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企業経営から地域経営へ(全3記事)

JINS田中代表が考える、企業経営と地域経営の共通点 地域の「サステナビリティ」に必要なこと

「日本の底力」をテーマに行われた第3回「インバウンドサミット」。本記事では、ジンズホールディングスの田中仁氏、石見銀山生活観光研究所の松場忠氏、GOODTIME 明山淳也氏、そして一般社団法人Intellectual Innovationsの池尾健氏が登壇したセッション「企業経営から地域経営へ」の模様をお届けします。松場氏が石見銀山が世界遺産に認定されて感じた危機感や、田中氏が前橋の再生にハマった理由などが語られました。

前橋の変化につながったエネルギーの伝播

明山淳也氏(以下、明山):私のまとめなので年数が一部ずれているところがあったら恐縮ですが、2011年にモナコに行かれてから約10年でこれだけ大きく町が変化しました。私も2015年くらいからご一緒させていただいて、それをすごく肌で感じています。

次のパートにいく前に1つだけ質問させていただきます。10年でこれほどの変化をした中、今後の前橋にどんな未来を描かれているかをフリートークで一言いただきたいと思います。

田中仁氏(以下、田中):今、企業経営をしていますが、円安、資源高、いろいろ含めて日本はけっこうやばいなと思っています。これを変えなきゃいけない。たぶん政治も企業も教育も、自分たちの思いだけじゃなくて構造的に何か問題があるんじゃないかと思うんです。

これを前橋から変えていきたい。前橋が新しい風穴を開けて、日本の元気を作り出したいなとみんなで話し合っています。

明山:ありがとうございます。こう言ったら失礼かもしれないですけど、お会いした頃に「前橋は話せるところが何もない」とおっしゃっていたのが、これだけ新しいものが芽吹いて生まれてきていて、今田中さんの力強いお言葉を聞くと、前橋からさらに日本が変わってくる何かが生まれるんじゃないかなと期待しています。

田中:そうですね。

明山:ちょっと平たい言い方をすると、「こんなに変わるとは」と温度感としてはすごく感じました。

田中:やっぱり何事も本気でやれば変わるんですよ。明治維新もそうじゃないですか。

明山:はい(笑)。

田中:もっと大変だったと思うんですよ。

明山:そうですね。

田中:簡単に命がけや真剣勝負と言いますけど、人間のエネルギーはものすごいものを持っているなぁと。そして1人のエネルギーが周りに伝播して、たくさんのエネルギーになっていることを感じましたね。

明山:ありがとうございます。かなり短時間で駆け足でおさらいしていただきました。

暮らしと一体不可分の観光の取り組み

池尾健氏(以下、池尾):田中さん、ありがとうございます。では、松場さんお待たせいたしました。先ほどの話でもありましたが、島根県大田市の石見銀山で、もう少しマイクロになるかもしれないですが、暮らしと一体不可分の観光の取り組みをされているというところでお話をうかがいたいと思っています。

松場さんはなぜアパレル業から観光を始めたのかというところからお話しいただいたほうがいいかもしれないですね。お願いします。

松場忠氏(以下、松場):わかりました。私たちはもともと群言堂というブランドとして全国に30店舗ほどお店があり、日本のものづくりを大切にさせていただいています。島根県大田市大森町は人口400人の町で、先代の松場大吉の生まれ故郷だったこともあり、この町から世界に発信したいという思いがあってスタートしたのが創業の原点です。

今から約40年前にスタートしていますが、1980年代のバブル真っ只中当時で人口は500人と言われています。そういったところにお店を出すということで、相当変わり者扱いをされたというのは、よく酒の席で聞きます。ただ、「市街地の中に行くよりも、こういった場所のほうがきっと世界とつながれる」ということを当時描いていたということです。

基本的に今までずっと作って販売することをやってきましたが、石見銀山のある大森町までわざわざお越しいただいた方が本当にありがたくて、そういった方になるべく好きになって帰ってもらおうと考えたことが自分たちの活動の原点です。

その中で宿を始めたり、すごく人が少ない場所ですがカフェをさせていただいたりをずっと続けてきた結果、世界遺産になったり、今の地域のあり方がだんだん芽吹いた状況に来たと思っています。

私たちは地域に根ざした会社であるという自負がありますから、ただ物を作って売るだけではなく、その利益を使って地域がより良くなっていき、一緒に働く人や暮らす方、家族などに地域をより好きになってもらえるような取り組みをしていく。

そのためには、「国の光を観る」という観光で土地の良いところを光り輝かせて、多くの方に知っていただきたいということで会社を立ち上げました。

世界遺産になって感じた危機感

池尾:生活観光はアメリカとかでもどうやってローカルに入っていくかや、ローカルの生活や風土を守っていきましょうというのはあったりしますよね。

日本の小さな町で、奥さまのお父さまの大吉さん、お母さまの(松場)登美さんなどが中心になって住民憲章を作られたと思いますが、生活と観光、生活と商売が一体不可分ということに辿り着いた経緯や思いを教えていただけますか?

松場:大森町住民憲章は、実は世界遺産登録の時に町の人たちで話し合って決めたんです。「このまちには暮らしがあります。私たちの暮らしがあるからこそ世界に誇れる良いまちなのです。」と、この中には「暮らし」という言葉が何回も入っています。

世界遺産になった当時は人口400人から500人の町に、東京の竹下通りくらいの人が訪れていて、先ほどの古い町並みに人がわんさか溢れかえっていました。バスも通って、観光マナーが非常に悪い方々もいらっしゃいました。

それまでは人に来ていただくことがありがたくて、なんとか来てほしいと思っていましたが、これほど来てもらうと今度は自分たちの暮らしが危ないということで、非常に危機感を感じたんですね。

その時に単なる経済成長というか、観光収入の増加ではなくて、両立する方法をなんとか模索できないかを地域の中で散々協議しました。この理念が固まった後に、非常に危険度が増していた、町内を走るバス路線を廃止していただくように地域側で動いたりと、当時は抑制策を地域住民の活動として行いました。

ユネスコの世界遺産に登録されたのも、当時世界の産出銀の約3分の1を占めたといわれる日本銀のかなりの部分を産出した銀山跡だけではなく、自然との共生と文化的景観があったことで選ばれたんですね。

だからこそ、そういったことを住民として大事にすることは大切だよねということで、大森町の光り輝くところはこの町の暮らしなんだから、そこを見ていただくような地域づくりをしたいということで、「生活観光」という言葉に辿り着きました。

「人口400人の町なので、町の1パーセントがうちの子です」

池尾:松場さんはもともと石見銀山生活観光研究所の社長として活躍されていて、昨日から石見銀山群言堂グループの代表になったと思うんですが、堅く言うと事業承継的な意味合いとか、自己紹介でもありましたが奥さまのご両親がやられていたビジネスや取り組みを引き継ぐところがあると思います。

どのように引き継ぐのかについてお話しいただけますか?

松場:観光もものづくりも、綿々とつながってきたものの恩恵をすごく受けていると思うんです。ものづくりで言えば、今日本で残っているものは日本の気候風土に合ったものが最適化されて残っている。観光で言えば、この町を大事にしようと取り組んできた方々の綿々たる流れが今にあるんですよね。

そういった歴史を切らずに、アップデートしていくのがそれぞれの世代に課せられた使命だと思います。先代の時には地域づくりもやりながら物を作って販売することをやってきたと思います。これだけ世界中がつながってくる中で、物の品質自体はコモディティ化してきているんですよね。

そういった中でも信じていただけるものを買っていただくには、どんな実態があるブランドなのか、どんな生き方、暮らし方、ライフスタイルを目指そうとしているのかは非常に重要になると思います。先代や地域が大事にしてきた理念を受け継ぎながら、その中で時代に合わせた振る舞いをやっていくのが、今私の大事な使命だとあらためて実感しているところです。

池尾:答えられない部分があれば大丈夫なんですが、今お話しされた義務感や使命感を自分ごとに落とし込むにあたっての葛藤や決意はあったのでしょうか?

松場:私はもともと松場家ではないので、どうしてもよそ者のところはあったと思うんです。ただ、受け入れてもらって、その中でいろんな経験をさせていただいたことも非常に大きいです。

あと、僕には子どもが5人いますが、人口400人の町なので、町の1パーセントがうちの子です。自分たちの子どもがこの地域の中で愛されて育っていることを実感すると、先ほど刀の盛岡さんも大人の役割をおっしゃっていましたが、今僕らが果たさなきゃいけない役割があるなと。使命感と言ったほうがいいですね。

これまで守ってきてもらったこの環境が立ちゆかなくなる未来が予想される中で、これを放っておくことは自分たちの子どもや孫に無責任だなと思っています。そこはいいかたちで続けていきたいというのが本音としてあります。

地域がサステナビリティを目指すために必要なこと

池尾:では、この後はフリーディスカッションで、同じ質問を田中さんと松場さんに問いかけていきたいと思います。

どこからやる気が出るのか、みたいなところですね。事業体としてやっていくモチベーションはたぶん昔からあって、今回前橋市や大田市大森町という特定のエリアに力を入れていくと。田中社長は私財も投入されていますが、そのモチベーションについてもう少し教えていただけますか?

田中:自分もこんなになると思わなかったですね。これまで起業家の仲間200人以上を前橋に案内していますが、みんな「狂っている」と言います。

池尾:(笑)。

田中:自分でもなんでかなと思うと、地域はやればやるほど難しく、これを乗り越えたいと思ってがんばっているうちに、ハマっちゃったという感じですかね。よく、「田中さん、前橋愛がすごいですね」って……。ぜんぜん前橋愛なんかなかったですね。

(一同笑)

ぜんぜんいいと思わなかったんですけど、ハマって一生懸命やっているうちに前橋のいいところも気づきはじめたという感じです。

池尾:さっき糸井重里さんの「めぶく。」のお話がありましたが、田中さんと糸井さんの対談をこの前拝見しました。

「好きであることと、それが得意であること、センスがあることはニアリーイコールだ」と書かれていましたが、地域での取り組みやある意味周りから見たらクレイジーなこと、今までやってきたことは、センスがあると自覚されていますか?

田中:だからゼロイチを作るのが好きなんでしょうね。

池尾:特に地域振興や地域経営で明確に意識されているというよりは、衝動的な動機も含めてやらなければというところがけっこう大きいんですかね?

田中:そうですね。地域もサステナビリティでなければいけないじゃないですか。そう考えると、いつまでも1人で何でもやっていてはダメです。それぞれ分担して、またそこに新しい人が加わる。特に若い人とかね。

そういう意味では、何でもそうですけど、火をつける人、まきをくべる人がいて、新しいまきをどんどんくべることで、役割はいろいろ広がっていくんじゃないですかね。私は火をつける人だったんですよ。

池尾:なるほど。ありがとうございます。

まきをくべる人のエネルギーの源泉

池尾:松場さんにおうかがいしたいんですが、今の火をつける役と、火を広げる、連綿とつなげていくというところで、石見銀山群言堂グループでは大吉さんと登美さんとで、おそらく地元の人から狂っていると思われているような取り組みをされてきた。

松場さんは火をつけられちゃったほうだと思うんですが、その立場としてのエネルギーの源泉があれば教えていただきたいです。

松場:おっしゃるとおり、僕はまきをくべる担当というか、火をつけていただいたんですけど、僕らの場合は大吉さんも登美さんも地域に根ざしていますし、僕の妻や兄弟もみんな地域に根ざしています。他の松場家の家族はみんなパワーがあって、それぞれのミッションを追求できる人たちなんですよ。

環境が整っていないから周りが追いつかないというところがあるので、僕が環境を整えて、周りが追いつくような流れを作るきっかけができればいいなと観光の会社を立ち上げました。さっきの地域に入り込むことも1人で入り込むつもりはなくて、家族総出で役割分担しています。

例えば地域づくりにおいては、町の未来を考える共同体として「石見銀山みらいコンソーシアム」を立ち上げています。事業継承して、僕は会社の経営に集中しなきゃいけないぶん、先代の大吉さんが先頭に立って地域の若者を引っ張り上げながら、地元の方々との折衝もやってもらったりしています。

登美さんは町がより魅力的・素敵になるように行動を起こしたり、私の妻は移住者が今すごく増えている中で、子育てしやすい環境として放課後の子ども教室や学童の立ち上げをやっています。1人でやれることはもちろん限られているけど、家族やその地域の中でやっていければ、いろんなかたちでできると思います。

なので、家族全体で地域のことを自分ごと化して向き合っていけているのが、今非常におもしろい状況だと思いますね。

池尾:順番は逆かもしれませんが、生活基盤があってこその発展だし、生活基盤を安定させるために石見銀山群言堂グループとしての経済的な成立もあって、その両輪を意識しながらやられているということですかね。

松場:そうですね。実際お越しいただいた時にすべての整合性が立っていると、非常におもしろいブランドになれるとは思っているので、そこを目指しています。

ブランドにも「石見銀山 群言堂」と石見銀山をあえて入れていますし、社名も必ず石見銀山を入れています。僕らはこの土地で生きていくという覚悟のもとにやっていますから、そこ起点ですべてが成り立っている会社です。

池尾:ありがとうございます。

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