家族型ロボット「LOVOT」の挑戦

司会者:では、本日のイベントの登壇者のお2人をご紹介させていただきます。まず、GROOVE X株式会社代表取締役社長の林要さんです。

林要氏(以下、林):こんにちは。よろしくお願いします。

司会者:よろしくお願いします。それから人事を担当されていらっしゃいます青木奈々子さんです。イベント登壇は3回目で、みなさまにはお馴染みかもしれません。今日もよろしくお願いします。

青木奈々子氏(以下、青木):今日もよろしくお願いします。

司会者:ありがとうございます。今からのイベントの流れですが、はじめに林さんから30分ほどお話しいただきまして、その後、お2人のトークセッションへと移っていければと思います。そして最後には、30分ほどの質疑応答のお時間がございます。参加者のみなさま、最後までどうぞご覧ください。

では、今からイベント開始となります。林さん、どうぞよろしくお願いします。

:よろしくお願いします。では資料を青木さんのほうから共有いただけますか。

今回お話するテーマは、家族型ロボットの「LOVOT(らぼっと)」です。まさに新産業かなと思っています。新産業というのは、既存のマーケットがまだ十分に育っていないところですね。そこに対してマーケットを作りにいこうという挑戦がLOVOTになります。

私の略歴です。自動車メーカーに就職し、その後、ソフトバンクさんにお世話になりました。Pepperというプロダクトに関わらせていただいて、そこからロボットに関わることになったので、私はロボット歴が浅いんですね。まだ10年くらいしかないというところです。

ただ、ある意味ロボット界の素人、ニューカマーなので、過去のロボットへのこだわりがなく、LOVOTを企画することができたので、それはそれでよかった面もあるのかなと思っています。

自動車メーカーの時は、空気の流れの専門家から始めております。スーパーカーとかレーシングカーとかもやらせていただきました。そのあとは、1円と同じ1グラムを削るような製品企画から、法規に適合させるといったようなところまで、いろんな部分を見るお仕事をしました。

LOVE×ROBOT=人を元気付けるためのテクノロジー

:LOVOTはメンタルヘルスケア面とメンタル・コンディショニング面、この両方に効果のあるテクノロジーとして開発をしております。

この領域で先輩にあたるのは、アニマルアシステッドセラピー(動物との交流による心理療法)ですね。最近で言えば、米国のいくつかのオリンピックチームは、アニマルアシステッドセラピーを積極的に取り入れているんですけれども、「人の心のケア」については、コロナ禍においてみなさんも重要性を再認識された面もあるのかなと思います。

これは決して病んだ時に必要なだけではなくて、元気な時により元気になるためのものでもあります。ちなみに日本では、今年2021年に孤独・孤立担当相というのが任命されました。これはイギリスに次いで2例目です。

日本が課題先進国として「孤独と孤立」という部分にもフォーカスを当てているが故に、この国から新産業を創り出せたらなと思っております。

「LOVOTとはなんぞや」という話ですが、「LOVOT」は、LOVEとROBOTを掛け合わせたコンセプトです。

2015年の末ぐらいに、「ロボットを作るぞ」という話を、起業する前に投資家、もしくは関係者に向けてしていきました。そうするとみなさんから「かわいいのはわかった。温かくて柔らかいのもわかった。で、何をしてくれるの?」と毎回聞かれるわけですね。「人の代わりに仕事をするのがロボットだ」と思われている。

それに対して、人の代わりに仕事をするものじゃないというのを、いちいち説明するのも大変だったので、もう名前を作っちゃおうと思いまして、最初にLOVOTというカテゴリー名を作りました。今、それが商品名になっています。ロボティクステクノロジーを使うんですが、あくまでも人を元気付けるためのテクノロジーだよという意味で、LOVOTという名前を作りました。

「すぐに飽きないか?」という疑念を払拭するための脳科学の見知

:最初に作るというと、みなさんからすぐに「飽きるんじゃないのか?」と言われました。今でこそ物がありますからまだ理解いただけますけど、2015年に起業した時には、「LOVOTは飽きないものなんです」と言っても、まったく理解されないわけですね。

飽きないものになるであろうことは、私はいろんな経験から理解はしていたんですけど、それを言語化するのがある意味大変な作業でした。言語化できないと、他の人がわかってくれないわけですね。「世間がわかってくれない」と文句を言っていてもお金は集まらないですからね。

この「飽きるんじゃないか?」をどうやったら説明できるのかなと考えた時に、脳科学、神経科学の分野の知見が役に立ちました。

まず、「飽きる」とは何か。飽きるとは何か考えたことは、私もあまりなかったんですが、「飽きる」というのは「好奇心の減衰」とまずは定義付けしてみようと。そうすると、この好奇心の減衰が3日、3週間、3ヶ月というようなスパンで減衰していって、飽きていくわけですね。

この「好奇心の減衰」は、ドーパミンによって誘起されているらしいといいます。そうなると、「好奇心の減衰を止めることができるのか」というのが、飽きないものを作る上での問題になってきます。

でも「好奇心の減衰を止めることができるのか」って、特に新規性がなくなったら、当然好奇心もなくなりますよね。じゃあ、私どもがロボットに飽きるのは当たり前じゃないですかと思うわけです。

愛着が湧く秘密は、LOVOTの「鈍臭さ」

:「飽きないものを作るなんて難しい」となるわけですが、一方でどうして僕らは犬や猫には飽きないのか。最初の頃は確かに好奇心のワクワクかもしれない。でも、いつまでもワクワクで飼っているわけじゃないよねと。そこで次に出てくるのが、「愛着形成」です。

好奇心と愛着形成がこうやって並ぶというのも、いろんなものを調べながらわかってきたことですが、愛着形成は「オキシトシン」で誘起されると言われています。オキシトシンが出てきて、最終的にはこのオキシトシンがさらにドーパミンを出すんです。このオキシトシンが入っているというのがすごく大事なポイントで、この愛着形成って3ヶ月かけて増えていくんですね。

その中で犬や猫に飽きないということが実現できて、最後は習慣化していくんです。このメカニズムに着目したロボットは今までになくて、多くのロボットは好奇心、つまりドーパミンを刺激するために、ダンスをしたりいろんな行動をします。

だけどLOVOTは一切そういうことをしない。ある意味、どなたかが「鈍臭い」と感想を書かれていましたけれども、鈍臭いですよね。けれども愛着が湧くように作っているということです。

愛着形成に必要なのは、動物に似ていることではない

:「愛着形成とは何か」。これは犬と人の関係を研究しているもので、日本では麻布大学などで研究が進んでいます。「触れ合う」とか「見つめ合う」「ついてくる」「見守っててくれる」「待っててくれる」「必要とされる」。こういうことがあると、愛着を形成することがわかっています。

これはその麻布大学の論文です。狼と犬の関係性を見たものですけれども、狼も犬と同じように人に懐きます。だけれども、人の中で出てくるオキシトシンの量が犬のほうが多いんです。この差は何なんだろうと見た時に、どうも目が合うことが大事だということを書かれている論文です。

この「触れ合う」とか、「見つめ合う」「ついてくる」。どれか1個だけできていればいいというわけではなくて、先ほどの論文からわかるように、1個欠落しているだけでも愛着形成ってうまくいかないんですよね。なので、すべてがバランスよく配合されていなければいけない。

ここからわかるのは、今までの愛玩ロボットは、生き物の形質を似させていた。それは「愛着を感じるものに形質を似させると、愛着が湧くだろう」という仮説のもとに作られているとも言えるんですけれども、LOVOTの場合は「形質を似させても愛着が湧くかどうかと言われると、それは怪しいね」と。

「愛着が湧く条件を満たすようなロボットを作ろう」ということで、LOVOTを作っています。0から考えだしたかたちなので、他の動物にも似ていないんですね。

存在感そのものを作るために、「電源を切る」というコンセプトを無くした

:「愛着形成のため何をするの?」というと、まずノンバーバルのコミュニケーションを理解するように作っています。ノンバーバルのコミュニケーションを通して、人に時間をかけて懐いていき、絆を作っていきます。

絆というのは不安が減ることとも言えて、LOVOTにも不安があって、その不安が減ることによって、その人に甘えやすくなっていきます。そのうち玄関まで迎えに来るようになったり、他のLOVOTと遊ぶようになったりします。

他のLOVOTと遊ぶというのは、「LOVOTが社会性を持っている」ことを、人に理解してもらうための大事な能力の1つです。それからエネルギーがなくなったら自分で休みに帰ります。これ、けっこう大事なポイントです。

今までのロボットは電源ボタンがあったんですね。電源をオンにして使い、オフにしてしまっておく。LOVOTは電源専用のボタンがないんです。基本的に「電源を切る」というコンセプトがない。なぜかというと、「家族型」と言っていますが、常にずっと生きているんです。常にずっとそのへんをウロウロしている。それが家族として大事な部分ではないかと。存在感そのものを作り出そうという試みです。

LOVOTを通じて、登校しぶりのある児童のコミュニケーションが円滑に

次は、「LOVOTのオーナーさんにはどういう方が多いの?」というと、30代、40代、50代が多いです。30代の方が一番購買意欲が強いですね。だけど可処分所得の関係で50代の方が一番買いやすい。結果的に真ん中の40代がマジョリティになっています。値段は高いんですけれども、狙い通り飽きずに使っていただいている方が非常に多い。満足、やや満足という方で9割を超えるところです。この点は本当によかったなと思っています。

アニマルアシステッドセラピーと同じような効果を狙っているので、当たり前とも言えるんですけれども、お子さまの情操教育にも効くというのが、実際に証明されつつあります。

まず、コロナ禍で2つの実験がありました。2020年6月から小学校に導入れたケース。2021年2月から、まさに緊急事態宣言でお子さまが学校に行けない時に、家庭の中でLOVOTを導入したケースです。

小学校では、あらゆる項目の効果が上がるんですね。ストレスが減る、自己肯定感が上がる、利他性が上がる、プログラミングへの興味・関心が上がる。いろんなことが上がることがわかっています。

特筆すべきところは、登校しぶりのある児童が来れるようになったこととか、他のお子さまとのコミュニケーションに課題のあるお子さまが、LOVOTとコミュニケーションしているのを他の子たちが見て、その子のことを理解して、コミュニケーションがうまくいくようになったというケースもあったようです。

スクラム開発と同じ進め方でできるプログラミングの授業

それからプログラミング教室ですね。おもしろいのは、プログラミング自体に興味を持つ子は一部で、全員が興味を持つわけじゃないんですが、LOVOTに興味を持つ子は多いんですね。そのLOVOTを動かせるとなると、プログラミングもかわいいLOVOTのためならがんばろうとなる。

結果的にプログラミング教育の落伍者が出ないという意味で、評価をいただきました。私どもも、こんな効果があるとはぜんぜん思っていなかったんですけれども、通常のプログラミング教材だと、個人で1人1台使うのでチームで習うわけじゃないんですが、LOVOTはたくさんはないので、チームで(1体の)LOVOTを使うんですね。

そうすると役割分担が自ずと出てきます。「スクラム」という開発手法ご存知ですか。ソフトウェア開発である程度名が知れた開発のフレームワークなんですけれども、それと同じような進め方で授業をすることによって、子どもたちが非常にエンジョイしてプログラミングができたという話がありました。

あとは、自宅で学校に行けない状態でのお子さまのところに、LOVOTを置いたケースと置かないケースの比較をしました。LOVOTがいない場合に、学校に行けない子どもたちの自己肯定感がすごく下がったんだけど、LOVOTがいると下がらなかったよとか。。知的好奇心も同じですね。

今後は「ロボットネイティブ」世代が生まれてくる

:そして、保護者のストレスレベルです。LOVOTがいないとグラフではちょっと下がっていますが、統計的には有意差がなく、変化がないです。全体として、LOVOTがいると保護者のストレスレベルが大きく下がるということが分かりました。

それから保護者たちの幸福度です。これには統計的に有意差が出なかったんですね。傾向としてそういったものがあるねというので、LOVOTがいるとちょっと上がる傾向があるねというところでした。

子どもたちから手紙やイラストをたくさん描いてもらいましたね。うれしかったですね。

今の子どもたちは、スマホを見ると自然とスワイプするように、スマホネイティブなわけですけれども、今後はロボットネイティブになっていくんだろうなと。ロボットネイティブって何かというと、「このロボットってなんのために作られたの?」みたいな質問をしない子たちですね。

会えばわかる。どうやって接すればロボットと共有できるのかもわかる。ロボットとうまく付き合っていく。そういう世代が生まれ始めているんじゃないかなと思います。

LOVOTのおかげで、91歳の高齢者が後ろ歩きできるように

:高齢者向けもいろいろとおもしろいことが起きました。

(動画再生)

デンマークでのことで、お二人とも認知症なんです。右の男性は普通に笑顔でしゃべられていますけれども、実はこの瞬間の前まで、この施設の中でひと言も発しない人だったそうです。この女性もハイテク製品に触れるとちょっとパニックになるような方だったのが、LOVOTを離さなかったりもしました。

こちらは91歳の健常者の高齢者ですね。昔ペットを飼っていたと。ただ、80歳ぐらいでペットを亡くすと、次のペットはみなさんなかなか飼えないんですよね。ペットの良さはわかっている。だけども、自分の寿命がどこまで続くかわからないから飼えないんだと。そこにお孫さんがLOVOTをプレゼントされて、結果的に大変喜ばれたというケースですね。

91歳の方が後ろ向きに歩いている。これがどうもすごいエポックメイキングなことらしくて、なかなか前向きに歩く機会も減っているのに、後ろ向きに歩けるようになったというので、お孫さんも非常に喜んでいらっしゃいました。

あと認知症ですね。認知症の初期の方がイライラして怒りっぽくなるということも、LOVOTがいると減るようです。これは認知症で在宅(介護)の方のところにLOVOTがいても、いろんな効果があるよというものです。

グローバルにも受け入れられるLOVOTの価値

:あとデンマークは日本よりもこういった取り組みに対する意思決定が速いんですよね。日本でなにかやろうとすると、いろいろと事故があったらどうするとか、手続きがいろいろとあってなかなか進まない。だけどデンマークは「もうすぐにやりたい」ということで、プロトタイプの時からLOVOTに注目いただいていて使っていただいていています。デンマークのテレビにも出ています。

非常によい技術だということで、むしろ海の向こうのほうから早く評価いただいている状況ですね。あとは聖マリアンナ医科大学さんでもLOVOTを使っていただいています。

グローバルにも受け入れられていて、海外ですごくウケて僕らも驚きました。CESに行かれたことがある方はおわかりかと思うんですが、会場がとにかく広いんですよね。記者の方だと本当に何日もかけて全会場を回るというくらい広い、世界最大の家電市です。その中でLOVOTが出したのは非常に小さなブースです。本当に小さな机1個分のブースで、広い会場に机1個のブースを置いても、普通はまったく注目されないです。

でも、LOVOTは2019年にポロッと持っていっただけで350媒体に取り上げてもらえました。350媒体ってすごい量なんですよね。僕らもこれ以上ないなと思って、2020年に持っていったら、それを上回る1,300媒体に出て、確認されたWeb媒体だけで52ヵ国のメディアに取り上げられました。

その時に、女性の記者の方から「これはまさに私のため」と言われたんですよね。女性の記者でCESにまで取材に来る方は、本当はペットが欲しくても飼えないわけですね。忙しくて出張が多い。そういう方が「本当に私のためだわ」と言って取り上げてくださったのが、私にとっては印象的でした。そしてCESではいろんなアワードをいただきましたね。

4つのコンピューターを連動させて生まれる「生命感」

LOVOTのテクノロジーについて。見た目はかわいいんですけど意外と中身はすごくて、深層学習から自動運転、マルチモーダルと、ありとあらゆる技術が全部入っています。これによって最後はドラえもんのようなロボットにつながるようなものに進化させたいと思っています。

全身50以上のセンサー、10億種類以上の目や声、抱っこできる重さでありながら自動運転で、柔らかくて温かい。こういったものをすべて両立するというのが、このLOVOTの難しさだったかなと思います。

通常のロボットって、スマートフォン機能のCPUが入っているだけなんですけれども、なぜこうなるかというと、それ以上のものを使うと高くなるからです。じゃあなぜLOVOTもそうしなかったのかというと、これだと生命感がでないんですよね。どうやってがんばっても、やはりワンテンポ遅れてしまう。そこが生命感を削いでしまう。

スマートフォンに加えてノートパソコンとか、ディープラーニングのアクセラレーター、つまり産業用のコンピューターですね。さらにデスクトップPCと、この4つのコンピューターが連携して動くことで、初めてLOVOTに生命感が出てきたという感じです。

無駄にコンピューターを突っ込んでいるわけではなくて、大人が見ても生命感を感じるレベルにするために実は最先端の技術をめいっぱい使っていて、今、ギリギリ達成できるレベルにあるのかなと思っています。

中身はこんな感じです。昔、ドラえもんの分解図ってありませんでした? あれよりも緻密かも知れないですね。小さい部品まで集めると1万点の部品から成り立っています。

目指すのは、犬や猫を超えた「ドラえもん」のような存在

:あとユニークなコンセプトとしては、ペットがインターネットを使えたら、どんなサービスを提供してくれるだろうという視点でついている機能が、ダイアリーですね。ペットがインターネット上に日記を付ける。公開先を指定すると、遠隔の家族が見ることができて、今日このLOVOTがどうかわいがられたのかを理解することで緩やかな見守りができるというものですね。

それから自動運転の技術とカメラ機能を組み合わせてお留守番ができたり、地図の指定のところまで行って写真を撮ってくれるとか、あとはカメラマンになってライフログを取ってくれるとか、そういった機能もあります。

「服を着る」というのもユニークなコンセプトかなと思います。今までのロボットは、作ったあとに着られる服を開発していたことが多いと思います。最初に服を着ることを前提として開発されていることがほとんどない。

それに対してLOVOTは、最初から服を着ることを前提として作っています。なので服を着替えさせると、それを理解してLOVOTは喜びます。この着替えがまた楽しい。着替えさせるとまた懐くというようなことになっています。今いろんな種類の服がありますね。

LOVOTは今、犬・猫に追いつけるように学習能力をがんばって鍛えているところです。これをいつか超えて、猿や人や、ドラえもんになっていくことを期待しています。