2024.10.10
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伊達洋駆氏(以下、伊達):みなさんこんにちは。株式会社ビジネスリサーチラボの伊達と申します。本日は「帰属意識が高いことはいいことか? 個人と組織の関係を見つめ直す」と題して、1時間にわたってセミナーを行います。
では、初めに私からイントロダクションをさせていただきます。あらためまして、自己紹介から始めさせてください。
私はもともと、神戸大学大学院経営学研究科で、組織行動論と呼ばれる経営学の中でも心理学に近い領域の研究を行っていました。その在籍中にビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて、現在に至っています。
ビジネスリサーチラボという会社がふだん何を行っているのかというと、人事の領域においてデータ分析のサービスを提供しています。例えば組織サーベイであったり、それから社内データ分析といったサービスを提供しています。
あとはHR事業者向けにも、組織サーベイやアセスメントを開発する支援を行ったり、HRサービスを開発する際のコンサルティングも行っています。
私自身、いくつか本も出させていただいています。2023年だと『60分でわかる! 心理的安全性超入門』という本があります。他にも『人と組織の行動科学』という本があるんですが、そちらは本日のテーマの近いところに触れているかなと思います。
伊達:本日のセミナーは、「帰属意識」というところに焦点を当ててみたいなと考えています。特に、帰属意識の光と影の両面に注目することによって、個人と組織の関係を再考していきましょうというのが、大きなテーマになっています。
セミナーの流れなんですが、本日は私だけで成り立つわけではなくて、後ほど当社の研究員の藤井が登壇いたします。その後に私が講演して、最後に質疑応答というのが流れです。
帰属意識と一口に言っても、実はいろんな議論が行われてるんですね。学術的には、帰属意識というものをめぐっていろんな観点・いろんな切り口から定義が提唱されています。そのあたりを藤井から紹介いたします。
いろんな帰属意識が出てくるので、「自分の考える帰属意識に近いのはこれだな」とか、そういうことを考えながら聞いていただけると楽しめるのではないかなと思います。
その後は私の講演に入るんですが、なぜ企業が帰属意識を促すんだろうかということを考えていきます。その後に、帰属意識の良い面と副作用の両方を考えながら、個人と組織の関係は今後どういうふうにあるべきなのかを考えていきたいと思います。
最後に質疑応答の時間を設けていますので、さらに聞いてみたいことや疑問に思ったこと、それからふだん悩んでいること、あるいは素朴な疑問でもけっこうですので、ぜひ気軽にQ&Aの機能を用いて書き込んでいただければと思います。
伊達:最初に藤井の講演に入っていくんですが、その前にみなさんへの問いかけが1つあります。本日は「帰属意識」がテーマのセミナーです。ということは、今日参加されているみなさんは、帰属意識に何かしらの関心を持っておられるんじゃないのかなと思います。
そこでみなさんに問いかけたいのが、みなさんそれぞれが考える帰属意識の定義です。「帰属意識とはこういうものである」「少なくとも自分はそう考えている」など、あくまでみなさん自身が考えていることでけっこうです。ご自身で帰属意識をどう捉えているのかを簡単に書き込んでいただけるとうれしいです。
それを書き込んでいただくと、藤井の講演中にも、「自分の考えはこれに近いかな」などと楽しめるはずです。
イントロダクションはこれぐらいにして、藤井にバトンタッチしたいと思います。藤井さん、よろしくお願いします。
藤井貴之氏(以下、藤井):では、始めさせていただきます。「帰属意識とは? 多種多様な帰属意識」についてお話をしていきます。
まず、自己紹介をさせていただきます。株式会社ビジネスリサーチラボでフェローをしております、藤井貴之と申します。よろしくお願いいたします。
私はこれまで主に心理学の分野で研究を行っておりました。特に人と人の関わり合いや、他者についての考え方、他者に対しての振る舞い方など、社会性と呼ばれるテーマに関心を持っております。
最近では心理学だけではなく、他の学問領域の知見も参考にしながら、「個人差」というところにも注目しています。
藤井:私の講演では多様な帰属意識を紹介させていただき、それぞれの違いを比較していきたいと思います。みなさまにはさまざまな帰属意識を知っていただき、自社なりの帰属意識を考えるなど、ヒントにしていただければと思います。
私の講演は3つのパートに分けてお話をさせていただきます。まず最初は、組織コミットメントと呼ばれる概念について紹介をしていきます。次に、組織コミットメント以外の帰属意識を扱っている概念についても紹介していきます。最後に、紹介した概念をまとめて振り返りをしたいと思います。
講演の内容に入るにあたり、まずは帰属意識という言葉について、みなさん自身がどのようなイメージを持っているかを考えていただきたいと思います。なんとなくのイメージを持っている方もいれば、特にイメージを持っていないという方もいるかと思いますので、この後の講演を聞く中でイメージしていただければと思います。
ここで1つ例を挙げてみますと、「この会社が好きなので、ずっとここで働きたい」というイメージなどがあります。しかしこれを見て、「これは自分が思っていたイメージと違うな」という方もいるかと思います。
帰属意識という言葉は、人によって異なる意味で用いられていることもあります。どのようなものと考えられるのか、ここから見ていきたいと思います。
藤井:まずは「組織コミットメント」という概念を紹介します。一般的な帰属意識のイメージとして、個人と組織の結びつきが強いことが挙げられます。こうしたイメージを捉える学術的な概念がいくつかあるので、このあと紹介していきます。
組織コミットメントは、組織に対する帰属意識を表す概念として有名なもので、数多くの研究が行われています。代表的な定義では、組織との関わりやつながりの強さを示すものと考えられています。
組織コミットメントの強さを測定するために、以下のような内容がどの程度当てはまるかといった質問が考えられます。
例えば「この会社の問題が自分の問題のように感じられる」「この会社に愛着を持っている」「私の仕事生活(キャリア)の残りを今の会社で過ごせたらとても幸せだ」。このような質問が当てはまる人は、組織コミットメントが高いと言えます。
もう少しイメージを考えてみると、例えば自分の会社が他社から悪く言われた時、それに対して自分事のように怒る人。または、自分の会社がどれほどすばらしいかを周りの人や他人にまで伝えようとする人。こうした人も、組織コミットメントが高い人と考えられます。
藤井:組織コミットメントについては、3つの側面で考えられることが研究で示されています。まず1つめは「情緒的コミットメント」と呼ばれるものです。これは、組織と同じ考えや組織への愛情を持つなど、組織との心の結びつきの強さを表すものです。
2つめは「継続的コミットメント」と呼ばれるものです。これは、組織の一員でいるために支払うコストよりも、ベネフィットのほうが高いといった認識を表すものです。
3つめは「規範的コミットメント」と呼ばれるものです。組織から離れることなく、自分の職務を果たすべきといった規範意識の強さを表すものです。
これら3つの概念について、それぞれもう少し見ていきたいと思います。まず、情緒的コミットメントについてです。
例えば「この組織が気に入っているので、ずっとこの組織で過ごせたら幸せだ」「この組織に愛着がある」など、このような質問に当てはまる人は情緒的コミットメントが高いと考えられます。
イメージとしては、会社の良いところを人に話したり、伝えようとするような人などが考えられ、「私たちの会社ってこんなこともやっていて、良い職場なんです」ということを自発的に発信するような人をイメージできます。
藤井:続いて、2つめの継続的コミットメントについてです。例えば「今辞めてしまうと、昇進のためのがんばりがムダになるので、この先もここで勤めよう」。このような質問に当てはまる人は、継続的コミットメントが高いと考えられます。
イメージとしては、仕事に文句を言いながらも昇進を期待して働き続けている人などが考えられます。「もうすぐ昇進できそうだから、まだここで働くつもり」という考えのように、これまで積み立ててきたもの、これから得られるものへの見込みなどが含まれています。
3つめの規範的コミットメントについてです。例えば「組織のメンバーへの恩義があるので、この先もここで勤めよう」といった質問に対して当てはまる人は、規範的コミットメントが高いと考えられます。
イメージとしては、世話になったことに対して借りは返さないと気が済まない人などが考えられます。「雇ってくれたのだから、恩は返さなければならない」といった、規範や義務の意識の高さによるものと考えられます。
ここまで組織コミットメントの概念について紹介してきました。振り返りになりますが、組織コミットメントは3つの側面で考えることができます。
情緒的コミットメントは、「組織のことが好きだ」「メンバーであることが誇りだ」といった思考に当てはまります。継続的コミットメントは、「組織にいれば得がありそうだ」といった思考に当てはまります。規範的コミットメントは、「世話になっているので、恩義に報いるべきだ」といった思考に当てはまります。
藤井:続いて、組織コミットメント以外の帰属意識を表す概念を紹介していきます。
1つめは「組織アイデンティフィケーション」という概念です。これは、個人の目標と組織の目標の統合を捉えた概念と考えられています。
組織コミットメントと似ているところがありますが、職務満足やパフォーマンスなどと結びつく要因が異なるといった研究知見が示されており、組織コミットメントとは別の概念として弁別されています。
組織アイデンティフィケーションとはどのようなものかと考えてみると、例えば、組織のプロジェクトが成功することを自分の成功と考えて尽力している、誰かが組織を批判すると自分も侮辱されたように感じる、など、このような質問に当てはまる人は組織アイデンティフィケーションが高いと考えられます。
もう少しイメージについて考えてみると、自社を批判する記事を見つけて不機嫌になる人など、「私たちのことを悪く言うなんて許せない」、このように組織との同一化の強さを示している人をイメージすることができます。
藤井:もう1つ、「ジョブ・エンベデッドネス」という概念があります。こちらは、組織を好ましいと感じることや、そこに所属していたいという考えが、仕事面だけではなく職場のコミュニティの側面からも影響を受ける程度を表すものと考えられます。
例えば、「この組織にいれば、私は自分のさまざまな目標を達成できる」「この職場を離れるとしたら、友人に会えなくなるのが寂しい」など、このような質問に当てはまる人はジョブ・エンベデッドネスが高いと考えられます。
もう少しイメージを考えてみると、働き方について仕事の内容だけではなくて、職場や周囲の人との関係性を重視するような人など、「条件が良くても仲間がいないところには行きたくはない」という考えを持つことがあります。
このように、仕事面だけでなくコミュニティの側面を考慮しているのが、ジョブ・エンベデッドネスの特徴と考えられます。
ここまで、帰属意識を捉える概念を紹介してきました。さまざまな帰属意識や異なる考え方があるということを感じていただけたでしょうか。
帰属意識について、それぞれの概念に当てはまるイメージも紹介してきました。例えば、経営者の考えに近いものはどれか、あるいは新入社員の考えに近いものはどれかなど、異なる立場・視点からも考えてみるなど、今回紹介した概念を参考にイメージを膨らませていただければと思います。
藤井:最後に、ここまで紹介してきた概念を整理して見ていきたいと思います。まず最初に、組織コミットメントについて。異なる側面に注目した3つのコミットメントを紹介しました。
1つめの「情緒的コミットメント」は、組織との心の結びつきを表すものでした。2つめの「継続的コミットメント」は、組織の一員でいることの損得勘定の認識を表しています。3つめの「規範的コミットメント」は、職務を果たすべきという義務感を表すものでした。
また、組織コミットメント以外の概念として2つ紹介しました。「組織アイデンティフィケーション」は、個人の目標と組織の目標の統一感を表していました。もう1つの「ジョブ・エンベデッドネス」は、仕事と職場コミュニティとのつながりに注目するものでした。
このように、いずれも帰属意識を表す概念でありながら、異なる特徴があることがわかります。
藤井:それぞれの帰属意識が高い人のイメージについても見返しておきたいと思います。情緒的コミットメントについては、「自社のことが好きだ」「メンバーであることが誇りだ」といった人が考えられます。
継続的コミットメントについては「ここで働き続けていれば得がありそうだ」といったことを考える人、規範的コミットメントについては「世話になったので恩を返さなければならない」といった意識を持っている人、組織アイデンティフィケーションについては「自社と私は同じ目標を持つ私たちなんだ」といった意識を持つ人が考えられます。
ジョブ・エンベデッドネスについては、「仕事の内容だけじゃなくて、仲間がいないとだめなんだ」。このような意識を持つ人が考えられます。
こうしたイメージに当てはまる人はいずれも帰属意識が高いと考えられますが、それぞれの人が組織に対してどのようなことを考えているかというところでは、かなり違っているということも想像できると思います。
今回紹介した内容を、帰属意識について考える手がかりとしていただければ幸いです。私の講演は以上となります。ご視聴いただきありがとうございました。
伊達:藤井さん、ありがとうございます。いろんな帰属意識の定義を(参加者からコメントで)書いていただいています。後ほど、質疑応答のパートでも取り上げたいなと思います。
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