2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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佐野一機氏(以下、佐野):『武士の家計簿』という映画がありまして、もともとは本ですけど、これすごくおもしろかったんですね。映画化もされているので、江戸時代の会計というのが映像化されていますから、みなさんにもご覧いただければなと。
篠田真貴子氏(以下、篠田):佐野さんに本を薦めてもらって読んでおもしろかったです。
佐野:あれはおもしろいですよね。
(『武士の家計簿』の映像を上映する)
(映像を見ながら)こういった人数で会計処理をやっていたわけです。これは今だとCPUの中の感じですよね。パソコンの中を開いたらこうやっているということですよ。
篠田:そういうことです。
佐野:今日はこのまま『武士の家計簿』をみんなで観ましょうかね。
(会場笑)
さて、ということで、かなりの人数が計算をするということだけで必要になってくるわけです。これを今何人でやっているかということです。
篠田:そうです。たぶん、この映画の規模でやっている程度だったら、今だったら、まあ5人。大きい会社の経理部だったら、今、開示とかあるから人数多いけど、実質的な月次を回すくらいだったら……。
佐野:1人でできたりします?
篠田:可能性あると思いますね。
佐野:というくらいに圧縮されているわけです。じゃあ、テクノロジーって何がいいのかという話ですけど、大人数でしかできなかったことというのが少人数でできるというメリットがありますよね。
篠田:まずそこがあるのですけれども、もう1個、情報がそうやってたまる、データがたまるとできてくることがあると思うんです。これも人事の話ではなく財務経理の分野になるのですが、ほぼ日はWeb通販で商品を売って収益を上げている会社なんです。私がほぼ日に入社したとき、Web通販だから顧客の購入履歴データがたまっているわけですが、まだそういったデータの使い方を知っている人が実は社内にいなくて。
例えば「今年は手帳が売れています」というけれど、速報値だけは、前年と比べられるようになっているのか、本当に今年は去年より伸びているのか、どのくらい伸びているのか。それって、去年がたまたま低かったから今年が伸びているように見えるのか、本当にそれくらいトレンドで上がっているのか、わかってなかったんです。
そういうのを見てないから、あるとき、うちの商品で「ハラマキ」というのがあるんですけど、「ハラマキ」の売上の伸びが(自分の)感覚的に前より伸びがちょっと鈍化してきた。そうしたら担当者が「もう日本中のハラマキを買ってくれるお客さんのタンスがいまハラマキでいっぱいになっており、したがってもうこれ以上買ってもらえないのだ」と。「だから売上が伸びなくなったのだ」と本当に思っていた。糸井重里もそう思っていたんですよ。私は「それはないんじゃないですか」と。
それで、私がデータを見たら、これまで買ったお客さんの人数の7割が1枚か2枚しか買っていません、その人数は何人ですとわかるわけです。そうすると、だったらみんなのタンスがまだいっぱいじゃないんだから、じゃあこうしようかと新しい発想が出せるんですよね。
佐野:なるほど。その、データをためていくことって、マーケティングや財務の分野では非常に早く発達した分野だと思うんです。いろいろな要因があると思うんですが、売上に直結するというところもそうだし、あとはやはり開示しなければいけないという強制力もあって発達している側面はあるとは思うのですが、そうすることによって、僕はすごくいいことがあると思っていまして。
テクノロジーが享受するものとして、現状の認識をどれだけ正しくできるのかというところが、1つポイントかなと思っているんですね。今、篠田さんがおっしゃっていたことは、そうかなと思うんです。
篠田:はい。さっきの『武士の家計簿」の世界と比べると、少ない人数でできる、あるいはかつては四半期で開示できなかったのができるというふうに、スピードが上がるというのが1個と、まったく別の面で、それまではなかった分析が可能になって、新しい知識なり洞察が得られる。それがまた新しい知見につながる。これができるようになったことですかね。
佐野:あとは、正確性もあると思っていて。『武士の家計簿』のあのシーンを観ていただいたと思いますけど、人があれだけやっているということは、それだけヒューマンエラーが起こる可能性があるわけです。
つまり、ヒューマンエラーが起こりやすいということは、出来上がったものって「本当にこれでいいんだっけ」と懐疑的になりやすい。でも、テクノロジーは間違えないということがいいところなので、「ここが間違えているということは、どこか入力が、人が関わっているところが間違っているはずだ」というふうに、元を探しやすいことがメリットとしてあるのかなと思います。
篠田:はい、そうですね。そうすると、結構いろいろな意味で余裕が出てくるんでしょうね。その余裕をどこに振り向けるか。でもソフトの話じゃなく、人(の数)がすごくなるから必要だという話ですよね。
佐野:そうですね。ただ、可処分時間が増えるというのが重要なポイントですけど。テクノロジーというと、何かすごいものが出てくるみたいに思いがちですが、まず最初に現状の分析がちゃんとできるということや、ちゃんと経時で振り返れるだろうかという、データベースをきれいにしていくということが、そもそも重要なんじゃないかなと思っています。
(スライドを指しながら)これは、プライスウォーターハウスクーパースの北崎さんが「人材データの活用成熟度モデル」というのをWebで公開されていますけれども、これは人事に限らずいろいろなところで言えるかなと思っています。
まずは、スナップショットでの分析。次に経年での分析。次のステップとしてベンチマークとの比較分析。その後に要因の分析となって、最終ステップとして未来が予測分析があります。分析と一言で言ってもこのようにステップがあるわけです。
株式市場なんかは一番比較されるところだと思いますけれど、それはちゃんとそのデータがそろっているから、ベンチマークと分析ができたり深い分析ができたりすると思うんですね。
じゃあ、人事においてはどういう状態なのかというと、経理レベルでデータを蓄積するという状態にはまだまだ達していない印象があり、僕なりの危機感があります。
篠田:ほぼ日もそうですね。エクセルですね。
佐野:エクセルだとまだいいほうというか、残ってないという会社さんとかもあったりしますからね。そうするとどうなのかというと、先ほどのハラマキの話ではないですけれど、歪んだ認識の足し算とか掛け算とかによって、正しい意思決定が行われない状態が、HRにとって大きく変わらなければいけないポイントかなと思っています。
篠田:若干、話が飛ぶんですけど、いいですか。
佐野:飛びましょう。
篠田:テクノロジーって、はたしてコンピューターを使って……エクセルを使ったり、専門ソフトウェアを使うというだけなのかしらという疑問があるんです。テクノロジーってもうちょっと広いものだと思うんですね。
というのは、金融で今、ゴールドマン・サックスだとかモルガン・スタンレーといった投資銀行が現在のように巨大化した、大元の背景というのが、私の理解ではですが、70年代にノーベル経済学賞をとるような新しい金融理論が3つくらい出て来て、オプション価格であるとか、企業価値をはかる見方であるとか……。
佐野:ブラック・ショールズ・モデルとかがそうですね。
篠田:そういう企業価値をはかる考え方というのができて、それを実務に応用するためのコンピューティングパワーが現れたことで、飛躍的に金融は、株の値動きの度合いを取引するであったり、あるいは企業買収とか業務提携の場合に事業価値をいくらだと見積もるのかという業務に、ものすごいブレイクスルーがあったんです。
理論のブレイクスルーとコンピューティングパワーが掛け合わさって、今の金融の世界をつくっているとすると、金融におけるブラック・ショールズ・モデルとかCAPM・モデルに相当するものが人事の分野にまだないものかもしれない。
ただ、私も普通に本とかWebを見ているだけの知識しかありませんが、行動心理学の発展であるとか、あるいは脳の働きを細かく解析できるようになってきていることで、人事分野におけるそのブレイクスルーって、結構、我々普通に現役で働いていると来るんじゃないかなと思ったりしているんですよね。
佐野:そういった分野の研究というのが……篠田さんはウォートン・スクール(アメリカのビジネススクール)の出身でいらっしゃいますけど、先日、僕はウォートンで開催されたピープルアナリティクス・カンファレンスに行ってきたのですね。
篠田:記事書かれてましたよね。
佐野:はい。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに寄稿しました。ブラック・ショールズ・モデルというのはノーベル賞をとった大変に評価されたモデルですが、HRの分野においては最先端のカンファレンスでもそこまでモデル化されたものは僕が見る限りでは紹介されていませんでした。ただ、データを解析してどうやったら人が生産性高く働ける環境にあるのかみたいなのが、定性的ではなく定量ではかろうという機運は、少なくともアメリカの一部では高まっている印象を受けました。
篠田:(スライドを指しながら)さっきのこの図でいうと、この右のほうの下のほうに「求められるスキル」で多変量解析とか仮説構築とかあるんですけど、その仮説の大元って、単に普通の我々が実務でうっすら感じている知識とデータを突き合わせてということだけじゃない可能性があるってことですね。
佐野:そうです。
篠田:おもしろいですね。広まっていくと、本当、いま私たちのほぼ日での日常の人事とはだいぶ違った世界が本当は未来にある。HR Techなんですね。
佐野:HR Techだと思います。大事なのは、なぜHRのテクノロジーが最近話題になることが多いのかというところだと思うのですが、やはり、人事のあり方というものが今大きく変わろうとしているときだと考えています。
これまでのHRは終身雇用のような大きなコンセプトを前提にしていたので、それを維持するためのオペレーションを頑張ってやっている側面があったと思います。ただ、もう、先ほども言ったように、働く側にどんどんパワーが移っていて、もっと働く場所や時間を選択して、自由に働きたいということが出てきているわけです。
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