マネタイズとジャーナリズムはどう両立すべきか

山川龍雄氏(以下、山川):先ほどから収益の話も出てきたので、マネタイズについて。やっぱり新興でいろいろなメディアを立ち上げて、そこを維持することと、それからその先のジャーナリズムなり、公平性なり、そういうものを維持しながらちゃんと食べていくという、二段階あると思うんですけれども。

そこらへんは、古田さんもBuzzFeedの時期には悩まれたところでもあるとおっしゃっていたので、ジャーナリズムがどうやってマネタイズして維持していくかについて、どうご覧になっていますか?

古田大輔氏(以下、古田):僕はいまちょうどニューヨークの大学院のプロジェクトに参加していて。そこのプロジェクトの名前が「Business of Journalism」という、ジャーナリズムをビジネスとして成り立たせることができるのかということを、世界中から集まっている16人のクラスメイトたちと毎週議論するのをやっているんですよね。

その中で、きちんと公平性や客観性を保ちながら、世の中のために資する、民主主義に資するような情報発信がどうやったらできるのかを議論するんですよね。それで、マネタイズの議論って、複雑なように見えて単純な部分もあるんですよ。なぜならマネタイズできる手法って、そんなに山ほどあるわけではないので。代表的なものは課金ですよね。次に広告。

でも、広告もいろいろあるわけです。その中に、例えばプログラマティック広告といわれる、いわゆるアドネットワークとかで入ってくる広告もあれば、スポンサード広告、1社スポンサーでの記事広告のようなものもある。

それ以外にも、例えばeコマースに絡んでいくとか、あとイベントを開くとか。NewsPicksさんがいろいろされていますけれども、アカデミアみたいな教育的な機能を持たせるとかで。それでいっても、マネタイズの手法が100もあるわけではないんですよね。

あとは、先ほどの議論に立ち戻るんですけれども、「あなたはどういう価値を世の中に提供したいんですか?」という、その人たちの理念とかに基づいてビジネスモデルを作っていく。あとはそのバランス。どれか1つだけに頼ると、それがコケた時に死んじゃうので、それをうまく多様化させてバランスさせる必要があると思います。

山川:佐々木さんは、そこも悩みながら取締役をやっているわけですよね?

佐々木紀彦氏(以下、佐々木):そうですね。

山川:どこらへんに活路があるのか。NewsPicksの中では、スポンサードやイベントももちろんありますけれども、それとジャーナリズムとしての公平性は、記者のみなさんにどう言っているんですか?

佐々木:われわれは収入の半分が月々1,500円の課金で、これが先ほど言ったように15万人ぐらいということで。

山川:これがいちばん健全ではありますよね。

佐々木:そうですね。読者の方々に向けているので。あとは広告が半分というところで、十分収益は成り立っているという構造ですね。

私はもう編集長は外れたので、ビジネスのところもバンバンやっていますけれども、基本的に編集長は独立していて、そこはファイアウォールがあって、スポンサーとかの意向に関係せずに書いているという状況なので、そこはいまできていますね。

山川:編集長はスポンサードのコンテンツは見ないわけですか?

佐々木:もちろんです。そこはもう完全に分けています。なので、伝統的な雑誌社や新聞社と同じにしていますね。

山川:それをやらないと、いろんなグレーなものが出てきておかしくなっちゃうということですか?

佐々木:おっしゃるとおりですね。読者の方の信頼がなくなっちゃいますので、そこはそういうふうにやっていますね。

日本で開拓できてない市場は「デジタル映像広告」

山川:課金収入がメインで、その比率はあまり落としたくないんでしょうけど、最終的にはどのへんがいちばん収益の大きい有望な部分だと思っていらっしゃいます?

佐々木:映像のところも含めて、私がまだ日本で開拓できてないと思うのは、やっぱりデジタル映像広告だと思いますね。活字系の広告のところは、Googleとかが全部取っちゃったじゃないですか。ですけど、いま映像で広告をデジタルに出そうと思ったら、YouTubeかTVerしかないですよね。Netflixは今回会員が500万いきましたけど、広告はやっていないので。

例えば資生堂とかも「全部デジタルにシフトします」みたいなことを発表していますけれども、デジタルで出すところがないですよね。だから、そういう場所を作っていけば、デジタルに広告の市場がまだすごくあるんじゃないかなと思っています。

放送市場だけで4兆円あるじゃないですか。このバカでかいところを放送だけで補うってどう考えても無理だと思うので、デジタル空間の映像広告はまだ開拓できていないなという気がすごくしますよね。

山川:テレビ関係者のみなさん、NewsPicksは明らかに放送収入を狙っていますので。

(一同笑)

佐々木:いやいや、そういう意味じゃないですけど(笑)。そこがいちばんのビッグビジネスじゃないんですか?

山川:いや、さっき古田さんは音声メディアの関心を聞かれていたけれども、佐々木さんはパイのでかいところを狙っているという感じが。

(一同笑)

佐々木:正直言うと、そんなにお金に興味があるわけじゃないんですよ。だけど、市場が大きいということは、そこに社会的インパクトがあり、何よりも大事なのがそこで働く方の給料が高くなるということだったんですよ。

私はやっぱり給料が高くて、そこに生態系ができているところに優秀な才能が集ってくると思っているんですね。なので、そこを抑えることが、いちばんいいジャーナリストであるとか、クリエイターを集めるために大事なことで。テレビにみなさんいらっしゃるのって、やっぱりテレビの給料がいいからっていうのは、正直な話で大きいと思うんですよ。

山川:言うまいかすごく悩んだんですけれども、この5年ぐらいで「山川さん、転職します」って、あいさつに来る人間がもう20〜30人いて。「どこ行くんだ?」って聞くと「NewsPicks行きます」って、5回ぐらいありますよ。

佐々木:それ大げさじゃないですか(笑)。

山川:本当(笑)。優秀な人を採るので、みんな生き生きと働いてるんですよ。僕はいいことだと思うんですよね。大きな流れの中で、そうやって新陳代謝が生まれて、新しいところで自分が経験したことで活躍できるというのは、すごく流動性があってね。だから、佐々木さんがやっていることってすごくいいなと思って聞いているんですけれども。

新興メディアが考える「テレビ東京の可能性」

山川:ちょっと時間もあって、先ほどから出ているレガシーメディアがどうやったらこれからの時代に生き残れるのか。もう具体的にしましょう。お三方がアドバイザリーボードのメンバーで、これからテレビ東京でDXをやらなきゃいけないと。どういうビジネスモデル、どういうアドバイスをされるかですけれども。川原崎さんからどうですか?

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):普通に答えていいですか? 経営者なので普通にビジネスで考えると、NewsPicksのモデルを丸パクリして、100倍の規模のものを作ります。

山川:それはもうちょっと、どういうことですか?

川原崎:うまくいっているものをパクるのって当たり前じゃないですか。誰もうまくいってないものをパクっても成功率って低いので。さっきの動画がこれから流行るかどうかもそうなんですけれども。私にはNewsPicksさんがすごくうまくいっているように見えるので、まったく同じものを、でかい規模でやるというのは、レガシーメディアの資本力があるからできることだと思うんですよね。別に買収してもいいと思いますし。

ただ、自前でもしやるんだとしたら、もう社長の直下のチームじゃないと絶対無理だと思っていて。要は、若手を集めて作る。メディアとか編集って、空気感を選んで、その人たちに合ったコンテンツを届けることだと思うんですね。普段Facebookをしていない人が、Facebook発信している人たちの気持ちなんか100パーセントわからないので、やっぱり余計な口出しはしないでほしいですし、テレビしか見ない人はテレビのほうをやっていればいいので。

そういう絶対聖域みたいなチームを作って、そこに予算を10億円なら10億円って約束してもらって、それでぜんぜんテレビ東京とは一切関係のない、リソースとかを下手に活かそうとしないようなかたちで、メディアを立ち上げるかなと思いますね。

山川:これは佐々木さんに聞くしかないですよね(笑)。

佐々木:私が答える前段として山川さんにも聞きたいんですけれども、テレビ東京と日経新聞と日経BPって、カルチャー違いません?

山川:違いますよ。

佐々木:違いますよね。その中で、いちばんテレ東が自由でいいカルチャーな気がするんですよ。これ、タブーなのかな?(笑)

山川:いやいや、それはたぶんコンテンツをいろいろ見られているからでしょう?

佐々木:いや、人と接していてもそうですよね。

山川:コンテンツを作っている時に、自由度はかなりあるなと思いますよ。僕は5〜6年テレビでコメンテーターをやっていますけれども、1回も注文がついたことがとない。

佐々木:それは自由?

山川:僕はすばらしいと思う。よく一般の方が、忖度してしゃべってんだろうとかって言うんだけれども。僕は1回だって「この間のコメントはいかがなものか」とか、修正を求められたことがないんですよ。これって幸せだなと思っているんですよ。答えになっているかどうかわからないけれども。

佐々木:いや、なっていると思いますね。なので、デジタルの時代とか新しい時代って、自由なカルチャーがあるかどうかがいちばん重要だと思うんですよ。だから、そのカルチャーをフルに活かしていくということと、やっぱりアニメが強いですし、あと映像の世界でも経済ビジネスコンテンツって、けっこう課金でもあと広告でも、いちばんポテンシャルがあるところかなと思うんですよね。それって活字が証明してくれているんですよ。

山川:ビジネス分野じゃないとなかなか課金は難しいということですか?

佐々木:いや、他のアニメとかドラマもいけると思うんですけれども、ニュース系だったらやっぱりビジネス以外は相当厳しいと思います。逆にビジネスならいくらでも可能性があると思うので。

なので、アニメあり、ドラマあり、そしてバラエティもありますよね。そしてビジネスにいちばん強いというテレビ東京は、民放の中ですごくいいポジションにあるので、お世辞じゃなく、やれるんじゃないですかね。そうやって自由にいろんな才能を活かすというところもありますし。

あと、比較的みなさんマルチロールな方が多いですよね。人数がそこまで多くないだけに。デジタル時代には1人何役もこなすほうが合うので、そこは合うと思うんですよね。

山川:他の民放各局に比べて、組織的にやっぱり少ないんでね。だから同じことをやっていてもたぶん敵わないという思いをみんなが共有してる感じはすごくしますね。なんとなくそういう雰囲気はあります。

佐々木:あと1つだけ言っていいですか? 「今後、この会社は変われるか?」みたいな問いって、メディア人にとってはあんまり意味がないなと思うんですよね。「自分の会社はどうでもいい」ぐらいで私はいいんじゃないかなと。

山川:それは働いてる側として?

佐々木:そうです。メディア人って、そもそもサラリーマンじゃないほうがいいので。自分の価値を最大化して、その上で会社に貢献したり、社会に貢献するという発想のほうが健全で、日本のメディア人はちょっと異常だと思うんですよ。

「会社のため」というのがありすぎて。だから、自分の会社がダメになっても自分はどう生き残るかをみんなが考えたほうが、結果として日本のメディア界がよくなるんじゃないかなというのが結論ですね、私の。

山川:なんかちょっと、きれいにまとめましたね(笑)。

佐々木:けど、本当にそう思ってるんですよ。

山川:さっき川原崎さんがおっしゃっていたNewsPicksを丸パクリすればいいっていうのは、簡単に言うと昔からよく言われるトヨタの商法とか、松下電器の「マネ下電器」とか、それだけ規模が大きいところをあとから追いかけて行ってもいいんじゃないかということをおっしゃっているわけですよね?

川原崎:そうですね。やっぱりメディアのいちばん芯の部分の力って、企画とかじゃなくて、やっぱり人のアサイン力だと思っているんですよ。このブランドがあるから呼べる人だったりとかっていう、つながりだと思っていて。

いまNewsPicksさんは、特にITスタートアップ界隈を中心に、そこからどんどんブランドを広げて行っている途中なので、手を打つならいまだと思っているんですね。ここから先、もっと本当に一般業界までバーッと広がっていったらもう勝てなくなっちゃうので(笑)、先にそっちを抑えるのはあると思います。

レガシーメディアから優秀な人材が離れる理由

山川:古田さんどうですか? テレビ東京にアドバイス。

古田:2人の話をまとめると、川原崎さんはまず金を活かせと。体力を活かせという話だと思うんですよね。佐々木さんは人材を活かせという話だと思うんですよ。両方めちゃくちゃでかいんですよ、テレビ局の方々。いわゆるレガシーメディアの方々って。

新興メディアに来た人間たちは、みんな金と人の少なさと、コネのなさに、本当に1回は絶対みんな絶望しているんですよ。佐々木さんも編集長で最初に入った時に、取材しようと思ったら「NewsPicksです」っていうふうに取材のアポを取ろうとして、「ハァ?」って言われて切られた経験があると思うんですよね。

僕も何度もあります。ログミーでもそうだと思うんですよ。そういうつらい時期をみんな経験しているから、もうレガシーの方々がどれだけ恵まれてるかということを、心底みんなわかっていると思うんですよね。だから、ちゃんと横綱相撲をしたら負けるわけないじゃんっていう気がするんですよ。

でも、そこで疑問に思うのは、なんで横綱相撲を取れば勝てるはずのところから人が出て行くのか。しかも優秀な人が出て行くのか。テレ東って、いま就職ランキングでも目立つ存在になってきていて、「自由な社風だ」ってみんなが憧れる企業なのに、それでも若くて優秀な人が出て行っちゃう。それは、やっぱりその人たちの才能を活かせていないと思うんですよね。

先ほどお話しした、世界中のメディアから16人が集まっているところには、ニューヨーク・タイムズの人もいますし、フィナンシャル・タイムズの人もいますし、ウォール・ストリート・ジャーナルの人もいるんですよね。そこはリーダーシップコースで、ある程度幹部が来るんだけれども、僕がいちばん年上ぐらいで、30代前半の人たちが来ているんですよね。だから、世界のメディアって、でかいところでも30代で幹部をやっているわけです、優秀な人たちは。

でも、テレビ局ですごく優秀な若手がいて、30代だと。じゃあその人たちが幹部クラスに実権を任されているか、予算を任されているかといったら、ありえないですよ。そうなると、その人たちはやっぱりネットメディアに行きたがりますよね。なぜなら、権限を渡されるからだと思うんです。だから、本当はお2人のアドバイスがすべてで、金と人材を活かせばいいじゃん、絶対勝てるよねっていうふうに僕は思います。

新興メディアが見据える未来

山川:なるほど。時間がないので最後ですが、10年後にそれぞれ何をやっていらっしゃるかをちょっと聞きたいと思います。川原崎さんは10年後何をやっていますか?

川原崎:僕はTEDみたいな、ものすごい影響力のあるイベントカンファレンスみたいなものを作りたいなと思っていまして。結局、われわれはログをしているので、他の人が企画したイベントとかをコンテンツ化するんですけど、そうするとやっぱりちょっと限界があるというか、良いイベントが出るのを待つ感じなんですね。

最終的には、いいイベントを自分たちで作るしか方法がないと思っていまして。それをやれるような会社なり、事業なりをやりたいなと思っています。ある意味、NewsPicksさんがたどってきた変遷に近いんじゃないかというふうに思います。それがちょっと1周遅れにはなっちゃうんですけれども、そういったものがやっぱり理想かなと思っていますね。

山川:佐々木さん。

佐々木:私は人生5年ベースでしか考えないので、10年後ってまず考えないんです。なので5年後にしますね。山川さんがおっしゃっていたように、動画の市場のシフトが本当にこの5年で終了すると思うんですよ。

終了するというか、誰が勝者か、どういうかたちになるかというのが決まると思うので、活字のところはいろいろやったので、映像のところで新しいモデルを作っていく、そのために突っ走る5年かなと思っています。

山川:具体的にはもうちょっと、いわゆるビジネスにかなり特化したようなものをイメージしているんですか?

佐々木:もうめちゃくちゃいっぱいプランはあるんですけど、さすがにそれは言えませんね(笑)。

山川:古田さんは先ほど、自分でメディアを立ち上げるとおっしゃっていたけれども、5年後はそれを立ち上げる?

古田:そうですね、5年後には……。僕はよりよい明日を作っていくためのニュースメディアを作りたいです。ニュースメディアって、本当に重要だと思うんですよ。民主主義で誰に投票するかとか、政治に関心を持とうとか、例えば差別とかダメだよねとか、そういうことを学ぶためには、やっぱりニュースを見ないとダメじゃないですか。しかもそれがちゃんと若い世代にもしっかりと届くようなニュースメディアは、実は日本にあまりないと思っていて、そういったものを自分で作りたいなと思っています。

山川:最近怖いんですよね。若い人たちはYouTubeとか、インターネットメディアを見ているけれども、自分が好きなものばっかりどんどん出てくるから、どうしても興味のあるところしか見なくなっちゃっている。それでいろいろ格差なり、ポピュリズムみたいなものが出てきている中で、そういうメディアをきちっと維持していかないと、みんな大丈夫かなってなる。

古田:民主主義って崩壊すると思っているんですよ。実際に僕は東南アジアに住んでいましたけれども、タイがクーデターが起きて軍事政権になっちゃったりするわけですよね。ミャンマーは長いこと軍事政権のところにあったし、カンボジアもどんどん独裁が強まっていくわけですよ。みんなでがんばらないと、民主主義って本当に崩壊するから、だから僕はニュースメディアをちゃんとやりたいなと思っています。

佐々木:映像も含めてですか?

古田:やっぱりテキスト中心ですよね(笑)。すいません、僕の好みで(笑)。

佐々木:いやいや、ちょうどテレビ東京出身の渡辺将人さんが書いた『メディアが動かすアメリカ ――民主政治とジャーナリズム』という最近出た本がすごくよく書けていて、 アメリカのメディアがどう変遷しているかがすごい勉強になったので、ぜひ読まれるといいと思います。

山川:ありがとうございます。本当は私がやらなきゃいけない本の宣伝をしていただいてありがとうございます。

佐々木:いえいえ(笑)。

山川:ちょっと、またやりましょう。ぜひ。おもしろかったので。はい、時間ですね、どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。