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"曖昧さ耐性"を科学する:人や組織を変えるために(全4記事)

仕事ができる人でも「なんか便利な人」扱いは離職につながる 曖昧さ耐性が高い人・低い人への適切なフォローのやり方

ビジネスリサーチラボ主催のセミナーより、曖昧な状況に対してどの程度寛容であるかを表す「曖昧さ耐性」をテーマに、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆氏、コンサルティングフェローの神谷俊氏が登壇した回の模様をお届けします。本記事では、参加者からの質問に両名が答えました。

「曖昧さ耐性が高い人」と「問題や判断を先送りする人」の違い

伊達洋駆氏(以下、伊達):質問をいくつかいただいてますので、ここからはそちらに答えつつ進められればと思います。では、最初の質問なんですが、こんな感じの質問をいただいています。「曖昧さ耐性が高い人と、ただ問題や判断を先送りする人との違いや峻別はどのようにすればいいですか?」。

これについて、まず私の考えを少しお話しさせていただくと、曖昧さ耐性と、問題や判断を先送りすることって別物なんですね。特に後者の「問題や判断を先送りする」ということについては、「先延ばし」と呼ばれている概念が実はあるんですね。

先延ばしのセミナーのレポートもあって、そちらも参考になるかなと思うので、共有します。ただ私の知る限り、「曖昧さ耐性と先延ばしの間で関連がある」ということを実証した研究は知らないんですが。神谷さんはどうですか。

神谷俊氏(以下、神谷):そうですね。この方がおっしゃっている「問題」や「判断」がどのような性質のものなのかによって、曖昧さ耐性がある人なのか・ない人なのかが変わってくるかなと思っています。

例えば、問題や判断を先送りにしているご本人が、その問題や判断を押しつけられていて、すごく指示的に感じていて主体的に進めることができないので、「やりたくない」と言って先送りにしてる場合があると思うんです。これ、曖昧さ耐性が高い人のケースもありますよね。

一方で、問題や判断に自信がなくて、能力に不足を感じてどうしたらいいかわからなくて先送りにしている場合もありますよね。

この「問題」や「判断」が、ご本人にとってどのように見えてるのかによって、曖昧さ耐性に関する判断は変わってくると思います。

もう率直に、「この問題を先送りにしてるのはなんで?」というのを、本音ベースで聞いてみるのがいいんじゃないかなとは思いましたね。

伊達:ありがとうございます。今気づきましたけれども、めっちゃ質問いただいてますね。

神谷:巻いていきましょう。

伊達:いきましょう! 

組織間のコミュニケーションでは、より高いレベルの「曖昧さ」がある

伊達:「上司と部下の間での曖昧さについては理解しました。では、組織間コミュニケーション、複数の意思決定者が組織横断、組織をまたいで存在する環境での曖昧さには、どのように対処・マネジメントすればいいですか」ということです。

基本的な発想は同じだと思ってます。むしろ、上司・部下間で発生する曖昧さよりも、もっと高いレベルの曖昧さが存在する可能性が高いので、上司・部下間でお話ししたことをより一層気をつけていく必要があるのかなと思います。

すなわち、曖昧さが高いような状況であれば、基本的には指示的な行動、できるだけ構造を作っていくことが基本としては大事なんです。ただ、そこに関係しているメンバーの曖昧さ耐性が高いのであれば、そういうことをやっちゃうと、みんなのやる気を削いでいくことになります。

どういうメンバーが組織間のコミュニケーション、組織間の課題にあたっているのかということを考慮して動いていくと、いいんじゃないのかなと思います。

神谷:このあたりは、組織間学習とか組織学習の話で解釈することもできそうです。組織の中に散りばめられている考え方や情報をどれだけ社内で流通させて、共通認識を持たすことができるかどうか。いかに組織内で情報を共有する機会を作るか、という論点にもなるかなとは思いました。

曖昧さ耐性の高さが求められる事業

伊達:では、次。ちょっとこれは、神谷さんから答えてもらったほうがいいですね。「『耐性』とあるように、経験や習慣によって身につけることができるものだと理解しました」。私の話を聞きながら、もうすでに理解してるということで、めちゃくちゃ早い理解だと思います。

「一方で、一般的な企業では曖昧さに出くわすことが少なく、耐性がつきにくいのではと思いましたが、この点についてお考えをおうかがいしたいです」と。これ、大事な点ですよね。神谷さん、どうでしょうか。

神谷:そうですね、ありがとうございます。おっしゃる通りで、近年だとジョブ型が進んで、ご本人のジョブ・ディスクリプションをかなり精緻に定められて、あんまり曖昧な状況が作られない。そもそも曖昧さがないっていうパターンもあると思うんですよね。

重要な論点は、曖昧さ耐性が作られない・開発されない組織の状況が、御社の事業において是か否かというところだと思うんですよ。ある程度業務プロセスがルーティン化されていて、それを高回転率で回すことによって稼ぐという事業であれば、別に曖昧さ耐性が高くなくても事業としては問題ではない。

一方で、創造的な問題とか、あるいはクリエイティビティが事業の中で求められて、そこが付加価値と直結しているのであれば、曖昧さ耐性を高められていない組織の状況ってネガティブだと思うんですよね。だから、事業モデルにもよるかなという気はしました。

もし事業モデルが後者で、曖昧さ耐性が求められるのであれば、やっぱり曖昧さ耐性の開発機会を管理者側で作っていかなければいけないかなとは思っています。あえて難しいプロジェクトや複雑性の高いタスクを作って、伸ばしたい人材にアサインしていくという開発が必要かなとは思いました。

人はそもそも曖昧さが嫌だ

伊達:なるほど。私からも少しだけ補足させていただくと、この問題について、時間軸を入れると少し興味深いかなと考えてます。先ほど私が少しだけ触れた「人はそもそも曖昧さが嫌だ」という話が、実は重要な観点です。

人は曖昧さが嫌なので、基本的には曖昧さを低減させようとしていくんですね。曖昧な状況を、曖昧じゃなくしていこうとする。成熟した組織であれば、ある程度、その歴史の中で曖昧さを減らすことを細かく行っているんですね。

例えば大企業とか、ある程度社歴のある企業だと、曖昧さが比較的低く抑えられているケースが多いです。裏を返すと、成長中の会社とかまだ社歴が浅い会社は、曖昧さが残されている可能性があるということですね。

もし、質問された方が成熟した組織で働いているのだとすれば、なかなか曖昧さが高い状況に出くわしにくいというのも納得できるわけですね。

ただし、成熟した会社であっても、変化が起これば曖昧さは急激にがんと高まるので、そういった変化は曖昧さが高まる状況の1つなのかなと思います。

曖昧さが高まる状況に行きたい場合は、逆に言うと変化を求めていく。例えば、越境学習をするとか、そういったことをやっていくと、耐性が身につくような曖昧な状況に飛び込んでいくことにもなるかなと思います。

「自律型人材」と「曖昧耐性の高い人材」の共通点

伊達:では、次です。これ、順番に(質問に答えて)いってますけど……。

神谷:これ、終わるかなぁ(笑)。

伊達:いけますかね。ぱっと見て、神谷さんから答えたいのはありますか?

神谷:見れていなくて、ちょっと待ってください。伊達さん、先に何かあればどうぞ。

伊達:了解です。「自律型人材、セルフスターター人材と、曖昧耐性の高い人材は似てる要素がありますか」。

神谷:これ、似てる部分が大きいと思います。いわゆる自律も、セルフリーダーシップが高い人材も、曖昧さ耐性の高い人材も、「内発的に動機づけられている」という意味で心理的なモードは同じだと思うので、そのあたりは共通しているんじゃないかなとは思いますね。

伊達:あと、働いていると、曖昧さが高い状況はところどころで出てくるので、そういう時に動けるというのは、自律型人材が自律を一貫させる上でも大事になってくるんでしょうね。

神谷:そうですね。

挑戦レベルの低い部下への対応の仕方

伊達:では、次。これは神谷さんの発表への質問ですね。「シニア層で、挑戦レベルの低い部下がフロー状態に向かうために、上司としてどのような支援が可能でしょうか」という、けっこう具体的で、でも大事な課題ですね。

神谷:かなり難しい問題ですよね。多くの企業が悩んでいるところはあると思います。なぜ挑戦レベルが低くて、モチベーションが低下してしまっているのかを照らしてあげる必要があるかなと思います。

レクチャーの中でもありましたけど、やっぱり回避行動と防衛行動をとり続けた結果だと思うんですよ。無茶振りされて、それがうまくできなくて、周りに怒られて、「もう無茶はするのはやめよう」って思って、無茶振りされる度にそれを回避するような行動をとってきた。その度に一時の安心感を感じて、自分の居場所を見つけてきた。

そういう心理プロセスがあるんだという前提に立って、じゃあ、どれぐらいだったら本人の範疇で回せそうなのか。まずは、できるハードルの高さを見極めるのが大前提かなと思います。そこから本人と話し合いながら、少しずつハードルの高さを調整していくということですよね。

だから、レクチャーの中でもありましたけど、いきなりショック療法でガツンとやってしまうのは好ましくないなとは思います。

曖昧さ耐性の高い人を「便利な人」扱いする危険性

伊達:ありがとうございます。では、次。少し長めなんですが、「曖昧さ耐性が高いほうは2:6:2で分けた際の、上位の2のほうが多いような気がしました。そのような方には、上司から本日のような関わり方が重要だと感じました」。

「一方で人間はそこまで強いものでもなく、業務が偏りすぎたり、放置されすぎたり、『できて当たり前』という空気が漂い始めると、曖昧さ耐性が高い社員でも次第に心の中にもやがかかり始め、離職などにつながると感じましたが、どのように思いますでしょうか」という質問ですね。

すばらしい観点ですね。なぜこれがすばらしい観点かというと、私はさっきの話だと「曖昧さ耐性が高い」ということをポジティブな文脈で話したんですが、もしも、曖昧さ耐性が高い部下に対して仕事を任せることがひたすら続いていくと、どうなるか。

そして、任せて放置することがひたすら続くとどうなるかということが、この中に含まれているからですね。曖昧さ耐性が高い社員であっても、仕事の負荷がものすごく高い、そして周囲からの支援が得られずに放置されている。

そういった、ぜんぜん承認もされないし、やって当たり前みたいな状況が続いていくと、理論的にもエンゲージメントが下がったり、バーンアウトと言って燃えつきの状況になってしまうリスクが高まっていき、結果的に離職することがあり得ると思います。

曖昧さ耐性の高い人に対して、「なんか便利な人」というふうに思って接してしまうことは問題です。

その人たちが持っている能力や、その対応に対して承認していく。そしてもう1つ重要なのは、やっぱりそういった人たちでもサポートは必要なので、サポートという資源をきちんと提供していくことが重要ではないかなと思いますね。

神谷:付け足すのであれば、あとは仕事の任せ方でしょうね。ジョブアサインの運用の仕方を間違えると、こういう状況になってしまうと思います。

(仕事が)できるからといって、一方的にどんどん任せるのではなくて、本人が何をやりたいのか、何を望んでいるのかを踏まえて、本人にフィットするようにジョブアサインしていかなければいけない。「対話的利用」と言いますが、ジョブアサインのプロセスに注目するといいんじゃないかなとは思いました。

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