2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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伊達洋駆氏(以下、伊達):では、神谷さんにバトンタッチしたいと思います。よろしくお願いします。
神谷俊氏(以下、神谷):伊達さん、ありがとうございました。みなさん、こんにちは。株式会社エスノグラファーの神谷俊と申します。後半パートは、今から20分間ぐらいお時間をいただいて、私からレクチャーをさせていただきます。
先ほどもあったように(質問を)すでにいくつかいただいてますが、私のパートでも聞いてみたいことなどあれば、よろしくお願いします。
さて、私のパートを進めてまいりますね。こちらのタイトルでお話をしていきたいと思います。「“曖昧さ耐性”が高い人は、何を見ているのか?」ということですね。伊達さんのパートでは、曖昧さ耐性の概念を捉える話(をされていました)。
多義性が高くて、情報不足の状態。こういう、曖昧さの高い状態に対する耐性を持っている人はどういう人なのかを説明いただきました。
途中から参加いただいた方もいらっしゃるかと思うので振り返りますと、(曖昧さ耐性が高い人とは)曖昧さに対してポジティブに捉える人だ、という話でしたよね。
曖昧な状況であっても、積極的にリスクをテイクしながら仕事を進めていく。結果的に幸福感が高いとか、健康レベルが高い、あるいはパフォーマンスが高い、創造性が高い。そんな有効性を生み出しやすい人だという話をしていただきました。最後に、それをマネジメントに反映した示唆もいただきました。
先ほど伊達さんからもお話があったように、曖昧さ耐性に関して話をすると、先天的な資質によるものなんじゃないか? という印象を受けやすいんですね。
実際に、私がTwitterとかで曖昧さ耐性について呟いた時に、「こういう人たちって……」「こういう人間って……」みたいな感じで、やっぱり「先天的な素養を持ってないとだめだよね」という文脈のコメントはけっこう多かったんですね。
だからこそ、このテーマをお話ししたいと思って今日この場にいます。曖昧さ耐性が高い人はどんな人なのか、どんな内面が影響しているのか、そしてどう開発していけばいいのか。そんな話をしたいなと思っています。
神谷:遅れましたが、自己紹介のスライドですね。エスノグラファーというリサーチ会社を経営しております。ビジネスリサーチラボ同様にビジネスリサーチで、組織調査や採用調査、マーケティング調査とか、このあたりを手がけております。
もともとはアカデミックなキャリアを歩んで、起業しているという経歴ですね。こちらは伊達さんと同じかな。
(スライドの)右下にあるのがメルマガ動画のご案内ですね。最近、けっこう力を入れてやっているんですよ。10分ぐらいのショートレクチャーの動画を隔週でお送りしている無料メルマガですので、興味のある方は登録いただければと思います。
さて、本題に入りたいと思います。「曖昧さ耐性が高い人の心理」ということで、先ほど申し上げたように、「曖昧さ耐性の高い人は先天的な素養ではないんだよ」というところを、具体的にお話ししていければと思います。実はですね、私、いくつかの企業さんで曖昧さ耐性に関して調査をしたことがあるんですね。
調査結果を見てみると、先ほど伊達さんがおっしゃってたようにパフォーマンスレベルとの相関が見られたり、ウェルビーイング・幸福感との相関が見られたりしました。あるいは、在籍年数が高まるほど、曖昧さ耐性が高くなっていくベンチャー企業なんかもあったりしました。
そういう曖昧さ耐性が高い人たちって、どういう心境で仕事に臨んでるのか。ここに関心を持って、インタビューなんかもしたことがあるんですね。その時にいただいたコメントが、こういう内容でした。
「何をすればいいか、なんとなくわかってるので、ちょっとリスクが大きい案件でも手がけられるんですよ」「まずはこういうところからやろうかなと思ってます」「前職でやった事例が使えそうだったので」という感じで、行動イメージが浮かんでるから曖昧な状況でもぜんぜん進められますよ、という話ですね。
あとは、「なんかいけそうな気がする」という自信をおっしゃる方とか、「失敗しても役に立つし、いい経験になると思う」「良い勉強機会になる」「またチャンスをもらえそうだから」というかたちで、結果に対して悲観的になっていない。わりとポジティブな着地イメージが浮かんでいるような方が多かったですね。
これ、とても重要なところだと思うんです。「曖昧さ耐性」という言葉だけを見ると、曖昧さ耐性が高い人に対して、曖昧さを耐える能力があるかのようなイメージを私たちは持ってしまうんですが、曖昧な状況であっても曖昧なままに進めているわけじゃないんですね。
彼らは、自分なりのイメージやビジョンを持って仕事をしているわけですね。ここが重要なポイントかなと思います。
神谷:整理すると、こういうイメージで表現できるかなと思います。「TA」というのは、Tolerance of Ambiguity、曖昧さ耐性のことですね。
曖昧さ耐性のレベルが高い人は、「どう進めようかな」という方略のイメージを持っている。かつ結果(に対して)も、「いい経験になるな」「きっと周りは評価してくれるだろう」と、ポジティブなイメージを持っている。だからこそ飛び込んでいけるということですね。
反対に、曖昧さ耐性が低い人たちは、このあたりのイメージを持っていないことが多いわけですね。「どうしたらいいかわからない」という状況です。
そうすると、「自分がやることによって、下手に損失を生み出してしまうんじゃないか」「怒られちゃうんじゃないか」「批判されるんじゃないか」(と考えてしまう)。いわゆる暗中模索という感じで、もやがかかっているような中を不安になりながら進むようなイメージしか持てないわけですよね。だからこそ曖昧な状況を嫌がるし、避けようとするという心理メカニズムがあるんだろうと思います。進め方のイメージや結果に対する良いイメージを、心理学や学術的には「効力期待」とか「結果期待」というふうに表します。
神谷:効力期待というのは、「自分なりにそれを進めることができそうだ」「ちゃんといいプロセスを経て仕事を進められそうだ」「自分も力になれそうだな」という期待感ですね。結果期待というのは、「良い結果を生みそうだな」ということですね。
良い結果というのがポイントなんですけれども、「タスクがうまくいきそうだな」という良い結果もあれば、「タスクがうまくいかなくても、自分にとっていい学習になるな。いい成長機会になるな」という良い結果もありますね。
いずれにしても、結果に対して「自分にとってはポジティブだろう」という意味づけができている。ここのイメージが、実は曖昧さ耐性に影響すると言われています。
だから曖昧さ耐性の研究の中では、難しい問題や複雑な問題とか、解き方がたくさんあるような問題を、実験的に子どもや若者たちに出すことがあるんですね。それに対して何らかの解き方のイメージを持っている人は、やっぱりすいすい挑んでいけるわけですね。
まったく解き方のイメージがない、あるいはそういう問題を解いた経験がない人は問題を解こうとしない。「どうせバツになるからやりたくない」みたいな感じで、断ってしまうなんていうケースも報告されています。
いずれにしても、この期待イメージを持てるかどうかが、曖昧さ耐性を高める上で非常に重要なポイントになってくるということですね。
神谷:効力期待や結果期待が曖昧さ耐性に影響する、というお話をさせていただいたんですが、これ(曖昧さ耐性)が高いと、曖昧な状況に挑んでいけるだけじゃないんですよね。
仮に仕事がうまくいかなくてミスしてしまった場合であっても、もともと期待イメージを高く持っていた人は、そのミスを踏まえて学べる。あるいは「また挑戦してみよう」という気持ちになる。モチベーションを維持したり、学習行動につながりやすいと言われています。
要するにどういうことかと言うと、「自分だったらなんとかなりそうだな」「自分だったらいけそうだな」って最初から思ってたのに、結果がついてこなかったら当然反省しますよね。「あれ、何がいけなかったのかな?」と、疑問に思いますよね。
だからこそ、そこから学習が生まれて、自分自身の能力を高める。その能力を高めたことによって、また効力期待を強めていく。期待イメージを持つことで、こういう良い循環が生まれてくると言われています。
逆に、効力期待が低いままに曖昧な状況に飛び込んでミスしてしまったらどうなるのか。これは最悪なパターンですね。
そもそも自分に対して期待してない状態で、「どうせうまくいかないからやりたくない」って言ってたのに、上司から強制的に業務をアサインされて、曖昧な仕事をやらされてうまくいかなかったら、本人は「ああ、やっぱり」って思うわけですね。
「本気を出さなければよかった。ちゃんとやるだけ損をするなら、真面目にやらなければよかった。次からは、上司から無茶振りされたら適当に手を抜いてやろう」「もう、本当に仕事やだな。うちの会社はブラックで、上司も自分のことをわかってない。パワハラだよ」という感じで、原因を他者に帰属するようになっていくわけです。
そうすると、どんどん期待イメージは下がっていくわけです。「どうせ自分がやってもうまくいかない。だからちゃんと指示してよ」という悪循環を描いてしまうということですね。
神谷:効力期待のレベルを一定レベルまで引き上げる。そして、効力期待に見合うような業務アサインをする。先ほど、パス・ゴール理論を踏まえてのマネジメントに対する示唆がありましたが、このような部下に対する向き合い方が必要になってくるわけですね。
じゃあ、どうやって曖昧さ耐性を高めていくべきでしょうか。2つほどポイントがあるなと思いましたので、私からも情報提供をさせていただければと思います。
曖昧さ耐性が低い人、まだ周りのイメージが湧いてないような人が、どうやったら効力期待を持つことができるのか。結果、期待を持つことができるのかというところですね。これを説明する上で、(ミハイ・)チクセントミハイという研究者が提示してる、フロー理論のチャートを用いたいなと思います。
このチャートの意味するところは、縦軸は挑戦レベル。仕事の難易度や難しさ、あるいは求められるスキルレベルだったりを意味します。横軸が、部下自身の能力認識のレベルです。効力期待を高めていくために、いきなり挑戦レベルを引き上げて、曖昧なタスクの中に部下を強引に着手させるのは、おすすめできないやり方ですよね。
チクセントミハイのフローのチャートによれば、まだ自分に対して能力レベルを期待できるような状況じゃないのに、無理に高い挑戦をさせてしまうと、本人の心の中は心配と不安でいっぱいになってしまう。
結果的に、良いパフォーマンスを発揮することはできなくなって、ストレスを感じて、健康リスクを伴うというふうに指摘されていたりします。
だから、「まずはやってみなさい」と言う上司の方は多いかなと思うんですが、曖昧さ耐性が低いなと思った部下に対しては、それは控えたほうがいいということですね。
神谷:大切なことは、少しずつハードルを調整しながら、本人の自信や期待イメージを高めながらハードルを上げていく、バランス感覚が非常に重要になってくるわけですね。
最初は「自分なんてぜんぜん何もできないです。だから教えてください」というモードかもしれないんですが、上司が手伝いながらほんの少しだけ難しいことを成功させて、「あ、自分いけるんだな」という感覚を持たせる。さらにその感覚に輪をかけて、挑戦レベルを少し高めて、さらに自信をつけさせる。
こういうかたちで、段階的にハードルをタスクのハードルを上げて、曖昧さや権限委譲のレベルを引き上げて、本人の自信をつけさせながら、より仕事に対して向き合う姿勢を強化していくことが求められるわけですね。
先ほど伊達さんが「こういうところを見ると曖昧さ耐性のレベルがわかるよ」と挙げていましたが、部下の状況や能力レベル、自信のレベル、部下の期待イメージや効力期待のレベル感に注目して、そのあたりを踏まえて職務を設計していくのが大切になります。
曖昧さ耐性が低い人たちに対して、いきなり曖昧な仕事を与えるのではなくて、曖昧さのレベルをある程度調整するような機能が必要になってきます。ジョブデザインが重要ですね。
神谷:ジョブデザインに関しては、上司が部下の能力レベルや経験値を踏まえて、しっかりと仕事の難易度や曖昧性のレベルを調整してあげるのが必要です。こちらの10項目は、ジョブデザインにおいてある程度設計する必要があると言われてる項目ですね。
仕事の枠組みや目標、期待役割やスケジュールとか、その仕事がミッションとどう連動してるかという枠組みをしっかりと設計すること。それから、部下が仕事を進めるイメージだったり、抑えるべきツボが判断できたり、ある程度モデルイメージが湧くような状況を作ってあげる。
そして、プラクティス・フィールド。いわゆる学習環境ですね。失敗しても学べるような機会とか、本人の進捗状況に合わせたアドバイスをする。あるいは、本人の仕事を支援してくれる人たちを説明してあげる。こういうのがジョブデザインでは重要だと言われています。
曖昧さ耐性を高めていく上では、線が引いてある2番(期待役割・権限)と、6番・7番(成功要因と参照情報)、それから8・9・10番(プラクティス・フィールドとフィードバック機会、アクター・ネットワーク)あたりが重要になってくるかなと考えています。
まず、どこまでの権限を委譲するか、部下の状況に合わせて調整する必要がありますよね。それから、どんなふうに進めればいいのか。効力期待や結果期待のイメージを持たせることが、重要になってくる。
曖昧さ耐性が高い部下であれば、このへんのイメージがなくても「好きにやるよ」という感じだと思うんですが、曖昧さ耐性が低い部下の場合は、ここ(タスクの進め方のイメージ)を持たせてあげる必要がある。
さらには、「失敗したらどうしよう」という不安は、結果期待のレベルを下げてしまいますから、「失敗しても大丈夫だよ」という状況を作ってあげる。そして失敗しないような、失敗しても学びがあるような、ポジティブな結果につながる状況を作ってあげる。
こういった、職務のデザインと環境のデザインが有効に働くかなと考えています。以上が、ジョブデザインに関する1つのアプローチですね。
神谷:もう1つが文化の影響ですね。組織文化をマネジメントしていくことも重要なのかなと思います。曖昧さ耐性が低い、そして曖昧な中に突っ込めないというのは、ミスをしたら怒られるとか、ミスをしたら周りに迷惑かけるという、失敗やミスに対する恐れが影響してると思うんですよね。
仮に、「ミスしてもぜんぜんOKだよ」「失敗しても当たり前だよ」という環境下だったら、結果イメージがポジティブになってくると思うんです。なので、結果をどう捉えるかというところに注目して、文化のマネジメントが必要になるかなと思います。
組織文化にはこれらの種類があると言われています。安定な文化、積極性の文化、チーム志向性、従業員志向性とか、いろんな種類があると思うんですけれども。
(1番目の)リスク志向性は、「失敗したっていいじゃん。そこに学びがあるんだったら、どんどん失敗しようよ」「小さく失敗して大きく学ぼうよ」という文化が、組織内で醸成されているかどうかがポイントです。
もしこのような組織文化が醸成されていて、「失敗したってチャレンジすることに意義がある」という価値観をみなさんの間で共通して持たれているのであれば、結果期待に対するレベルが上がって、より曖昧な状況でも進めやすくなるのかなと考えられるわけです。
神谷:じゃあ、こういうリスク志向性の文化をどうやって育てていくのか。もちろん、ミッション・ビジョン・バリューとかを作成することもそうなんですけど、重要になってくるのは「エピソード」ですね。
特に経営リーダー、役員クラス、部長クラスが、仕事で失敗して大きな学びを獲得したエピソードを積極的に社内に共有していくということですね。
例えばある企業さんでは、経営リーダーが海外シェアを拡大するため、そして海外のパートナーとビジネス契約を結ぶために、ある開発途上国に行ったと。そこの食べ物が合わなくて、非常にしんどい思いをしたとかですね。あるいは、海外の展示会に参加していて、調子に乗ってプレゼンしたら大恥をかいてしまったと。
だけどこんな学びがあった、あるいは「この国については、こんなことを勉強することができた」というようなエピソードを、社内チャットなどに積極的に載せてメンバーに共有していたりします。
そういう話がたくさん社内に流通していると、「あ、自分うまくいかなくてもいいんだな。むしろ挑戦することが奨励されるんだな」と、結果に対して安心しますし、積極的にリスクをとりやすくなるのかなと思うんですよね。
こういうエピソードだったり、主要なシンボリックリーダーと呼ばれるような会社の主要人物の動き方、「こういったところにリスクをとっていこうよ」というメッセージが埋め込まれているかどうかが大切です。
そして、先ほど社内チャットという例を挙げましたけれども、そういうメッセージが伝わりやすいようなイントラネットだったり、あるいは雑談をするようなコミュニティとか、そういうコミュニケーションのネットワークがあるか。こういったところを確認していただくのも、良いのかなと思っております。
神谷:ということで、以上が私からのショートレクチャーになります。お話としては、曖昧さ耐性の高い人っていうのは、効力期待や結果期待のイメージがついているんだよと。
そういうイメージをつけるためには、少しずつジョブデザインで難易度を調整したり、曖昧さのレベルを調整する必要もあるし、文化をマネジメントして、失敗してもポジティブに捉えることがしやすいような生態系を作っていくんだよ、というお話でございました。
ここからは伊達さんとのセッションというかたちで、みなさんからいただいた質問を踏まえてディスカッションを展開していければと思います。いったん伊達さんにお返しいたします。
伊達:神谷さん、ありがとうございました。曖昧さ耐性というのは、生涯で決まっているものではなくて、環境や育成であったり、いろんなところで醸成していくことができる。そのためにどうすればいいのかという、具体的な働きかけや文化の側面に触れて説明していただきました。
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