激動の時代の希望となる“EdTech”

赤堀侃司氏(以下、赤堀):それでは司会をさせていただきたいと思います。このパネルディスカッションは50分なんですね。時間が限られておりますので、みなさんにいろいろお話ししていただこうと思います。

教育界は今、激動の時代です。ご存じの通り、AIやビッグデータは我々はたぶんわかると思うけど。先般なんかは英語入試で大揉めしている。あるいは小学校のプログラミング教育は、来年4月から始まります。また、教員の働き方改革、これも待ったなしですね。いろんなものが言うならば激動の時代だろうと思うんです。

そういう中にあって、国も「EdTech」(テクノロジー)をちゃんと活用すれば、なんとかこの激動の時代を乗り越えられるのではないかという希望。そして一抹の不安と、いろんなものがあるのだろうと思います。

市長という自治体の最高責任者が教育をどう見るのか、率直な意見交換をしたいというのが、今日のシンポジウムの目的であります。先般、報告、あるいは提言として文科省から出されたのが、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」ですね。ここにいろんなことが盛り込まれております。

この中で私が一番好きなところと言うと個人的で恐縮でありますが、“公正に個別最適化された学び”ですね。「公正に」ということは、たぶんそれは頭のいい子も勉強ができない子も、また体の弱い子も、運動神経の鈍い子も、すべての人たちです。すべての子どもたちが、自分に合った学びができるということを、国が保証しようじゃないかと。

国が生きていくためには、1人ひとりが元気にならなくちゃいけません。最適化をして、どこでも誰でも大いに勉強しようじゃないかと。それを保証しようというこの考えは、理念として非常にすばらしいのではないかなと思います。私なりにちょっとまとめたスライドを……ただ時間があと3分しかないので簡単に。

キーワードは「個」「データ」「テクノロジー」

赤堀:まず個人を大切にする時代です。個を大切にしたい。(スライドを指して)しかも一番下のところにね。もうちょっと大きくしとけばよかったんですが……すみません。誰1人取り残すことなく子どもの力を最大限引き伸ばすというのは、すばらしいと思うんです。持っている力がいっぱいある。

これをしゃべると時間がないんだけれども……オーストラリアのデンバーに行ったときに、わかりました。日本の中学生がデンバーの高校に来ているんです。聞いてみたら、最優秀賞とかいろんな表彰とか全部もらっているんですよ。

日本は何をやっているんだ。もっと力を伸ばしてやればいいじゃないか。「オーストラリアに来て自分は思う存分やっています」と、その子は言っていましたけれども、そんな時代です。

それからデータ活用ですね。データを活用する時代。教育はもっとお医者さんのようなモデルを作らなくちゃいけない。昔々の学者もそんなことを言ったんですよ。

1人ひとりに応じた処方を作れ、と。それはカルテでしょ。お医者さんはカルテを持っていますからね。カルテによって1人ひとりに合った処方、教育をやるべきだという。その時代がやってきたというのが、データの時代。

それからテクノロジーを取り入れる時代。考えてみたら、人類が発展してきたのはテクノロジーのおかげですよ。そうやって時代が大きな変革を遂げているので、さらにテクノロジーを取り入れていこうではないか。

さらに最後は、いわば深い学びに向かう時代であって、浅い学びではなくて深い学びにしていかなければいけない。これは学習指導要領を待つまでもなく、みなさんご賛同いただけるかと思うんです。

こういった時代において、各自治体ではどのように学んでいくのかというのが今日のテーマです。『市長が語る自治体の教育イノベーション』というタイトルであります。最初に仲川市長からプレゼンをよろしくお願いいたします。

年に1度の学力調査ではフィードバックが遅すぎる

仲川げん氏(以下、仲川):お時間が限られておりますので、さっそく入りたいと思います。

赤堀:ちょっとスライドの表示に時間がかかります。

仲川:あ、時間がかかりますか。じゃあ、その間にしゃべっておきます。今日は市長のセッションということで、だいたい教育庁とか教育部局の方が企画されることが多いかと思うんですけれども。実質的に予算や人事権を持ち、職員を動かしていく首長が、やはり教育にしっかりとコミットしていくことが大事だと思っています。

(スライドを指して)これは教員の年代を分析したデータです。左のほうが小学校、右が中学校です。どちらも10年前と比べて、今年はだいたい10年目までの教員の数が50パーセントを超えています。

これが小学校ですと、10年前はその半分くらい。24、25パーセントの教員が10年目までだったんですが、今は50パーセントを超えている。中学校はもっと顕著で、10年前は12パーセントしか10年目までの若い先生がいなかったんですが、今は50パーセントを超えていると。こういう状況、みなさんの街でもほぼ同じだと思います。

これがEdTechでなんとか改善される時代が来るのか。大量退職で経験不足の先生が非常に増えるということで、どうやって技術的に補完していくか。仕組みとしてサポートしていくかということが、大変重要だと思っています。

今、各地で教員の指導力不足に伴っていろいろなトラブルが起きたり、その問題を事後処理するところに先生も手が取られてしまうことで、管理職になりたがらない先生が非常に多い。いろんな課題をみなさんも感じておられると思います。

そしてもう1つは、赤堀先生がおっしゃったように個別最適化されていない、一方通行、一斉授業型による学び漏れの問題。私も実は、家庭教師を学生時代によくやっていたんですが、中学生を教えても小学校の勉強からもう1度教え直さないといけないということをよく見ておりました。そういう意味でも、やはり学び漏れに対して、いかにフィードバックの回転頻度を速くするかが重要だと思っています。

全国学力調査は、ご存じのように年1回ですので、前の年の1年間にどれだけの学びが蓄積されたか残高照会をしているだけであって。その当該年度の先生にはなんの責任もないわけですね。何かあるなら前の学年の先生に言ってださい、という話なんです(笑)。こうしてフィードバックが非常に遅れる課題がございます。

奈良市:独自の学力向上システム「学びなら」

仲川:そういった中で、本市としては約4年前から大日本印刷さんと提携して、「学びなら(注:学習支援サービス「「Realtendant(リアテンダント)」」を活用した教育システム)」という仕組みを新たに構築しております。年に1回ではなくて単元ごとにテストをして、子どもたちの学びの学習到達度を確認する。

これによって、16種類のレコメンドシートというかたちの宿題のフィードバックを戻します。従来であれば、その教室の生徒みんなに同じ宿題を出して、みんなが同じように返してくるという流れですが。学びの到達度によって、16種類に分けた宿題を出すということです。これによって、授業がわかるかわからないかということについては、「よくわかる」と言う子どもが増えたという数字が出てきております。

これは始めて4年目なんですけれども、奈良市内の小学校は今43校ありまして、全小学校の4、5、6年生、3年間すべてで導入しております。今年の2学期から、小中一貫校をやっている山間部のほうでは、中学1年生にも試行的に導入していこうと。6年生までに蓄積してきた学習到達度や学び、その子どもの個性・偏りを、中学校の授業にどうつないでいくかということも実証しております。

これについては、「現代テスト理論」を取り入れています。問題に単に正解したか間違ったかということだけではなくて、例えばまぐれで正解した場合、もしくは本当はわかっているはずなのにケアレスミスで間違っているような場合、経験年数が低い先生ですとなかなかそのあたり(の判断)が難しい。おそらくベテランの先生であれば、そのあたりにチェックが入るんでしょうけれども。

簡単に申しますと、今までは100点・80点・60点という点数を粒に表しておりますけれども、粒の大きさ、つまり点数が高いか低いかだけで分類をしていたんです。その粒に色塗りをして、点数は高いんだけれども本質的に理解ができていない。もしくは点数が低いんだけれどもケアレスミスである。こういうところを色塗りして、個別に違う宿題を提供している。若手の教員には、非常に浸透してきていることでございます。

大阪大学の大竹文雄先生に協力をいただいて、奈良市の「学びなら」による効果をすべてデータでご提供させていただいて、分析していただいております。今日はあまり時間がないので、そんなことをやっております、という自己紹介です。

重要なのは「人格」と「未来創造力」を養うこと

赤堀:ありがとうございました。質問したいんですが、時間がないので。横尾市長よろしくお願いします。

横尾俊彦氏(以下、横尾):こんにちは。佐賀県多久市の市長の横尾と申します。遠く佐賀県からやってまいりました。この間、大雨で被災もしたんですけど、今日は教育の再生のためにやってきたところです。

タイトルにもありますように、私は教育というものを1つは人格・人間性の向上と、未来をどう創っていくかという力、この2つをしっかり養うことが大事だろうと思っています。

たまたま私どもの市には孔子廟(こうしびょう/中国、春秋時代の思想家、儒教の創始者である孔子を祀っている霊廟)がございます。「公私ともによろしく」とよく言うわけですけれども。ここで普通、笑いがくるんです。

(会場笑)

横尾:なぜこれを言うかというと、孔子廟が多久市にできて311年目でございまして、釈菜(せきさい)なども行っています。テレビ番組『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)にも出ましたけれども、論語カルタというものを作っていて、多久市の子どもたちは100の論語をほぼ覚えています。

テレビのディレクターが試しに何人かつかまえて聞きましたけど、みんなちゃんと答えました。ほっとしましたね。これが温故知新の人格形成につながればいいなという部分ですね。一方で教育イノベーションを考えていくと、いわゆる21世紀型スキルとか、今言いました人間力を高めていかないといけないんです。

そういった意味では、グローバルでダイバーシティな世の中に対応することとか。その中でも、コミュニケーションをもってみんなでポジティブに人生を拓いていくとか。こういったことをしっかり言うことが大事だと、かねてより思っています。

21世紀スキルは、インターネットで見れば10項目くらい出てきます。みなさんも共有されていると思います。ただ、年配のみなさんは、ICTがなかなかわからないという人もおられますね。私は「I create tomorrow」の略だろうと思っています。これ、なかなかいいでしょ? ぜひこういう発想で……。

(会場拍手)

横尾:あ、拍手。ありがとうございます(笑)。

どういう意味かというと、「僕が、私が、未来を創る」と子どもたちに感じてもらえるようにやることと、そのスキルを磨くことが大事だと思っています。午前中から先ほどまでのセッションでも聞いていましたら、やはり「未来創造力」という言葉が繰り返し出ていました。まさにこれだと思っています。