首長としての改革は現場に受け入れられるのか?

赤堀侃司氏(以下、赤堀):さすが、時間をきっちり把握していただいて。私は16時までかかるだろうと見越していましたけど、残り5分あります。

ここからは、事前に課題を出していただいているんですが、ちょっとそれを無視しまして……(笑)。私の一存でテーマも決めず話します。私が気づいたことをいくつか申し上げたいと思っているので。それにお答えいただきたいです。

それというのは、プレゼンをお聞きして共通していることがあるんです。仲川さんも横尾さんも倉田さんも、すべてがデータに基づいているということですね。しかも詳細なデータを持って、説得力あるプレゼンをされたということで感銘を受けたんですよ。

私も教育系のシンポジウムとか、いろんなところへ出ることがあるんです。こんなにデータに基づいてきっちりプレゼンをしたシンポジウムやパネルは、ほとんど経験がないです。

学会は違いますよ。本当の学会は、医者と同じで「データに基づかないのはダメだ」というディシプリン(規律)があるからわかるんだけれども。先生方の文化というのは、どこか、そうではないんだという定理があるんです。

それに対して、今の時代はまさにデータに基づいて、確かに学力が上がっているじゃないかと。横尾さんも言われたし、それから仲川さんも何回もデータ分析をやってみたら、いろんな対応ができるということをおっしゃった。

ただそこにちょっと不安があるとすれば、この“首長さんとしての方法論”は先生方に受け入れられるか、ということをちょっとお聞きしたい。実は、これは共通してまず感じたことなんです。とりあえず、どなたでもいいですからお答えいただきたいです。

システム導入=ドライな対応という誤解

仲川げん氏(以下、仲川):我々が理解を得るのに一番悩んだというか、難しかったのは、「学びなら(注:学習支援サービス「「Realtendant(リアテンダント)」」を活用した教育システム)」の仕組みを導入したときに、当然現場は負担が増えるんじゃないかということ。それともう1つ、これは保護者からもあったんですが、問題が難しくて子どもがやる気をなくすのでは、という話があったんです。

これは1つ理由がありまして。とくに今までの小学校ですと、基本的に授業さえ受けて、まぁまじめにやっていれば、だいたいみんなが100点取れるテストを想定して作る。でもこれですと、天井よりもさらに上の能力を持っている子がいたときに、本当の力が見つけられないんです。ですので、あえて難しい問題を混ぜています。

あえて、8割の子どもが100点を取れない問題を設定しているわけです。現場としては「いかがなものか」という意見があったんですが。ただ結果としては、それによって学びの習熟度にもう少しバリエーションを持たせて、深い質的な評価ができるようになりました。これはやっていく課程でできてきたことですが……。

赤堀:先ほどの話ですと、かなり頻繁にテストをされていますよね。先生方はそれに対しての抵抗感はなかったんですか?

仲川:ものすごくあります。

赤堀:あった。でも、それは今は解決してる?

仲川:完全に解決とはなかなか言えないんですが、けっこう誤解が多かったです。

赤堀:誤解?

仲川:今まで自分たちが経験・勘・根性でやってきたものを、すごく冷たいドライなロボットがやってきて、全部否定するんじゃないかと。そういうイメージはあったと思います。ただ、やっている中で徐々に理解が浸透してきたという実感は持っています。

赤堀:そういうことですね。わかりました。

「ツールが役に立つ」と体感すれば浸透していく

赤堀:はい、倉田さん。

倉田哲郎氏(以下、倉田):おっしゃるとおり、基本的にまず最初は危機感があるんですよね。実際に調査を始めてみて、いろんな学力調査が箕面市だけじゃなく、全国規模や大阪府規模でもありますから。最初のころに、そういう調査の負担感があったのは事実だと思います。

ただ僕らの場合は、データが蓄積されていった段階で、とにかく学校現場にデータを返していったわけですね。それで、おそらくですけど、使い物になるということがだんだんわかって来られた。かつ、先生の世代交代もあると思います。

さっきの仲川さんのお話でもあったように、学校現場って今、急速に世代交代が進んでいるところがあります。若手の先生がだんだん入ってきて、ご年配の先生が抜けていく。抜けていく側の先生方にしても「大丈夫かな、この現場」という心配もあったりするので。

そういうところに、こういうツールが入ってくることによって、「今まで経験だけで補ってきたものが、こういうものでサポートされていくんだ」という感覚が少しずつできてくる。それでなんとか、理解を得られてきているんじゃないのかなとは思っています。

赤堀:ありがとうございます。やはり証拠として、学力が上がったり、先生方がきめ細かい指導ができたりしている。受け入れられつつあるのは、それが浸透してきているからかもしれませんね。

学力向上だけでなく“習慣づけ”効果もあった

赤堀:はい、横尾さんいきましょう。

横尾俊彦氏(以下、横尾):全体的なテスト関係の話でいうと、私が市長になってから数年目に始めたのが、1年間の始まるころ・終わるころの学力で、テストを2つやってもらうことです。その結果は先生方もご覧になりますけど、小さいまとめの紙があって。それを保護者全員に配っていただいて、「学力を見てください」ということをやりました。

さっきのICT導入に関することで言いますと、タブレットを使ってドリルをやるようになったんですね。朝の時間に決まってドリルをやるんです。翌日は昨日終わったところからやります。

だから実は、進度は個々に違うんです。ところが確実に学力が伸びていくんですね。それを1月、2月と先生方が見ていたら、やはりきちっと一人ひとりの理解度・進捗度を把握して、個別最適化学習ができるようにやることが重要だなと。子どもたちに聞いても、「ドリルができた」という手応えがあって、おもしろいわけです。

もう1つは、進捗度に合わせて次の改善をどうしたらいいのか、ほかの先生方と共有できるということがわかったのが、非常によかったと思います。さらに副産物がありまして。「朝に学ぶ」という習慣がついてしまったんですね。集中力が朝からグッと高まったということは、いろんな指導をしてくれた担任の先生から聞きました。

さらに私は、ICT支援員さんにときどき役所に来てもらったり、私もぷらっと行ってお話を聞いたりしています。先生方のアレルギーはないか、いろいろ不満はないか、とか聞くんです。そういうヒアリングもしながらですけども、できるだけ先生方の背中を押して、前に行っていただくようにしながらやっています。

いきなり「ノー」というわけではないと思うんですけど。できるだけみんなで子どもたちの学力を伸ばし、未来を拓いていくということが基本だと思っています。

首長として教育改革に関わるモチベーションとは

赤堀:ありがとうございます。学力が上がったり、学習習慣が身に付いたり、そして一人ひとりに個別の指導ができるところは、非常に結果がいいので。オーバーに言うと、学校の文化を少しずつ変えてきているんじゃないかという気はしますね。

一人ひとりを個別に最適化するためにデータを活用するというのは、質問したいテーマの1つだったので。この答えが聞けてよかったと思います。

次に私が質問したいのは、みなさま方は市の代表というか、市長さんですから、その市長さんが、「どうしてこんなに教育に興味を持っているのかな」ということなんです。これは当然、教育は市であろうと国であろうと大変重要なことだと。それはわかる。

だけれども、実は聞いてみるとかなり専門的な内容をお話しされている。それも自分にとっては、すごく驚きだったんです。自分も、市長さんを前に討論をしたのは初めてですから。ここまで市長さんが教育に意欲を持たれて(施策を)されていることに対して、感動と反面、少し驚きがあった。

これはなぜだろうか。それはみなさま方が、学生のころだったり小学校のころだったりを思い返しておられたのか。あるいは教育というものは、もっと別の意味を持っていたのか。

「なぜここまでしっかりと教育に関わってこられたのか?」というのが、今みなさんの話を聞いた私の素朴な印象なんですね。どなたでもけっこうですけれども、お話しいただければと思います。いかがでしょう?

今の日本の教育は諸外国よりも遅れているという事実

横尾:2つあります。1つは、孔子廟がある街ですので、論語のことをさっき申し上げましたけれども。2550年くらい前から、孔子は勉強は大事だと言っているんですね。それは本当に必要なことだと思っています。知らないことを目標にもできませんし、知らないものを求めることもできない。だったら、(勉強して)より広く知ることが必要。

あとは、人のことを深くわかるという“仁の心”があります。さっきの別のセッションではAIとかIoT、ICTのみならず、人を思いやるロボットがいました。まさにそういうことなんです。そういう人間性という学力は、どうしても基礎力としてあると思っています。

2つ目に、私にとって大きなインパクトがあったのは、この間、市長になってからですけど、海外の視察をしたときに「日本の教育ってこんなに遅れているの!?」と感じてしまったんですね。

帰ってからすぐ、文科省の知っている方に「もっと変えてください。やってください」と言ったけれども、なかなか進まない。一方ではICT、IoTの波がどんどん来る。じゃあなんとかしなきゃいけないというのが、実はICT首長協議会を立ち上げるきっかけになっているんです。

ほかのセッションで誰かが言われました。在庫品処理のために機械をばらまくのがICT教育ではないよ、と。まさにそうなんです。よりよいものを一緒に作っていく。あるいは、よい教育を作っていくという大事な使命がありますから。

このことについては、私も教育のことをよく勉強しなくてはいけないし。先生方やとくに教育委員会、教育長とは密に連携をして、なんでもやっていくという気持ちであたっています。

それはやはりある意味、未来に対する僕らの世代の責任だし。自分も子育てをしました。子どもにできることは、本当にいろいろあるかもしれないけれども、教育は一番大事ですから。そのことを首長として、街のお父さんとしてやるしかないな、というのはありますね。

赤堀:いやぁ、いい答えを聞いた。ありがとうございます。

国の課題を解決するのは、未来の子どもたちである

赤堀:はい、倉田さん。

倉田:いくつかあるんですけど。僕は実はもともと、教育分野じゃないんですが、国で仕事をしていたんです。やっぱり国全体のことを考えるにつれて、今の世の中を動かしている人たちが、子ども時代にどういう教育を受けたのか(が重要だと気づいた)。その結果、今の世の中で起こっていることのほとんどが、この社会が形成されているわけですから。

今、目の前の課題を解決する。それは大事だけれども、結局次の時代に問題を起こさないためにも……むしろもっと社会を引っ張っていってもらうためにも、やっぱり教育だろうなと思っていたのが、まず1つあります。

それともう1つ、これは首長として若干“邪”かもしれませんが……(笑)。さっき言ったように、街としてしっかり人口規模を保っていかなければいけないわけです。そういうことを考えると、絶対に教育・子育てにしっかり投資をしないとならない。この街が周りの人たちから見て「子育てしやすい街なんだな」と、思われれば思われるほど、街は強くなっていくんです。

そういうことを実際に具現化するためには、やはり教育や子育ての中身をしっかり作っていかないといけないと思っていたのが、もう1つ。

3つ目は現実問題として、僕も子どもがいるからというのもあるかもしれませんが、いろんな人から言われるようなできごと。市に対するクレームであったり、「もうちょっとこうならないの」という話の中で、意外に教育や学校関係の話って多いんですよね。

お母さん方から相談受けるとか。たぶん本来であれば、「それは教育委員会のやっていることですから、私は分かりません」と言ってしまえばいいのかもしれませんけど。じゃあ誰が教育委員会を突き動かすのかと。

そういうことを考えたら、ほかにいないだろうと思ったので。そこはやっぱりがんばらなきゃいけないなと思った。そんなところです。

テクノロジープッシュの陰にある苦労とは

赤堀:ありがとうございました。仲川さん。

仲川:私は前職時代NPOをしていまして、そこで教育や子育てに関わっていました。その中でとくに、公立の学校で学級崩壊しているところを目の当たりにしたのが、まず関心を持った一番の根っこになります。

NPOは基本、今の制度や今の社会の仕組みから漏れ落ちてしまう方々を見ていられないということで、ボランティアベースでお手伝いをするのが基本なんです。なかなかそれでは焼け石に水だということで、仕組みを作る側に回りたいと思ったのが一番のきっかけです。

奈良は、実は東大・京大合格率が日本一で、非常に教育熱心なんですね。その反面、私学など県外の優秀な学校にどんどん出ていく人もけっこう多い。やっぱりこれからの時代、例えば高校までずっと公立で行っても、自分のなりたい仕事に就けるような、公教育の質を担保していくことが非常に大事だと思いました。ぜひ教育に力を入れてやりたいなと思って、取り組んできました。

赤堀:ありがとうございます。今、国はとくにネットワークあるいはクラウドだとか、いろんな面で、どっちかと言うと一般の受け止め方はテクノロジープッシュというイメージを持っていると思うんです。これからの時代はテクノロジーの時代だと私も書きましたけれども。

文科省だけじゃなくて経産相、また内閣府も含めて、もっと時代に応じた教育をやろうじゃないかと。「そのためにはテクノロジーが必要だ」「予算もつけます」と言う。しかし、受け手側の自治体としても、それは予算のかかる話で。横尾さんが言われるように、どう自治体として対応するのか、それなりの苦労もある。

もちろん1人1台のハード、ネットワーク、いろんな面での整備が非常に重要だと思いながらも、やっぱり苦労があると思うんです。それに対してどんなふうに考えておられるか。率直でもなく適当でもなく、想いを、苦労も含めてなにかありましたらお話ししてください。

消費税25パーセントでも「ベリーハッピー」なデンマーク

横尾:いいですか? 先ほど別のセッションで、デンマークから来られているお2人のVIPとお隣同士になって、お話ししたんです。「デンマークはどうですか」という話をしたら、こうですよ。

「1人1台なんて当たり前」「数十年前からしているよ」と。学校は大学まで入学金や授業料が無料ですから。医療も無料ですよ。いいでしょう? ただし消費税は25パーセント。所得税が5割近くあるのかな。それでも2人とも言われたんです、「でもベリーハッピー」と。

なんでだろうと思ったら、社会システムをみんなで考えるときに、目の前のことじゃなくて、「生まれてから天寿を全うするまで、どのような社会的コスト負担でどのようなことを実現するか」をちゃんとプログラミングしているわけです。まさに、プログラムしている。

それはやはり、みんなで達成しようという社会風土と歴史とシステムがある。そのへんがちょっと、日本はまだまだこれからなのかなぁ。

数日前に発表されたニュースでも、文科省かなにかの話があったんですけど、「データはこれから取ります」と言うんですよ。ほかの医療などの分野でも、「実はデータ活用はこれから」というのをいっぱい聞いています。

もうちょっとびびらないでデータをきちっと集めて、客観的に世の中を見て、目指すべきはこうだと知ること。そして、参考になる国がこういうことをやっているなら、それを参考にして、早く階段を上がっていくべきだと思うんです。

そういうことをちゃんと明示したら、日本の納税者の方や有権者の方も優れた方が多いですから、「そういうことなら応援するよ」となるかもしれないと思いました。

風土や思想からレベルアップさせなければならない

横尾:もう1つは、北欧のスウェーデンの方とお話ししたときに、「私が納めた税金が誰かのために使われるんだったら嫌だ。でも、みんなのためだったらいいよ」と。「あなたの会社のために使うんだったら、私は納めないよ。ミスターヨコオ」と。「でも、オールチルドレンのためだったら私は納めていい」。そういう納税者感覚を持っていると聞いたんです。

このへんは、我々も政治や行政を担当させていただきながら、そういう風土や理解もレベルアップしなきゃいけないんだろう、と思うんです。そういう空気、ベースみたいなところに、便利になってきたICT・IoT・AIなどのツールがあり、それを文房具のように使いこなす時代になると思うんです。あるいはもっともっと便利なものを子どもたちが作るようになると思うんです。

私はほかのセッションとも同じ想いがあるんです。子どもたちに、社会問題を解く経験をさせたいんですね。身近なところでいい。中学生の子が、お母さんがゴミ捨ての順番で困っているからプログラミングで作りましたというのが、実際に麹町で展示されてます。

そういう小さなミニ成功経験をして、「これだったらやれるね、みんなでやったら楽しいね」と。その仕事って、実はお父さんが毎日していることですもんね。お母さんがNPOでしていることかもしれないですよね。

同じような経験をしていけば、とてもいいんじゃないかなと思って。そのためのICT、IoTの投資だと思えば、「もっともっと改善しよう」となるんじゃないかと期待しています。

赤堀:力強い言葉をありがとうございました。

「新しいものを受け入れる苦しみ」の先に恩恵がある

赤堀:倉田さんどうですか?

倉田:さっきの赤堀先生の、国が最近急速にテクノロジープッシュしてきているという話なんですけれども。僕は個人的には、さっきのデンマークの話じゃないですけど、ようやくか、というのが正直な感想です。

自治体のほうでは、それこそICT教育首長協議会とか、始まってもうだいぶ経ちますけれども。そのころから個別の自治体が、ある種苦しみながら、各地で点々としながら取り組みを進めてきた。それが、国がやっと本腰を入れてくれることによって、これまで関心がなかった自治体も含めて、巻き込まれざるを得ない状況になっていくわけじゃないですか。

これでようやく初めて、全国の子どもたちがその恩恵を受けられるようになっていくわけですし。たぶんそれまでの間、各自治体や各学校現場は、新しいものが急速に入ってきて、たぶん苦しむのは苦しむと思いますが、今まで個別で苦しんでいたものの比じゃないですよ。みんな苦しんでいるから。

ソリューションはもっと早く見つかると思いますし。苦しむのはたぶん一瞬のことじゃないかなと思うので。そういう意味では、ようやく国の動きが本格化したので、自治体側でもそれをちゃんとキャッチする努力をして、全国で底上げできればと思います。

赤堀:いいメッセージをありがとうございました。じゃあ仲川さん。

仲川:ハード先行型の1つのリスクは、やはり数の論理で。学校の教室に1つなんぼとかね。「数を揃えれば質が伴ってくる」と勘違いしてしまう首長さんや政治家の方が出てきてしまうリスクは、あるかと思います。

ただ今、これだけ先行事例も出てきていますし、根拠になる数字のデータの塊も出てきていますので。このあたりをもう少し全体的に集約して、やはり3年ごとなどでコロコロ変わる政策ではなくて、国としてもう少し中長期のしっかりと根拠に基づいた教育方針を示すのはまず大事だと思います。

もう1つ、これは裏表の関係というか、真逆のことを言うんですけれども。例えば奈良市も中核市ですけれども、教員の人事権はまだ県に委ねられています。政令市であれば、当然降りてくるんですけれども。そうしますと、例えば今、定年退職する先生が多いんですけれども、校長先生の成り手がなかなか見つからない。

例えば、市費でお雇いして校長に据えようと思っても、奈良に関しては現行その制度は運用できない。いろんな規制が妨げになっているところがあります。そういう意味では、突破口を作るような役割は我々の仕事かと思いますので。やる気があったり、意欲を持っているところには、どんどん柔軟に権限も委譲してしまって、いい事例をどんどん提供していけるのかなぁと思っています。

赤堀:ありがとうございます。

導入期は、“やった気になる”ことも大切

倉田:1個だけいいですか? 一瞬!

赤堀:一瞬。はい。

倉田:ハードなどを整備して、それで“やった気になっちゃう”という環境が、すごく大事だと思っていて。さっき少し話しましたけど、実はうちは小学校の4、5、6年生の全校に1人1台のタブレットを導入して、全教室に置いてあるんです。だけど、「使わなくていい」と言っているんですよ。

赤堀:誰が?

倉田:僕がです。「無理して使うな」と。どうせ無理して使わせても、うまくいくはずがないし、たぶん好きな先生は使い出すし、子どもたちも勝手に使い出すので、それでいいと。使う実績が上がってなくていいからと、ずっと言っているんです。

環境整備ってそういうことじゃないですか。なので、国も市町村もICT環境を整えたときに、とくにハード面に関して言ったら、ある種もうちょっとドーンと構えて。「使わなくてもいいし、使ってもいいよ」という感じで整備をしてほしいなと。僕はそう思います。

赤堀:いいですね。実はあと2分しかなくなってしまいました。最後にまとめなくてはいけないのでね。ただ倉田さんの話、最初のプレゼンで感動したことがあったんです。子どもの数が17パーセント増えた?

倉田:はい、増えました。

赤堀:なんとか教育で地方再生できないかというのが、今最大の問題じゃないですか。みんなそれで苦しんでいる。「教育がよければ、実は地方も元気になる」というメッセージと元気を、市長さんからもらいたいなと思って。どう考えているかを最後に言っていただいて、締めたいと思います。倉田さんからお願いします。

倉田:さっき最初に言いましたけれども、これから引越し先を探そうとか、家を考えようとか、子どもが生まれるとか。そういう人たちの最大の関心事は、間違いなく教育です。

教育で地方創生は間違いなくできると思うので。そこは明日から各市で何をするか、という取り組みだと思いますので、各自治体が全力でがんばって切磋琢磨すると、日本全国がよくなると思います。

赤堀:ありがとうございます。横尾さん。

横尾:明日のために今日進もうと。「今日行くぞ」というのが教育と言うんですけど。

(会場笑)

赤堀:拍手をお願いします。みなさん(笑)。

(会場拍手)

横尾:データで言いますと、例えば博士号の数とか博士論文・修士論文・知的所有権の数など、アジア諸国に日本は負け始めているんです。今ノーベル賞で輝いているんですけど。

それは、科学技術への投資が最近減ってきたという論評もあるんですけど、本当にこのへんはしっかりしないと。人口が減っていく中で、生産性を高めて国力を維持するためには、やはり教育しかないと思うんです。

そういう意味では、多くの人たちがいろんなソリューションができる。目の前のこともよりよくできる。そういう人材がいろんな分野にいないと。農業・水産業・工業・医薬品・福祉、全部。とくに公務員はそうですけど。そうなるためにも、教育は欠かせない。未来づくりは教育から始まるということが、本当に言えると思います。

赤堀:ありがとうございます。仲川さん。

仲川:今日はたぶん、教育に関心のある人しか集まっていないし、無理やり来させられた人はいないと思うので(笑)。こういう方々は、ある意味放っておいてもいいと思うんです。

教育にあまり関心がなかったり、すでに自分の子どもが大きくなっているという人たちが、まだまだ意思決定者に多いので、やっぱり熱の伝播で変えていく必要があるんじゃないかと思います。

教育にアプローチをしたり関心を持つのは、好きとか嫌いとか嗜好では一切ない。なぜなら、教育に関心の低い街にたまたま生まれ育ったら、その子の人生がダメになるような格差が、逆に政策によって出てしまいかねないと思いますので。

そういう意味では、いかに仲間を増やしていくかが大事だと思います。これだけ技術が進めば、まさに地方でも十二分に質の高い教育を受けられますので。ここをいかに国としてチャンスにつなげていくかだと思います。

今求められるのは、潜在能力を見つけて伸ばす教育

赤堀:ありがとうございました。ちょうど終わりの時間になったんですが、私も1分だけ。つくば市の「つくば市立みどりの学園義務教育学校」という学校がありましてね。これはできたばかりですね。いま何年目ですか? はじめは700人だったんです。今、1,700人ですよ! 

そして2,000名になるので、分割しようかという議論になっている。住民が全部、住民票を変えて来るんですね。親は自分の子どもたちを幸せにする義務を持っているんです。教育による地方再生なり、いろんなものの原動力があるのではないかという。

そのためには道具が必要なんですね。道具というと、これまでは「道具か……」と言っていたと思うんです。今の時代は、道具はそれ以上の意味を持っています、ということを言いたかったんですが。

先ほど少しだけ言いましたけど、日本の中学生がシドニーの高校に行って、ほとんどがトップなんですよ。ということは、我々は相当な潜在力を持っていると思っているんですよ。それを伸ばし切れてない。

残念ながら、頭を押さえているような感じなんですよね。もっと自由に伸ばそうじゃないか。持っている力を、思う存分に発揮させていこうじゃないかと。それが、今求められている教育だろうと思うんです。

そのために使うべき道具は大いに使って、一人ひとりをちゃんと伸ばしていこうという。今の国を揚げてのポリシーや考え方は、やっぱり地方で大いに花開いていただければと思います。3市長さんみなさんから、「教育はものすごく大切だ」「これで地方を創生するんだ」というメッセージをいただきました。

拍手で終わりたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)