残業時間が減っても、むしろ業績はアップする

小室淑恵氏:みなさん、こんにちは。今日はご参加いただいて、本当にありがとうございます。私自身は、2,000社の企業のコンサルをしてまいりました。

結果から言うと、働き方改革のコンサルをやって、残業時間が25パーセント、多い企業だと75パーセントも減りました。そして、残業が減っても業績が下がらないどころか向上するということが、むしろコンサルした私たちも少し狐につままれたような、キョトンとすることがありました。

今日ご発表いただいた銚子丸さんも、最初は「業績が労働時間と連動して下がるんじゃないか?」なんて思われた時期もあったかと思いますが、過去最高益も出された様子も一緒に拝見してまいりました。その背景が山本(勲)教授のデータでもはっきりとわかって、あのデータを見た時には本当に感銘を受けました。

今日、私のパートでお話ししたいと思うのは「睡眠は個人の意識だけでは解決できない」という部分です。先ほどの山本教授のデータで言うと、勤める企業によって1時間も自分の睡眠時間が変わってくるということでした。それをどう解決していくかが、私のパートで課された部分かなと思っております。

最初にいくつかの企業の事例をご紹介しておきたいと思っています。実際に働き方改革をした企業の業績は、どうなんだろうか。おそらく今日ご参加のみなさまは、「睡眠に関する自分の問題意識を組織に伝えたい。けど、組織側には『業績はどうなるんだ?』と問われちゃうんじゃないか」と思われていると思います。

人事評価に「生産性評価」を取り入れる企業も

実際に企業事例があるとパワーになるんじゃないかなと思って、5つほどご紹介したいと思います。

誰もがご存知の住友生命さんは従業員数が4万人ですが、もう5年ほどコンサルをさせていただいております。2019年に、勤務と勤務の間を一定時間空ける「勤務間インターバル」を9時間導入していたんですが、もう一段階上げましょうということで、11時間に変更しております。

そして、これもいろんな話し合いの中で「よし、やろう」ということになったので、評価を変えました。すごく画期的で、(スライドに)具体的な図を入れておいたんですが「生産性評価」といいます。

今までは、売上などの業績の数値の高い順にAさんからEさんを10点、9点と並べて評価をして、1位、2位としていました。そこに対して、かけた時間が長過ぎればマイナス1点、短い人にはプラス1点という生産性ポイントを加味すると、順位が入れ替わりました。

時間当たりの生産性の高い人に高い評価がつくという、こうした評価にまで踏み込んで、組織全体で意識をガラッと変えました。結果、総労働時間も大きく減少しましたし、男性育休取得率も現在100パーセント、かつ2週間以上育休を取得している方の割合もグンと伸びていて、基礎利益も11パーセント増えている会社です。

仕事の属人化解消で、残業が一日あたり3分に

次にサカタ製作所さんです。「小さい企業には無理でしょ」とよく言われるんですが、従業員数155名で、新潟県の雪深い地域にある、屋根の金具を作る製造業の会社さんです。2014年に講演に行かせていただいた時に、坂田(匠)社長が感極まり、「よーし。明日から残業ゼロだ!」と言ったんですが(笑)。「明日から」というわけにはいかなくて、2年かかりました。

しかし、この2年の間に仕事を見える化・共有化、属人化の解消を徹底してやっていかれて、なんと今では月平均残業時間が1人当たり1.2時間。つまりこれは、(残業時間が)一日あたり3分ということです。

仕事の内容を見える化して、「1人の屈強なプレーヤーが最初から最後まで走りきってトライ!」というプレイスタイルでやるんじゃなくて、お互いの仕事をサッと取って代われるよう、チームでパス回しを美しくしていって、みんなでトライ数を増やしていく組織に変わりました。

そうしたところ、なんと男性の育児休業取得率も100パーセント達成し、ほぼ平均1ヶ月取れています。業績は堅調であり、なんといっても一番驚いたのは、従業員のご家庭に生まれた子どもの数が4.5倍に増えたことです。これを国単位でやっていけば、もっと少子化が解決するのに、なんて思っています。

残業時間が減り、若手社員のモチベーションも向上

アイシンさんは、トヨタグループで大変有名な企業の1つです。一番力を入れてやったのは「関係の質」、つまりお互いがフラットに話し合えるということを、管理職も含めて全員に研修させていただきました。

今日は時間がないのでたくさんはご紹介できないんですが、「朝夜メール」「カエル会議」という、弊社のスタンダードな働き方改革のツールをしっかり使っていただいています。

なんと平均残業時間が75パーセント削減でき、総労働時間でいうと1,800時間まで減らすことができたんですが、むしろ主業務、利益を生み出す主業務にかける時間は74パーセントに増やすことができた。

(スライド)右下に社員の方の写真が入ってるんですが(笑)、当時の社長の伊勢(清貴)さんが大変喜ばれたのは、若手がすごく活性化して、早く帰宅でき、家事を手伝うようになったことで妻に大変喜ばれ、仕事のモチベーション向上につながったことです。

最初は、「残業時間が減って残業代が浮くのがうれしいのかな?」と思っていたけれども、「若手が活性化してイノベーティブになってきたことが、最もうれしいことなんだよ」と、当時伊勢社長がおっしゃっていたのが大変印象的でした。

徹底した「睡眠」推進で、産業医の訪問者が4割も減少

また、士業のみなさんは働き方改革は非常に難しいと思われることあるかと思います。あずさ監査法人さんは、かつては「時間をかけてでも馬鹿力でやりきる」という、すごく気合いの入った会社さんだったんですが、非常にしっかり決断をされて、20時以降は社内ネットワークには接続できないようにしようと。

監査仕事はネットワークに接続しないとできませんので、仕事ができない、ちょっと不便な状態にしてしまう。どうしてもがんばり屋さんが深夜までやってしまうからということで、それぐらいしてでも、夜の時間帯にきちっと睡眠が取れる状態を作ろうと、水曜日は19時まで、他の日は20時までに制限をしました。

その結果、上司に対して「ワーク・ライフ・バランスをサポートしてくれる」と感じる方の割合が非常に増えたことと、一番驚いたのは、うつ病や体調不良で産業医を訪問される方が4割も減ったこと。「これ、何をやったんですか!?」と産業医さんが大変驚いてくださいました。こうした、大きな変化が出ました。

オンワードホールディングスさんはアパレルですので、コロナ禍は大変厳しかったです。デパートも閉まる中で、売上減も非常に起きていたんですが、その中でも果敢に働き方改革に取り組まれました。右上に入ってるのが「カエル会議」の様子です。

トップも中に入って一緒になって、それまではトップダウンマネジメントだったものを、メンバー主体のボトムアップのマネジメントに変えました。通常は言いにくいような意見も、オンラインで毎週「カエル会議」をやって、社長もオンラインで参加する。

「本当に自分たちが減らしたい仕事は何なのか?」「DXしたいことは何なのか?」を実現していかれました。65パーセント残業を削減しまして、なんと「幸福度が高まった」が84パーセント、「風通しが良くなった」が100パーセント、男性の育休取得率が2.5倍になり、休日取得は110パーセントになりました。

コロナ禍で百貨店が閉まった中でも、各自がかなり自律的に考えた結果、「そうだ、ネットで買える『オンワードクローゼット』の売上は自分の店舗の売上じゃないけど、そこに対してももっと力を入れよう」となり、売上が3倍になったことで四半期は黒字転換をされた会社さんです。

忖度が起きている職場ほど、残業時間は長くなる

他にも、岩手県の(従業員数)35名の空調の修理会社さん、信幸プロテックさん。残業時間を15パーセント減少しながら、利益率273パーセントの成果を出されました。さっきちらっと触れた「朝夜メール」と「カエル会議」は、後ほどぜひ本などで見てみてください。

「朝メール」には重要な機能があって、ご自身の仕事の時間の中に「ここからここはインターバル。あなたは仕事を入れちゃいけない時間帯だよ。前日の退勤から11時間経ってないよ」と黒塗りで表示されて、自分にも上司にもしっかりアラートが見えるかたちになっています。

朝一番に一日の時間を30分単位で戦略を立てて終業後に振り返ったり、また、「カエル会議」の手法で、職場の課題を付箋に書いて、忖度なく、無記名で出し合ったり。さらに言うと、「カエル会議オンライン」という完全に筆跡もわからないツールでは、みんなでオンライン上で「同時に」「無記名」でアイデアを出すということを各企業でやらせていただきました。

口頭で会議をしていて、誰かが「会議が長いですね。これ減らしたいですね」なんて言うと、「長くないだろう。俺の話が長いっていうのか?」と上司に言われて、もう「シーン……」ですね。なかなか働き方改革の本当の課題を出すことはできない。職場でこういった忖度が起きている企業ほど、残業が長いという傾向があるんですよね。

でも、この「カエル会議オンライン」だと、誰が書いているかがわかりませんので、若手がすごい勢いで書きます(笑)。そこにお互いが「いいね!」をつけ合いますので、「自分が思っていたことは、みんなも思っていたんだ」となり、みんなが一番やめたい業務がクローズアップされて見直しの優先順位が上がります。

「月単位」ではなく「一日あたり」の睡眠がカギ

よくやる働き方改革では、手っ取り早く業務をやめられるけど、「本当はその仕事がおもしろくて大好きなのに」という、やめたくない仕事からやめさせられちゃう働き方改革もあります。これは、すごくモチベーションが下がります。

本当はやめたいけど言い出しづらい仕事内容をきちっと出して、上司も向き合って、「じゃあ、思い切ってやめていこう」と意思決定をされていくといいのではないかなと思います。

まとめますと、2,000社の企業をコンサルしてわかったことは、働き方改革の成果を月間残業時間でまるっと管理して、月末になって「おお、ちょっと超えそうだぞ。やめとけ」というふうになっても、業績向上にはつながりませんでした。

睡眠に着目した企業では、不定愁訴やアブセンティーズム(心身の体調不良が原因でパフォーマンスが上がらない状態)が減っていました。

それから3つ目は、月間残業時間ではなく1日ごとのインターバル、そして睡眠に着目して促進した企業では業績が上がっていること。そして大事なのは、上司も含めて働き方改革を行った企業では、若手のワーク・エンゲージメントの向上、離職率の低下といった効果が表れている。こんなことが、傾向として弊社の中ではわかってきています。

つまり、「まとめて月間で何時間残業減ったか」ではなくて、どうやら「一日ごとの睡眠」が鍵らしいということです。

やみくもな働き方を脱し、「睡眠時間」を確保する働き方へ

そのために、3つポイントをまとめておきました。1つ目は、従業員本人が自分の睡眠に高い意識と知識を持つこと。というのも、残業を減らしても、帰宅してから充分に睡眠を取らない人もいっぱいいるんですよね。「そこまで会社が関与できないよ」となると思います。

睡眠が自分のパフォーマンス、または人生100年時代のQOLにどれほど意味があるのかという、知識と意識を持つことが大事です。これはもう、ニューロスペースさんにしっかりと研修をしていただくことをおすすめします。

そして2つ目に、本人は休息を取りたくても、上司・経営層が理解していなければ、会社の働き方が変わらない。上司・経営層が「睡眠が業績向上に直結する経営戦略である」ということに気づいて、やみくもな働き方から、「一日ごとの睡眠確保を実現する働き方改革」に1歩ギアを上げて、レベルを上げて脱皮していただくことが大事です。

そのために3つ目は、今日は人事の立場でご参加されてる方もいらっしゃると思うんですが、一日ごとの睡眠を確保するなんらかの制度や仕組みを、なるべく自社の風土に合ったかたち、もしくは業種・業界に合ったかたちで導入をしていくことが大事ではないかなと思っております。