2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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藤岡清高氏(以下、藤岡):スマートエデュケーションを起業するまでの背景を教えてください。
池谷大吾氏(以下、池谷):私は2000年に大学院を卒業し、日本ヒューレットパッカード(以下HP)に入社しました。やりたいことがはっきりと決まっていたわけではなく、「最初は大企業で働いたほうがいいかな」という気持ちで入社しました。
入社後は一生懸命に働いて、やりがいも感じていましたし、しっかりとした評価をいただいていたのですが、4年半ほど過ごしたころ、ふと「本当にこのままでいいのかな……」という思いにかられました。
というのも、当時はいろいろなITベンチャーが立ち上がって来たころで、その代表格であるサイバーエージェント創業者の藤田晋さんは、自分とあまり年が変わらないのに経営者として活躍され、東証マザーズへの上場まで果たしていました。
「自分と比べて、なんてすごいことをしているんだろう」と思うと、いてもたってもいられなくなり、CAモバイルに転職していたHPの同期に、「社長に会わせてよ」と無理やりお願いしました(笑)。そこで社長ではないのですが、創業メンバーの小野(裕史)さんにお会いすることになったのです。
小野さんは私と同い年なのですが、役員として活躍されていて、会社もしっかりと利益を出して、社会に影響を与える評判の良いサービスを提供していました。非常に感銘を受けて、お会いしたその日にCAモバイルへの転職を決めました。
そこから7年間のCAモバイル人生が始まり、最終的には役員まで務めました。一方で、いつかは自分の力で会社を興してみたいという気持ちもあり、2010年の12月に起業を決意しました。
当社は最初から今のビジネスモデルにたどり着いていたわけではありません。私の場合は何をするかを考える前に起業を決めたのですが、妻子もいますし、手っ取り早く稼げたほうがいいだろうということで、最初はゲームを開発することを考えました。
当時、ソーシャルゲームが急成長し始めていたころで、その波に乗ることが成功への近道ではないかと思ったわけです。でも、2日後にはその考えを捨てていました。
なぜ役員にまでなった会社を辞めて起業したかというと、お金のためではなくて、サイバーエージェントの藤田さんや楽天の三木谷さん、ソフトバンクの孫さんのように、本当に自らの手で市場を切り拓いていきたいと思ったからなんですよね。
ゼロからイチを作っていくような市場創造に挑戦しないと、自分の人生のモヤモヤが解決しないような気がしました。ただ、そうは言っても、「何をしたらよいのか?」についてはとても悩みました。そのときはまだ「教育」というテーマも決まっていませんでした。
「教育」というテーマとの出会いは、意外にも身近なところにありました。会社を辞めるまでは忙しくて、育児は妻に任せっきりだったのですが、そんなこんなで家でちょっとした浪人生活を送っているときに、たまたま息子が自分のiPhoneを触る様子が目につきまして……。
私が操作している様子を観察していたようで、何回パスワードを変えても、全部見破って、いつの間にか自由に遊んでいるんです(笑)。
確かに、スマートフォンは難しいことがわからなくても直感的に操作できるので、子供にとっては最高の遊び道具になるだろうなと思いました。
これまでITに縁遠かった子供やお年寄りが、簡単にIT技術を楽しむことができる素晴らしいツールだなと。
そこでふと、「スマートフォンやタブレットを使った子供向けの教育サービスをやってみたらおもしろいのではないだろうか」というアイデアが頭をよぎったわけです。
この時代、いったん社会に出るとインターネットやITに触れずに生活するということはほぼ不可能です。それなのに、教育現場は基本的にITに対してネガティブな姿勢で、いまだにアナログ中心です。このギャップにこそ起業のチャンス・有望性があるのではないかと思いました。
子供向けの教育サービス市場を調べても、決して小さくはありませんでした。「今後、世界的に市場が伸びていくことが間違いないスマートフォンやタブレットなどのツールと自分たちの技術力で、教育を変えることができるのではないか」この思いが現在のサービスへの第一歩となりました。
藤岡:創業時の想いについて、教えてください。
池谷:「世界中の子供たちの“生きる力”を育てたい」というのが当社の理念です。子供たちがスマートフォンやタブレットというツールを通して、いろいろな体験をしたり、新しい情報を得たりする橋渡しをすることで、子供たちの将来の夢や目標を広げていきたいと思っています。
日本の義務教育は世界のなかでは非常にレベルが高いと言われていますが、教室という空間のなかだけで得られる情報というのはやはり限られていると思います。
今の小学生に「将来何になりたい?」と聞くと「サッカー選手」と答える子が多いと思うのですが、もしかしたら子供たちがもっと身近にインターネットを使えるようになって、世界中の人とコミュニケーションを取れるようになったり、社会のことや地球のことを知ることができるようになると、もっといろいろな夢を持つ子供が増えてくるかもしれませんよね。「我々が良質なアプリケーションを作ることで、教室と社会との情報のギャップを埋め、子供たちにより多くの気づきを提供していきたい、そして世界を変える一歩にしたい」というのが起業時の想いです。
藤岡:創業当初の運転資金などは、どのようにされていたのですか?
池谷:起業にあたっては先行投資が必要となるわけですが、創業メンバー5人は思ったよりもお金を持っていませんでした(笑)。これではまずいと思って、まず最初に資金調達に取り組みました。
これまでに築いた人脈をとにかくフル活用し、出資してくれそうな方に片っ端からあたりました。アイデアだけの事業計画書をもって「起業することにしました」と。
結局4人のエンジェル(個人投資家)から約3,000万円投資していただくのですが、驚くことに1人として事業計画書を開きませんでしたね。みなさん私の目しか見ていませんでした。
細かいことは聞かずに「やってみたらいいじゃない!」と背中を押して下さって。「教育×IT」というテーマに共感してもらえたことも、とてもうれしかったですね。
最終的には創業メンバーの資金約2,000万円と合計して、5,000万円くらいの創業資金を集めることができました。
藤岡 : 資金は集まりました。次はどうやって事業を立ち上げていかれたのですか?
池谷 :当時、私たちがやろうとしていた未就学児、子供向けのアプリではヒットしているものがまったくありませんでしたので、せっかく集めた資金を全て子供向けのアプリに投入すると即会社が潰れる可能性も考えられました。
創業メンバーとは「死亡推定時刻」という非常に残酷な言葉を使って、自分たちがあとどれくらいもつだろうかという話をよくしていましたね。
1つの事業に資金をすべてつぎ込んで即失敗というのは避けたかったので、大人向けの英会話学習アプリ事業も同時に立ち上げることにして、私以外の4人はそちらの事業を担当しました。彼らが「俺たちが会社を守るから、好きなようにやってくれ」と言ってくれたのが、とても心強かったのを覚えています。
そんななか、「リズムえほん」という幼児向けアプリを開発しました。それが思ったよりも出来がよくて、周りのママたちに聞いてみると、良質な子供向けアプリへのニーズがとても高いことを知りました。
2011年の11月頃だったのですが、このアプリをきっかけに、やはり「知育」という分野に事業を集中すべきではないかと思うようになり、仲間と3日3晩徹夜して、今後の方向性を議論しました。
大人向け英会話アプリのリリース直前だったのですが、議論の末、そのアプリのリリースは取り下げて、知育事業に一本化することを決めました。
もちろん最初は反対意見もありましたがいろいろな議論を重ねて、最終的にはみんな心から納得して理解してくれました。
株主のベンチャーキャピタルさんも未就学児ビジネスに非常に大きな可能性を感じていて、いろいろとアドバイスを下さったので、思い切って知育アプリに特化することにしました。
藤岡:具体的にどんな知育アプリを開発しているのでしょうか? またそれがヒットした理由は?
池谷:当社のアプリの大きな特徴は「親子が一緒に遊べる」ということです。先ほどお話した3日間の議論の中で「教育とはなにか?」「子供向けの知育アプリが提供できる最も大きな付加価値はなにか?」を徹底的に話し合いました。
その結果、やはり一番大切なのは「コミュニケーション」、とくに小さな子供たちにとっては親子のコミュニケーションが一番大切なのではないか、というのが我々の共通の価値観でした。
そこで、当社のコンテンツは子供が1人で遊ぶためのものではなく、「親子で一緒に楽しめる」ことをコンセプトにしようと決めました。
当社の「リズムえほん」というアプリは親が子供を膝の上に置いて、1台のスマートフォンで、2人で協力して1曲を弾くというゲームなのですが、このアイデアも議論のなかで生まれました。
実際、「子供を膝の上に乗せて、一緒に遊んでください」というメッセージに対する親御さんたちの反響は非常に大きく、大変喜んでいただいています。ユーザーのみなさんの満足が売上にもつながっているのだと感じています。
子供から、おじいちゃんおばあちゃんまで、誰でも直感的に使えるというのがスマートデバイスの良さであり、今後こういったデバイスが更に普及していくことは間違いないでしょう。
その上で、良いアプリを作って家族や友達同士のコミュニケーションに、ちょっとしたイノベーションを起こし、感動を与えたいというのが当社の想いです。
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