:やっぱりコミュニケーションをもうちょっと考えて、あんまり暴投ばっかり投げすぎてもいけないし、いろいろなことが付随してくるので。「でも実はお前、こっちのままのほうが幸せなんじゃないの」という話をしたりするし。

もっと言うと新しく入ってきた子とかでいろんな可能性がある子は、「いったん全部とりあえずやってみたら。うちの会社の中で向いているところに落ち着けばいいじゃん」と言います。

鳥羽:いい会社。

松永:なるほど。

川村:こっちをやりたかったかもしれないけど、こっちを好きになるかもしれないし。こっちをやってみたら向いてないけど、こっちは抜群に向いてるな、みたいな。こっちをやりながら、こっちも好きな時に手を挙げてやったらいいでしょう、みたいな話はする。

鳥羽:めっちゃいいです。

松永:なるほど。確かにね。

鳥羽:周りの人に劣ってるって言ってたけど、もしかしたら、活躍している人の受け皿として超優秀な可能性もあるわけじゃないですか。パッと向いた時に、いつもいいところに水があるとか、いつもいいフォローでメモしてくれているとか。ぜんぜんそういう仕事もいっぱいある。

それを、会社とか世の中がどう評価しているか、というところに実は問題があったりするから。

川村:そうなってくると環境の問題だからね。かわいそうな気持ちになってくるんだけど。

鳥羽:だからそういう人はうちに来てくださいという話ですね。

川村:あぁ~、いい話だなぁ。

鳥羽:ポジションあります。

「好き」と「適性」が合わないメンバーに対する、経営側の課題

川村:でもそうだよね。周りがそういう環境を作るのは大事だし、本人がもし多少心の余裕があるのであれば、例えば僕で言うと、物を作って生きていこうと決めている。その枠内で、例えばデザイナーをやりたかったんだけど、別にプロデューサーでもいいんであればそういうふうに自分を適材適所に当てはめる。

自分は作らないかもしれないけど、優秀な人が作りやすくなるように手伝って、それがピカイチなら、そういう過ごし方もあるじゃないですか。

鳥羽:確かに。クリエイティブの手段って、もっと自由度が高くていいと思うので。必ずデザインしないといけないわけでもないし、コンセプトを考えるわけでなくてもいいと思う。結果、自分が携わったものがうまく回って、世の中がハッピーになることが大事だから。

そこに自分が4番打者で関わったかどうかよりも、チームとしてどうなったかということが大事だから。僕はそこを均等に評価する。だからシェフが高い給料をもらう時代を、スー・シェフとシェフが変わらない給料をもらえる時代にしていくのも、すごく重要だと思うし。そういうポジションの年俸差別みたいなのを、会社としてもなくしたくて取り組んでいます。そういうのをやりたいですよね。

川村:実はそういうの関係してますもんね。

松永:やらないとわからないので、いろいろやってみることが大事ですよね。

鳥羽:やった中で自分の好きなことや向いていることがあると思うから。一番いいのは、自分の好きなことと向いていることがフィットすることだけど、そうじゃない場合もある。そういう人に対して、どういうアドバイスや環境を作っていくかが、会社のトップの人間のすごく大事な、これからやっていかないといけないことなのかなとは思いますね。

川村:僕らの課題ですね。

松永:なるほど。

川村:あとぜんぜん関係ないんですけど『アオアシ』という漫画を読むといいと思います。

鳥羽:サイドバックね。

川村:あれ大好きですよ。寝る前に読むとすごく勇気をもらえると思いますね。

松永:『アオアシ』ですね。

たくさんの場所で「おいしい」が作れている価値

鳥羽:必ずしもスターがいいわけじゃないから。僕もやっぱりそうですもん。わりと活躍してるように見えるけど、YouTubeを僕ともう一人の2人でやってるんですけど。僕はただ演じているだけで、実は撮っている側の編集とかのほうが、よっぽど才能がないとできない仕事です。

だから僕が活躍してて「鳥羽さんすごいですね」と言われているけど、やっぱりチームだから。それは僕がちゃんとわかっていればいいことで。世の中的には見え方が違うかもしれないけど、でも社内でちゃんと評価する。一緒にYouTubeをやってるやつ、今日来てますけどね。あいつですけど。

(一同笑)

川村:褒められてるぞ!

鳥羽:そういうことだと思うんですよ。それはわかるべき人がちゃんとわかって、評価することが大事。だから僕は、今の地位というかやれていることがあるのは、やっぱり会社として優秀だからだと思うし。僕がこうして話している間も、働いてくれてるメンバーがいるからお店が回っているという、この尊さは理解してもらいたいんですよ。別にいいことを言いたいわけじゃなくて、実際そうです。

自分がいなくてもお店を切り盛りできるメンバーがいるということは難しいんですよ。そこのチャレンジはもっと評価してほしいなと思って。それは僕個人としてよりも、会社として評価してほしいなと、本当に思う。

僕のやっていることは、「シェフいなかったよね」みたいなしょうもない話ではないんですよ。そうじゃない場所で、ちゃんとクオリティを担保してお客さんを幸せにしているから、たくさんのところで「おいしい」が作れていることの大きさに、もっと目を向けてほしい。揚げ足を取ろうと思えばいくらでも取れてしまうからさ。でもそれもわかった上で結果を出したいなと思いますけどね。

川村:そうね。それは引っ張っていかないといけないですね。

鳥羽氏と川村氏の尽きないアイデア

川村:そういう質問を聞きつつわかりつつ、でも圧倒的だよなということですよね。

鳥羽:「5分経って食ったアイス超うめえな」と言われ続けているという。次20分ぐらい溶けないアイス作ってやろうと思います。

川村:すげぇ溶けないなみたいな。

鳥羽:長すぎる。もういつのタイミングですか、というね。

松永:それ、別のチャレンジですよね(笑)。

鳥羽:逆に離脱率が高いという。

川村:それで待っている間に別のものを作る。

鳥羽:別のものを作るのがいいです。アイスを出してから始まる。

松永:おもしろい。

鳥羽:そういう話はあります。本当にちょっとやりたいですね。

川村:やりたいですね。やりましょうよ。

松永:そこへいってしまいますね。どうしても。時間的にはそろそろですね。

川村:いいあんばいですな。

鳥羽:内容が濃すぎちゃった。

川村:楽しすぎましたね。

松永:ということであとは若いお二人に任せて(笑)。若くない? 

川村:まぁでも、たぶんほぼほぼ同じですよね。僕、今43? 

鳥羽:今年43ですか。

川村:79年生まれ。

鳥羽:じゃあ僕1個上ですね。44になりましたから。44にもなって……。

松永:そろそろ時間ですので。

川村:ごめんなさい、すみません。

松永:そろそろ……。

川村:永遠に続けてしまう。

松永:お名残惜しゅうございますけれども、今日のお話はこれぐらいということにさせていただきたいと思います。みなさんどうもありがとうございました。

鳥羽、川村:ありがとうございました。

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