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帰属意識が高いのは良いことか? 個人と組織の関係を見つめ直す(全3記事)

「会社への愛着」が強すぎるのは、かえって組織に悪影響? 帰属意識の“副作用”から見つめ直す、組織と個人の関係性

社員の帰属意識と聞くと、「帰属意識なんて古くさい」「帰属意識はやっぱり大事」など、さまざまな意見が挙げられることも。そこで本セミナーでは、客観的なエビデンスをもとに、帰属意識の持つ光と影の両方に注目します。本記事では、帰属意識を高めることで生じる可能性がある“副作用”に焦点を当てながら、組織と個人の関係性を見つめ直すためのヒントを探ります。

帰属意識の“光と影”に着目

伊達洋駆氏(以下、伊達):では、私の講演に移らせていただきます。私からは「帰属意識のダークサイドから個人と組織の関係性を再考する」というお話をさせていただきます。帰属意識を促したい企業って多いと思うんですね。それはなんでだろうか? という企業の意図に注目します。

帰属意識って、いい面もあればそうじゃない面もある。光もあれば影もあるので、その両面に注目した上で、個人と組織の関係はどうあるべきなんだろうかということを、あらためて考えてみたいと思います。

特に、組織と個人の関係については研究知見を引用しているんですが、私の意見も入っていますので、1つの参考として聞いてください。

私の講演の最初のパートです。藤井の話によって、帰属意識と一口に言っても、本当にいろんな観点があることがおわかりいただけたかと思います。

みなさんにいくつも帰属意識の定義を(チャットに)書いていただいています。これもそれぞれ違っているんですよね。

ただし、社員の帰属意識を高めようとする企業側の意図について注目していくと共通性があるんじゃないのかというのが、私の見立てになります。帰属意識の定義自体はいろいろあるんですが、なぜ帰属意識を高めたいのかを考えていくと、そこは共通しています。

具体的には、「個人と組織の結びつきを強くしたい」という意図。言い換えると、組織の求心力を高めていきたい。こうした意図のもとで帰属意識を高めていこうとする企業が多いのではないかなと思います。

なぜ企業は個人との結びつけを高めようとするのか

伊達:他方で、組織と個人を結びつけるといっても、いろんな結びつけ方があると思うんです。藤井から紹介してもらったいろんな帰属意識は、多様な結びつけ方のパターンを紹介したと理解できます。

企業は、個人と自社を結びつけたいと考えている。ただ、結びつけ方はいろんなバリエーションがあるということです。

例えば、心理的に結びつくものもあれば、損得勘定で結びつくものもあれば、「結びつくべきなんだ」と思うものもあります。

帰属意識というのは、企業側の意図としては共通しているんですけど、結びつけ方のバリエーションとしてはいろいろあるというのが、今までの話から見えてきます。

ただ、そう考えていくと疑問が湧いてくるわけです。企業は組織と個人を結びつけたいと思って、古くからさまざまな取り組みを行ってきています。

なぜ企業はこんなに個人との結びつきを高めようとするんだろうか? と思うと、理由はいくつかあるんですが、基本的にはそれがいいことだからなんですね。特に、企業にとって得があるので、個人との結びつきを高めようとするという背景があります。

帰属意識を高めることで生じる“副作用”の可能性

伊達:例えば、組織コミットメントが高いと「会社に対して貢献しよう」という気持ちが高まります。会社に愛着を持っていると、会社に貢献しようと思いますよね。

あるいは組織アイデンティフィケーションが高く、会社と一体化していると、自発的に「がんばろう」という気持ちが発生します。

その結果、組織コミットメントについても、組織アイデンティフィケーションについても、パフォーマンスを高める効果があることがわかっています。要するに、帰属意識を高めていくと個々人のパフォーマンスを高めることができるんですね。これは組織にとってはプラスです。

そういう背景があって、組織と個人の結びつきを強めていこうとしているのかなと思います。

ただし私の話では、副作用にも注目してみたいと考えています。物事に光があったら影もできて、薬にも主作用もあれば副作用もあります。個人と組織を結びつけようとすること自体に影や副作用ってないんでしょうか。

会社への愛着が強くなると、変化への抵抗が高まる

伊達:例えば、組織コミットメントを取り上げてみたいんですが、実はこういう副作用があるんですね。確かに、会社に対して愛着を持つっていいことですよね。

ところが、現在の会社に対して愛着を持っているので、現状を維持しようとするんです。何か変えようとすると「今の好きな会社を変えられる」という気持ちになり、変化を拒んでしまう。

また、会社に愛着を持つがゆえに会社の都合を優先してしまって、自分のプライベートを犠牲にしてしまいます。

あるいは、会社への愛着が強くなりすぎて、社会的なルールを逸脱してしまうという副作用があることも指摘されています。

他にも、組織アイデンティフィケーションにも副作用があります。一体感が強くなるので、今の状態を維持したくなり、さっきと一緒ですが、変化に抵抗してしまうんですね。

あるいは一体化してるがゆえに、異質な意見が出てきた時に、それを切り捨ててしまうといった副作用も出てきます。その結果、変動する環境にうまく適応できなくなります。

帰属意識が、かえって組織の足を引っ張ることも

伊達:整理すると、帰属意識、すなわち組織と個人の結びつきを強くしていくことにはバリエーションがあるんですが、どのバリエーションをとってもプラスの側面はあります。ただし、副作用もあるんですね。

副作用をまとめると、現状を肯定する力が働いたり、会社のために力を尽くしすぎるというか、がんばりすぎてしまいます。これらが悪い結果を生み出してしまうということですね。

ただ少し見方を変えると、帰属意識は安定した環境かつ短期間のうちに、「一気呵成に物事を進めていきましょう」という場合にはうまくいくかもしれないわけです。

現状を変える必要がないし、あるやり方でがんばるには、帰属意識が高いほうがやりやすい。裏を返すと、環境の不確実性が高い場合。つまり、未来が予期できなかったり、変化が大きかったりするような環境において組織が活動する場合には、実は帰属意識は副作用の影響が無視できなくなります。

やり方を変えていかないとダメな時にも、帰属意識の高さがあだになってしまいます。

VUCAの時代とも呼ばれるように不確実性が高まっている時代です。そういった中で、帰属意識の捉え方を再考していかないと、組織の足を引っ張っていくことになることが考えられます。個人と組織の関係を再び考え直していく必要があるんじゃないのか? ということです。

変化する環境に対応する「自律」の重要性

伊達:ここから3つめのパートに入っていきます。帰属意識の光と影をもとに、個人と組織の関係性を考え直したほうがいいんじゃないのか? というところまで来ました。では、どういう方向性が有望なのかを考えてみます。

不確実性の高い環境の中だと、個々人が自分で考えて動いていく必要があると。つまり、自律が求められてくるわけですね。目の前の環境が変化すれば、個々人が自ら考えて適応していく必要があります。

これはなかなか興味深くて、環境が不確実だと結びつきを強くするだけではなかなか難しくて、個人が自律、つまり分散してもらわないとだめなんですよね。遠心力を利かせていかないとダメになってくる。

従来の帰属意識は「パフォーマンスを上げる」といういい側面があったわけですね。それに「個人の自律性」をプラスすることができれば、帰属意識の副作用をいくらか緩和させていくことができます。

言い方を変えると、自律した個人と組織を結びつけることができれば、新たな帰属意識の切り口になるんじゃないのかなと思います。

「自律」と「孤独」は違う

伊達:ただこれを聞いて、みなさんは「難しい」と思いませんでしたか? 自律というのは、どちらかというと遠心力、分散していく力ですよね。

一方で個人と組織を結びつけることは、集中していく、つまり求心力を高めていくような逆側の力ですよね。どうやって同時に実現していくのかを考えていく必要があります。

それを考える時に1つの切り口になるかなと思うのが、キャリア自律の研究なんです。自律に関して検討が進んでいる領域の1つが、キャリア自律です。

キャリア自律の研究を見ていくと「キャリアを自律させていくためには、他の人とのつながりが大事になるんですよ」と指摘されています。これは、先ほどの難しい問題を考える上で有効な切り口になります。

自律というものは、孤独ではないんですよね。他の人とのつながりが求められるということがわかります。他の人との関係があるからこそ、自分で考えて行動することができる。自律というのは、相互に依存している状態も含んでいるんですね。従来の帰属意識の研究の中でも、こうした「つながり」の重要性は指摘されています。

帰属意識を高めるキーポイントは「つながり」

伊達:例えば、藤井が挙げた「ジョブ・エンベデッドネス」という概念。「エンベデッドネス」というのは「埋め込み」と訳されるんですね。

何に埋め込まれているのかというと、まず1つは「仕事」に埋め込まれています。もう1つは「人間関係」に埋め込まれているんです。つながりの中に埋め込まれているというのも帰属意識の一部です。

他にも、組織コミットメントの研究でも、職場の身近な人に対する愛着が組織に対する愛着につながっていることが検証されています。

ここでさっきの難問に戻ります。自律した個人と組織をつなげていくにはどうすればいいのかという問題です。

自律した個人と組織を結びつけていく時に大事になっていくことは、人と人の「つながり」じゃないのかなと思います。

帰属意識というと、組織と個人が1対1で関係すると考えられがちですが、自律した個人を考えていくと、組織と個人だけじゃなくて、周囲の人とのつながりもきちんと考慮していく必要があるということですね。

個人と組織の関係を再考するための3つのポイント

伊達:今回は「個人と組織の関係を考えていく」というのがサブテーマです。大事なことは3つあると思います。

第1に「組織との結びつきを強くする」ことです。ただ、これだけだと副作用があるので、第2に「個人の自律を促す」ことも大事です。

さらに、組織の結びつきと個人の自律は別方向の力になってしまうので、それらを結びつけていくためにも、第3に個々人のつながりをより良いものにしていきましょう。

つながりが大事だということ自体は総論賛成の人が多いと思います。他方で、つながりを考える上で有効となる概念はそこまで多いわけではありません。

例外となるのが「心理的安全性」です。心理的安全性って、人間関係の質を表す概念なんです。つまり、つながりを表す概念になります。

こうした概念に注目していきながら、組織と個人の関係性を考えていくと有益なんじゃないかと思います。

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