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心の専門家ふたりが贈る「職場環境づくり」セミナー(全4記事)

職場での「詰める」行為は、周りの人の生産性・創造性も下げる 「職場不作法」の悪循環を断ち切る、対策のポイント

働く人たちのメンタルヘルス(心の健康)について、近年注目が集まっています。職場の人間関係で抱える「もやもや」とその解消法について、心の専門家2名がそれぞれ講演を行いました。本記事は“しろくまさん”こと水谷忠央氏の講演パート後半をお届けします。本人に悪気はないけど相手を傷つけている「職場不作法」が、受けた本人だけではなく職場全体へどう影響しているのか、対策する上でのポイントなどが語られました。

「職場不作法」は、見ている周りにも影響する

水谷忠央氏(以下、水谷):ここまでは(職場不作法による被害者)個人の影響を見てきましたが、実は目撃者への影響もあるんですよね。先ほどご質問にあったとおり、この職場不作法は見ている周りにも影響するよという実験研究があります。

どんな実験をしたのかと言うと、まず複数の実験被験者の方に、1つの実験室に集まってもらいます。その後に、ニュートラル条件と職場不作法条件を分けて、職場不作法を見ているか見ていないか(でどういう違いかあるかという比較をします)。

例えばニュートラル条件であれば、「今から実験が始まります」と言われます。そこで実験室に役者さんが遅れて入ってくるんです。その役者さんに対して、実験者は「遅れてこられましたね。今回はもう始まっていますので、ちょっと遅れてですけどやりますか? それとも辞退されますか?」という感じで対応するんです。これが普通に終わる条件ですね。

一方の職場不作法条件は、みんなに詰め寄るところを見せた条件なんですね。遅れてきた役者さんがまず「すいません。先ほどの講義がちょっと長引いて遅れてしまいました」と言う。すると実験者が「そうですか。今回はもう始まってしまっていますので、辞退という手続きをとらせていただきます」と。

そして「遅れてくるということに対して、キミはどう思っているのか。時間の感覚はどうなっているんだ」と、詰め寄る場面を作るんですよね。それを見た被験者さんたちには、それぞれのシーンを見終わった後に、2つの課題をしてもらいます。

職場不作法は、組織全体の仕事のパフォーマンスや創造性を下げる

水谷:1つはアナグラム課題といって、例えば、「ト」「ト」「マ」を並び替えたら「トマト」になるというように、文字を意味のある単語にするという課題をさせます。

もう1つは、創造性課題、クリエイティブな課題です。L字型のブロックを使って「このブロックの使い方をたくさん考えてください」という課題で、よくある答えだと、L字型だからトンカチのように使えるなとか、L字型のLの部分を使って杖になるなという感じです。L字型のブロックの使い方をたくさん挙げてもらうというのが、創造性課題です。

ニュートラル条件を見せた時と、職場不作法条件を見せた時で、課題成績にどういう影響が出るのかを示したのが、こちらになります。

これで一気にわかるかもしれないですが、こちら(左)が仕事パフォーマンス、要は文字の並べ替え課題をさせたもの。こちら(右)の図が創造性課題、ブロックの使い方をできるだけ多く考えさせる課題をさせた結果になります。点線は無視でかまいません。

縦軸が成績です。上に行くほど成績が高いことを示しています。右側の場合は上に行くほど、クリエイティビティ、創造性が高いことを示しています。横軸の左側がニュートラル条件、右側が職場不作法条件。右の図も同じです。

もう一目瞭然なんですけれども、ニュートラル条件と比べて、職場不作法を見たほうが、仕事パフォーマンスはすごく下がるんですよね。これは創造性課題でも一緒で、めちゃくちゃ下がるんです。

この2つの結果から何がわかるかと言うと、職場不作法を受けている本人だけではなくて、職場不作法を受けているのを見ている周囲の人々にとっても、実は仕事のパフォーマンスが下がったり、新規案件とかアイデアがぜんぜん浮かびませんという問題が出てきてしまうんですよね。職場環境の良さが、会社全体や組織にも影響しますよということを、ここでは示しています。

病気のリスクにもつながる

水谷:この影響は、実は病気のリスクにも関わってくるんですよね。本人のパフォーマンスとか怒りといった感情面だけじゃなくて、健康面にも影響を与えるんだよというのを示したのが、こちらの図になります。

縦軸が、病気になりやすいリスクの度合いを表しています。横軸はこの赤とか、黄色とか、緑で示されているんですけど。昨年1年間に、きつい言葉やきつい口調で言われたなという、言葉の暴力を受けた回数を示しています。

左側の赤が、去年1回ぐらいしかそういうのはなかったという場合。2、3回そういうきついことあったなというのが黄色。4回以上、頻繁にあったというのが緑です。

ちなみに、うつ病のリスクを示しているのは、この(それぞれの色の)一番左側の1番です。うつ病の度合いだけを見ていくと、まず1回目に関してはそんなにリスクは高まらないかな。でも2回、3回受けていくと、ほぼ2を超えているので、リスクは2倍になっていくんですよね。

4回以上頻繁にあるという場合ですと、ほぼ4ですよね。2倍の倍、さらに倍々にリスクが増えていくことが、この図からわかります。職場不作法は、本人の仕事の意向にも関わるし、見ている周囲の人にも悪影響を及ぼす。健康にも負担がかかるというのがわかりました。

小さな不作法から大きな損失への悪循環

水谷:では、みなさんにお聞きします。みなさんの周りでも職場不作法の影響があると思うんですけど、対策が必要だと思いませんか? 1番「今すぐ対策は必要ない」、2番「すでに対策している」、3番「対策が必要だ」、4番「今すぐ対策が必要だ」。直感でお答えいただけたらと思います。

実は、この職場不作法に関しては、この3つだけじゃなくて、例えば疲れとか、そういうものにも影響しているという研究があるんですよね。職場不作法の場面を見たら、気を遣ったりするじゃないですか。それによって感情が高ぶったり、あるいは感情を抑制するために気を遣い疲れちゃう、という話があります。

司会者:チャットにもいろいろ寄せられています。例えば「どうして○○さんのようにできないの? と同僚が言われているのを聞きました」。

水谷:これも職場不作法ですね。何か比較している場面もそうですし、そもそも怒られている場面をみんなの前で見せているというのもありますよね。

司会者:「小さな不作法から人的・経済的な大きな損失へと悪循環に陥ってしまいますよね」。

水谷:そうなんです。「悪循環」というのが大事です。職場環境が悪くなったら、余計にマイナスが重なっていくという研究もあったりするんですよね。

まずするべき対策は「本人の心理的ケア」

司会者:被害者のグラフのところで、「意外にも上司が被害者のパターンが多いんですね」という意見いただいてます。

水谷:そうですね。上司が被害者というパターンも、実はあんまり表面化していないんですけど、あると聞いております。

司会者:「日本人は人が良いと言われているけれど、それは忍耐だよね」というコメントもいただきました。

水谷:そうですね。本人はやっぱりつらいですからね。

司会者:では、アンケートの結果を共有します。

水谷:90パーセント以上の人が「対策が必要だ」とおっしゃっています。すでに対策をしている企業さんや個人の方々も、1割ぐらいいらっしゃるんだなと聞いて、おもしろいなと思いました。

では最後に、実際の対策のお話をしたいと思います。職場不作法には今すぐにでも対策が必要です。でもまず必要なのが、本人の心理的ケアについてです。まずは被害者本人のケアが大切なんですね。特に、気軽にカウンセリングとか相談ができる場が必要なんじゃないかなと私は思っております。職場においても、できるだけ早く、できるだけ気軽に相談できたら一番いいかなと思っております。

「マネージメント層の意識改革」の有無で変わる効果

水谷:実はこの職場不作法に関して、先ほど「対策している」と答えていただいた方もいらっしゃるんですけれども。この対策に必要なのは、まず職場不作法への理解なんです。特に経営者層とか、マネージメント層からの意識改革が非常に大事になってきます。

それを示したグラフがこちらです。縦軸が、職場不作法への対策をして、それがどれぐらい効果がありましたかというのを示しています。上に行けば行くほど効果が表れているということを示しています。

そして、どんな対策をしたのかというのが、こちら(横軸)の3つですね。一番左が、これはよくあることなんですけど、相談窓口だけを設置しました、苦情処理だけをしましたというもの。

マネージメント層とか、経営者層の方々に、セミナーとか研修をしましたよ、トレーニングをしてもらいましたよというのが真ん中です。

一番右は、従業員層の方々ですよね。マネージメント層とか、経営者層からちょっと下の方々に、職場不作法とは何かという研修とか勉強会、あるいは、トレーニングを受けてもらった結果になります。

そうすると、もう一目瞭然なんですが、やっぱりこのマネージメント層からの改革が必要なのかなと思っております。

パワハラも職場不作法も、本人にとってはつらいもの

水谷:最後にアンケートをお願いします。そもそも、対策のやり方がわからず困っている方がいらっしゃると思うんですよね。なので、こういう経営者とか管理職を含めたセミナーが必要だと思いませんか? というのを、最後にちょっとみなさんにお聞きしたいなと思っております。

意外と従業員層だけで終わるパターンが多いので。やっぱり、経営者さんとか、マネージメント層が、ここで大事になってくるというのがわかったので。そういうところに対して、やっぱり研修とかそういうのが必要なんじゃないかなと私は思っております。

司会者:リーさんから質問がきています。「勉強してきたのに、今まで何をしていたの? これができていないじゃん。やる気あるの? と詰められてもパワハラと捉えていいのでしょうか? 私の心が弱いからそう捉えてしまっただけなのか、自信がないです」。

水谷:はい、ありがとうございます。パワハラと言うとちょっと強い言葉になってしまうんですけれども。おそらく、職場不作法には当たるかなと私は思っております。

パワハラに関しては、やっぱりケースバイケースというところはあると思うんですけど。本人はやっぱりつらいですよね。なので、相談とか、ケアとか必要かなというところと。

あとは、会社で問題になってくるのが、意外と経営者さんとかマネージメント層の方々の意識改革がまだうまくいってないよというところをよく聞きますね。

職場改善における「第三者の介入」の重要性

司会者:はい、ありがとうございます。結果が出ましたので、共有させていただきます。

水谷:はい、お願いします。ありがとうございます。ああ、すごいですね。「必要ない」という方がゼロというのがよかったですけれども(笑)。あとは、やっぱり「必要だ」とか、「今すぐ相談したい」という方もたくさんいらっしゃいますよね。「必要だ」に関しては、8割の方々が答えてくださっています。

やっぱりそれぐらい急務な課題かなと僕も思っています。

最後に、職場不作法に関しては、やっぱり第三者による介入が必要なんじゃないのかなと思っています。

例えば、先ほどアンケートでありました、「うちは職場不作法に対して対策している」という方々もいらっしゃるんですけれども。やっぱり、最初の厚生労働省の研究を見てみると、あまりうまくいっていないパターンが散見されるかなと思っています。

なので、これは専門家による、科学的に効果が確認されている職場改善プログラムというのを実施する必要があるんじゃないのかなと私は考えております。

この職場改善プログラムに関してなんですけど。もう2010年ぐらいから研究論文が出ていて、複数研究が発表されているぐらい、効果があると言われているんですよね。もちろん、すべて効果があるというわけではないんですけれども。

具体的にはどんなことをするのかと言うと、人々のコミュニケーションを促進するというかたちなんですけれども。先ほど、せっちゃんのパートで、価値観についてお話しするとか、価値観を共有するというお話が出ました。

ここでコミュニケーションするというのは、単に雑談とか、ワハハハという笑い話をするというわけではなくて。人間の奥深いところですよね。価値観であったり、あるいは、その人の気持ち、その人のバックグラウンド、背景ですね。「私はこれまでこういうことを経験しました。だから、こう考えています」みたいなことを、みなさんで共有できたら、すごく効果があると言われています。

なので、第三者、心理の専門家とか、あるいは、脳とか、精神医学の専門家による介入が一番大事かなと思います。

以上が私の発表内容となります。

最後に参考文献だけあげさせてください。私の発表に関しては、過去の文献から引用させていただいております。なので、こちらを少しだけ示させてください。

以上になります。みなさん、ご清聴ありがとうございました。

司会者:ありがとうございました。質問がきていますので、後ほどちょっと読み上げさせていただきたいと思います。

水谷:はい、お願いします。

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