人によって捉え方が違う「帰属意識」の定義

伊達洋駆氏(以下、伊達):ということで、私と藤井の講演が終了しました。さっそくではあるんですが、質疑応答の時間に入っていきたいと思います。質疑応答の時間では、また藤井さんに登場してもらいます。よろしくお願いします。

藤井貴之氏(以下、藤井):よろしくお願いします。

伊達:質疑応答に入る前に、みなさんの帰属意識の定義がどんな感じだったのかを簡単に紹介していきたいと思います。いろんな定義が挙げられていますね。

例えば「会社の一員である意識」とか、特に「一員であることを喜ばしく思う意識」「一員」といった、メンバーシップ的なところが強調される定義を挙げた方もいらっしゃいますし、「自発的に会社への組織に貢献したいという状態」と捉えている方もいらっしゃいます。

それと近いと思うんですが、従業員エンゲージメントの発想で帰属意識を捉えている方もいらっしゃいます。

会社の理念や施策に共感を持っていて、成果を出そうとしている。まさに情緒的コミットメントに近い定義です。

他にもいただいているのが、「ここにいれば安心安全で、自分の力を最大限発揮できる」「仲間たちと自分1人では成し得ないすばらしいことができる」など。

「上司や仲間たちとずっと一緒に働き続けたいと思う」という定義もあります。まさに私が強調したかった「人間関係のつながり」についても挙げていただいています。

「『我が社』が自然と出てくる感じ」などは、組織アイデンティフィケーションに近いですね。さらには「居場所がある」「仕事がおもしろい」「人間関係がいい」「長年いて慣れ親しんでいる」「自分の力を発揮できる」「人によって要因は異なる」というご意見もいただいています。

みなさんの会社内で「帰属意識」というテーマでディスカッションをしてみると、それぞれの会社と個人の関係性についての考え方を知ることができるので、おすすめです。

チャットにも(コメントを)いただいていますね。「『なぜ自社に所属しているのか』という理由が明確であること」。斬新な定義ですね。ありがとうございます。

帰属意識は、業務パフォーマンスにプラスの影響がある

伊達:次に、ご質問いただいているものにお答えしていきたいと思います。

ではまず、質問の1つ目です。「ご紹介いただいた帰属意識の5つの区分によって、業務パフォーマンスが高い・低いなどの差があるのでしょうか?」という質問ですね。

私の講演では「基本的にはパフォーマンスに対してプラスの影響がある」ということは紹介したんですが、藤井さんはこの点いかがでしょうか?

藤井:そうですね。研究で扱われる帰属意識の定義によっても変わるところですが、コミットメントの種類によって業務パフォーマンスへの影響が異なり、業種によっても異なるなど、業種やパフォーマンスの種類によっても違うところがあると思います。

伊達:パフォーマンスと一口に言っても、いろんな種類がありますもんね。業務のパフォーマンスもありますし、「コンテキストパフォーマンス」と言って、役割で定義されていない行動をとることもあります。

次にいただいている質問は、私が答えたほうがいいですかね。「前回のセミナーの内容との関連性、以下の考え方であってますでしょうか?」ということです。前回について補足しますと、「分化と統合」という考え方についてセミナーでお話させていただいたんですね。

「分化」というのは離れていく作用で、「統合」は結びついていく作用のことを指します。それと本日話した「求心力と遠心力」、つまり帰属意識と自律の問題が対応しているのか? ということですが、対応しています。

そもそも「組織」の定義とは?

伊達:次に難しい質問が来ていますね。「本日は『個人と組織の関係性を再考する』ということなんですが、組織自体の捉え方もいろいろあると思います。その定義はどう考えるべきでしょうか?」ということです。まずは私が考えをお伝えした後に、藤井さんに振りたいと思います。

組織の定義自体は、例えば、チェスター・バーナードという経営学者が定義しており、目標があって、共同があって、2人以上である活動です。ただし、(質問者の方は)そういう答えを期待されているわけではないと思います。

組織って一体どういうものなんだろうか? ということですよね。こちらは非常に難しいテーマで、それぞれの人が概念として認識するものが組織なんですが、その認識に対して影響を与えるのが「周囲の人」です。

半径3メートル以内とは言わないまでも、身近な関係性のことを「組織」と認識しているケースが多いのではないでしょうか。藤井さん、どうですか?

藤井:研究をするような考え方では、例えば帰属意識によってパフォーマンスを上げていきたいという場合に、対象とするものが何かによって変わるものと考えることができると思います。

会社の場合、一緒に仕事を行うメンバーを対象として考える場合と、もっと大きな範囲で「会社そのもの」を対象として考える場合もあると思います。

目標によって「組織」の定義は変わる

藤井:ここで帰属意識をどの対象に対して作用させたいか? ということを考えた時に、会社そのものか、一緒に働いて仕事をするメンバーに対して帰属を高めたいと考えるのかということで、目標として定めた対象を「組織」とみなすというのが1つの考え方としてあると思いました。

伊達:いろんな単位が含まれている可能性がありますよね。

会社全体もあれば、職場もあれば、身近な人もある。組織のどの単位に対する帰属意識なのかを意識してみると、この問題は整理がつくのかもしれません。

他にいただいている質問としては、「『自律とつながりに関係がある』というのをおもしろく感じました。論文を見てみたいので、引用元をもう一度映していただくことはできますか?」ということです。これはのちほど資料を共有いたしますので、そちらを見てください。

キャリア自律の議論では、関係性について議論するケースも多いので、「社会的ネットワーク キャリア」などで検索していただくといいと思います。

「自律」とは、指示して促せるものではない

伊達:ということで、予定していた時間になりました。とはいえまだ質問をいただいていますので、残りの質問に延長戦で答えていきたいと思います。

いったん締めたいと思いますので、一言ずつ挨拶をします。では、藤井さんから今日の感想をお願いします。

藤井:みなさま、ここまでご視聴いただきありがとうございました。今回はコメントを書いていただいて、みなさんの帰属意識についてのいろんな考えを教えていただいたのがすごく印象的でした。今後もよろしくお願いいたします。

伊達:藤井さんは、ビジネスリサーチラボのセミナーとしては今回が初めての登壇でした。また藤井さんの登壇するセミナーも増えてくるので、みなさんよろしくお願いします。

本日は「帰属意識」に対して、いろんな角度から考えを深めてみました。ご視聴いただき、ありがとうございました。

では、今から延長戦ということで、残りのご質問に答えていきます。「そもそも自律したい(あるいは必要と考えない)とならない方に、どうやって自律しようと思ってもらえるものなのでしょうか?」。

これは大変難しい問いですね。まず前提として、自律は指示とは相性が悪いというか、そもそも矛盾するということです。

例えば、「自律しろ」と命令して「自律します」となったら、自律ではないわけです。それこそ北風と太陽の寓話で言うと、北風のような直接風を吹かせるようなアプローチは、自律を促しにくいんですね。

自律しやすい環境の作り方

伊達:じゃあどうすればいいのかということなんですが、仕事の環境をデザインするという発想が1つあります。例えば、仕事の裁量を大きくすることも考えられるでしょうし、周囲からの支援を得られるようにするのもいいと思います。

支援があると自律しやすいですよね。自律した時にもいろいろ助けてもらえるので、「自分でやってみようかな」と思いやすい。藤井さん、こちらについてはどうでしょうか?

藤井:そうですね。私自身はキャリアを考え出した時に、「自律」も一緒にイメージできたような記憶があって、そういう意味では、「この先自分がどうなっていきたいか」を個人が考えるようになると、それに向けた自律の動きが出てくるのかなと思います。

伊達:キャリア自律の一要素として、仕事の自律も含まれているんですよね。キャリアについて考えてみること自体が、個人の自律を促すことにつながっていくのかもしれないですね。

「自律」と「帰属意識」の両方を促すためには?

伊達:次のご質問は、「個人と組織のパーパスの重なりを考えるといった取り組みなどがあったりしますが、組織アイデンティフィケーションを高める取り組みのように思えました」。いわゆる、パーパス・カービングですかね。

組織アイデンティティを高める取り組みだなと私は感じました。

藤井:まさに、ご質問のとおりのように感じました。

伊達:「これは組織アイデンティフィケーションを高めようとしている」「これは情緒的コミットメントを高めようとしている」など、似ている取り組みでも、力点の置きどころが違っています。

他にいただいている質問としては、「自律を促すつながりと帰属意識を促すつながりの、両者を促進するつながりが生まれるために必要なつながりの要素にはどのようなものがあるのでしょうか?」ということです。

まずは、つながりに関する議論がもっと進んでいく必要があるのかなと思っています。

一方で、例外として挙げた心理的安全性は、ご質問の回答の1つになるかと思います。心理的安全性とは、対人関係のリスクを取っても大丈夫と思うことです。

「こういうことを言ったら、自分が低く評価されるんじゃないか」「怒られてしまうんじゃないか」といったことを感じずに済むようなつながりが、自律も帰属意識も促す可能性があります。

リモートワークが、かえって社員の帰属意識を高めることも

伊達:では、最後のご感想ですね。「以前のセミナーで、分散を生むリモートワークを導入することが、かえって帰属意識を高めるようなこともあったかと思いますし、遠心力を活用するというのが腑に落ちました」ということです。ありがとうございます。

遠心力を強める施策は、一見「組織からいなくなってしまうんじゃないのか?」と思えるんですが、そうじゃない部分もある。ただし条件があって、放置だとダメです。

例えば「何でもやっていいよ。好きにして。こっちは何もしないので」となったら、さすがに帰属意識は高まりません。従業員に対して自律の支援をしていくことが、一見遠心力を高めているようで、実は帰属意識を高めることにつながっているのでしょう。

ということで、すべての質問に回答できました。最後に、もう一度締めの一言をお願いします。

藤井:ここまでお付き合いいただいたみなさま、ありがとうございました。みなさんの意見を聞きながら再び、会社自体なのか、身近に関わるチームのメンバーなのか、「何に対しての帰属なのかな?」というところを考えました。

会社の職場環境への帰属意識が高い方もいるかもしれないですし、どこに注目するかによって、帰属意識が違うものと考えられることを感じ、私自身も勉強させていただきました。ありがとうございました。

伊達:どこに帰属しているのかは大事ですね。例えば、会社そのものには帰属していないけど、身近な人には帰属しているケースもあり得ます。

最後に、自社の社員の帰属意識を可視化し、それを高めるヒントを得たいという場合は、弊社で組織サーベイのサービスを提供できるので、ご関心の合う方はお問い合わせください。では、延長戦も以上で終了させていただきます。