2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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池尾健氏(以下、池尾):時間になりましたので、セミナーを始めさせていただきます。今回のセッションは「企業経営から地域経営へ」というテーマでお話させていただきたいと思います。
最初に自己紹介から始めて、主にジンズホールディングスの田中社長と石見銀山群言堂グループの松場さんのお話を中心に、後半はフリーディスカッションで進めさせていただこうと思っています。
企業経営で、いわゆる観光業界とは別の軸で事業をされていて、そこから特定の地域についてアプローチをしていく。そのアプローチについて今話題になっているというところで、今回はその部分を深掘りしていこうと思っています。
関係者、登壇者の方と進め方についてお話をしましたが、類型化や一般化がなかなか難しいので、今回のお話についてはある意味言いっ放しというか、聞き手に委ねる部分もけっこう出てくるかもしれません。そのあたりは、時間が許す限りお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。
では、池尾以外の今回の登壇者3名をご紹介したいと思います。まずはジンズホールディングス代表の田中仁さま、よろしくお願いいたします。
田中仁氏(以下、田中):私はジンズホールディングス代表取締役CEOの田中と言います。企業経営をしていますが、やっぱり地域や社会にお世話になっているわけです。そこで我々は地域共生部というものを作り、本社のある場所や、出店している場所などといかに共生できるかを模索しています。
一方で、個人では一般財団法人(田中仁財団)を設立して、地域にかなりのエネルギーを注いで前橋というまちづくりを行っている状況です。
池尾:次に、まさに昨日グループの代表にもなられたと発表された、石見銀山生活観光研究所、石見銀山群言堂グループ社長の松場さま、自己紹介をお願いいたします。
松場忠氏(以下、松場):よろしくお願いします。松場忠と申します。どうぞよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介しますと、もともとはシューズメーカーの靴職人でしたが、その後いろんな縁があって、妻の両親が経営する石見銀山群言堂グループに入社しました。いろんなことをやりながら、2年前に石見銀山生活観光研究所という観光に特化した会社を作り、ちょうど昨日、石見銀山群言堂グループの代表に就任しました。
群言堂をご存知ない方も多いかと思うので、簡単にどんなブランドかと、どんな場所かをご説明します。私どもは衣食住美というカテゴリーの中で主にアパレルを主力に、日本の産地のものの販売をやっております。
石見銀山は、写真のような古い町並みが残る場所です。
今日ちょうど世界遺産登録15周年を迎えるんですが、長年にわたり地域づくりを積み重ねてきた場所です。
今は子どもたちも増えておりまして、これは学校に通う子どもたちの写真です。
冬は雪が多少降る地域ですが、訪れる方に楽しんでいただこうと、ちょっとユーモアのある雪だるまを作ったりしています。冬はお客さんが少ないんですが、そういった時に楽しんでいただけるようなこともやっております。
夏になると古い町並みと天の川が見える場所で、今は人口400人です。学校も生徒数が十数名と子どもが非常に少なくはあるんですが、人口が少ない割には子どもが増えている地域になります。
これが私たちのお店で、こちらが本社の社員食堂ですね。会社のシンボルです。「暮らす宿 他郷阿部家」という古い武家屋敷を直した宿泊施設を1日2組限定でやっています。他にもアパレルやものづくり、本も出版しています。
最近ではNHKのEテレで『子育て まち育て 石見銀山物語』という番組がスタートし、私たちの地域づくりを日本中で見ていただける状況になっています。ちょっと駆け足でしたが、今日はどうぞよろしくお願いいたします。
池尾:では、今日一緒にファシリテートのサポートをしていただくGOODTIMEの明山さま、よろしくお願いいたします。
明山淳也氏(以下、明山):当社はまちづくりのコーディネート会社です。主に場づくりにおいて、事業企画、コンセプト作りからできあがるまでのプロジェクトマネジメントなどを一気通貫でやらせてもらっています。
今回は田中さんにもご登壇いただいていますが、ささやかながら前橋の白井屋ホテルの場づくりを足かけ6年弱くらいお手伝いさせてもらいました。
地域経営という点で、私はどちらかというとよそ者としてお手伝いするケースが多いんですが、そういう立場から池尾さんと一緒に進行をさせていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
池尾:では簡単に私の自己紹介をします。私は一般社団法人Intellectual Innovationsの代表をさせていただいております池尾です。もともとはホテル畑で皿洗いなど現場の仕事をやっていました。
その後ニューヨークに留学した後に、ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパンやフォートレスみたいな、いわゆる不動産に投資している会社で働いていました。いわゆる投資会社で再生をしていました。2017年からこちらの一般社団法人の主宰をしています。
冒頭で刀の森岡(毅)さんもお話しされていましたが、「価値づけを作るのが人である」ということで、教育の場づくりや大学でプログラムの提供をしたりしています。一昨年にはL&G GLOBAL BUSINESS、今は水星という会社の龍崎翔子さんと一緒にオンラインのアカデミーを作ったり、今年4月には3施設を巡る多拠点移動型のプログラムをやっております。
島根県の隠岐(Entô)、福岡県の柳川藩主立花邸御花、愛媛県の水際のロッジと一緒に、私どもを含めて一体となって人流を作り、学び手だけではなく教え手をどう作っていくかを、教育や育成という文脈でやらせていただいています。
今日は明山さんと一緒にプログラムセッションをオーガナイズしていこうと思っています。よろしくお願いします。
池尾:では自己紹介が終わりましたので、この後は田中さまと松場さまが今取り組まれている部分について、お話をうかがいます。
明山:田中さんは前橋で幅広く取り組みをされていますが、ジンズホールディングスという日本を代表する企業を経営される中で、どうして前橋で取り組まれるようになったかついてお聞かせください。
田中:地域や社会に気づかされたというか、何かしたいなと思ったのは、アメリカが1990年代に非常に厳しくなった時に、元気になるためには起業家やスタートアップがどんどん生まれなければいけないということで、EY(アーンスト・アンド・ヤング)というアメリカの会計監査法人が「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」というのを始めたんですね。
アメリカから始まった「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」が世界にどんどん広がっていき、私は2011年の日本代表としてモナコの世界大会に出させていただくことができました。
世界約50ヶ国のたくさんの起業家と一堂に会したわけですが、特に欧米を中心とした起業家が会社だけでなく個人として非常に多大なエネルギーを地域や社会に注いでいる現実を目の当たりにし、衝撃を受けました。
ひるがえって自分はどうだろうと考えると、ずっと自分自身と自社の2つにエネルギーを注いでいました。当時48歳で、このまま自分だけのことにエネルギーを注いで人生に満足や納得ができるのかなと考えた時に、自分以外の人や物、社会にエネルギーを注いだほうが納得できるんじゃないかと気づかされたイベントでもありました。
田中:帰ってきて自分は何ができるんだろうと考えた時に、当時の群馬県は都道府県魅力度ランキングで47位とか、前橋も路線価ランキングで県庁所在地で最下位とか、非常に惨たんたる状況でした。
ここに対して自分ができることは何だろうと考えて、起業家育成だったら自分がロールモデルになれるんじゃないかと考え、「群馬イノベーションアワード」を立ち上げました。
「群馬イノベーションアワード」は、地元の新聞社と組んで、起業がいかにすばらしいことかを広く地域のみなさんに知ってもらおうということで始めました。当時の親御さんや先生は、5教科を一生懸命勉強していい大学に入って、大企業あるいは役人になることがベストだという考え方や教育をしていて、多様性などを認めない画一的な教育だったんですね。
ここを変えたいなと。音楽が好きな人、センスのある人、運動にセンスのある人、もちろん勉強にセンスのある人がいて、起業も1つのセンスだと思うんです。自分が好きなことに取り組める社会にしたいなと思って、起業を切り口に「群馬イノベーションアワード」を始めました。
始めた当時は高校生3人くらいしか応募がなかったんですが、昨年あたりは500件くらいの応募がありました。高校生で入賞すると、SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)にAO入試でいけるという道筋までつけました。
表彰するだけでは片手落ちなので、「群馬イノベーションスクール」という地域の若い人に無料でビジネススクールを開放する寺子屋的なものを作りました。毎月、早稲田のビジネススクールの先生が前橋に授業に来てくれています。
先ほども言いましたが、前橋は路線価ランキングで最下位と非常に厳しいわけです。日曜日にアーケードや商店街を見ても、当時は車を時速100kmで飛ばしても人にぶつからないなと思うくらい人がいなかったんですね。
この町をなんとかしたいなと思った時、たまたま「白井屋という旅館がマンションになりそうなので、なんとかしてくれないか」と地域の方々3人くらいに頼まれました。創業から300年経った旅館で、当時はホテルに改築されていただったんですが、そのホテルを再生するにも私はやる気がなくて。
ホテルの運営会社やコンサルタント会社にいろいろお話をしに行ったら、「前橋にホテルなんて無理です。ホテルは人が集まるところにニーズが生まれるものであって、ホテルがあるから人が来るわけじゃない。まして前橋がどんな町なのかまったく想像ができない」と。
「前橋ってどんな街なんですか」と質問されたんですね。私は答えられなくて、「前橋はどんなまちづくりのビジョンを持っているんだろう」という話をしたら、当時の市長もまちづくりのビジョンは明確にないということだったので、じゃあ作りましょうと。
どうせ作るなら日本のなんとか総研に頼むんじゃなくて、ユニークな取り組みをしようということで、ドイツのミュンヘンのKMS TEAMというブランドコンサルティング会社に前橋に来ていただいて、ビジョン作りを始めました。
彼らが出してきたパターンを一言で言うと「Where good things grow.」で、直訳すると「良いものが育つ町」です。「Where good things grow.」では前橋の市民に伝わらないだろうということで、前橋出身のほぼ日の糸井重里さんにこの英語を日本語に解釈してほしいと言ったら「めぶく。」というビジョンが生まれました。
このビジョンが生まれてから、前橋の動きが目に見えて変わってきました。まず前橋ならではの大きなグループ「太陽の会」ができました。どんな会かというと、前橋の大地には市民という種が眠っていて、この種は水や風、太陽のエネルギーがなかったらなかなか芽吹かない。
じゃあ無償の愛を注ぐ太陽のような会を作ろうということで、前橋に本社を置く企業は現在24社ありますが、純利益の1パーセントあるいは最低100万円を町のために見返りを求めないで投資をしようという会が生まれました。
その第1弾として、岡本太郎の「太陽の鐘」が設置されました。大阪の「太陽の塔」の前年に作られたのですが、しばらく眠っていて、岡本太郎美術館でも岡本太郎記念館でも「どこかに嫁入りさせたい」という話があったんですけど、前橋のこの一連の動きに共感してくれて、所有者である日本通運さんを含めて前橋に寄付してくれました。
そして設置のための修復費や設置費用を太陽の会で拠出して、現在前橋に太陽の鐘があります。
商店街も「めぶく。」というビジョンに非常に共感してくれて、例えば都内でレストランチェーンの総料理長をしていた方がポートランドに修行に行って、前橋で「GRASSA」というパスタ屋さんを始めたり、デザイン会社の社長が和菓子屋を始めたり、都内にしかなかった日本橋のお店を前橋に出してくれたりと、「めぶく。」というビジョンに引き寄せられるように前橋にいろんなお店ができはじめました。
田中:これ(写真参照)が白井屋ホテルのリノベーションしたラウンジの景色です。
外はグリーンタワーと言っていますが、もともと駐車場だったところに緑の丘を作って新しいホテルを作りました。
これ(写真参照)がもともとのリノベーションしたホテルです。
昨年亡くなってしまったローレンス・ウィナーというニューヨーク在住だった非常に著名なアーティストが、前橋をいろいろ分析して前橋に相応しいタイポグラフィを飾ってくれました。
このホテルは2020年12月にオープンして、自分たちはぜんぜん期待していなかったんですが、世界で特別な体験ができる39軒のホテルということで、「National Geographic Traveller Hotel Awards」に日本で唯一白井屋ホテルが選ばれました。
あるいはアメリカの『AD』という雑誌があるんですが、(過去1年間に開業した世界中のホテルの中で特に優れた)24軒の中に白井屋ホテルが選ばれたり、モナコで4,500軒の中から日本で唯一ホテルアワードに選ばれたり、海外で非常に評価を得ました。
これ(画像参照)は前橋の商店街の俯瞰図です。
これに限らずたくさんのプロジェクトが同時並行で進んでいます。左上に「MDC」とありますが、これは前橋の特徴的な組織です。
前橋のまちづくりは市長が変わるごとに常に振り回されてきました。振り回されるまちづくりをなんとかしたい、首長が変わっても変わらないまちづくりをしたいよねということで、商工会議所や民間と「前橋デザインコミッション」というものを作りました。ここに地域のかなりの有力者の方々が理事として名を連ねています。
この間の市長選では、例えば現職を応援する理事の方、対抗馬を応援する理事の方、第三者を応援する理事の方と、さまざまな政治的な支持者がいるんですが、今までだったら選挙で勝った・負けたで仲が悪くなったところを、まちづくりはノーサイドでいこうとみんなで約束しました。
市長選が終わってもノーサイドでまちづくりを行っているという非常に希有な組織ができたのが前橋の特徴じゃないかなと思います。
もう一方で、前橋はデジタルにも今かなり力を入れています。岸田政権がデジタル田園都市国家構想というのをやっていますが、その中でTYPE3というデジタルにより先導的なサービスを開発する土地の6ヶ所の1つに前橋が選ばれました。
前橋が特に特徴的なのは、「まえばしID」というスマホのSIMを使った非常にセキュアなIDを前橋の仲間が開発したことです。これが非常に低コストで、なおかつ安心なIDになるということで、現在では30都市以上の自治体が前橋のIDを使いたいと協議会を作りました。
明山:ありがとうございます。たぶん田中さんのこの活動はある意味一部でしかないところもあると思いますが、10分ちょっとでお話ししていただきました。
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