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ミシガン大学2024卒業式 ウィリアム・フラナリー氏(全1記事)

がんを克服した医師が、SNSで“医療コメディ”を発信するわけ 誰もが持っているクリエイティビティを育むことの重要性

ミシガン大学の卒業式に、眼科医であり医療系コメディアンのウィリアム・フラナリー氏が登壇し、卒業生に向けてスピーチを行いました。自身もがんを経験したウィリアム氏のこれまでの遍歴と、クリエイティビティを活かすことの重要性を強調します。

コメディアンと医師の二足のわらじで活動中

司会者:本年の卒業式スピーチの登壇者である、ドクター・ウィリアム・フラナリー氏をここにご紹介いたします。ドクター・フラナリーは、オレゴン州ポートランド市の「アイヘルス・ノースウェスト(EyeHealth Northwest)」で現役の眼科医として、白内障の診断と手術、緑内障の診断、糖尿病の診断を専門とする包括的な眼科治療の任にあたっています。

また、ドクターは医療とコメディの二刀流のライターでもあり、医療系ウェブサイト「The Ophthalmologist」と「KevinMD.Com」上で精力的に執筆し、著書を複数出版しています。

さらに、コメディアン「ドクター・グローコムフレッケン(Dr. Glaucomflecken)」として、医療をテーマとしたショートコメディに出演し、各ソーシャルメディアで絶大な人気を誇ります。ドクター・フラナリーは、そのキャリアをコメディアンとしてスタートしました。郷里のテキサス州ヒューストンで、スタンダップコメディに18歳で出演し始めたのです。

ダートマス大学ガイゼル医学部の3年生の時にがんの診断を受けました。患者と医学生の2つの立場を経験したことから、ストレスと向き合う「コーピング」にユーモアを活用する、医療系コメディに意欲を向けたのです。

手術によってがんを克服し、医学部を卒業した後、アイオワ大学でレジデント(注:医学部を卒業し、医師国家試験に合格してから始める専門分野においての研修)を始めましたが、遺憾なことに研修期間中にがんが再発し、それを機に再びコメディの道に戻りました。この時、ドクター・グローコムフレッケンとして、旧TwitterであるXにアカウントを開設したのです。

再開した治療は成功し、彼の持ちネタには、通称「グローコムフレッケン病院」として知られる架空の病院で勤務する、多種多様なキャラクターが織りなすスキット(注:コメディの寸劇)が加わりました。

(会場笑)

司会者:ドクター・グローコムフレッケンは現在、実に37もの医療分野における委員会の役員を兼任しています。すばらしいですね。また、各ソーシャルメディアのチャンネルにおけるフォロワーは300万人以上に上ります。米国公衆衛生局長官とコラボレートを果たし、世界中で多数の基調演説を行っています。

SNSでのコンテンツ配信は100時間以上にものぼる

司会者:では、大いなる喜びをもってご紹介しましょう。ドクター・ウィリアム・フラナリーです。

ウィリアム・フラナリー氏(以下、ウィリアム):ありがとうございます。礼服姿は初めて披露しますが、良いものですね。ワインスタイン学長、教授各位、ご学友、ご家族やご友人のみなさん、まことにありがとうございます。自己紹介は簡潔にしましょう。私はTikTokのコメディアンです。

(会場笑)

大丈夫、ちゃんと正規の招待を受けてここにいます。私の知る限り、間違って招かれたわけではありません。ご家族やご友人のみなさん、私もみなさんと同じくらい驚いています。私はアカデミックな医師でも、いわゆる学者でもありません。信じてもらえないかもしれませんが、実はノーベル賞すら取っていないのです。

(会場笑)

でも、ソーシャルメディアのコンテンツ配信は100時間以上あり、どれもが抱腹絶倒ものです。まずは卒業生のみなさんに、このたびのご招待と、このよき日を共有できる栄誉に感謝します。また、登壇をご快諾いただいた学長にも感謝します。

(大学が所在する)アナーバー市に来るのはこれで2回目です。初めて来たのは眼科医局の研修の面接をした2013年で、この場所に魅了されました。とても懐かしく感じます。

興奮して帰宅し、妻のクリステンに、ここのすばらしい人々や立派な設備、アメリカンドッグのおいしさを伝えたことを覚えています。妻は言いました、「冬は寒いんでしょ?」。私は言いました、「たぶんだけど、たいしたことないよ」。面接が終わると、ミシガン大学が第一希望になりました。ですから、面接に落ちてどれほどがっかりしたのか想像はつきますよね。

届いた封筒を開封しても、ミシガン大学の名は記載がありませんでした。受かったのはアイオワ大学のすばらしい眼科プログラムでしたが、第一希望ではありませんでした。では、私はどうしたでしょう? ごく一般的なことをしました。お祝いしたんです。家族や友人をハグして合格を喜び、私を落としたミシガン大学のプログラムに復讐を誓いました。

(会場笑)

でもね、聞いてください。今、私はここに立っているでしょう? 無事復讐は果たされました。だから、みなさんも安心してください。

(会場笑)

“当時の卒業式スピーチ”はまったく覚えていない

ウィリアム:卒業生のみなさん。11年前、私もみなさんと同じ立場にいました。わくわくしつつも、新しくはじまる医師としてのキャリアに少し不安を感じていました。あの日のことはよく覚えています。うららかな春の日に、クラスメートや友人たち、家族とお祝いしました。一方でまったく覚えていないのが、卒業式のスピーチです。ただ、だらだらと長かったように思います。

(会場笑)

今日、私がみなさんにお話しする内容が、長期記憶として残るかどうかはわかりません。「クレブス回路(注:酸素を用いるエネルギー代謝、解糖系の1つ。身体で最も効率的にエネルギーを産生する回路)」や「凝固カスケード(注:凝固因子が協力して凝血塊を形成するのに必要なフィブリンを産生するまでの一連の流れ)」のように覚えていられるかどうか。

もしくは、眼科医療に就くみなさんの言うところの、いわゆる「鼻梁下部」にちゃんと記憶されるかはわかりません。時の経過と共に薄れていくことでしょう。

数十年後、孫に「医学部の卒業式で、誰がスピーチをしたの?」と聞かれても、黙り込んでしまうかもしれません。しばらく考えてからこう言うでしょう。「たしかTikTokで有名な人だった気がするな」。すると孫はこう聞くでしょう。「TikTokって何?」

(会場笑)

卒業式のあの日のスピーチで、どんな言葉が私たち卒業生に伝えられたかは記憶してないかもしれませんが、どんな気持ちになったかははっきりと覚えています。高揚し、希望にあふれ、誇らしく思っていました。

インポスターシンドローム(注:客観的に高い評価を得ても自分の実力を内面的に肯定できないため、素直にそうした称賛を受け入れることができず、むしろ詐欺師のように周囲を騙している感覚に陥ってしまう心理状態)も、健全な程度にはありました。

つまり、自分がたいしたことがないとそのうち他人に見抜かれてしまうかもしれないという恐怖心ですね。先達はみな、この恐怖心を感じたものです。学長だって例外ではありません。いや、学長は特に感じていたかもしれませんよ。

(会場笑)

研修期間をうまく乗り越えるコツ

ウィリアム:さて、卒業式のスピーチの何が問題かをお話ししましょう。私みたいな人が出てきて、みなさんに医師としての重責や、公正で患者の立場に寄り添った人間性の高い医療システムを構築し、医療の未来を築くべきだと説きますよね。もちろん、私も同じことを言うことはできます。それが事実だからです。

でもたった今、みなさんが頭の中で考えていることもわかっています。「ドクター・G、ご高説はよくわかった。もちろん医療の未来を救うのは嫌ではないよ。でも、それ以前に、そもそも研修医期間を乗り越えられるのだろうか?」。答えは当然、イエスです。

研修期間は、アメリカ医療システムを救う前段階だと考えればよいのです。そこで、みなさんが後日医療システムの救済に首尾よく着手できるよう、研修期間をうまく乗り越えるコツをお伝えします。

これから数年がどうなるかお伝えしましょう。いいですか? 当然のことですが、今日みなさんは卒業します。明日はひたすら眠るでしょう。医学部の4年間は本当に大変だったでしょうからね。休憩は必要です。数週間後、ミシガン大学から最初の郵便物「ドナーになるお願い」が届くでしょうが、無視しましょう。ただでさえみなさんは、もうぼろぼろなのですから。

(会場笑)

これから先、ドナーになる機会は山ほどあります。全国どこへ行こうと、キャリアの間じゅうミシガン大学はずっと追っかけてきます。みなさんの居場所を特定する部署がちゃんとあるのです。

“ミスは他人に話すこと”が大事なわけ

ウィリアム:7月、インターン期間が始まります。まずみなさんが最初にやることは「ミスを犯すこと」です。どんなにがんばったとしても、ミシガン大学で世界レベルでの教育を受けたとしても、ミスは起きます。小さなものであれば、ラボ・テストの発注を間違えるとか、眠くて1ページを読み飛ばすとか、診察の前に患者の視力検査を忘れるとかですね。

(会場笑)

ウィリアム:大きなミスも犯すでしょう。自信を根底から揺るがし、果たして自分はこの仕事に就くに値するのか、自問自答するような大失敗です。

そういったミスは他人に話してください。どんどん外に出して、同僚のインターンや先輩研修医に伝えてください。そうやって他者に自分のミスを話すと、とても大事なことがわかってきます。「ミスを犯すのは自分だけではない」ということです。

私がインターンの頃は、ミスを犯すたびにこんなことを言っていました。「アトゥール・ガワンデ(注:アトゥール・アトマラム・ガワンデ 。アメリカの外科医、作家、公衆衛生学者)だって、まちがって座薬を発注するくらいしただろうさ」。気が楽になりますよ。

(会場笑)

もちろんミスは避けるべきですが、犯してしまった時にはそこから学べます。それでもなお、自分はよい医師だと思うことができます。自分だってただの人間だと思えるのです。

10月になると、だんだん天候が悪くなりますね。そうでしょう? 何日も、何週間もお日さまを見ない日が続くかもしれません。放射線医師になる人だって、自分の将来が曇りがちに思えてきます。そんな時には、「光療法ライト」をネットで買って車につけてください。あれはすごく役に立ちます。

(会場笑)

「クリエイティビティを決して失わないで」

ウィリアム:それでもどんよりとつらい日々が続く研修期間には、自分の中のクリエイティブな面を常に出してください。みなさんは誰でも、クリエイティブですばらしい力を持っています。みなさん全員が、医学以外の世界で喜びを感じることができて、脳の異なる分野を刺激する何かを持っているはずです。

2024年現在、医療ではクリエイティビティが重んじられてはいません。重んじられるのは能率や画一性、治療実施要項、テンプレート、専門用語などです。より多くの患者を診て、たくさんの記録を書き、それらをすべて能率よくこなすことです。

結果、クリエイティブな内面から意識がどんどん離れ、ここぞという時に呼び覚ますことができなくなります。医師の燃え尽き症候群、精神的損傷、うつ病は、昨今大変増えています。ご自身のクリエイティビティを決して失わないでください。大切に育み、数分でも数時間でもよいので、歌ったり、踊ったり、執筆したりする時間をスケジュール上に捻出してください。

「ジョセフ」は多分野に秀でた医師ですが、ベッドルームで1人きりの時にレコーディングしていましたね。みんな何かしら特技があるのです。クリエイティブな時間を作ってください。私は2020年から、おかしなコメディの小動画を作ってきました。みなさんがご覧になったかどうかはわかりませんが。

(会場笑)

ここ数年で一番多かったのが、「新型コロナのパンデミックを乗り切るのに役立った」という感想でした。これはたいへんうれしかったです。なんて言ったって、呼吸器官系疾患のパンデミックで眼科医ができることなど限られていますからね。ですから、ご自身のクリエイティビティが、みなさん自身や周りの人のメンタルヘルスに与える影響を過小評価しないでください。

研修医時代にがんの診断を受ける

ウィリアム:インターンの1年が終わりに近づくと、「来年以降の研修期間を生き延びるには、病院のどこで無料のおやつがもらえるか知っていること」が鍵となるとわかってくるはずです。これは実に大事なことです。

(会場笑)

ウィリアム:いや、重要なのはそこではありません。大切なのは同僚たち、つまり、いつもみなさんのすぐそばにいて共に塹壕で戦う戦友といかに助け合えるかです。研修期間中、同僚が一番近しい家族同然の存在になることは多々あります。

研修4年目、私は精巣がんの診断を受けました。眼科で研修を受けている身には、普段取り扱うことのない種類の玉であるため興味深いできごとでした。

(会場笑)

ウィリアム:診断を受け、私の世界は天地がひっくり返ってしまいました。本来は研修期間終了をお祝いし、最初の仕事を探すはずのところに突然、がん治療と治療予約の日々が始まったのですから。

私1人で向き合うにはあまりにも大きなものでしたが、同僚たちがそばにいてくれました。見返りを一切求めず、私にかかってくる電話を受けたり、手術後の回復期にはクリニックのシフトを代わってくれたりしました。そういったサポートや思いやりのカルチャーは、私たちが自発的に築き上げたものでした。

研修期間はやりがいがありますが、大変つらいものでもあります。決して1人では完遂できません。同様に、医師としてのキャリアも1人ではこなせません。互いに助け合い、他者を頼りましょう。どこへ行ったとしても助け合いのカルチャーを築き、医師の仕事を続ける限りそれを維持してください。やがて研修期間は終わりを告げます。脳神経外科医志望の方ですら、いつかはちゃんと終わります。

(会場笑)

ウィリアム氏が指摘する、医療業界の課題

ウィリアム:それが何を意味するかおわかりでしょうか。つまり、みなさんには医療の未来を救う下準備ができたということです。私は実際に医療の世界に入って、ようやくその実態がわかり始めたのです。医療システムがいかに医師や患者のためになっていないかを理解できてきました。

請求は自動で却下され、権威が尊ばれ、査読はだらだらと続き、臨床診断の精度が下がっています。このシステムにより、社会的弱者は医療アクセスが制限され、必要とされる医療や医薬品の購入ができなくなっています。みなさんが卒業後に足を踏み入れようとしている世界は、そんなシステムで構築されています。患者の利益よりも儲けが優先されるシステムです。

私がみなさんにこんな話をするのは、何もみなさんを不安にさせようとか、人生の決断を後悔させようとか思うからではありません。逆に、みなさんにはそれを改善できる準備がすでにできているからなのです。今年や来年には無理かもしれませんが、みなさん全員の力がすぐに必要になってきます。

患者の健康や安全、医療の健全性を脅かす不正や誤情報、大企業は跡を絶ちません。意味のある変革をもたらすため、戦うのは私たちです。

健康保険制度の改革やがんのスクリーニング、銃規制など、声を上げる必要がある場はいくらでもあります。国の組織に所属してください。州や国のロビー活動に参加してください。ソーシャルメディアを活用してください。よりよい方向への変革に情熱を向けてください。いずれも有効な手段ですが、私たちが力を合わせなければ効力を発揮しません。

過去数十年では、私たちは「ノーサプライズアクト(注:連邦政府によるNo Surprises Act。緊急時における医療サービスの利用やその他、利用者が多額で想定外の医療費を請求される可能性がある状況において、保険加入者とその家族を保護するための法律)」「保険会社の事前承認制度(注:Prior-authorization reform。医療サービスを受ける際に、保険加入者が保険会社に事前に通知し、承認を取得することを義務付ける事前承認制度)」の改革。

そして「PBM(注:Pharmacy Benefit Management。企業や保険会社に代わって製薬会社を相手に医薬品の価格交渉を実施する、第三者機関による処方薬の適正管理プログラム)」の改革、「医術の法人的実践に関する法律(注:Corporate practice and medicine。病院が医師との契約に依存する法律)」の制限など、さまざまな改革を目の当たりにしてきました。

楽しむことを常に忘れない

ウィリアム:声を上げれば改善されるのです。粘り強く勝利を積み重ねれば、改善は可能ですし、変革できるのです。私たちは、患者と国民、そして私たち自身に対して変革の責務があります。どうか常に覚えていてください。みなさんの声には、医師としての重みと力があります。合わせれば大きな力となりえます。

2024年卒業生のみなさん。私からの最後のアドバイスを伝えましょう。これから世に出て研修期間を乗り越え、医療を救うみなさんですが、常に楽しむことを忘れないでください。

私たちはいつも人生の目先のステージでいっぱいいっぱいです。「医学部もあと1年で終わりだ」「研修期間はあと1年」「フェローシップ(注:2年間の初期研修を終えた3年目以降の後期研修)をなんとか終わらせなければ」。中には、わけがあって3、4回フェローシップを経験する人もいるかもしれません。理由はよくわかりませんが。

(会場笑)

ウィリアム:でも、時に立ち止まり、今後を忘れて今この時を楽しんだっていいはずです。この場所を見渡してください。この場に集った人々を見てください。みなさんが達成したすべてが、ここにあります。どうぞ誇ってください。

これから進む医師としての道には、山も谷もあります。医学の道を進むにあたり、人生最悪の日が訪れ、あるいはまさかできるとは思わなかったようなすばらしいことをやってのける日がくるかもしれません。そしてみなさんは、多くの人を救うでしょう。長い道のりです。道中を少しでも楽しめるようにしてください。ミシガン大学2024年卒業生のみなさん、おめでとうございます。

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