
2025.02.26
10年前とここまで違う 落とし穴だらけの“ERP to ERP”基幹システム刷新が抱えるリスクと実情
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ピーター・ティール氏:市場独占の特徴をおさらいしましょう。特権技術、ネットワーク効果、規模の経済性、これらについて市場を独占している、上手く波に乗っているその時に考えることはもちろん良いですが、「今ある良い状況は継続していくだろうか?」と考えることも必要です。
これを考える上で「時間」も鍵となってきます。ネットワーク効果は時間をかけることによってより大きくより確実な市場独占へと繋がっていきますから。
特権技術はなかなか厄介です。これは世に既に存在するものよりも優れたものを提供するという概念であり、最初にこれが出来れば注目され、ヒットを飛ばすことになる。
でも他の人に取って代わられてはなりません。素晴らしいイノベーションをしたのに、それに見合ったお金が入ってこないことがあります。1980年代のあるディスクドライブ製造業者はどこよりも優れたディスクドライブをつくることができた、世界的に成功することも出来た。
しかし2年後、それよりも更に優れたものをつくる会社が出現しました。15年後のディスクドライブ技術は進歩して、優れた製品が世に出回ることとなり、消費者はハッピーですが、最初に始めた製造業者が日の目を見ることはありませんでした。
一発屋ではいけません。大ヒットとなったら、その状態をどれだけ長く保持できるか、そしてそのヒットに甘んじることなく改善を続け、他の会社に取って代わられないようにすること。
素晴らしいプロダクトを世に生み出すと、他の会社もそれに倣って類似プロダクトを開発する。これは社会にとっては競争によってプロダクトが進化するので利益となりますが、最初に始めた会社にとってはあまり嬉しくないことなのです。
最後に動く会社である、というのがとても重要なポイントです。チェスに例えると、最初に駒を動かすのは白駒を持っている人です。そして白駒でプレイする人には、ゲームの行方を決める第1手を決めることが出来るという有利な点があります。
つまり最初に動くことには利点もあるわけですが、ゲームに勝つためには最後に動く人であることです。チェスの世界チャンピオンのカパブランカが言っています、「ゲームの終わりを考えながらゲームを始めなければならない」。
終わり方だけを気にするべきだと言っているのではありません。「なぜある会社は10年、15年、20年後も最先端でいられることが出来るのか?」を考えて欲しいと思います。
市場を独占することと競争することの違いは、私がビジネス全般について考える際にとても重点をおくポイントです。テクノロジーと科学の世界で起きるイノベーションの歴史について考えると面白いことが見えてきます。
過去300年、私達はあらゆる分野の素晴らしい技術の進歩の恩恵を受けてきました。蒸気機関車、電話、冷蔵庫、家庭電化製品、コンピューター、航空等ありとあらゆる分野でイノベーションは起きてきました。科学も同じです。
これらについて考える時に見落とされがちなこと。XとYは独立変数であるとお話ししましたよね。人類は時々で起こる素晴らしいイノベーションによって進歩してきました。
しかし、それらを発明したその人達が彼らの発明に対して見返りを得ていないのです。世にXドルの価値を生み出し、XドルのY%を保持することが出来るかがそのビジネスの価値を測る方程式だという話をしましたね。
科学の歴史を紐解くと、Yが0%なんです。科学者達は彼らの素晴らしいイノベーションに対して、それに見合う報酬を得ていない。彼らは、頑張って良い仕事をやればそれに見合う報酬は必ずついてくるはずだ、と信じてきました。
この妄想によって多くの科学者が損をしています。テクノロジー業界も同じで、素晴らしいイノベーションが数多く生まれてきたものの、それを開発したその人がその価値に対して充分な報酬を受けていない。
科学とテクノロジーの歴史を紐解くことは、世に生み出す価値に対してどれくらいの見返りを受け取るべきか考えるきっかけとなります。実際自分で生み出したイノベーションへの対価を全く受け取れなかった人も多くいるのですから。
例えば皆さんが20世紀最大の物理学者であり、世をうならす新発見をしたとしても億万長者にはなれないのです。蒸気機関車、素晴らしいイノベーションです。しかし、蒸気機関車に携わっていた会社のほとんどが倒産しました。なぜなら業界内の競争が激しすぎたから。
ライト兄弟は人類で始めて空を飛びましたが、億万長者になったわけではありません。科学、テクノロジーの分野の構造を見直す必要があるのではないでしょうか。
科学、テクノロジーの進歩の歴史の中で成功したケースはとてもレアです。過去250年間の歴史を考えてみてください。科学でもテクノロジーでもYはほとんどの場合0なのです。
イノベーションを起こして、それに見合った報酬を得た人はほとんどいません。18世紀の後半、19世紀の初期、第1次産業革命は織物工場や蒸気エンジン等、作業を自動化したことに起因します。
織物工場では生産性が毎年5%から7%アップしました。その後60年、70年間で―1780年から 1850年にかけて―飛躍。しかし、1850年になってもイギリス国内のその富は労働者に充分に分配されず、貴族が独占しました。
資本家ですらその富の恩恵を充分に受けることはありませんでした。資本家同士が競争していたからです。多くの織物工場がありましたが、その業界内での競争の構造が多くの人が富を得られなかった理由です。
過去250年の歴史をふりかえって、新しいことを始めて富を得たケースには大きく分けて2種類しかありません。第1に、19世紀後半から20世紀初期の第2次産業革命中に起きた縦に統合された独占です。
例えばフォード、スタンダード・オイル等、縦に複雑に絡み合った構造を組立て、それを有利に動かす。これは今日ではほとんどないケースですが、とても上手いやり方だと思います。私達の生きる社会は資本を中心に考えられているので、複雑すぎてつくりあげるまでに長い時間がかかるものを避けたがります。
テスラ、スペースXを考えても、これら企業の鍵は複雑に絡み合った縦の独占にあると思います。テスラやスペースXには世に大きく騒がれる大きなブレイクスルーがあったでしょうか。もちろん彼らの功績は素晴らしいですが、一時的に大爆発するブレイクスルーはなかったはずです。彼らが素晴らしいのは様々な要因を縦に組み立ててここまで発展してきたということです。
テスラは自動車販売業者を取りまとめて、彼らの受け取るべき利益を販売業者に持っていかれないようにしました―これはアメリカの自動車業界ではよくあることなので―。スペースXも同じです。
多くの航空宇宙会社大手が特定の下請け業者と取引していますが、特定の業者としか取引しないことが結果として下請け業者の得になる取引で合意し、彼らに利益にならないやり方をしているのに対し、スペースXは下請け業者を全て仲間に引き入れました。
このように縦社会ををつくることの重要性は、近年のテクノロジーの発展を考える上でももっと注目されてもよいはずです。
ソフトウェアはそれ自体がパワフルだと思います。ソフトウェアは物凄い規模の経済性を持っており、限界費用はとても少ない。アトムとは逆にビットの世界で、急速にアドプションが起きます。
そして速いアドプションは市場を確保するのに必要不可欠です。なぜなら、例え市場が小さいとは言えど、アドプションの速度が上がらなければ他の会社の介入を許してしまうことになりかねません。
つまり、アドプションの速度を速めることさえできれば、小さめから中度の市場を独占することが出来るというわけです。私はこれがシリコンバレーが業績を上げている、そしてソフトウェアが画期的な業界であることの理由だと思っています。
あるものは成功し、あるものは成功しないことを多くの人が様々な理由で正当化しますが、突き詰めれば、成功するか否かとはどれだけの価値を生み出し、その価値の何パーセントを手元に得られるかにつきると思います。
科学者が富を得られないことを私達が正当化する理由は「学者はお金には興味がないんだ」です。彼らはそれをやりたいからやっているわけであり、お金が欲しいからそれをやるなど科学者の風上にも置けない、という具合に。私はお金の為に何かを成し遂げろと言っているわけではないです。
ここで言いたいのは、物事を簡単に正当化してはならないということです。科学の世界ではYがゼロであること、そしてその世界ではイノベーションの競争の結果お互いを打ち消して、誰も功績に見合う報酬を得ていないことを私達は正当化していないだろうか、という疑問を投げかけたい。
ソフトウェア業界の人々が巨万の富を築いているので、世の中で最も重要なのはソフトウェアであるように言われることがあります。Twitterの人々は物凄く稼いでいるのだからアインシュタインよりも偉い、というように。
やはりXとYは独立変数であり、あるビジネスではXから得られるYの値が大きいのに対し、あるビジネスではYが少ないという事実があるからです。これまでのイノベーションの歴史とはミクロ経済、業界の構造が鍵を握っていたというのがすべてだと思うのです。
「正しい」構造の中にいる人々が巨万の富を得る反面、競争ばかりしてきた人々は何も得ることが出来なかったというストーリーを歴史から読み取ることができます。でもこれを正当化してはなりません、もうすこしこの問題を追求する必要があります。
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