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~メルカリ、ユーグレナ、LIFULLと、発展期の広報のあり方を議論する~(全3記事)

PR戦略のカギは「ゴールからの逆算」 メルカリ“攻めの広報”体制ができるまでの道のり

2019年10月15日、企業広報・PR担当者向けのセミナー「スタートアップから大企業へ、10⇒100フェーズで取り組むべきPRとは?」が開催されました。スタートアップ期を経て拡大期を支える広報体制に取り組む企業が増えるなか、まだまだノウハウが少ないという現状があります。そんな中で、日本から世界へ挑戦しているメルカリ・LIFULL・ユーグレナの3社から広報担当者が登壇し、「企業の発展を支える広報」についてディスカッションが行われました。本記事では、メルカリPRグループマネージャーの矢嶋氏が実践してきた、具体的なPR施策・体制構築方法を紹介します。

「スタートアップ期→拡大期」フェーズを経験した3社の広報担当者が登壇

早川くらら(以下、早川):みなさん、はじめまして。ビルコムの早川と申します。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。あとで簡単に私の自己紹介もさせていただきたいと思います。

今日のタイトルが『スタートアップから大企業へ、10→100フェーズで取り組むべきPRとは?』ということで、実際にいろいろなフェーズの企業でPRパーソンとしてご活躍されていらっしゃる3名をお招きさせていただきました。

会場のみなさんも、日々PRに取り組まれる中で、いろいろお悩みがあるかと思います。そのあたりを解決できるヒントが得られるような場になればと思い、企画させていただきました。

ご案内させていただきましたとおり、写真やSNSの投稿は大歓迎ですし、ハッシュタグもつけて投稿いただければと思っています。

今日、モデレーターを務めさせていただきます私自身も、PRを10年以上やらせていただいていて、ベンチャー企業さんから大手の企業さんまで、いろいろなフェーズの企業さまをご支援させていただいています。

つくづく感じるのが、会社さんのカルチャーやフェーズによって、PRの施策や難しいポイントが本当に違うなぁということです。

フェーズによって、どのような戦略・体制でPRを実行していくのかも、すごく変わってくると思います。そういう意味でも、本日はさまざまなフェーズの企業さまに役立つお話ができればと思っております。

だいたいの流れとしては、まず当社を簡単にご紹介させていただいて。それから、ご登壇いただいているみなさまの簡単な自己紹介と、どのような企業フェーズの変遷の中でPRをやっていらっしゃるのかをお話ししていただきます。

みなさんからの質問に、ご登壇者さまを中心に回答していただくかたちで、インタラクティブにやりたいと思っていますので、ぜひいろんな質問を寄せていただければと思っております。

当社について、ここで少しご紹介させていただきます。2003年の10月に創業しておりまして、さまざまな企業様のPRをご支援させていただいています。

メーカーや金融、小売の会社さんなど、かなり幅広い業界のPRをご支援させていただいてます。企業規模も、スタートアップから大手まで、本当にさまざまです。

そんな中でこのようなセミナーも、だいたい月に2〜3回開催させていただいています。PRの情報は日々変化しますし、PR担当者同士でシェアできる場がなかなかないので、PR業務のご支援以外にも、このような場を企画させていただいています。

当社のご紹介はここまでとさせていただいて。さっそくですが、ゲストスピーカーのお三方に、プロフィールや、広報部門にどのようなヒストリーがあったのか、ご紹介いただこうと思います。

LINEで「立ち上げ期→成長・拡大期」PRに従事

早川:まずメルカリ・PRチームのマネージャー、矢嶋さんからお話しいただきましょう。

矢嶋聡氏(以下、矢嶋):こんばんは。メルカリの矢嶋と申します。簡単に自己紹介をさせていただきますと、前職はLINEという会社で広報・マーケティング部門の責任者をやっていました。

もともとは韓国の「NAVER」という検索サービスが日本に上陸するにあたり、「PR・マーケティング部門の立ち上げをやってくれないか」というオファーがあり、2008年に外資系PR代理店から入社しました。

ただ、GoogleさんやYahoo!さんが既に圧倒的なシェアを占めている状況の中で、いろいろチャレンジをしたものの、うまくいかず、「これからはPCからスマートフォンにパラダイムシフトが来るだろう」ということで、2011年6月にリリースしたのがLINEだったんですね。

私の役割も、当初は広報メインでしたが、サービスの拡がりと共に、マーケティングやビジネスカンファレンス、日米同時上場のIPOコミュニケーション、危機管理広報等、守りも攻めも含めて、非常に多岐に渡る経験をさせていただきました。

その後、LINEで自分がサービスの立ち上げから成長期・拡大期まで通して学んだ経験を、次のスタートアップに活かしたいと思い、2017年の10月にメルカリに入社しました。

この2年でメルカリ広報体制は2名から10名へ

矢嶋:メルカリは、2013年2月の設立で、現在は7年目ですね。オフィスが日本とUSにあり、従業員数は今1,800人くらい。私が入社したときは600人くらいだったので、この2年で約3倍に増えています。

売上は設立5年で500億円くらいの規模になっておりまして、2018年6月に東京証券取引所マザーズに上場しました。

「メルペイ」は今年の2月にローンチをしたんですけれども、スマホ決済サービスとして最後発という状況下で、どうやって「本命感」を醸成していくか、というのがPRとしてはチャレンジでした。そこで、最初のサービスインのタイミングで、カンファレンスを企画・実施しました。

そのほか、鹿島アントラーズを2019年8月に買収するなど、私が2017年10月に入社して2年で、会社としてのフェーズもかなり変わってきたなと思います。

広報体制ですが、現在は私含めて10名体制でやっています。私が入社した当時はメンバーが2名しかいなかったのですが、徐々にメンバーが増えてきて、2年間でようやくこれくらいの規模になってきた感じです。

また、広報組織の拡大に伴い、PRチームの中に、サブチームという形で3部門に分けています。1つはコーポレートPRチームで、主に決算や採用広報、M&A、リスク対応などをメインでやっている部門です。

続いてメルカリJPのPRチームが、いわゆるプロダクト広報です。「プロダクトのグロース」に貢献するためのPR戦略の立案・実施をしている部門です。最後に、メルペイのPRチームが、スマホ決済サービス「メルペイ」のPRを担当している部署です。

上場タイミングに注目高まるも、報道は「不正出品けしからん問題」に終止

矢嶋:今回のテーマは「10から100フェーズで取り組むべきPRについて」ということですが、私が2017年10月にメルカリに入社したときが、まさにその状況だったので、そのときのお話をしたいと思います。

2017年10月当時の状況がどうだったかというと、上場前のタイミングで、サービスとしては急拡大している状態でした。

「近日メルカリは上場するかもしれない」という上場観測記事も出て、未上場の時価総額1,000億円を超えるユニコーンだ、注目すべき会社だと、さまざまなメディアで特集が組まれるような状況でした。

一方で、世間的な注目度と炎上リスクは、比例する関係性があって。注目されている会社を叩けば話題になるということもあり、現金や盗品などの不正出品問題も顕在化し、毎週のように新聞の社会部から問い合わせが来るような状況でした。

本来、メルカリの成り立ちとして、代表の山田進太郎が自分で立ち上げたソーシャルゲームの会社をイグジット(会社売却)した後、世界一周旅行を経て、日本から世界に挑戦するために作った会社です。2013年の創業から1年足らずでUSに進出したりとか、いろいろやっているんですね。

そういった会社の成り立ちやビジョン、世界観には全く知られておらず、結局、報道ベースに載るのは「不正出品がけしからん」みたいな部分に終止している状況でした。他にも(当時は)シェアサイクル事業の「メルチャリ」などの新規事業を展開していることや、グローバルに挑戦している会社だということも知られていない状況でした。

慢性的なリソース不足で「攻めの広報」ができないもどかしさ

矢嶋:内部の状況はどうだったのかというと、メンバーは2名のみでしたがとても優秀で、カオスな状況の中でも、各部門と連携しながらメディアからの厳しい問い合わせや取材依頼などに対応していくスキルは非常に長けていると思いました。

その一方で、PRとして目指す方向性や戦略、チーム内の役割分担などが明確化されておらず、かなり属人的な仕事のやり方をしているなと感じました。メディアモニタリングやクリッピングレポートといった分析業務も、ほぼ人力でやっていて、フォーカスすべきことと、捨てるべきことの切り分けができていない状態でした。

それに、大手マスコミとのリレーションももっと強化していく必要があるなと思いました。メルカリという会社自体が注目されているので、新聞・テレビ・雑誌など様々なメディアから問い合わせが来るんですけど、忙しすぎて、問い合わせに対して打ち返しているだけの状態に見えました。

そもそもメルカリという会社は何を目指していて、そのために、具体的にどういうことをやっているのか、メディアの方に理解されていないし、広報担当者と記者との間で「顔が見える関係」が築けていない。

インバウンドの問い合わせに対して打ち返すことに追われて、慢性的にリソースがない状態で、「攻めの広報をやっていこう」と言っても手が回らない状況でした。

メルカリという会社自体が、さまざまな会社から優秀なメンバーが集まってきているとか、グローバルに展開しているとか、テクノロジーに力を入れているとか、たくさんのPRアセットがあるにも関わらず、結局マスコミの報道を通じて伝わっているのは、表面的な「不正出品けしからん」で留まっている状態でした。

ゴールから逆算してPR戦略のロードマップを作成

矢嶋:私が入社して最初に入ってやったのは、まず経営陣に対して広報に対する要望や課題、どういう会社になりたいか・見られたいか、といったことをヒアリングすることでした。その上で広報としての指針・ロードマップを作りました。

当時のメルカリに対する世間的な見方(パーセプション)は“ポッと出のイケイケベンチャー”、つまり、いわゆる法令遵守意識が低くて、自社の売上のためにコンプライアンスを優先しない会社だと思われていますよ、と。

ただ、本来目指すべきイメージは、「CtoCマーケットのインフラを担う信頼されるべき会社」であり、「テクノロジーの力を使って、本気で世界に挑戦している会社」というのを目指すべき、と定義しました。

「出る杭」になるのではなく、高度経済成長期のソニーやホンダとか、ゲーム会社でいえば任天堂などのように、「日本から本気で世界に挑戦しようとしている会社なんだから、応援してあげよう」みたいに目線を変えていきましょうと、役員へのヒアリングを通じて最初にゴール設定をしました。

一方で、一朝一夕ではパーセプションは変えられないので、東京証券取引所マザーズへの上場をゴールとして、逆算していつ・何をやっていくか、ロードマップを作りました。

大きくフェーズを2つに分け、まず最初にフェーズ1として、当時は不正出品などで問題が起こっていたので、まずマイナスをゼロにするための信頼性向上に集中する。具体的には、まず「チーム」として機能していくために、PRとしての戦略・指針を作り、やるべきこと、やらないことを決める。

その上で、重点的にリレーションを強化すべきメディアを定義して、個別のレクチャーや会食などを通じて関係性を構築する。その土台ができた後に、ポジティブな情報を積極的に発信していくことにより、マイナスをゼロにすることをやっていく。

(スライドを指して)フェーズ2は、上場を一番大きなモメンタムとして、引き続きポジティブな露出を強化しつつ、創業者の山田進太郎のインタビュー取材を中心に、創業の経緯や今後のビジョンなどコーポレートストーリーの発信を強化していきましょう、と。

また、「世界に挑戦する会社」としての文脈で、USのオフィスに記者を連れて行って実際の様子を取材していただいたり等の取り組みを強化していくことで、徐々にマイナスからゼロへ、ゼロからプラスに変えていきましょう、という絵を描きました。

FAQデータベース作成・外部ツール導入、徹底的な効率化でリソースを最適配分

矢嶋:フェーズ1の最初として「チーム基盤の構築」に取り掛かったのですが、具体的にやったこととしては、先ほどお伝えした通りグループとしての方針・優先順位のロードマップを作ることでした。

大枠として、僕らはどこを目指していくのか、どういうふうに思われたいのか。経営陣もそうだし、PRメンバーの中でもきちんと目線を合わせてコンセンサスを作る。

また、細かいことですが、PRチーム内での定例ミーティングもちゃんとやれていなかった。なので、朝会をやったり、週次で1on1をやったりすることによって、定期的に目線がブレないようにしつつ、活動のリズムを作っていきました。

それから、これまではPR施策・活動がやりっぱなしになっていたので、実施しことに対してきちんと振り返りを行い、当初の狙い・意図に対して結果がどうだったのか、というPDCAサイクルを回していくようにしました。

それによって、メンバーのスキルも向上しますし、プランニングの精度が上がっていく。

あとはメンバーの役割分担も明確化し、注力すべきところによりリソースを割けるようにしたほか、モニタリングレポートの作成など、今まで人力でやっていた部分については外部のツールを導入することで効率化していきました。

あと、細かいですが、今後メンバーが増えることを想定し、メディアからよく聞かれる想定問答(FAQ)をデータベース化しました。

これまでは、PRメンバー各自の頭の中にFAQが入っている状態で、それだと人によって回答がブレますし、新しく入ってきたメンバーは、ラーニングコストが高い。

なので、まず基本的に聞かれること、「これさえ見れば入社直後からすぐに広報対応できるようになりますよ」というFAQのデータベースを、ちゃんと作りましょうと。

「露出の先にどうなりたいか」を定義し、本質的なPR活動に注力する

矢嶋:それから、PR代理店との付き合い方も変えました。これまでは、そもそもPRとしての戦略や方向性が決まっていなかったので、代理店に対して活動の目的や依頼要件などがきちんとブリーフィングできていなかったんです。

その結果、代理店との定例ミーティングの場で、「とりあえずなんかネタないですかね」「今度ブラックフライデーあるから、PRイベントをやりましょうよ」みたいな、場当たり的な施策のディスカッションが中心になっていた。

結局、メディアの露出の先にどうなりたいのか、というゴールが決まっていないと、目先の露出だけ積み上げることになり、本質的に意味がないと思います。

そこで、まず「僕らとしてここを目指しています、その中でPR代理店にはこの部分をお願いしたくて、KPIはこれです」と、改めてオリエンテーションをして、その中でしっかりやってもらうようにしました。

僕ら事業会社の広報の立場として一番注力すべきことは、戦略を考えることです。自分たちでやらなくてもいいことに関しては、アウトソースしたり、代理店を使ったり、メリハリをつけるようにしました。

これら活動の基盤ができたあとは、チームとしてスケールしていくために採用を強化していきました。

大きな戦略を描いても、リソースが足りなくてやりきれないことがあるので、「メルカン」というオウンドメディアや、「広報会議」などの業界誌を通じて、まず自分たち広報チーム自身の情報発信をすることを強化しました。

そこでただ発信するだけじゃなく、「メルカリの広報」に興味を持っていただいた方に対して、ミートアップイベントを定期的に開催しました。

採用イベントというより、「会社に遊びに来ませんか?」ぐらいのカジュアルな感じでイベントを実施し、そこでさらにメルカリ広報ポジションに興味ありそうな方がいたら個別にお誘いする、みたいなことをやって仲間を作っていきました。

ちょっと長くなっちゃいましたね。はい。

早川:矢嶋さん、ありがとうございます。矢嶋さんの今のお話だけでも、質問したいことがたくさんあると思います。

ちなみに、先ほど事前の打ち合わせで話したことですが、矢嶋さんは前職でも企業フェーズが大きくなるタイミングでのPRをご経験をされているので、かなり体系化されたノウハウをお持ちです。今日は、そういった観点でもお話をうかがおうかなと思っています。

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