職場の「雑談会」がうまくいかないわけ

司会者:せっちゃん(岩村誠司さん)、しろくま(水谷忠央)さん、お二人ともありがとうございました。

水谷:ありがとうございました。

岩村:ありがとうございました。

司会者:ご受講のみなさまも長丁場ありがとうございました。お二人のこの講演を聞いた後のアンケートでは、職場における「心の健康」について「イメージがわかない」だとか「必要がない」という項目に誰も入れていませんでした。うれしいかぎりですね。

岩村:うれしいですね、本当に。

司会者:みなさんに聞きたいことがありますので、またアンケートをさせていただきます。今日のセミナーを聞いて「心の健康」への興味・関心はいかがでしたでしょうか? 何か変化がありましたでしょうか?

みなさんに投票いただいている間に、チャットのほうを読み上げたいと思います。「プログラムの導入による効果の実例や資料があるなら知りたいです」。

水谷:わかりました。個別で送る感じになりますが(笑)。論文は数本あるので、その図であればたぶん送ることができると思います。

司会者:あとは「前の職場で『雑談会』というコミュニケーションの時間があったけど、効果がなかったなあ」という感想をいただいています。

水谷:そうですね、せっちゃんのお話にもありましたとおり、価値観とか深いところまでいく話をして自己開示したほうが、やはり職場の環境は変わるのかなと思いました。せっちゃんはどうですか?

岩村:そうですね。雑談会のようなかたちであれば、話を引き出したり、緊張したり話が苦手だったりする人にうまく質問をしてあげたり、フォーカスを当ててあげるようなファシリテーターが1人いる環境のほうがいいのかもしれないですね。

「職場不作法」を受けた人は、自己肯定感も下がる

司会者:他には、「自分がダメだから注意されるんだ、私がもっとしっかりしなきゃ、と自分を責めることもありました」といただいています。

水谷:なるほどね。「自分を責める」というのを、例えば「自己肯定感が下がってしまう状態」として考えてみます。実は今日読んだばかりの論文があるんですけど、そこでどんな研究がされていたかというと、「職場不作法を受けた人は自己肯定感も下がる」というものでした。

職場に関する自己肯定感、要は「この職場にいる私はすごい」という感情なんですけれども、それが(職場不作法を受けると)下がってしまうんですよね。そこから「私、この職場にいてもいいのかな」という感じで辞めてしまう可能性も出てくる。職場不作法が自己肯定感にも影響してくるところがあると思いますね。

司会者:ありがとうございます。アンケートの回答が出ましたので共有させていただきます。お二人とも、うれしい結果ですね。

水谷:ありがとうございます、よかったです。もう次もやりたいぐらいうれしいです(笑)。

岩村:そうですね(笑)。

司会者:一番多いのが「もっと話を聞きたい」。圧倒的ですね。どんどんチャットに質問がきているので、読み上げていきますね。「こういうセミナーはもっと聞いてみたいです」。

水谷:ありがとうございます。

人はコミュニケーションを学ぶ機会がない

司会者:「心意気や美徳を盾に職場不作法が繰り返される組織の経営層には、なぜ対策が必要かを理解してもらう・興味を持ってもらうのに、損失面からの提示が効果的だと思います」。

水谷:ありがとうございます。そうですよね、例えば最初の話であった、日本全体でどれぐらいのお金の損失が発生してるのかというところから、会社や個人だったらどれくらいかなとか、1人でどれぐらいかなというのは計算できると思います。そのあたりを見せたらインパクトがあると思いますね。

司会者:続いて、「職場不作法はアンガーマネジメントに通ずる部分があると思います」。

水谷:アンガーマネジメントが例えばどういったものかという話に関わるんですけれども。職場不作法をしてしまう前に、自分で「これは職場不作法だ」と気付けたり、自分の怒りを抑えられるのであれば、職場不作法は生じないと思うんですよね。そういう意味ではすごくおもしろい指摘だと思いました。ありがとうございます。

司会者:「本人には言わずに、私に不満を言う方がいて、言い方が強く聞いていて疲れてしまいます。この研修を受けてほしいです」。

水谷:(笑)。確かに不満を本人には言わないというのも良くなくて、実はひそひそ話も職場不作法の定義の中に入っているんですよね。そういうコミュニケーションには、噂話や鬱憤ばらしでしゃべっちゃうということもあるので、まさにこの状況は職場不作法に当てはまると思います。私もぜひお話したいです(笑)。

司会者:せっちゃんはどうですか?

岩村:人って、コミュニケーションを学ぶ機会がないんですよね。自分が何を望んでいるのかを「ぶつける」という方法でしか言えないのは、むしろ当然になってしまう。仕組みの問題もあると思います。

こういう研修とかコミュニケーションの勉強がもっと早い段階で学べるようになれば、遅かったとしても新入社員研修や管理者研修で本質的な学びがもっと増えたらいいなって、強く思います。

「自分は大丈夫」と思っている人ほど危ない

司会者:ありがとうございます。次は「自分が意識、意図していなくても、周りや相手が負担に感じるかもしれない」。

水谷:そうですね。これこそ職場不作法の定義そのものだと思うんです。例えば、怒ったり職場不作法をやっている本人には、あまり意識はないんですよね。意外と周りの人にも、その人が職場不作法をやっているとわかっていない状況がある。

なので、周りの人にも研修とかセミナーとかを受けていただいて、自覚を促せるようになれたら、すごい職場環境も良くなるのかなって思いました。

司会者:せっちゃんはどう感じましたか?

岩村:この意識を持たれてる質問者さん、すごくないですか?

水谷:そうですよね。

岩村:むしろ、こういう意識を持っている方は、自分にそうやって意識を向けて、「こう言ったら、相手にちょっと負担になっちゃうかな」って感じてらっしゃるので、むしろ大丈夫なんですよ。逆に、「僕は大丈夫でーす」という人が危ないんですよ。

水谷:そうそう(笑)。

岩村:わかりますかね。みなさんの近くにいらっしゃるかもしれないけど。だいたいそういう方は「大丈夫でーす」と言うんです。逆にこういう「自分が職場不作法をしているかもしれない」と考えられる方は安心しますよね。本当にすばらしいと思います。

水谷:ただ僕が心配してるのは、こういう方ほど自分で抱えちゃってしんどくなるので、相談してほしいなとは思います。自覚があるがゆえにしんどくなってしまうパターンもあると思う。そういう時こそ頼ってほしいなと思います。

「信頼関係の5段階」を営業先で活用

司会者:ありがとうございます。あとは、「導入した効果について、少しだけでもお話しいただけませんか。お聞きしてみたいです」。こちらは、実例についてですね。

水谷:せっちゃんと私、どちらへの質問ですかね? 両方とも?

司会者:両方ともお願いします。せっちゃんからお願いしましょうか。

岩村:そうですね。今日の僕の講演は1時間半ぐらいの研修の前半部分を抜粋してるんですけど、その長いほうを導入いただいた企業さまで、「職場改善にプラスして営業でもすごく効果が出ました」とおっしゃってくださったところがありました。

信頼関係の作り方、特に営業相手先の会社さまと、警戒とか疑心の段階のところが多いんですよねとおっしゃっていて。その時に、共通点を探すとかメリットを伝えるということをしていて、実は逆効果なことをすごいしてました。

営業する中で「今日はどの段階だった」というのが社内の共通言語として出るようになって。むしろそれがきっかけで、「相手先との関係性だけじゃなくて、同僚の自分たちもちゃんと気をつけないといけないって思ったよね」と、それぞれで話すことがあったみたいです。

自分たちのコミュニケーションを見直すことで、空気がよくなった。つらそうな方を見つけた時に、ちょっと声かけを工夫したり、自分から声かけるようにしたというお声をいただきました。「信頼関係の段階」の考え方はいろんなところに使えるし、自分ごととして捉えていただけるところが、実践としてすごく使いやすいんじゃないかなと感じましたね。

職場不作法に対して、1人が気をつけるとみんなに波及する

水谷:今のせっちゃんのお話でおもしろいと思ったのが、1人が気をつけるとみんなに波及するというところです。まだはっきり証明はされてないと思うんですけど、論文の中で、改善プログラムで重要なことの1つとして「職場不作法に対して意識が高い人が生まれたら効果は高まる」と言われてるんですよね。

これは仮説段階なんですけれども、そのプラスのスパイラルを生み出すことが大切なのかな。あるいは「ロールモデル」とは言いすぎかもしれないんですけど、そういう人が1人できれば、研修としてはすごく充実するのかなと思いました。

僕が紹介した職場改善プログラムに関しては、日本でも事例があります。東京大学医学部付属病院で、プログラムを導入する3ヶ月前と導入した3ヶ月後を調べたら、導入した後のほうがお互いの会話も増えたんです。

ただ、日本ではあまりこのプログラムはまだそこまで広まっていない。日本語マニュアルも一応あることはあるんですけれども、これは最近できたものですね。

司会者:お二人ともありがとうございました。

質問者:ありがとうございました。聞けてよかったです。

水谷:ありがとうございます。

経営・マネジメント層まで含めて、チームで効果を波及させる

司会者:次のコメントです。「会社の部署、それよりも小さいチームで波及させていくと良さそうですね」。

水谷:研究では小さいチームの場合も大きなチームの場合もいろいろあるんですけれども、小さいチームだと効果が従業員さんだけに偏ってしまう印象があります。経営者やマネジメント層も含めるという意味では、少し大きくてもいいかもしれないですね。

ただプログラムをする場合、大きいチームの中でチーム分けをして、少人数で当たるというやり方はあります。小さいチームで1つロールモデルができて、そこから波及していくというのもありですね。

岩村:どのチームでもできるといいですよね。

水谷:そうですよね。チーム同士がより結束して広がっていったら、研修効果としてより高くなると思いますね。

司会者:ありがとうございます。次は「『勉強してきたのに今まで何をしてたの? それできてないじゃん。やる気あるの?』と詰められたら、パワハラと捉えていいのでしょうか。私の心が弱いからそう捉えてしまっただけなのか、自信がないです」。

水谷:先ほどと同じような答えになってしまうんですけれど、この「今まで何をしてたの?」「それできてないじゃん」「やる気あるの?」という詰め方は、まさに職場不作法の典型になってしまうんですよね。

「パワハラ」はこれよりももう少し上司側に悪意があったり、「傷つけてやろう」っていう意図があるので。この事例を読むかぎりは、(職場内の優位性を背景とした)パワハラというより、職場不作法に当たるのかなと思います。

ただ、本人にとってはつらいことだと思いますし、パワハラでなかったとしても、ある程度相談できたほうがいいかなと私は思いました。

心が傷ついたときは「何を傷つけられたんだろう?」と自問する

岩村:僕からコメントしても大丈夫ですか?

水谷:どうぞ、どうぞ。

司会者:もちろん、負の感情からの守り方など、ぜひ。

岩村:ありがとうございます。「私の心が弱いからそう捉えてしまっただけなのか」というところに、すごく悩まれてるのかなと聞いていて感じました。僕は「そんなことはないです」と強く言いたいです。

みんな心に強いとか弱いとかはないんです。やっぱり(誰しも心は)傷つくんですよね。こういったセリフを言われて傷つかない人はいない。自分に問いかけをするようなイメージで、まずは「傷ついたんだよ」ということを自分自身で認めてあげてほしいなと思います。自信を持ってください。

あと、心を守る術として、「今まで何をしてたの?」「やる気あるの?」と言われると傷つくし、自分の何かが損なわれた、傷つけられた感覚があると思うんですよね。自分の尊厳かもしれないし、自分のスキル・能力への信頼かもしれないし、時間への投資かもしれないし。

「何を傷つけられたんだろう?」と自分に問いかけをしてみて、「私自身を傷つけられたって思ったんだな」とか「能力が疑われたように感じたんだな」とわかったら、最後に「そんなことはないんだ」と思い出してください。

いろんな「居場所」を作って心を楽にする

岩村:もしくは他のところでそれを発揮してみるとか。いろんな「居場所」を作っていただくと、すごく心が楽になるんじゃないかなと思います。ぜひ試してみてください。

司会者:ありがとうございます。質問者さんから「お二人ともあたたかい言葉ありがとうございます」とコメントをいただきました。こうやって救われる人がもっと増えていくといいですね。

水谷:そうですよね。

司会者:ではこちらで質問を締め切らせていただきます。せっちゃんもセミナーをされているんですよね?

岩村:はい、僕も毎月イベントをやっております。

司会者:今後もTwitter等で発信をしていきますので、ぜひチェックのほどお願いいたします。まもなく22時となりますので、本日のセミナーを締めさせていただきます。ご登壇いただきましたお二人、また、長丁場の中ご聴講いただきましたみなさま方、本当にありがとうございました。

岩村・水谷:ありがとうございました。