2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ーー専門知識を持っていない人が「お金」「経済」と聞くと、なんとなく難しいイメージを持ってしまいがちですが、新卒1年目や20代のビジネスパーソンが経済を学ぶ必要性はどういったところにあるのでしょうか。
高井浩章氏(以下、高井):我々が参加している経済は「市場経済」ですが、これはけっこう特殊なシステムです。自分でお金を稼いだり、生きていく上で、その基本がわからないままなのは、ルールをよく知らないままゲームに参加している状態です。
やられても多少ダメージをくらう、ぐらいのゲームだったらいいんですが、知らない間に致命的なダメージをくらうようなゲームに参加している場合があるんです。
これは私の持論なんですが、人類はお金に慣れていないんです。人類の歴史が何百万年あるとして、人間の社会でお金を使うようになったのは、おそらくここ数千年とか、どんなに多く見積もっても1万年いかないと思います。
(人類の歴史の)最後のほうになってやっとお金が出てきたので、生き物としての人間はお金に慣れていないんですよね。なので、お金のことは後天的に勉強しないと間違えやすいんです。
今の我々の社会は、お金を中心に動いています。お金がすべてではないですが、なんらかの事象の裏側の8〜9割にはお金がくっついているので、それがわからないまま市場に参加するのはけっこうデンジャラスです。
ほとんどの人は、大怪我をする前に「ああ、こういうことか」となんとなくわかってくるんですが、何人かは致命傷を負います。お金のことを知らないがゆえに「人生終了」みたいになりかねない。だから、学校で教えるべきなんですよ。
高井:経済を学ぶ意味で言えば、「学ばないでどうする」ということです。最低限のことを知っていないと危ない。でも、ほとんどの大人は知らないんですよね。
私の本(『おカネの教室』)の感想ですごく多いのは、「こんな当たり前のことを書いてどうするんだ」という大人の感想と、「初めて知った」という大人の感想です。だけど、子どもの反応は「おもしろかった」なんですね。
子どもには「知っているべき」と「知らなくてもいい」という価値観がまだないので、「おもしろかった」という感想になるんです。若い方も「初めてお金のことがわかった。早めに読んでよかった」とか、もうちょっと年齢が上になると「もっと若い頃に読みたかった」という感想がありました。
言ってみれば、この本に書いてあることを知っていて、やっと“普通免許”です。これでようやく公道を走れるはずなんですが、みんな“仮免”のまま走っているんですよね。「仮免で事故らなくてよかったね」という話なんですが、たまに仮免のまま高速道路で事故っちゃう人がいます。
標識の意味もわからないまま突っ走って、崖から落ちたりするので、みんな普通免許くらいは取りましょう、ということです。
当たり前ですが、普通は車を運転する時、免許を取るまでは公道を走っちゃダメですよね。だけど経済の話になると、免許を取る前に社会に放り出されるんです。これが「金融教育が足りない」と言われる理由です。
ーー確かにお金の話を身近な人とする機会もないですし、特に意識せずに社会人になる人も少なくないと思います。それからお金というと、なんとなく「汚い」といったネガティブな印象を抱きがちですが、これはなぜなのでしょうか?
高井:ちょっと哲学的な話になりますが、貨幣は「言葉」と同じものなんです。お金も貨幣も「誰かと誰かをつなぐもの」なんですが、介在することによって距離ができます。
家族の間で「ありがとう」くらいは言ったほうがいいと思うんですが、「この度は誠にありがとうございました」とまでは言いませんよね。親に対してもなかなか使わないでしょうけど、子どもにも言わないと思います。でも、仕事関係だったら使いますよね。
言葉のエクスチェンジをする時点で距離があるんですよ。距離がなければ、言葉はいらないんです。その最たる例が恋人同士で、「ありがとう」と言わなくても、しゃべらなくても伝わることもあるわけですよね。
お金のやり取りをすることは、「あなたとはお金で済む関係です」と距離を作る行為なんです。何かをやってもらって、「じゃあ100円」と言ってお金を払った途端に、誰かがやってくれた「親切」は「100円」に換金されてしまうので、その人は100円をもらったほうが損した気がするんですよ。
「ありがとう」という言葉をかけるならまだしも、「ありがとう」と言って1,000円を払った時点で、「あなたと私は、あなたがこれだけの奉仕をすると1,000円を払う関係ですよ」という距離ができるんですよね。
高井:「お金の話はするなよ」という言葉のあとには、「水臭いな」が続きます。お金は魔力があって、お金が絡むと人間関係や友情とかいろいろなものが壊れやすくなるので、お金を駆り出させたくない。
お金が距離を作るというのは、言葉と同じなんです。「丁寧すぎる言葉」と同じようなものですよね。しかも、言葉も人間関係を破壊する威力を持っている。だからお金は恐れられているし、「汚い」と思われているんですね。
たぶんどんな社会でも同じだと思うんですが、日本の場合は「武士は食わねど高楊枝」みたいなところが昔からあるので、極端にそういう(お金の話を控える)文化があります。でも、だいぶ薄れてきていると思いますけどね。
ーー金銭のやりとりが発生した時点で、関係性や行動の意味がかなり変わってしまうということですね。
高井:人間関係が経済活動に換金される、ということですね。
ーーお金の話にネガティブな印象を抱いてしまう理由がわかりました。ただ、今でこそ高校では金融教育が必修化されましたが、そもそも市場経済のルールを知る機会や、お金のことを学ぶタイミングがあまりなかったように思います。
高井:私の頃はなかったんですが、(今の20代などは)たぶん機会があったはずなんです。クレジットカードの使い方とか「家計簿をちゃんとつけましょう」という話は、学校の家庭科の授業で習っているはずなんです。
もしかしたら先生が授業をスキップしているかもしれませんが、カリキュラムには入っていて。2022年の4月から始まったのは「投資教育」なんです。
「資産形成の一手段として『投資』という手段があって、これをやったほうがいいですよ」と教えるのを家庭科の科目の中でやっと始めたという話で、「クレジットカードご用心」という話は、実は前からやっているんです。
しかも、メディアも「投資教育が始まった」と言っているんですが、投資教育のカリキュラムは年間で1時間やるかどうかというところです。
高井:おまけに教えるのは家庭科の先生で、おそらく先生の中でも投資経験が最も少ないであろう人なので、何をやっていいのかわからない。
教科書や金融庁や日銀のサイトで「これを読んでおくといいよ」というものを見て、なんとなく「こんなことがありますよ」と教えるくらい。なので、投資教育としても始まったばかりだし、教員側も何をやっていいかよくわからない。実態としては、金融教育は「ちょっと拡充された」というのが本当のところですね。
私にも「学校で講演してください」という話が来るんですが、200人くらいの高校生を相手に1時間くらい、「経済で一番大事なことはこれよ」「仮免の仮免だけど、とりあえずこれだけ知っておけば大事故を起こさないから」という話をしています。
それだけ教育の現場には、お金を持ち込むことに対してすごく“アレルギー”があるんですよね。昔からそうですが、やっぱり「お金って汚いものだ」「お金の話はするなよ」という文化があります。
「学ぶ機会がなかったのは、そういう日本の価値観がずっと続いているからだ」と言うと話が終わっちゃうんですが、極端なことを言うと「そんなことを考えなくてもよかった」というところもありますね。
高度経済成長期からバブルが崩壊するまでの間は、そんなことを考えないで、みんな郵便貯金にお金を預けておけばよかった。
郵便貯金なり銀行に預けておけば、銀行の人がリスクを取って投資をしてくれたんですね。金利も高かったので、定年までちゃんと終身雇用で勤め上げると年金ももらえる世界だったから、金融の心配をしなくてもよかったんです。
高井:その時代の学校教育では何が求められたかというと、スキルが高い労働者を作ることと、特に製造業でイノベーションを起こせる人材が育つことが大事でした。
これで経済が回る仕組みになっていて、しかも極めて高い成長を遂げたので、世界第2位の経済大国になりました。しかし、バブルが崩壊してそれでは回らなくなった。
要は、「個人は金融や経済を学ばなくても一生懸命働けばいい」という時代から、「お金の面倒は自分で見てくださいね」というふうに、特にこの10年〜20年くらいで急速に変わったんですね。
象徴的なのは、年金が確定給付から確定拠出になったことです。「自分で面倒を見ろよ」と言われたんですが、特に10年、20年以上前に学校教育を終えている我々のような世代の人は、「いや、そんなこと言われても……」となる。
そういう世代の人たちにお金について習う今の若い世代も、「いや、そんなこと言われても」という感じですよね。(現状を変えるためには)ワンジェネレーションかかるんです。
高井:今の20代〜30代の人は、たぶん投資に対する抵抗感が低いです。しかも、つみたてNISAなどでわりと早くから始める人が多い。そうやって30年経つと、「投資歴30年」という人が普通に学校の先生をやります。
「私もこうしたし、こうすればいいよ」という話ができるようになるまでは、日本には投資教育は根付かないんです。でも、30年間それをやらないと永久に根付かない。
ーー教員はお金のプロというわけではないから、学校で金融教育をやろうとしても、現状では最低限の知識しか教えられていないんですね。
高井:それを補うために、金融庁や日銀が必死でプログラムも教材も作って、場合によっては人も派遣しますよと言っているんですね。
日銀が中心でやっている「知るぽると」というサイトはとてもよくできているので、そこから拾ってきてカリキュラムをやれば、必要十分な教育ができるようにはなっています。ただ、どれが必要十分なのか、どこを見て何をやったらいいのかがわからないレベルの方も現場にいらっしゃるので、時間はかかると思います。
ーー学生だけではなく、現在社会人の方でお金の知識がない人も少なくないと思います。経済初心者のビジネスパーソンに「まずは最低限これを覚えてほしい」というお金の知識があれば教えてください。
高井:本当は一番最初に知っておくべきだけど、学校で教えてくれないのが「金利」です。金利をわかっていないということは、投資のことも経済のこともわかっていないということなので、金利を勉強しましょう。
ビジネスパーソンとして金利の知識が必要かというと、経済に関心がある人にはみんな必要ですよね。「日本国民全員が」という意味ではなくて、普通に「投資をやったら?」と言われたとして、「じゃあ、ETF買っとくわ」くらいの知識をみんな持っていれば十分だと思います。
多少なりとも大きな金額を動かす時には、金利についてわかっていないといけません。例えば借金する時とか、あるいは自分が投資する時には、金利のことがわかっていないとまずい。
高井:それから、ビジネスパーソンとして知っておきたいのが「会計」ですね。「会計の超基礎はこの本を読んでおけばいい」という本が『会計の地図』です。
B/SとP/Lは最低限で、キャッシュ・フロー計算書とか、「B/SとP/Lと株式市場がどうつながっているか?」ということは、入社5年目くらいまでにはイメージがつかめていたほうがいいと思います。
例えば「営業マンだったら会計の知識はいらないのか?」というと、営業マンの人が会計をわかっているのとわかっていないのとでは、働き方がぜんぜん変わってきます。営業マンじゃない人もみんなそうです。
それから、株式市場ではB/SとP/Lを使って企業の値踏みをします。自分が働いている会社や取引先、投資先もそうですが、「ビジネスの現状がどうなっているか?」「マーケットでどう見られているか?」を知っているか・知らないかでは、ぜんぜん違います。
会計を知らずに(投資を)やるのは相当危なっかしいので、社会人5年目くらいまでには絶対に知っておいたほうがいいですね。
ーー会計というと、なんとなく「取っつきにくそうだな」というか、複雑そうなイメージがありました。
高井:それはみんなの勘違いで、実は会計っていっぺんわかったらたいしたことはないんですよ。本を1冊読むといっても、1~2時間あれば読めるじゃないですか。読んでわからないはずがないですし、実はそれくらい会計って簡単なんです。
高井:金利については「ほぼ日の學校」の講演でもかなりこってりとお話ししています。ほぼ日の學校では「お金の3つの値段」という話をしているんですが、そのうちの1つが金利です。金利というのは、お金の値段に近いですね。
金利が高いということは、みんながそのお金を欲しがるので値段が上がる。だから今はドル高になっているんです。反対に、日本は金利が低いので円安になっている。これはインフレもそうですね。インフレというのは、お金の価値が下がって、物の価値が上がることなので。
お金には値段をつける手段が3つあるんですが、その中でも一番大事なのは「金利」ですね。なぜ金利が大事なのかというと、1つは「リスクフリーレート(リスクが最小で無リスクに近い金融商品から得られる利回り)」という考え方が大事だということです。
金利の水準が高い・低いというのは、経済の流れの早さを規定しているようなものなので、それを投資の世界では「リスクフリーレート」と言います。
高井:もう1つは「72の法則」をご存じですか? 金融の世界だと、みんな「あぁ、またこれか」となる話です。例えば「年間6パーセントで複利で運用すると、お金が倍になるのに何年かかるかわかりますか?」……と言われると、すぐにはわからないでしょう?
ーー何年でしょう……パッとは出てこないですね。
高井:「72÷6」は「12」です。つまり、12年で倍になるんです。70か72かどっちでもいいんですが、割りやすいほうを金利で割って計算する。
例えば、複利で10パーセントで運用したら何年で倍になるかというと、7年。複利で2パーセントだと、35年。「72の法則」を知っていると、お金が倍になるスピードがわかるんですね。
ーー確かに、一気に計算しやすくなりました。
高井:ものすごくわかりやすいです。なんとなくイメージでは、10パーセントと7パーセントはあまり変わらないな、という気がするじゃないですか。
「10のほうがちょっと高いな」くらいなんですが、複利が10パーセントか7パーセントかで、お金が倍になるまでにそれぞれ10年と7年なので、3年も差があります。2パーセントと3パーセントだと36年と24年なので、12年間も違うんです。
でも、2パーセントと3パーセントと言われると、「どっちでもいいけど3のほうがいいかな?」くらいの感じでしょう。ですが、実はものすごく差があるんですよね。
高井:みんなが投資するといった時に、「せっかくやるんだから年10パーセントくらいリターンがほしいな」と思うわけです。年10パーセントで、7年でお金が倍になるということは、14年で4倍になります。100万円投資して40年もやったら、数千万円になる。ですが、そんな話はあり得ないです。
複利の威力もわかるので、複利4パーセントや3パーセントだったら、「これはめちゃくちゃチャンス」だとわかります。もし世の中に、3パーセント、4パーセントで複利で20年間運用できるものが転がっていたら、速攻で買ったほうがいいです。
逆に言うと「そんなものはあり得ない」ということもわかるんです。「確実に8パーセント儲かります」という投資話は、100パーセント嘘です。複利の「72の法則」を知っていると、こういうこともわかるんですよね。
リスクフリーレートの話をしたんですが、国債の金利が0.5パーセントくらいなので、これより利回りの高い確定利付の安全な商品はないんです。国債以上に安全な投資先はない。
この両方の知識を組み合わせると、絶対に詐欺に引っかからないで済むんですよ。なので、「最低限この2つを知っておくといいよ」という話をしています。
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