新刊『仕事の「整理ができる人」と「できない人」の習慣』の著者・大村信夫氏が旬なテーマでゲストと語り合う対談シリーズ。今回は、大村氏と同時期に新刊『ポートフォリオ型キャリアの作り方』を出版した染谷昌利氏が登場。案件を獲れる人が実践するきっかけの作り方や、日々の時間を生み出すコツが語られました。
50冊の本を出版できた理由
大村信夫(以下、大村):ということで染谷さん、よろしくお願いします。
染谷昌利(以下、染谷):よろしくお願いします。でも、打ち合わせも何もないってすごくないですか(笑)?
大村:(笑)。何を話していこうかなと思ったんですけど、僕が1つ思ったのは、「本を50冊どうやったら書けるの?」っていうことなんですよ。まず、どういうことですか?
染谷:最初に言っておくと、50冊すべてを僕1人で書いているわけじゃないんです。単著として僕1人で書いたのは十数冊。共著が二十数冊、監修が十数冊あります。それに加えて、企画や、書けなかった時のサポートとして企画協力や編集協力をした本が数冊あって、合計で五十数冊になるんです。
大村:いやいや、それでもすごいんですけど(笑)。
染谷:でも最初の1冊目って、何か特別なことがあったわけじゃないんですよ。不思議なご縁ですね。やはりご縁が大きいんですよ。最初の本は単著ではなく共著だったんですが、「WordPress」というホームページを作るためのオープンソースの仕組み、いわゆるプログラムをみんなでいじるボランティア的なコミュニティがありました。
僕は当時ブログを書いていて、ブログの仕組みを提供してくれる人たちに何か恩返しできないかと思い、そのコミュニティに参加しました。おもしろかったのは、当時のWordPressのコミュニティはプログラマー中心で、情報発信者はあまりいなかったことです。
大村:なるほどね。
染谷:超アウェイな状態で僕は入っていったんですが、「使ってもらうための情報発信をしたほうがいいよね」と話していたら、仲良くなったメンバーと一緒に「プログラムを作りたい人のための本を書きませんか?」という依頼が出版社から来ました。それで、仲間10人くらいで共著として書いたのが、記念すべき1作目でした。
出版のきっかけは2日で10万人に読まれた記事
染谷:その後、「Xperia」という、当時ソニー・エリクソンが出していたスマートフォンについても関わることになって。当時、僕はブログの解説サイトを運営して生計を立てていたんですけど。
XperiaのオペレーションシステムはAndroidで、その関連のユーザーコミュニティとして「日本Androidの会」がありました。そのコミュニティでは「AndroidOSをもっと普及させよう、開発しよう」という動きがあり、僕も「何かお手伝いできることはないか?」と関わっていったんです。すると、そこの広報担当がインプレスの編集者だったんですよ。
大村:あっ、そういうパターン。
染谷:当時、ブログが流行り始めていて、インプレスからもブログ関連の技術書が出ていました。僕は「情報発信で生活するための本を出せませんか?」と提案したら、「ちょっと検討してみるね」となって、それが通ったのが単著1冊目でした。
大村:へぇ。
染谷:次に、またWordPressに戻るんですけど、当時はコロナもなく、1,000人規模の技術者が集まるリアルイベントがありました。そこには出版社の編集者がいて、本を書ける人を常に探しているんです。なぜなら、毎年新しい本を出したいから。
技術書を書ける人を探すために、出版社がイベントにブースを構えていて、僕が何気なく座って「ぜんぜん技術者じゃないんですけど」と言ったら、「染谷さん、eコマース、ネットショップの本を書ける人を探しているんですが、ネットショップのことわかりますか?」と聞かれたんです。
僕は「わかります」と答えました(笑)。ただ、「理論はわかるけど実務経験が足りない」と思って、ネットショップを運営している人を探して共著で出しました。
3冊目は再びWordPress関連に戻るんです。仕組みを広めるために、ある程度影響力のある人たちが匿名で「ブログをやろうぜ」となって。『ゴレンジャー』みたいにそれぞれがレッドやブルーなどの色で名乗って、僕はお金担当だからと「ゴールド」にされて、「WPD-Gold」になりました(笑)。
そのブログで「こうやって情報発信で生活できるようになった」と書いていたら、1〜2日で10万人くらいが読んでくれて、「何だこれは?」という話になりました。その記事を見た編集者から「WPD-Goldさんに本を書いてもらいたい」という依頼が来たんです。
ちょうど2冊目の本がそこそこ売れていたこともあり、名前が知られていたので、「すいません、染谷と申します」と名乗ったら、「あぁ、ブログ飯の人ですか」と言われて、そのまま本が決まってしまいました(笑)。
イベント告知に2万字書いたら出版が決まった
染谷:その後は出版社と仲良くなって、「こういうテーマで書けませんか?」と依頼を受けるようになりました。また、僕は2016年からオンラインサロンを運営していて、スクールに情報発信ができる人がたくさんいました。「こういう本を書きたいんですよね」と相談を受けたら、出版社につなぐことも増えて、気づけば今のかたちになっていました。
ちなみにこの本(
『ポートフォリオ型キャリアの作り方』)は2024年に出版したんですけど、その頃にはコロナも落ち着いていて。それまでオンラインで話すことが多く、少し飽きてきていたので、オフラインでやりたいと思って全5回の講座を企画しました。その講座の申し込みページに、2万字くらいの文章を書いたんです。
大村:2万字って、えげつないですよ(笑)。原稿用紙で50枚分ですよね。
染谷:はい、Peatixに2万字書きました。
大村:そんなに書けるんですね(笑)。
染谷:はい、いけました(笑)。「これぐらい読んできてほしいな」という思いもあって。
大村:参加者の選別も兼ねているということですよね。
染谷:そうです。ありがたいことに、何十人かが申し込んでくれました。そうしたら、偶然にもそのPeatixの告知文を読んだインプレスの編集者から、「これを本にしたい」と声をかけられて。講座をしながら原稿を書くことになったんです(笑)。誰が見ているかわからないものですね。
大村:やはりアウトプットは重要ですね。それにしても、今回の本は8万字とか10万字くらい?
染谷:12万字くらいですね。
大村:12万字って、あの告知ページの6分の1をすでに書いていたってことですよね?
染谷:そうですね(笑)。
大村:(笑)。
染谷:ちなみに、講座の参加者に「告知ページの文章読みました?」と聞いたら「読んでない」と言われました(笑)。
(一同笑)
染谷:まぁ、そういうものですよね。
大村:でも、文章が長いと「何かすごそう」という印象を与えるのもありますよね。
染谷:「変なやつが変なことをやっている」という雰囲気で「行ってみよう」と思われたのかもしれません。
「きっかけ」は無理やりでも自分で作れる
大村:でもやはり、初めはご縁や人とのつながりが大きいですよね。
染谷:ですね。結局、パターンはいくつかあって、有名になってアプローチされるのが一番わかりやすいんですけど。
大村:そんなに簡単に有名にはなれないですよね。
染谷:なれないですよね。だから、自分でコツコツ発信していくか、人とのつながりを作っていくかになるのかなとは思います。
大村:そうですよね。僕、「複業」と聞いて真っ先に染谷さんが思い浮かんだんですよ。ぜひ複業について語りたいなと思っていた時に、こういう場が実現したのは本当にご縁だなと。
染谷:昔はイベントで名刺交換をして、メールでお礼を送っても、なかなかその後会うことはなかったですよね。でも今はSNSがあるから、ゆるくつながって、会いたければ「あそこに行けばこの人に会える」と思って、出かけていけばいいんですよ。
大村:まさにそうですよね。僕も毎週月曜日にバーのマスターをやっているので、「月曜日に来てもらえれば僕はいますよ」という感じです。
染谷:ここに出たい人は月曜日に来れば、きっかけができるということですね。「きっかけがない」と言う人が多いんですけど、「いや、作ればいいじゃん、無理やりでも」と思います。
時間は自分で作るしかない
大村:あと、「時間がない」系の言い訳も多くないですか?
染谷:あぁ、ありますね。
大村:「時間がなくてできません」とか、「今までそういうことをやったことがないからできません」っていう人も多いですよね。でも、「やったことのないことのほうが多くないですか?」っていう話だったり。
染谷:あとは、時間は意外と捻出できるもので。僕がコロナ禍で複業が急に伸びたと感じたのは、通勤時間がなくなったのが大きかったですね。時間は作るしかないんです。大村さんはたぶん、昨日36時間ぐらいあった人だと思いますけど(笑)。
大村:いやいや、そんなにないですよ(笑)。
染谷:普通の人は24時間しかないので、その中でどうするか。オフラインとオンラインをうまく使うしかないんですよ。結局、やるかやらないか、行くか行かないかの違いなんです。
大村:なんとなく「時間がない」って言い訳にしちゃっている人は多いですよね。でも「時間がない」というのは「時間を自分で作れていない」というだけの話なので、作りましょうよって思います。本を読む時間がないっていう話もよく聞きますが、積読になってしまう気持ちもわかります。
染谷:わかります。僕も2社目では、かなりのベンチャーというか、スタートアップというか、ブラック企業で(笑)、週に何回も会社に泊まり込んでいました。その時は、たしかに時間がなかった。でも、だからといって新しい出会いやチャンスがなかったわけではなくて、どうやり繰りするかが大事だったんですよね。
時間を捻出する人が使う「業務改善のフレーム」
大村:やはり何かをやめることを決めるのも重要ですよね。
染谷:そう思います。やりたくないことはやらないほうがいいですし。
大村:そうなんですよ。僕もテレビを見るのをやめました。本業の会社はテレビを売っている会社なんですけど(笑)、自分がやりたいことに時間を使うためにテレビを手放しました。何かを得るには何かを手放す。ドラッカーが言う「劣後順位の決定」ですね。それも必要かなと。
染谷:あと、何かと何かを組み合わせるのも手ですよね。例えば僕は最近「Netflix」にはまっているんですけど、「ネトフリを見る時間をどう作るか?」と考えて、自宅トレーニングをしながら見るようにしました。
歯磨きをしながら何かをするとか、移動中や通勤しながら何かをする。日常のルーチンに組み込むことで、時間をうまく捻出できるようになります。
大村:そうですよね。誰かがチャットに書いてくれているんですけど、これは業務改善のフレームの1つで、僕の本(
『仕事の「整理ができる人」と「できない人」の習慣』)にも書いた「ECRSの4原則」というものがあります。
EはEliminate(排除)、CはCombine(結合)、RはRearrange(順番の変更)、SはSimplify(簡素化)。この順番で効果が高いと言われています。だからまず「やめること」を考えて、その次に「組み合わせる」ことを実践するのがいいですよね。