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挑戦する組織文化の土壌をつくる対話によるマネジメント|『まず、ちゃんと聴く。』出版記念セミナー(全4記事)

対立する意見は「受け入れる」のではなく「受け取る」こと 相手の言動に振り回されない「聴き方」のポイント

『まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』の出版を記念して開催された本イベントでは、メンバーの多様性を活かすこれからの管理職に必要な「聴く」ことの重要性について語られました。本記事では、エール株式会社代表取締役の櫻井将氏と同社の取締役・篠田真貴子氏が、「聞く」と「聴く」の違いについて解説します。

前回の記事はこちら

対立する相手と向き合うためのポイント

篠田真貴子氏(以下、篠田):もう1個確認をしたいことがあるんですが、意図と行動は切り分けると言っても、殴ったり万引きみたいに「やめてよ」ということもあると思います。それでも肯定的意図を受け取るとはどういう感じなんですか? だって殴られているんだから「受け取りたくないですよ」と思っちゃうんだけど。実際そういう状況の中で、櫻井さんはどうやって肯定的意図を受け取るんですか?

櫻井将氏(以下、櫻井):そりゃ僕も殴られたら嫌だし、受け取れない時もたくさんあって。実際に篠田さんも一緒に仕事をしている中で、怒り狂っている僕を見ている時もあると思うんです(笑)。そんな時にどうやって(肯定的意図を)受け取りにいくかと言うと、その瞬間はやはり受け取れないことはあると思うんですよね。

自分がめちゃくちゃこだわってやっていることに対して、すぐ否定してくる人を許せなかったりするし。でもちょっと時間を置いて「あの人はどういう意図でこれを言ったんだろうな」「あの人の手が出てしまった背景には何があるんだろうな」と考える。

殴られたり、あまりに否定されたりすると距離を置きたくなりますけど、仕事だとそこまでのことはなく違う意見を言ってくるぐらいだと思うんですよね。違う意見を言ってくるにはそれなりの意図があるんだろうなと。その言葉が生まれた思考回路であったり、職場では扱いづらいけど思考回路が生まれる手前の感情であったり。そこには感情が生まれる価値観がある。

相手の言葉や行動ではなく、気持ちを受け取りにいく

櫻井:この本にも書いたんですけど、ポジティブ・インテンション・マトリクス(肯定的意図のマトリクス)というのがあって。まさにこれは言葉や行動、その人の思考ではなくて、より深くその人の気持ちや、その人が何を大切にしているかを聴きにいく、受け取りにいくということ。そうすると違う意見であることがわかる。

その違う意見に対して「何を見ているからそう思ったの?」「どういう考えがあるの?」「何を大切にしているからそういう考えが出てきたの?」というところに意識を向けていくと受け取れるようになると。

篠田:あえて言うと「受け取る」という表現は、「受け入れる」や「反省する」とは違うんですよね。ここの切り分けは、けっこう簡単じゃないなと思う。

櫻井:わかる(笑)。これは難しいですよね。

篠田:でもこの本で櫻井さんが表現している「聴く」とは、少なくとも自分と意見や意図も当然違うものを受け取ることが出発点になる。ここをもう一歩理解したいんですけど、受け取るとはどういうことですか?

櫻井:「聞く」と「聴く」の定義に入ってくるのかなと思うので、ちょっとスライドをお見せします。(本の)挿絵に入っていた図を全部入れてあるんですけど。

篠田:すばらしい。

櫻井氏が考える、「聞く」と「聴く」の違い

櫻井:(本を)読んでいない方もいると思うのでちょっとご説明すると、一般的な定義では何もせずに耳に入ってくるのが門構えの「聞く」で、「ちゃんと意識的に耳を傾けましょうね」というのが耳辺の「聴く」だと辞書には書いてあります。

個人的にはこれだとちょっと実用性が低いなと思っていて、今回の本では新しい定義を書きました。本の定義では、右側の意識的に耳を傾けること(聴く)を2つ(「聞く」と「聴く」)に分解しています。門構えの「聞く」と耳辺の「聴く」の境目は「ここじゃなくて、ここに置きませんか」という提案をしています。

ここの境目(「聴く」を分解した「聞く」と「聴く」の違い)は、自分のジャッジメント、自分の解釈が入るか入らないかで分けるとすごく実用的だと思います。事例として「子どもには小さい頃から英語を学ばせるべきですよね」と友だちに言われたとします。

言われた時に「そうですよね。私もそう思います」「いやいや、そうですかね。私はそう思わないんですけど」と。これは自分のジャッジメント(解釈)が入った聞き方(聞く)になります。

一方、自分の解釈が入らない聴き方とは、「小さい頃から英語を学ばせるべきですよね」と友だちに言われた時に、「あっ、あなたはそういうお考えなんですね。そう思った背景を教えてもらっていいですか」と聴く。こちらの解釈を入れず(自分が)賛成か反対かは関係ない。

篠田:これを聴いている人は、実は「子どもに小さい頃から英語を学ばせるなんて無駄」と思っているかもしれない。

櫻井:思っているかもしれない。だけど、その解釈はいったんちょっと脇に置いておいて、「あっ、あなたはそう思うんですね。そう思った背景を教えてもらっていいですか」と聴きにいくことを、この本では「聴く」と言っているんです。

だから受け取りにいくというのは、賛成か反対かという「受け入れる」話ではなくて、「いったんあなたの話を私は受け取ります」という意味合いなんです。つまり自分のジャッジは置いて受け取りにいく行為を指します。

聴いた上で「ちなみに私の意見を言うと、私はそうは思っていないんですけどね」ということもあるので、それは行為と意図を切り分ける話に近いんですけど。

率先して対立する意見を聴くことの重要性

篠田:ありがとうございます。この一連の話の出発点にあった「組織にもっと『聴く』を入れたい」「上司にもっと聴いてほしいんだけど、わかってくれません」という状況において私たちがやるべきことについて。まず「そんな暇はないよ」「忙しいし」と言っている人のところに行って、「先ほどの話をもうちょっと聴かせてくれ」とその意図を聴きに行くこと……?

櫻井:そうですね。社内で「聴く」文化を広げたいのが意図なんだとすると、自分が一番聴きづらい人、反対意見の人たちの話を聴ける行為自体が、社内で広まっていく第一歩になると思います。まったく違う意見の人や反対意見の人の話を、一番最初に率先して聴きに行くことはすごくいいだろうなと。

でもこれって聴く側もストレスのかかることなので。それこそコンディションを整えていかなきゃいけないし、自分の信念を持って聴かないと感情的になっちゃったりもする。でもそういうことがありつつも、大事な行為なんだろうなと思います。

篠田:たくさんコメントがあるんですけど、Yさんから「門構えの『聞く』を耳辺の『聴く』に変えてもらうためにどうしていいかわからなかったので、上司にこの耳辺の『聴く』をしてみたところ、少しずつ聴いてもらえるようになりました」というコメントをいただきました。これは先ほどの「自分が大事にしているんだったら、まず自分が実践してみたら」ということですね。こういう効果があるんですね。

忙しい管理職に「聴くこと」を浸透させるには

櫻井:(そう)思っています。まさにエールというサービスもそうで、「管理職の方々の聴く力を高めたいんだ」と人事の方は依頼をしてくるんですけど、今管理職の方々はやることが本当に多い。

新しいことが入ってきて「やればいいんでしょ、やるのはわかったよ」と無理やりやるよりは、1回自分が聴かれる体験をして「『聴く』っていいな」と思ってもらう。みなさん優秀なので(自分が体験すれば)勝手にやる。そういうことかなと。たぶんYさんは上司が話を聴いてくれた後に、「聴いてくれて本当にありがとうございます」と言ったんじゃないかなと勝手に思うんですけど。

上司は部下の役に立つことをしたいだけで、部下を苦しめたいと思っている上司はほとんどいない。「部下の役に立つにはどうしたらいいだろう」と考えて、聴かずに伝えているんだと思うんですよ。

それをチョイスしているだけなので、部下が上司に「聴いてくれることで私の役に立ちました」と伝えたら、上司は「これで役に立つんだ」と思って(聴く)回数や発生頻度を増やすことが起きる。すごく効果的かなと思います。

篠田:まずそうやって体感してもらうのは1つありますね。例えば私が「もっと広がったらいいのに」と思ったとして、まず自分が「聴く」ことを体現できるのが一定の説得力を持つよねと。ただそれだけだと自分が影響を及ぼせる範囲や人数は小さいじゃないですか。

組織に「聴く」文化を定着させる難しさ

篠田:あと上司が「そりゃ篠田さんの言うことはわかるし、私も『聴く』ことは大事だとだんだん感じるようにはなったよ。だけどさ」というのが、組織には必ずあるわけですよね。その組織の正しさみたいなものと、個人的に感じている良さがなかなか接続しない。

ここがやはり組織で広げていくことの難しさにつながっていくのかなと。個人としてできることを超えてさらに広げていくためには、特に決裁者たちをどう攻略するか(笑)。

櫻井:(笑)。

篠田:with ジャッジメントに満ち溢れていた(笑)。

櫻井:いやいやいや(笑)。

篠田:そういう相談も、おそらく櫻井さんは直接お客さまからたくさん受けてきていると思うんですよね。そこはどういうふうに考えていらっしゃいますか?

櫻井:そうですね、そこは先ほど言った、データで示すということはもちろんあると思いますし、「聴く」ってやっぱり、それこそ当事者間だけだと難しかったりするので、我々を使ってもらったりしているケースもあると思うんですよね。

課長の方が部長の方に「『聴く』って大事じゃん」って言ってもあまり伝わらないけど、例えば篠田さんが行って、「『聴く』ってこんなふうに大事でね」という話をしたら、けっこう理解してくれたりするかと。

そういう意味でも第三者を使うとか、上司の方が「聴く」ことをあまり大事にしていないんだとしたら、その方が「聴く」ことじゃなくて何を大事にしているのか。そういった話は、それこそ僕たちがいたらわりと簡単に教えてくれたりするので。

話を聴きながら「あっ、そういうことを大事にしているんですね。ちなみに我々が考えている『聴く』というのはこういうことなんですけど、それって今のなんとかさんが言っていることと同じことですね」という話ができたりするわけなので。

定性面というか具体的なアクションで言うと、みなさんが(聴くことが)大事だとデータにして説明するとか、「実際にトライアルで社内で1on1をやってみました」という声を集めて伝えていくのもすごく大事だと思いますし。そういった第三者の声を活用するのもすごく有効なのかなと思います。

篠田:ありがとうございます。

「聴くこと」と利害関係のつながり

篠田:この第三者の利害関係と、先ほどちょろっとおっしゃったここもけっこう大事なポイントかなと思って、ちょっとその話もしてもらっていいですか? 一般的には、一番大事な話ほど親しい人とするものだろうという概念があると思うんですよね。最近はわりとなくなりましたけど、以前はエールのサービスを私が知り合いに紹介すると、「そんな会社の話を外の人に話して意味あるの」と(言われました)。

櫻井:昔はよく言われましたけど、最近は言われなくなりましたよね。

篠田:言われなくなりましたよね。

櫻井:なんでなんだろう。

篠田:わからないけど、でもそれってすごく自然な疑問だと思うんです。「むしろ外部が関わったほうがうまく社内でも説得できるんじゃない」というのは、一般的には「外部の先生がおっしゃっているから」という権威性で会社の偉い人を説得する構造をイメージしちゃうんですけど、たぶん櫻井さんが言っているのはそうではないですよね。

「僕たちが行けば」というのは、私たちが第一人者だから説得できますよという話じゃないじゃないですか。

櫻井:そうですね。組織にどう「聴く」を取り入れていくのかはいったん脇に置かせてもらって、利害関係だけの話をちょっとさせてもらうと……。

「聴くこと」と利害関係のつながりだけをちょっとお話しさせていただくと、これは図にはしていなくて、本の6章とかに書いています。みなさん、上司として1on1とかをする時に目標設定したり、いわゆるコーチングのトレーニングのようなこととか、キャリアカウンセリングのようなトレーニングをすると思うんですね。

価値観を明確にしたり、希望の可視化という「未来に対してどうなりたい」みたいな話から、「じゃあ自分自身がどういうことを大切にして、どうしていけばいいのかな」みたいな話を、たぶんトレーニングですると思うんです。

管理職研修とか1on1研修でもこういう研修を受けるんだと思うんです。場合によっては、ここにいらっしゃる方で言うと、コーチングスクールに通われたり、キャリアカウンセリングの講座に行ったりして勉強される方もいるかもしれないなと思いつつ。これはやればやるほどわかるんですけど、身近な人ほど聴くのってめっちゃ難しいなって思うんです。

身近な人の話ほど「聴くこと」が難しい

櫻井:これは自分自身もそうで、やはり自分の会社のメンバーとの話の時って、やっぱりジャッジが入っちゃうし、「こうしたらいいんじゃない」ってつい言いたくなるし、もっと身近なところで言うと、家族の話は本当に聴けない。

篠田:(家族が)ゴロゴロしていると、なんかあるのかなと思って聴こうと思うんだけど、もう明確に「ゴロゴロしていないでなんかやんなさいよ」って思っている私がいる。

櫻井:子どもとか親とかの話ってそうなっちゃいますよね。僕はどれだけコミュニケーションを学んで、どれだけトレーニングをしても、やっぱりいまだに母親の話は聴けないんですよ。

やっぱり、つい「またやっているよ」とかって母親に対して思っちゃったりするわけですよ。でもこれが、篠田さんのお子さんの話とか、篠田さんのお母さんの話だったら、僕はたぶん2時間でも3時間でもいくらでも聴けるんです。これってなんだろうみたいな。

(スライドの)右側の学生時代の友人の話とか、前職の仲間の話って聴きやすいじゃないですか。街で知り合った人の話とかタクシー運転手の話を聴くのとか、僕は大好きなんですけど。状況がわかっている上で、あまりこっちのジャッジなく聴ける人の話は聴きやすいんです。

でもよく考えると、この右側(の人)って誰かの部下なんですよ。部下であり誰かの同僚であり、誰かの家族なんですよ。ということは、今みんな会社の中で、聴くのが難しい人の話を必死に聴こうとしているんですけど。

ちょっと飛ばして、聴くのが簡単な人から聴いたほうがROI(投資収益率)は高くないですか、というのが利害関係と「聴く」の関係性だと思っています。だから上司と折りが合わない時に、上司部下だけでうまく聴き合おうとすると、両方とも感情が入ってうまく聴けないんだけど、第三者が入ってうまく取り持ったりとか。

それぞれに誰かが聴いて、「自分からするとこう見えるけど、あなたはそういうことを大事にしているのね」って言われたら、整理ができたりすることってあると思うんですけど。特に「『聴く』が大事」って言われると「『聴く』をやらなきゃ」ってなるんだけど、これが難しいんだったら、「違う人が聴くほうがROIは高くないですか」というのがエールの仕組みになっています。

だからA社の人の話をB社の人が聴いて、B社の人の話をC社の人が聴くという構造にしたほうが、社会全体としてROIは高くないかと思っていると6章に書いたんです。こういうことをイメージして、利害関係という言葉を使っていたので、ちょっと先ほどの話はいったん脇に置いて利害関係の話をしちゃったんですけど。

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