サイボウズが取り組む、学校の働き方改革

中村龍太氏(以下、中村):みなさん、こんにちは。たくさんのセッションの中からこの場所を選んでいただいてありがとうございます。

まずは私の自己紹介からしたいと思います。中村龍太と申します。今日は、「マジカルDXツアー」のツアーガイドをさせていただきます。ふだんはサイボウズの「ソーシャルデザインラボ」という部署の責任者をやっています。

「ソーシャルデザインラボって何をやっているの?」という質問がたぶんあると思いますので、ちょっとだけお話ししますと、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」、そして「自立と議論」というサイボウズの4つの文化に基づいたチームワークで、社会課題の解決に向けて活動しています。

ここにありますように「災害支援」「虐待防止」「地方創生」や「障害者支援」などのプロジェクトを進めていますが、今日は「学校BPR」と呼ばれる学校の働き方改革についてお話ししたいと思います。

まず、「今日はどんな人が来ているのかな?」ということで、挙手をいただければと思います。この後、教育委員会の方が出てきますが、先生ではなく、教育委員会の関係者の方はいらっしゃいますか? あまりいないですね。学校関係者はどれぐらいいらっしゃいますか? おお、ぼちぼち。ありがとうございます。

お子さんが小学生、中学生、高校生の方はどれぐらいいらっしゃいますか? これもぼちぼちいらっしゃいますね。学生さんはいらっしゃいますか? ありがとうございます。

「学校の先生になりたい」という人はいらっしゃいますか? あんまりいないですか。最後に、IT企業の関係者の方。ああ、7割ぐらいですかね。ぜひ学校の実態と、ITでどう解決するかを、みなさんにぜひご理解いただく場にしたいと思いますので、よろしくお願いします。

多数の問い合わせと視察を受けた三島市との取り組み

中村:では、今回ツアーに参加していただくお二人をご紹介します。まずはサイボウズのソーシャルデザインラボの前田さん、お願いします。拍手~。

前田小百合氏(以下、前田):こんにちは。

(会場拍手)

中村:あとで自己紹介をしていただきます。そして今日のメイン、三島市の教育委員会の杉山さん。よろしくお願いします。

(会場拍手)

杉山慎太郎氏(以下、杉山):よろしくお願いします。

中村:杉山さんがフライフィッシングがすごく上手だということで、(スタイルを)それに合わせてきたところ、私のほうがフライフィッシングというかっこうをしていましてすみません(笑)。

前田:(笑)。

中村:どうぞお座りください。まず、前田さんから自己紹介をよろしいでしょうか。

前田:サイボウズのソーシャルデザインラボで、学校や教育分野を担当しています、前田小百合と申します。高校生1人と小学生2人の3人の娘がいる母でして、実は2021年、2022年と2年間PTA会長をやりました。プライベートでも仕事でも、教育や学校にとても関心があります。どうぞよろしくお願いします。

中村:よろしくお願いします。

(会場拍手)

中村:では、杉山慎太郎さん、お願いします。

杉山:みなさんこんにちは。静岡県の三島市教育委員会の教育総務課、それからGIGAスクール推進室長をやっております杉山慎太郎と申します。よろしくお願いします。主に教育DX、それから学校施設の維持管理と、放課後児童クラブの運営などもやっています。プライベートでは、さっきもご紹介にありましたとおり……。

中村:こんな感じ?

杉山:ただの釣りバカです。よろしくお願いします。

前田:(笑)。

中村:(笑)。釣りは釣らないんですよね。

杉山:全部リリースです。

中村:さすがです。今度教えてください。ありがとうございます。

(会場拍手)

中村:今回、2023年5月に三島市の事例をサイボウズがプレスリリースしまして。発表後、他の教育委員会の方から三島市に引き合いが来ているとか?

杉山:そうですね。いろんな教育委員会から問い合わせがあったり、視察に来られたり。

中村:ええ!? すごい。

杉山:今までやってきたことをありのまま伝えています。

中村:何件ぐらい来ていますか?

杉山:ちょっと数え切れないぐらいあったので。

中村:数え切れないぐらいですよ。恐らくこの事例って、はっきりとは調査していないんですけど、きっと日本で初めての事例ですよね。

杉山:そうですね。教育委員会の、公教育の中では初めてじゃないかと思います。

「定額働かせ放題」という教職員の勤務実態

中村:それぐらいすごいことをやってのけた杉山さんに、この後いっぱいしゃべっていただきたいと思いますが、まずはスライドを用意していますので、三島市の教職員の働き方を解説いただけますか?

杉山:みなさんも報道などで、「教員が大変だよ」という話を聞いているかと思います。三島市でも働き方の実態調査をやりまして、勤務時間内で終わらない先生が66.2パーセント。

それから週に1日以上家に仕事を持ち帰る先生が60パーセント。月に2日以上、休日に学校で仕事をする先生が約半数ぐらいいるということです。

働き方改革は5年くらい前から言われていますが、(教職員に関しては)あまり改善していないのが実態です。

中村:具体的には、先生の1日の働き方ってどんな感じですか?

杉山:小学校高学年の先生と中学校の先生をモデルケースとしてインタビューしたところ、(スライドの)赤字部分ですが、小学校高学年の先生は13時間ぐらい学校にいる。しかも、家に帰ってから授業の準備をしているよと。

中村:帰ってからはここ(赤字の下部分)。やばいですね。

杉山:中学校の先生は、部活動が終わった後に授業準備や校務事務をやっていて、12時間なので、同じぐらいの時間を過ごしている感じでした。

中村:これでは、先生のなり手も少なくなってきそうですよね。

杉山:そうですね。定額働かせ放題というところで。

中村:(笑)。厳しいですね。実は、私の娘も小学校の先生をやっていまして、まさしくこんな感じの働き方をしていると思っているんですけど、お父ちゃんとしてもどうにかしたいですね。

杉山:そうですね。

先生の頭にGoProを乗せて1日の仕事を撮影

中村:ということで、今回は先生の実態がわかる写真をお見せします。これは私の頭で、乗っかっているのはGoProです。

GoProで何をしたかと言うと、先生の頭にGoProを乗せて1日中見て回るという、そんなことをやってみました。

先生のリアルな1日の風景を、三島市の教育委員会の人たちに確認を取って、見せられるところを見せていきたいと思います。(スライドの)渡邉(康男)教頭先生(当時)が頭に着けているのが、さっきのGoProですね。

ここからは前田さんに説明をお願いしてもよろしいですか?

前田:はい。録画は朝イチで渡邉先生がリアルに(GoProを)着けるところから始まっています。

朝6時50分ですから、まず時間がすごいですよね。

これはコロナの時なので、とにかく換気をしなきゃいけないということで、1階から3階までだったかな、全部窓を開け続けるという。

中村:ええ?

前田:録画を全部見たんですけど、ずーっと窓を開けているんですね。

中村:48枚。

前田:すごいですよね。階段を上るのでハアハア言いながら、パタパタと48枚の窓を開けていました。

帰ってくると、職員室にはほとんど人がいなくて。これは先生の机の上の書類の山になります。

パソコンはあるんですけど、書類があります。おもしろいのが、マウスを置いているのがパソコンの上という。

中村:(笑)。

前田:周りに物がありすぎるので、ここでしか作業ができないということですね。たくさんの書類にはんこを押す作業も1日に何回も出てきます。

出しては押すと。またいろんなことが起こりますので、電話が掛かってきたり、先生から電話を掛けるということもたくさんありました。

これは印刷ですね。保護者に配るための印刷をして、各教室もそうですが、職員室やいくつかある学年ルームに(教頭)先生が配っていました。

おもしろいのは、水槽のお掃除なども教頭先生がやっていまして、本当に「こんなことをやっているんだ」というのを見ました。

実は(教頭)先生は授業を持つこともあるようなのです。GoProを置いて、体育の授業をやったりしています。

これが最後ですね。真っ暗になった中、戸締まりをして外を見回る。なんか棒を持っているんですよね。

危ないことがないかというのを見ながらやっているんだと思うんですけど。外を見回って、上まで上がって安全確認をして終わるというものになります。

中村:ありがとうございます。こんなレアな動画を持っている私たちもすごいなと思うんですけど、GoProを頭に着けての撮影を許していただいた渡邉先生にここで感謝したいと思います。

前田:本当にそう思います。

「不安だから」で机の上に溜まる紙、はんこ作業の多さ……

中村:深澤(修一郎)さんというサイボウズの社員が、先生をずっと見るためにGoProを着けるというアイデアを出してくれて。実際に着けていただいて、先生が1日どういうふうに働いているかを見たわけですが、前田さん、結果的にどんな感じですか?

前田:とにかく紙がすごいです。たぶんちょっと整理していただいたんだと思うんですけど、それでも紙がこんなにあって。「これを見るんですか?」と聞いたら、「いや、見るわけでもないんだけど、なんか不安だから置いておく」とか。

休みの先生がいれば授業対応をしたりもしますし、本当にいろんなことをやっていらっしゃいましたね。

中村:先生たちはどういう思いでやっていらっしゃるんでしょう。杉山さんが考えたこととか、私たちに教えていただけることはありますか?

杉山:「こういう状況をなんとかしなきゃいけない」とは思いつつも、なかなか改善まで取り組む時間がないんです。先生たちは「もっと事務作業を減らして、子どもと向き合う時間を増やしてほしい」と常日頃から言っています。

働き方改革に関する会議をやった際に、「先生たちはどう働きたいんですか?」と聞いたことがあるんですけど、やはり「子どもたちと向き合う時間が欲しい」「とにかく時間が欲しい」という声が非常に大きかったんです。

中村:逆説的に言うとまだまだ向き合える時間が少ないということですかね。

杉山:そうですね。

学校の働き方改革に関与することになった経緯

中村:前段は実情をみなさんに見ていただきましたけど、ここからは具体的に三島市でどういう取り組みをしてきたかをお話していきたいと思います。まずサイボウズと三島市が絡んだきっかけですが、「未来の教室」という経産省の事業があります。

2021年の夏に、「サイボウズは働き方改革で有名な会社ですけど、学校の働き方改革について興味はありませんか? 経産省の『未来の教室』の中の、先生方の働き方改革の事業にエントリーしてはどうですか?」と、まったく学校のことを知らない中でお声がけいただきました。

実際にどこと組んだらいいかという時に、その方が提案されたのが三島市で、サイボウズと三島市でがんばろうということになり、経産省の働き方改革の「学校BPR」というプロジェクトに応募しました。

サイボウズ内で「どこの部署がこれを担当するか」という話になった時、「学校に対して何かしたい」という思いを持つ人が集まるチームが生まれたんですよね。これからお話しするコンサルみたいなことをやっているのが、チームワーク総研という部署です。

その部署と、社会の課題を解決するためのモデル作りをする私たちソーシャルデザインラボ、そしてマーケティング本部のメンバーも加わって、3つの部署の合同混成チームで、この事業に対応しました。この3つが揃わなければ、たぶんこのプロジェクトはできなかったと思います。

先生への聞き取り調査で気づいた、kintone導入で効率化できる業務

中村:では、どこから始めたかについてお話しします。先ほど言いましたように、私たちは学校のことをよく知らない。なので、まずは三島市さんから中郷西中学校という中規模校を紹介いただきまして、18人のすべての先生に一人ずつ、今どういう状態で、どんなことに困っていて、どうなることが理想かをお聞きしました。

コロナの時期のため三島に行くことはできず、Zoomで行いました。右上の人がチームワーク総研ですね。左下が先ほど言ったマーケティング本部の深澤さん。右下がソーシャルデザインラボの私で、左上の人が先生です。

「授業の準備時間を増やしたい」とか「はんこが多い」「通知表のコメントが大変」といったご意見がありましたが、その中からヒントを得たのが、学校施設の修繕を教育委員会に申請するという業務でした。

紙で行っている地域の方もいらっしゃるかもしれませんが、三島市はわりとデジタル化されていて、デジカメで撮ったものをメールに添付して、教頭先生がゴーを出したら教育委員会に出すみたいなことをやっていて、「これならkintoneでできそうだ」と、私たちチームがkintoneのノーコードの良さを活かしてパパッと作ってみました。

杉山さんは、この頃サイボウズと初めて会った感じですかね?

杉山:そうですね。(サイボウズが)ヒアリング・視察をしたのはたぶん7月か8月だと思うんですけど、僕が初めて深澤さんと会ったのが11月頃でした。そこで修繕の提案をいただいて、即決で「すぐやろう」みたいな感じになりました。

中村:おお、すごい。「こういうことをやらなきゃいけないよ」といった上から目線ではなく、一人ひとりに話を聞くことで先生との距離も縮まり、校長先生や教頭先生との関わり合いも深まり、そして教育委員会の杉山さんみたいな方とお近づきになる機会もできた。この進め方が今回の事例の1つの勝因かなと思います。