『部下を持ったら身につけたい! リーダーのためのコーチングがイチからわかる本』出版を記念して開催された本イベント。著者であり、国際コーチング連盟認定のプロフェッショナルコーチ、税理士業界トップクラス(上位0.5%)の総合事務所代表でもあるあべき光司氏が登壇しました。本記事では、マネジメント層に求められる部下を動かす力の鍛え方をお伝えします。
「自分でやったほうが早い病」にならないために
あべき光司氏:今日、ぜひ知っていただきたい内容としては、この2つについて。「自分でやったほうが早い病」にならないために、どうしたらいいですかという話と「アカウンタビリティ」についてです。アカウンタビリティは「説明責任」と言われていたりしますけど、今回はそんな話ではありません。
この2つについて、主にお話をしたいなというふうに思います。というのも、2、3、4、5、7、8(章)のあたりは、どっちかと言うと、他のコーチング本や、なんならネットで調べても出てくるわけです。ただ、「コーチングのスキルを使ってどうなりたいか」。僕はこっちのほうが大事だと思っているんですよ。
このセミナーを受けて、何がしたいんでしたっけ? さっき20秒で考えてもらいましたよね。メモを取られた方もいらっしゃると思います。そのゴールや目的がないと、スキルだけ学んでも使えないんですね。ゴールがあるから「アウトプットしよう」となるんです。
本を買うだけじゃなくて、ぜひアウトプットをするためにもゴールが要るんです。なので、今回は1章と6章について詳しく説明したいと思います。
ヒューマン・スキルが一番求められる「ミドルマネジメント」
では第1章です。「自分でやったほうが早い病」とは何かと言いますと、この本の中でも出てくる「カッツモデル」というのがあります。
ちなみに、みなさんの中で「カッツモデルって聞いたことがあるよ」という方って、どれくらいいらっしゃいます? 聞いたことがなかったとしても、なんとなく「ああ、言われたらわかるわ」「どこかで聞いたことがあるわ」となるかもしれませんけれども。
何かと言いますと、カッツモデルは組織を3つに分けます。具体的には、下位組織と言われるスタッフ職の人。それから、中位と言われる、ミドルマネジメントと言われる人たち。マネジャー、中間管理職って言われるかもしれません。

それから、トップマネジメント。社長さん、経営者さん。幹部と言われる人たちもギリギリ入ってくるかもしれませんけれども。この3つに分けた時に、「必要なスキルが違います」という話をしているんです。もう少し具体的に言いますね。
例えば、スタッフ職の人は何が必要かと言いますと、「テクニカル・スキル」が要ります。業務をこなすための、例えばITのスキルや会計のスキル、手を動かすためのスキルがけっこう要ります。
テクニカル・スキルって、(図の一番薄い色の部分を指して)ローワーマネジメントの人たちはこれくらいを占めていますね。なんですけど、ミドルマネジメントで言うと、これくらいしかありません。トップマネジメントで言うと、これだけしかありません。
本の中でも書いているんですけれども、上にいくにつれて、テクニカル・スキルはあんまり必要じゃなくなってきます。ではミドルマネジメントって何が必要かと言いますと、「ヒューマン・スキル」と書いています。要は組織の中でみんなでやっていくみたいな、協働する能力です。
つまり、下の力を引き出して、上にうまく報告・連絡・相談をするスキルが要ります。ヒューマン・スキルが一番求められるのが、ミドルマネジメントと言われる人たちです。
「自分でやったほうが早い病」にかかりやすい人
逆に言うと、ローワーマネジメントとトップは要らないかというと、そんなことはないんですけれども、どちらかと言うと一番必要になってくるのは、中間管理職と言われる人です。
もう答えを書いていますけれども、トップマネジメントという人たちに必要なのは「コンセプチュアル・スキル」です。抽象概念を理解して下に伝えるスキル。ないしはそれを実現させるスキルが求められています。
ですので、「自分でやったほうが早い病」にかかっている方は、おそらくミドルマネジメントの人、中間管理職の人か、ないしはトップマネジメントの人、社長さんか。どっちかだと思います。
なので役職が上がってくると、求められる能力は変わってくるんです。当たり前ですよね。組織で働かれている方は、「そりゃそうやろ」と思われるかもしれません。つまり、自分がやったほうが早いかもしれませんけど、自分がやっても評価されないわけです。
例えば管理職ないしはトップだと、自分がやっても評価されません。スタッフにやらせて、スタッフが成長することが評価基準のはずなのに、「自分がやったほうが早い」と言っているだけなんです。
とはいえ、人によってはかたちだけ「その人は課長です」とか「係長です」「部長です」「取締役です」と言っていても、新しい概念が理解できないのはなんでかと言いますと、「やるしかない」からなんです。
が、そんなことを言ってしまうと身も蓋もないので、いつも僕が説明している別の例でお話しをしますね。
メンバーが「上位概念」を理解できない理由
小学校の時って、かけっこが速い人ってモテませんでした? 運動会の時にアンカーを走る人って、めちゃ人気があるんです。でも中学校になって、足の速い人って人気があります?
どっちかと言うと、ちょい不良の人が人気だったと思いませんか?じゃあ、高校になるとどうなるかと言いますと、どっちかと言うと、勉強ができる子のほうが人気があったりするわけです。
でも、ちょっと不良っぽい男の子・女の子に対して、「いや、それよりも、もうちょっと勉強しなさいな」と言っても、「何を言っているの? めんどくさ」となりますよね。これは何かと言うと、中学生、ないしは高校生になってみないと、中学生の正しさ、高校生の正しさってわからないんですよね。
昔、いろいろ世話を焼いたり、わーわー文句を言ったりする親御さん、お父さん、お母さんを見て、「めんどくさいなぁ」と思われた方はいませんか。
(それが)20年経ち、30年経ち、子どもが生まれた時に初めて親の気持ちがわかることってあったりしませんか? つまり、身も蓋もないんですけど、上の人の気持ちって、なってみないとわからないんですよ。
なので、多くの係長、もしくは幹部や社長がそうやってなんとかやっているように、「自分がやったほうが早い」ではなくて、「俺がやりたいけど、なんとかして下にやらせてみようか」と思ってもらえると、きっとうまくいくんじゃないかなと思います。「じゃあどうやってやるの?」というのは本を読んでもらったらうれしいです。
「よくわからないけど、この人なら信頼できる」と思われる人になる
今度は逆の立場です。「自分がやったほうが早い」というのではなく相手に話を聞いてもらおうとしても、部下は上司の立場がわからないので、その考え方のすばらしさをわかっていません。その上で「よくわからんけど、この人やったら信用できる」と相手から思われるのが大事なんです。
「Z世代はようわからんなぁ」と言っている方、相手から「なんか仕事してなさそうやな」と思われていませんか? みなさんがスタッフやったとして、上司はサボっているように見えませんか? 「社長って、いつもゴルフへ行っているやん」みたいな感じで、みなさんの部下は、みなさんのことをよくわかっていません。
でも「ようわからんけど、この人やったら信頼できるな」と思われるのが大事なんです。「じゃあ、どうしたらいいんですか?」というと、これはサラッといきたいと思います。

けっこう前の記事なんですけど、SMAP解散のニュースがありましたね。「NHKのお昼のニュースです。SMAPの一部メンバーが、ジャニーズから独立を検討しています」というニュースを見た時と。『日刊スポーツ』で「SMAP解散」と書かれているのを見た時、どっちのほうが信用できますか?
これって「何を言うか」じゃなくて、「誰が言うか」のほうが大事なんですね。言っていることは一緒やのに、『日刊スポーツ』は「ホンマかな?」と思う。「SMAP解散か」というふうに、小さな字を探したりするじゃないですか。なんですけど、NHKが言っていたら「ホンマらしいで」みたいに思いますよね。

「何を言うか」じゃなくて、「誰が言うか」。「この人やったら信用できる」という状態です。「僕はホンマのことしか言いませんよ」と言っても、相手から見た時に「いや、ホンマかいな。関西弁は信用できへんで」と思われたら、駄目なわけです。という感じで、「相手から」というのが大事なんですね。
例えばAさんとBさんを見た時に、「Aさんは信用できる」「Bさんは信用できない」となったら、コミュニケーション能力や説得力、影響力、信頼力など、いろんな要因が考えられます。この信頼される力をどうやって身に付けたらいいかについては、繰り返しになりますが本書をお読みください。
リモートで使える「信頼関係」を築くテクニック
もう少しいきますね。今回はウェビナーなので、みなさんの顔は見えないと思いますが、zoomの打ち合わせなどで相手の顔が見えて、自分の顔も見える状態で、いつもあべきが気をつけているのは「ミラーリング」と言われる技術です。
要は、顔の大きさを合わせています。例えば、相手がちょっと引き気味だったりすると、ちょっと遠くて、顔が小さいですね。相手の顔が小さかったら、僕もちょっと引きますし、「ちょっと(画面に)寄っているな」となったら寄ります。
もう1つ気にしているのは、顔の位置です。大きさだけじゃなくて、例えば、今見てもらうとわかるとおり、下から2割くらいはネクタイが見えています。でも相手を見た時に、こんな感じ(首から上しか見えない状態)の人もいらっしゃいませんか?
そうすると、僕も同じように顎が(画面下部のふちに)付くような感じで合わせます。ここ(頭と画面上部のふち)の空白を意識したりしながら、寄ったり引いたりして調整したりします。
これ、まさにミラーリングじゃないですか? ミラーリングでは、例えば相手がお茶を飲んだら、自分もお茶を飲むとかが多いんですけれども、オンラインの場合はそれよりも自分の顔が見えることを活かして、相手と顔の大きさを合わせたりする。
こうすることで「あ、この人信用できそう」と無意識に思ってもらう。ごく簡単なテクニックですけれども、こんなことをやっています。
でも、先ほどから何度も言っているとおり、信頼関係は相手から築いてもらうんですね。こっちが信頼関係を築いている一方的なファンであっても、相手からすると「お前、誰?」となりますよね。
こんなふうに、相手から見て信頼関係を築いてもらうために、例えばミラーリングであったり、ペーシングであったり、バックトラッキングみたいな方法が有効です。
これがないと「コーチングを受けよう」とか、「話を聞いてみよう」という気にならないんですよね。「大阪弁ってちょっと早口で、けんかっぽくて苦手」と思われている方からすると、いくらあべきがコーチングのスキルも資格もあるとなっても、「この人の話を聞きたいな」とはなりませんよね。