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パネルディスカッション「市長が語る自治体の教育イノベーション」(全2記事)

2019.11.19

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教育システムに投資するほど自治体が栄える 3市長が語るデータ活用の重要性と“EdTech”の今

提供:大日本印刷株式会社

2019年11月4日、東京ガーデンテラス 紀尾井カンファレンスで「Edvation x Summit 2019」が開催されました。日本の産業界や教育関係者を対象に、AIやIoTなどの先端テクノロジーを活用した教育イノベーションの普及を目的に開かれた本イベント。この記事でお届けする「市長が語る自治体の教育イノベーション」のセッションでは、全国の自治体に先駆けてICTを導入した教育改革を推進する3自治体の首長が登壇しました。具体的な取り組みやデータを織り交ぜながら、現代の日本が抱える教育問題に一石を投じます。

激動の時代の希望となる“EdTech”

赤堀侃司氏(以下、赤堀):それでは司会をさせていただきたいと思います。このパネルディスカッションは50分なんですね。時間が限られておりますので、みなさんにいろいろお話ししていただこうと思います。

教育界は今、激動の時代です。ご存じの通り、AIやビッグデータは我々はたぶんわかると思うけど。先般なんかは英語入試で大揉めしている。あるいは小学校のプログラミング教育は、来年4月から始まります。また、教員の働き方改革、これも待ったなしですね。いろんなものが言うならば激動の時代だろうと思うんです。

そういう中にあって、国も「EdTech」(テクノロジー)をちゃんと活用すれば、なんとかこの激動の時代を乗り越えられるのではないかという希望。そして一抹の不安と、いろんなものがあるのだろうと思います。

市長という自治体の最高責任者が教育をどう見るのか、率直な意見交換をしたいというのが、今日のシンポジウムの目的であります。先般、報告、あるいは提言として文科省から出されたのが、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」ですね。ここにいろんなことが盛り込まれております。

この中で私が一番好きなところと言うと個人的で恐縮でありますが、“公正に個別最適化された学び”ですね。「公正に」ということは、たぶんそれは頭のいい子も勉強ができない子も、また体の弱い子も、運動神経の鈍い子も、すべての人たちです。すべての子どもたちが、自分に合った学びができるということを、国が保証しようじゃないかと。

国が生きていくためには、1人ひとりが元気にならなくちゃいけません。最適化をして、どこでも誰でも大いに勉強しようじゃないかと。それを保証しようというこの考えは、理念として非常にすばらしいのではないかなと思います。私なりにちょっとまとめたスライドを……ただ時間があと3分しかないので簡単に。

キーワードは「個」「データ」「テクノロジー」

赤堀:まず個人を大切にする時代です。個を大切にしたい。(スライドを指して)しかも一番下のところにね。もうちょっと大きくしとけばよかったんですが……すみません。誰1人取り残すことなく子どもの力を最大限引き伸ばすというのは、すばらしいと思うんです。持っている力がいっぱいある。

これをしゃべると時間がないんだけれども……オーストラリアのデンバーに行ったときに、わかりました。日本の中学生がデンバーの高校に来ているんです。聞いてみたら、最優秀賞とかいろんな表彰とか全部もらっているんですよ。

日本は何をやっているんだ。もっと力を伸ばしてやればいいじゃないか。「オーストラリアに来て自分は思う存分やっています」と、その子は言っていましたけれども、そんな時代です。

それからデータ活用ですね。データを活用する時代。教育はもっとお医者さんのようなモデルを作らなくちゃいけない。昔々の学者もそんなことを言ったんですよ。

1人ひとりに応じた処方を作れ、と。それはカルテでしょ。お医者さんはカルテを持っていますからね。カルテによって1人ひとりに合った処方、教育をやるべきだという。その時代がやってきたというのが、データの時代。

それからテクノロジーを取り入れる時代。考えてみたら、人類が発展してきたのはテクノロジーのおかげですよ。そうやって時代が大きな変革を遂げているので、さらにテクノロジーを取り入れていこうではないか。

さらに最後は、いわば深い学びに向かう時代であって、浅い学びではなくて深い学びにしていかなければいけない。これは学習指導要領を待つまでもなく、みなさんご賛同いただけるかと思うんです。

こういった時代において、各自治体ではどのように学んでいくのかというのが今日のテーマです。『市長が語る自治体の教育イノベーション』というタイトルであります。最初に仲川市長からプレゼンをよろしくお願いいたします。

年に1度の学力調査ではフィードバックが遅すぎる

仲川げん氏(以下、仲川):お時間が限られておりますので、さっそく入りたいと思います。

赤堀:ちょっとスライドの表示に時間がかかります。

仲川:あ、時間がかかりますか。じゃあ、その間にしゃべっておきます。今日は市長のセッションということで、だいたい教育庁とか教育部局の方が企画されることが多いかと思うんですけれども。実質的に予算や人事権を持ち、職員を動かしていく首長が、やはり教育にしっかりとコミットしていくことが大事だと思っています。

(スライドを指して)これは教員の年代を分析したデータです。左のほうが小学校、右が中学校です。どちらも10年前と比べて、今年はだいたい10年目までの教員の数が50パーセントを超えています。

これが小学校ですと、10年前はその半分くらい。24、25パーセントの教員が10年目までだったんですが、今は50パーセントを超えている。中学校はもっと顕著で、10年前は12パーセントしか10年目までの若い先生がいなかったんですが、今は50パーセントを超えていると。こういう状況、みなさんの街でもほぼ同じだと思います。

これがEdTechでなんとか改善される時代が来るのか。大量退職で経験不足の先生が非常に増えるということで、どうやって技術的に補完していくか。仕組みとしてサポートしていくかということが、大変重要だと思っています。

今、各地で教員の指導力不足に伴っていろいろなトラブルが起きたり、その問題を事後処理するところに先生も手が取られてしまうことで、管理職になりたがらない先生が非常に多い。いろんな課題をみなさんも感じておられると思います。

そしてもう1つは、赤堀先生がおっしゃったように個別最適化されていない、一方通行、一斉授業型による学び漏れの問題。私も実は、家庭教師を学生時代によくやっていたんですが、中学生を教えても小学校の勉強からもう1度教え直さないといけないということをよく見ておりました。そういう意味でも、やはり学び漏れに対して、いかにフィードバックの回転頻度を速くするかが重要だと思っています。

全国学力調査は、ご存じのように年1回ですので、前の年の1年間にどれだけの学びが蓄積されたか残高照会をしているだけであって。その当該年度の先生にはなんの責任もないわけですね。何かあるなら前の学年の先生に言ってださい、という話なんです(笑)。こうしてフィードバックが非常に遅れる課題がございます。

奈良市:独自の学力向上システム「学びなら」

仲川:そういった中で、本市としては約4年前から大日本印刷さんと提携して、「学びなら(注:学習支援サービス「「Realtendant(リアテンダント)」」を活用した教育システム)」という仕組みを新たに構築しております。年に1回ではなくて単元ごとにテストをして、子どもたちの学びの学習到達度を確認する。

これによって、16種類のレコメンドシートというかたちの宿題のフィードバックを戻します。従来であれば、その教室の生徒みんなに同じ宿題を出して、みんなが同じように返してくるという流れですが。学びの到達度によって、16種類に分けた宿題を出すということです。これによって、授業がわかるかわからないかということについては、「よくわかる」と言う子どもが増えたという数字が出てきております。

これは始めて4年目なんですけれども、奈良市内の小学校は今43校ありまして、全小学校の4、5、6年生、3年間すべてで導入しております。今年の2学期から、小中一貫校をやっている山間部のほうでは、中学1年生にも試行的に導入していこうと。6年生までに蓄積してきた学習到達度や学び、その子どもの個性・偏りを、中学校の授業にどうつないでいくかということも実証しております。

これについては、「現代テスト理論」を取り入れています。問題に単に正解したか間違ったかということだけではなくて、例えばまぐれで正解した場合、もしくは本当はわかっているはずなのにケアレスミスで間違っているような場合、経験年数が低い先生ですとなかなかそのあたり(の判断)が難しい。おそらくベテランの先生であれば、そのあたりにチェックが入るんでしょうけれども。

簡単に申しますと、今までは100点・80点・60点という点数を粒に表しておりますけれども、粒の大きさ、つまり点数が高いか低いかだけで分類をしていたんです。その粒に色塗りをして、点数は高いんだけれども本質的に理解ができていない。もしくは点数が低いんだけれどもケアレスミスである。こういうところを色塗りして、個別に違う宿題を提供している。若手の教員には、非常に浸透してきていることでございます。

大阪大学の大竹文雄先生に協力をいただいて、奈良市の「学びなら」による効果をすべてデータでご提供させていただいて、分析していただいております。今日はあまり時間がないので、そんなことをやっております、という自己紹介です。

重要なのは「人格」と「未来創造力」を養うこと

赤堀:ありがとうございました。質問したいんですが、時間がないので。横尾市長よろしくお願いします。

横尾俊彦氏(以下、横尾):こんにちは。佐賀県多久市の市長の横尾と申します。遠く佐賀県からやってまいりました。この間、大雨で被災もしたんですけど、今日は教育の再生のためにやってきたところです。

タイトルにもありますように、私は教育というものを1つは人格・人間性の向上と、未来をどう創っていくかという力、この2つをしっかり養うことが大事だろうと思っています。

たまたま私どもの市には孔子廟(こうしびょう/中国、春秋時代の思想家、儒教の創始者である孔子を祀っている霊廟)がございます。「公私ともによろしく」とよく言うわけですけれども。ここで普通、笑いがくるんです。

(会場笑)

横尾:なぜこれを言うかというと、孔子廟が多久市にできて311年目でございまして、釈菜(せきさい)なども行っています。テレビ番組『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)にも出ましたけれども、論語カルタというものを作っていて、多久市の子どもたちは100の論語をほぼ覚えています。

テレビのディレクターが試しに何人かつかまえて聞きましたけど、みんなちゃんと答えました。ほっとしましたね。これが温故知新の人格形成につながればいいなという部分ですね。一方で教育イノベーションを考えていくと、いわゆる21世紀型スキルとか、今言いました人間力を高めていかないといけないんです。

そういった意味では、グローバルでダイバーシティな世の中に対応することとか。その中でも、コミュニケーションをもってみんなでポジティブに人生を拓いていくとか。こういったことをしっかり言うことが大事だと、かねてより思っています。

21世紀スキルは、インターネットで見れば10項目くらい出てきます。みなさんも共有されていると思います。ただ、年配のみなさんは、ICTがなかなかわからないという人もおられますね。私は「I create tomorrow」の略だろうと思っています。これ、なかなかいいでしょ? ぜひこういう発想で……。

(会場拍手)

横尾:あ、拍手。ありがとうございます(笑)。

どういう意味かというと、「僕が、私が、未来を創る」と子どもたちに感じてもらえるようにやることと、そのスキルを磨くことが大事だと思っています。午前中から先ほどまでのセッションでも聞いていましたら、やはり「未来創造力」という言葉が繰り返し出ていました。まさにこれだと思っています。

多久市:先生にもテレワークができる環境を

横尾:そこで、未来の学びに対して必要なのは、ツールにあたるICT、AI、IoTの時代がもう目の前に来ます。5年後にAIはもっともっと進むと専門家にも聞いていますので。これが1つ。

もう1つ、首長としては「お金がないと整備できない」という財政問題、政策推進の課題。そして働き方改革という現場の問題もありますので、なお射程に入れて取り組んでいきたいことです。

どんなことをやっているかということですが、多久市は平成21年に全校に電子黒板を全教室同時に配備するという方針を先に立てて、文科省に毎週のように「内定はいつですか」と電話をして、導入しました。

このときに大事だったのは、実は私の強い希望ですべての学校にICT支援を必ず入れてくれというようにしました。このことによって、(技術に)ちょっと苦手意識のある先生は、嫌と言えなくなってしまったんですね。

そして片方ではお金がありませんので、タブレットを使ったデジタル教材の開発をしながら、そこも確保したりトライアルをして着実にやれば学力が向上することがわかりました。

一方で働き方改革がありますので、このことにも挑戦しようと。(スライドを指して)下にありますように、月の残業時間80時間をできるだけ0時間に近づける努力をしようと。メンタルダウンも防ごうと努力しました。

具体的には、クラウドを使って学力向上のシステムを作ったんですけど。パブリッククラウドを使ってアクセスをして、先生方がよくできるように整備をしました。時間がないのでちょっと飛ばしますが、教育クラウドですね。そこでやって、とくに印象深かったのは、テレワークを採用したことです。

例えばご家庭に要介護の親御さんがいらっしゃるとか、家庭で急な病人が出てそのケアをしなきゃいけないという場合。テレワークがあるならば、いちいち教室に居残りすることなく、土日に往復何時間もかけて行くことなくできますので。

かなり楽になるという読みをもとに実施したら、もちろんセキュリティ教育と契約サインもしっかりしていただいていますけど、問題なく活用することができて。実測値ですけれども、実際に16パーセント弱、17パーセント弱の小学校課程、中学校課程で計測ができているわけです。

(スライドを指して)前期課程・後期課程と書いているのは、うちの市ではすべての学校を同時に小中一貫教育に変えました。そういったことでこのような取り組みができたと思っています。

これらの取り組みには、1つはフルクラウド、そして文科省や総務省のセキュリティガイドラインをクリアすること。時間外勤務の分析をすること。テレワークでやっていけるところはやって、改善ができたと思っています。

「予算不足」というボトルネックをチームワークで解決する

横尾:このことでは、市長と教育長のリーダーシップがかかせない。コラボですね。そして予算の獲得に関することも、汗をかかなきゃいけない。あと民間の方々の知恵も、本当に必要でございます。これらによってやってきたわけです。

そういうことで、ちょっとだけ教育首長会議のことをお知らせします。全国ICT教育首長協議会は、3年半ほど前に、現状を憂えた10人の有志で立ち上げたわけです。

箕面市長さんにも入っていただいていますし、仲川さんにもいろんな意味で協力とかアドバイスをいただいているところがありますけれども。赤堀先生にもお世話になっています。

何をやっているかというと、1つは「何が問題か」という細かいアンケートを取りました。「お金がない」が一番大きいですね。人、情報に関することもありました。(スライドを指して)青い白抜きのところをやれば解決できるということでしたので、これを具体的な項目に落として、文部大臣へ要望活動もしたところです。

また、多くの自治体の困っていらっしゃることを解決する冊子も作っています。インターネットでアクセスしていただくと、これは全部見ることができます。

この中に、実際にやっている各自治体、そしてやっていること(が書いてある)。左側に出ているのが、非常に大事なポイントです。例えば「なぜできないか?」、公約に入れていれば、まぁいけますよね。首長・教育長・議会の理解をどう進めるか。これが理由にあります。

これらについて、「こうしたらできるよ」というヒントも、協議会としてできるだけ提供するようにしているところです。やはり、トップ・議会・関係者がしっかりとチームを組むことが大事だろうと思っています。そのことについてもホームページ上で紹介しています。

文科省に「調達」「規制」「クラウド」に関する提案

横尾:さらに文科省で議論を進めていただくために、かなり突っ込んだ提案を3つしました。調達に関すること。規制に関すること。クラウドに関すること。例えば規制ですと、日本語キーボードを作るだけで1万円くらい高くなります。

こういったことも改善できないかと。あるいはデバイスの単価を安くすることはできないか、クラウド改革はできないか。突っ込んだ提案を教育再生会議のヒアリングを受けたときに説明しましたら、そのあたりからトレンドも少しよくなってきたと思っています。

そういうことを受けて、最近の動きですが、(スライドを指して)右上が総務大臣。左下と右下が文部大臣ですけど、それぞれに国会の先生方、議連と一緒に要望活動に行きました。

敷設整備の議連ですけれども、「こういうICT時代の教育環境整備も重要なので、一緒に来い」ということで行きました。仲川市長さんもご一緒しました。非常に印象深かったのは、総務大臣も文科大臣も開口一番「1人1台は大事だよね」「そういう時代ですよね」と言われたので、ほっとしました。

災害がひどくて、予算がそっちに流れる。教育分野は削られるなぁと心配をしているので、ぜひ大型補正予算を組んでいただいて、ICT化の加速、また新時代に向けて子どもたちがいい教育を得られて、未来に羽ばたけるよう、しっかりと努力をしていきたいと思っています。

「1人1台パソコン」は、パンフレットも作ってアピールをしました。こういう現状をどんどん改善してくださいということを、このパンフレットを持って国会議員の先生や各重要部署に要望もしてきたのです。今後とも「I create tomorrow」を忘れることなく、ぜひみなさんと一緒によりいい教育ができればと思っていますので、お力添えをよろしくお願いしたいと思います。以上です。

(会場拍手)

箕面市:教育・子育てシステムの整備で、子どもの数が17%増

赤堀:ありがとうございました。それでは続きまして、倉田市長にマイクを渡して、プレゼンをよろしくお願いします。

倉田哲郎氏(以下、倉田):改めまして箕面市長の倉田と申します。大阪から来させていただきました。時間もありませんので、取り組みを紹介させていただきたいと思います。

箕面市は簡単に言うとベッドタウンです。大阪市内にみんな通っているという街なんですけれども。(スライドを指して)これは箕面市の人口推移になりますが、実はこの10年間で約8パーセント人口が伸びています。それは、実は子どもの数が増えているからで、子どもの数だけでいくと17パーセント、10年間で子どもの数が伸びました。

何が言いたいかというと、ぜひ首長に「教育とか子育てとかにお金をかければちゃんと自治体に返ってくるんだよ」という(他自治体の)実績を説得材料に使って、教育にバンバン投資してほしいなと思って、持ってきました。今日はここに、おそらく教育委員会とか自治体の方がいらっしゃると思うんですが、教育への投資は絶対に損になりませんので。

今日は箕面市の学校現場でのICTの話です。教室の中では、もちろん電子黒板も使っています。あとは昨年の2学期から、小学校4、5、6年生は1人1台タブレット体制を導入しています。バックグラウンドで動いているのは、多久市さんが全国で初めてやられたクラウド。これがうちでも動いています。

例えばうちは、英語教育を小学校1年生から中学校3年生まで毎日やっています。小学校の低学年の先生がいきなり英語教育はできないので、これは逆に言ったら電子黒板とかタブレットがなかったら実現できなかったことであろうと。こうして中身はどんどん変わっているという実状です。

ほかにもあります。意外に忘れられがちなのが、教職員室がいまだにファックスを使っているところがけっこう多いので。ここは学校現場で見落とされがちなので、ぜひ普通のビジネスくらいの環境は整えてあげてください。これはぜひお願いをしたいと思います。

先生のスキルを可視化して横展開すれば効率UP

倉田:今日の本題が、子どもたちや先生が触れるICTです。さらに僕はバックグラウンドでこれをどう支えるかデータがすごく大事だと思って、本題に持ってきました。

箕面市で取り組んでいるものは奈良市と少し似ているんですけれども、小学校1年生から中学校3年生まで学力・体力・生活状況……朝ごはん食べたとか、毎年そういうものを全方位で全数調査をする。一部の項目は年2回くらい取っています。仲川さんのところのスピードにまでは及んでいないですけれども、やれています。

このデータがあるおかげで、クラス替えがあっても、ある集団が去年どういう集団だったかは、(データで)組み替えればわかるんですね。ある集団が今の瞬間値で成績がよくても、もともとよかった子たちなのかすごく伸びた子たちなのかがわからない。でも、これが組み替えられるので、わかるようになります。

たぶんその集団を伸ばしたのは担当した先生であろうと。絶対値じゃなくて、先生別に子どもたちの成績の伸び率を分析していくと、先生ごとに「実はこの先生は算数をすごく伸ばすのが得意だよね」「実はこの先生は社会苦手なんだ」とかがわかる。そういうものが可視化されていきます。そんな取り組みなどを進めています。

実際、これは5年か6年くらいやっているんですけれども、年が増えていけばいくほど可視化が進んできている。現在では全校に「先生ごとに逆分析をしたデータ」はフィードバックをしています。

多くの校長先生たちは、これを初めて受け取ったときに「やはりそうだったか」と言っていました。つまり、感覚的に先生方が思っていた各先生の得手不得手みたいなものが、可視化されたということですよね。

これは先生を責めるためにやっているんじゃなくて、たぶんいい先生はすごいノウハウがあるはず。そこを真似して広げて、全体の指導力を上げていくことができるんじゃないかと思っています。もちろん子どもたちのことも1人ずつ追っていきますので、そういう取り組みもやっています。

データ分析が活躍するのは、学力向上だけじゃない

倉田:あとおもしろいのが、「最近友達と仲いいですか?」という、学級の絆に関する質問項目があります。

そういう項目を集めて偏差値を取ってみる。年2回取って、前半よりも後半に取ったときのほうが異常値で悪くなっているクラスとかがあるんです。

おそらくこれは学級崩壊の前兆であろうと思うので、教育委員会から各学校の先生に「そういうクラスは、ちょっと注意だよ」という注意喚起をして、早めにテコ入れする。そんなこともしたりしています。

いろんなデータの分析の仕方があって、これも実験的にやったんです。「自己肯定感をどうやって高めるか」という会議があり見てみると、自己肯定感に関わりそうな調査項目だけを集めて、各学校別に分類してやってみると、全部が高い学校と、全部低い学校がある。

おそらく、その学校の取り組みがなにか効いているんだろうと。そこから先、「何が効いているか」は、逆にアナログで探していかなければいけないですけど。そういうこともやっています。これは、小学校も同じ結果が出ています。

例えば小学1年生を対象に、私立・公立別で出身幼稚園や保育所のデータを出して3ヶ年並べてみると、優位に高い・優位に低い・毎年バラける幼稚園と保育所が分類できます。それもおそらく幼稚園保育所のなんらかの取り組みが効いてたり、場合によってはうまくいってなかったりっていうことがあるんだなっていうことがわかります。

このデータは、学校分野だけで使っているわけではなくて、市役所で福祉系の所得や家庭状況、そうしたデータを持っています。そこと接続して一緒にモニタリングをすることで、「データ上に異常な変化が出ているということは、この子はなにか急遽課題が出ているんじゃないか」ということがわかるんです。

家庭に課題のある子が今どういう調子か、先生たちが把握していることはもちろんあります。学校現場にそれをフィードバックして、また見ていってもらうとか、そんなこともしています。

そういう意味では、データをしっかり取って分析をしていくということが、教育や子育てに対していろんな意味で寄り添っていくうえで、ものすごく不可欠だと思います。その部分をぜひ各地で取り組んでいただければなと思います。以上です。

(会場拍手)

赤堀:ありがとうございました。

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