これからの経営者・リーダーに求められるもの

井上和幸氏(以下、井上):あらかたお話しいただきましたが、まとめ的に「これから経営者やリーダー各位が発揮すべきEQ」というアジェンダを挙げてみました。これまでのお話のラップアップですね。

髙山さん、ここまでにこれに類する話はだいぶいただいていますが、あらためて「経営者の方、リーダーの方が発揮すべきEQ」ですが。

髙山直氏(以下、髙山):今日出てきたいくつかキーワードの中で、経営者やリーダーが発揮すべきEQというと、それは経営者の細かい素養ではないんです。世界経済フォーラムでの「感情的知性」のアイコンは「心の鍵を開ける」なんですよ。「オープンネス」です。自分の心をいつも開いておくこと。

心を閉ざしているリーダーや経営者には、部下も心を閉ざしますよね。それでは心理的安全性が担保できない。本当のことを言わない。聞きたくても聞けない。聞かない。だから僕は、「共感力」みたいなものが一番重要だと思っています。それと、感謝、感動です。「共感・感謝・感動」。

井上:共感・感謝・感動。

髙山:やっぱり感動する経営者とかリーダーには、人がついてきますよ。そう言うと、「感動ってなんですか?」って聞かれるんですけどね。

井上:なるほど(笑)。

髙山:大きな出来事じゃなくていいんですよ。例えば、今日歩いているとキンモクセイの香りがよかった。秋を感じた。これ、感動じゃないですか。それを感動と捉える感性が大事なんですよ。

「あ、キンモクセイか」とか、ましてや香りもわからずに歩いている人もたくさんいる。「何のために公園行ってるの?」みたいな。あそこにはたくさんの感動がある。ちっちゃい子が遊んでいる。日本の未来を考えたら、感動するじゃないですか。

身近にいっぱい感動がある。その積み重ねで、大きい感動が生まれるわけで。そこに感動しない感性の経営者やリーダーだと、ついていきたくないよね。

生き残るために必要な「共感」

髙山:感謝も実はすごいEQスキルなんです。感謝すると「ありがとう」と言いますよね。そうすると、コミュニケーション力が鍛えられるんですよ。それが1つ。2つ目は「状況判断姿勢」です。状況を見ていないと感謝できないんですよ。つまり「感謝する」ということは、「場の空気」「雰囲気」「情景」への観察力を使っていると。

だから「ありがとう」とか「何かに感謝している」ということは、それだけで2つも能力を使っているんです。

それから共感ですね。どんな時代も「人と人」が原点であれば、共感できない人は生き残れないと思います。「進化心理学」というものがあるんですけど、人間は共感することで生き残ることができたんだそうです。

井上さんもご存知だと思いますが、筑波大学の心理学の相川(充)先生がおっしゃっていて。先生はずっと、うちの顧問をやってくださっていたんですね。

進化心理学上、「人間は共感するから最後まで生き残っているんだ」とおっしゃっていまして。僕は、これが経営者とリーダーの基本だと思います。

井上:すでに意識が向けられている方は、そのまま受け取っていけばいい。僕なんかもありますが、もし「ちょっと向けられていないなぁ」という時は、意識だけでもしておくことが大事ですよね。

髙山:大事ですね。

井上:別にずっとじゃなくてもいいから、ふとした瞬間、外に目をやるとか。

髙山:あとは、簡単そうで難しいかもしれないけど、いつも自分に問いかけるんですよ。「今の気持ちは?」って。自己内コミュニケーションっていうのかもしれないけど、いつも自分の気持ちを自分で聞いてみるといいですよ。

企業の心理的安全性への関心の高まり

井上:髙山さん、事前打ち合わせでうかがいましたが、今トピックとして心理的安全性に関するご相談が多いんですよね?

髙山:そうなんですよ。2012年からGoogleさんがやっていた「プロジェクト・アリストテレス」、一時は本も出ていましたよね。その後、心理的安全性とかのテーマに、あまりスポットが当たらないなぁと思っていたんですね。

でも、この1年半ぐらいで、いろんな会社から「EQと関係あるだろうから、心理的安全性というテーマでお願いします」というお仕事の要請がたくさんあるんですよ。

先ほど「オープンネス」ということをちょっと言いましたけど、お互いが心を開いていない状態だと、心理的安全性は担保できないですよね。本当のことを言ったらいけない雰囲気だと、言えないですから。

また、上司のほうも「本音を言われても困る。だから言わないでね」という雰囲気で。これが部下に伝わっているんですね。だから、「いかにオープンネスを高めるか」ということを、EQとつなげてやっています。

伝統と歴史がそういう環境を作ってきているから、なかなか変えるのは難しいんですけどね。

井上:(笑)。そういう会社さまほど、心理的安全性に対して危機感が高まっているのかもしれない。

髙山:かけてきた時間の分だけ、改善するのに同じだけの時間がかかりますよ。ただ、みなさん心理的安全性が「大事だということ」「きちんと見ないといけないということ」は知っていますね。

そのために、ダイバーシティ&インクルージョンとかアンコンシャス・バイアスとか、いっぱい言葉が出てきていますよね。

「だから決めつけたり、思い込みのないように、いろんなものの多様性を受け入れてやっていきたいと思います」って、みなさん言うんです。それで僕が、「じゃあ、明日からどうします?」って聞くと、そこが答えられないんですよ。

井上:なるほど。

髙山:「人格はなかなか認められないかもしれないけど、EQの技術で気持ちを受け止めたり、認めてあげることはできますよ」ってね。

上司の“抵抗感”が減る、ビジネススキルとしてのEQの価値

髙山:そう言うと「いや、本心は認めてないよ」って言うんだけど、別に本心から認める必要はないんですよ。今の関係性を作るために、今部下が言っていることを認めてあげるんですね。

井上:そうなんですよね。つまり、EQは開発可能であるし、みなさんもそれは理解している。実際に取り組む方も多い。でも、わかっているんだけど、「そうしたくない」みたいなことって確かにありますよね(笑)。

髙山:嫌いな部下に対して、「こいつにはEQを使いたくない」とかあるんですよ。

井上:そういう時、髙山さんはどうアドバイスされるんですか?

髙山:EQは、ある目的を達成するために、必要であれば使わなきゃいけない技術なんですよ。だから「『この人には使いたくない』と言うけど、それはビジネスの成果に対して影響があるの? ないの?」って聞きます。

影響がないなら使わなくていい。「やりたくないなら、やらなくてもいいよ」と言いますね。でも「彼も戦力の1人で、なんとかうまくやる必要があるんです」って言うのなら、「じゃあ、EQ使ってくださいよ」って。

井上:確かにその考え方だと、抵抗がある方にもいいかもしれないですね。

髙山:やっぱり一番は「目的を達成するかどうか」なんですよ。別に、その人と仲良くなることが目的ではないんですね。目的を達成するために必要な人材であれば、EQ使わなきゃ。

井上:なるほど。

髙山:だから、EQを使う時にまず考えなきゃいけないことは「目的・ゴール・成果」ですね。仲良くなるために使うんじゃなくて、ビジネスの成果が大切ですから。

井上:この話、みなさんたぶんハッとされたんじゃないかな。

EQの使用を隠さずに宣言する

髙山:チャットが1個来ましたよ。

井上:「本日はありがとうございます。感謝します」と来てますね。さっそくEQ力を発揮してくださってる。

髙山:そうなんです。目標・成果。ここが大事。

井上:EQって感情知性だから、開発可能であることはみなさん理解されていて。でも、僕も個人的には、「ビジネスライクに使う」みたいにあまり思えないんですよね。

髙山先生もおっしゃっていたとおり、自分の根源的なところからEQを発揮できるならそれでいいと思うし。そうじゃないなら、我々はビジネスをして組織を率いているわけだから、もっとビジネスライクに考えてもいいわけですよね。

髙山:本当にそう。ビジネスライクに考える。あと、「俺、これからEQ使うよ」ってカミングアウトすればいいんですよ。

井上:おお~。なるほど。

髙山:わざとらしいと思われてもいいから、「俺はやっぱりEQの技術が大事だから使う」って、隠さずに言えばいいんですよ。

井上:それ、おもしろいですね。

髙山:内緒で使い始めても「あの人、変に宗教がかってない?」とか言われちゃう。それは黙っているからなんですよ。

井上:なるほど、なるほど。

髙山:だから「なんかEQってのがあってね。目的を達成するために必要な時は使ったほうがいいんだ。俺は今必要だから使う」と宣言する。井上さんにも、いつも気を遣ってないけど、これからはEQを使って、めっちゃ気を遣うよ。

井上:(笑)。

髙山:ただ、勤務時間中だけよ。あと、プロジェクト期間中ね。その間、俺は井上さんにEQ使うけど、家に帰ったら関係ないからね。会社では全力で使う。

井上:(笑)。なるほど。潔いですね。

髙山:それは、絶対宣言したほうがいい。EQは隠れて使うもんじゃない。いいものなんだもん。人を貶めるために使うわけじゃないでしょ。だから絶対「使う」って宣言したほうがいいんだよ。

発揮するEQの割合の調整

髙山:おもしろいのは、部下がEQを知り始めると「髙山さんって、EQ使わないと僕と人間関係作れないんですね」って。相手が知ると、こうなるの。

井上:なるほど。

髙山:「俺はEQが低いから使うんだからさ。井上さんのほうが高くなったら、今度俺に教えてくれよ」と。

井上:なるほど。

髙山:「お互いにEQを使いながら、関係性作ろうぜ」というふうにやればいいんですよ。「変に思われたらどうしよう」とか、隠すよりもね。

井上:確かにね。

髙山:「この場面では、EQを使ったほうがいいのか、使わないのがいいのか」という時は「本人に聞きなさいよ」って言うんですよ。うちの会社は会議中に「今日の会議、俺どれぐらいEQ使ったほうがいい?」って聞くんですよ。

たまに「今日はEQなしのガチで来てください」って言われるわけ。俺、すごく詰めますからね。理詰めで逃げ道とか作らせないから、ガーッてやるでしょ。そうすると「すみません、髙山さん。20パーセントEQ使ってもらえませんか?」「OK~」って。

井上:それいいですね(笑)。

髙山:ちゃんと言ってくれるんですよ。

井上:なるほど。

髙山:「2割でいいの?」「あ、すみません、5割でお願いします」とか。そうやって会議を進めるんですよ。

井上:はい。

髙山:「できなかったら、『できない』って言って。ちゃんと聞くからね」って。そこからやり方を変えていきます。だから、メンバーのほうがどうやったらうまくいくのか、よく知っているんですよね。

「今日はEQなしのガチで、緊張感を与えてもらったほうがエネルギーが出るな」と思ったら、「髙山さん、今日はガチで来てもらえます?」「いいんだな、ガチで」みたいな。

井上:「今日はEQいらないです」みたいな(笑)。

髙山:それで、発揮するEQのボリュームを変えていくんですね。

井上:確かに、それができる組織はいいですね。

髙山:社名でEQって名乗っちゃってますからね。

井上:ということで、今日はありがとうございました。ご参加いただいている経営者や幹部の方々に、「具体的にどのようにEQが使えるのか」「客観的に見て、EQにどんな効果があるのか」ということを、しっかりお伝えできたと思います。

せっかくですから、ぜひみなさんも今日から使っていただきたいと思います。

髙山:ぜひ使ってください。

井上:髙山さん、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。

髙山:よろしくお願いします。ありがとうございました。