何でもあるのに希望だけがない国

永田暁彦氏(以下、永田):そこらへんって家入さんってどう思ってるんだろうなって。僕、しょうがなくど真ん中に残ってるんですよね。資本(主義)のど真ん中に残ってるところがあります。

家入一真氏(以下、家入):え、僕?

(会場笑)

そうだなあ。僕は、民主主義と資本主義のどちらかというと、僕の興味のあるところって「ポスト資本主義」みたいな世界観で。資本主義って、やっぱり強いんですよね。

「資本主義をなくそう」とか「壊そう」とか言うつもりはまったくないし、どっちかというと、「その上のレイヤーとしてどういう世界観を作っていけるか?」みたいなところに興味があります。僕の好きな小説で『希望の国のエクソダス』という村上龍の小説があるんですけど、昔っからバイブルみたいに何度も何度も読み直して、よく起業したいって子には読めって薦めています。

希望の国のエクソダス (文春文庫)

主人公の中学生が革命を起こすみたいな話で、その中でその中学生が印象的な一言を言うんです。「この国にはなんでもあると。豊かだけども。この国には何でもある。だが、希望だけがない」って言うんですよ。

けっこう前に書かれた本ですけど、今の日本を表してるなというか、資本主義のその先を表してるなと思っていて。

結局のところ、その先を描けていないんだと思うんです。2020年オリンピックというのも、短期的な目標としてはぜんぜんいいんだけど、その先って言うのは誰も描けていない。

「その先になにがいったいあるんだろう?」ということを考えたときに、その大きな流れ、時代の大きな流れ、その経済の流れというものに、僕は抗えないと思っていて。抗えない大きな流れの中で、一人ひとりがどう幸せに生きられるのか、「生きててよかった」と思える仕組みを作れるのかというところにどちらかというと興味があって。

クラウドファンディングにしろ、プラットフォームというものを通じて実現したい世界観、資本主義のその先みたいな、うまく言えないけど。それでどうなるんですかね。

資本主義の向こう側に行くカギは「好奇心」と「宗教」

永田:僕がキーワードに持ってるのが、「好奇心」と「宗教」なんですね。宗教とは例えなのですが、なにかというと、資本主義って、お金が増えるとか欲しいものが買えることが幸せだという1つの宗教的なものがあったから、みんながそこに向かって、一直線にがんばれたんです。

それが飽和した時に、自発的に前に進む力を持てる人と、外部から注力すべきものを示唆されて動く人の2種類に分かれると思います。例えば、アーティストやサイエンティストは、すでに内在しているものが表に出る職業で、下手したらお金がなくても、「とにかく宇宙のことが知りたい」と(言える)。

それって、人類の根幹的な部分で、動物と人間を分けるものだと思っています。もう1つが宗教で、お金というものが飽和してきて、コモディティ化してくると、「(お金以外の)何に人生を賭ければいいのか」ということになります。それを自発的に作るのは、限界があるかもしれませんが、その宗教の乱立が起こればいいと思っています。

「地球環境をどうにかしたい」とか、そういうのは完全に宗教だと思っています。だって、どうなるかわからないじゃないですか。もしかしたら、明日から一気に地球が冷えて、「CO2を出しまくれ」となるかもしれないですよね。そういう中で、自分が何かに傾倒して生きていけるって、すごく幸せだと思うんです。

家入:確かに。なるほどね。

永田:なので、僕は今朝サーフィンをして、子どもと庭で遊んでから、この会場に来ました。このライフスタイルって、自分が傾倒しているだけで、これが100パーセント正解だとは思っていません。だけど、「これがベストだ」と思えるものを、自分なりに築けていることが幸せで。そこの価値観がすごく多様化していって、傾倒できるような状況になると、資本主義の向こう側にいけるのかなという気がします。

「社会のために」という人が怖い

家入:いま思い出したんですけど、ファッションデザイナーの友人が言っていたことで、すごく共感したことがあって。ある時、二人でお茶をしていたら、彼が「家入さんは、よく社会のためにとか言うよね」と言ってきて。

「自分もよく言うし、若い人たちも最近よく言うでしょ」「シェアリングエコノミーとかもそうだし、社会のために何ができるかとか、地球のためにとか、SDGsとか、よく言うじゃん」と返して。そうしたら、「なんか怖いんだよ、俺」って言ってきて、「え、どういうこと?」って聞いたら、「俺らは地球という生物に取り込まれてるんじゃないの」と言われて。

昔はもっといろんなタイプの人間がいて、認められてきたのに、今は地球という生命体に取り込まれていると。少し人と変わった考えをする人がいたら、それを全部排除する方向にいってると。「だから、俺は社会のためにって言う人が怖くてしょうがないんだ」って言っていました。昔はもっと渋谷とか、少し変わった人がいっぱい歩いてたんですけどね。

(会場笑)

2人でお茶してたカフェもおしゃれだったんですが、「既視感しかなくない?」「みんなが同じ顔をして、同じ格好をしてる」と言われたときに、納得したんです。

そこから「俺らは地球に取り込まれようとしてる」って、ちょっと陰謀論みたいな話になってきたので、そこで打ち切ったんですけど。でも、確かにそういうのはすごく感じたなというのを、永田さんの話を聞いてちょっと思い出しました。

資本を幸せになるための手段にできるか

永田:「社会のために」ってすごくおもしろいキーワードですよね。イスラエルとパレスチナの人って同じ正義のもと、「自分たちは社会のために」と思って戦ってるわけじゃないですか。なので、正義という定義自体がとてもあやふやで、もはや宗教的なんです。

僕らはバングラディシュの貧困地域で、年間100万食の給食を配布していて。それについて、ある大学で講演会をしたら学生が手を挙げて、「なんでそんなことをするんですか」と言われたんです。その生徒が「人口爆発で食料がなくなるのに、死ぬはずの子どもを生き永らえさせるなんて、悪だ」と言ったんです。

それって、まさに正義と正義のぶつかり合いが起こった瞬間なんです。僕たちが正しいと思っていることなんて、それこそ地球全体の中で言うと、ほんの一部分のエゴイズムでしかないかもしれないんですが、僕はそれでいいと思っています。それが資本の次に生まれるものかもしれないので。

なんで人間が子孫を残すと思うかって話じゃないですか。そういうのは勝手に植え付けられてるだけの話で、新しく植え付けられることの素晴らしさもあるなと思ってます。なので、僕はサイエンティストを支援していて、なぜかはわかりませんが、「とにかく宇宙を知りたい」とか、「ミクロな世界だけを覗きたい」とか、そういうことしか言わない人がいて。そういうのって幸せだと思うんです。

幸福になっていくプロセスはなんでもよくて、いかに資本をそのための手段とか、道具にできるか。そこらへんの学生が衛星を打ち上げられたり、いろんな構造の変化が起こっている時代なので、「傾倒する何かを見つける」「正義を見つける」というのが、すごく大切だなと感じます。

農地使用率を8分の1にできる可能性がある、人工培養肉ベンチャー

佐別当隆志氏(以下、佐別当):自分の中で自分の宗教を見つけるというのが、自分らしい生き方なのかもしれないですし、家入さんの言う、小さな経済圏の話にもなってくると思います。家入さんは、前から「やさしい革命」って言われてましたよね。革命という単語はちょくちょく見るんですが、小ささと革命って反対の言葉のようにも聞こえて。

家入:まあ、「やさしい革命」ってなんだって話ですけど、好きな言葉でよく使っています。それこそ、ヒッピー世代の人たちに使われていた言葉なんです。「やさしさ」と「革命」みたいな相反するものを、自分の中で持ち続けたくて使っています。

佐別当:お時間もそろそろですよね。

家入:あっという間ですね。

佐別当:ちょっとですね、永田さんにリアルテックファンドの投資先を紹介してほしいなと思っていて。少し具体例を挙げていただけると。

永田:じゃあ1個だけ。僕が大好きなベンチャー企業で、インテグリカルチャーという会社があります。その会社が人工培養肉というのをやっていて、細胞から直接、肉を作っています。細胞がブクブクって膨れて肉になるんですけど、明らかに見た目はマッドサイエンティストなんですよ。最初はマンションの自室で、自分の肉を培養していて(笑)。

(会場笑)

佐別当:めっちゃうれしそうですね(笑)。

永田:(その企業に)数億単位で投資していて。結局なにをしているかと言うと、今は肉を食うために大量の農地を使って、穀物を牛に食わせてるわけですが、最初から肉を培養すれば、農地の使用率は8分の1くらいになります。そういうことをしているベンチャーです。

だれも投資しないベンチャーですが、世に出たら間違いないと思っているし、「何年後に(世に出る)?」と聞くと、平気で「10年後」とか言います。10年後に成り立つベンチャーに、だれも投資しないわけですが、「こういうのが実現すると世界が変わる」というのは想像できるので、そういうところに投資をするファンドをやっています。

既存の社会と戦うすべを持てる時代

佐別当:こういう新しいことをやろうとすると、既存の協会との軋轢とか、政治が出てきたりもしますし、そういう今まで守ってきたもの、すでに雇用が存在しているものが壊される可能性もあると思います。そういうことへの対応の仕方は、どういうふうに考えていますか。

永田:これおもしろいですよ。僕はバイオジェット燃料の責任者でもあるので、「CFOのFは、フューエルのFだ」と言っているんですが、2017年までは日本中が応援してくれたんです。「新しいエネルギーを作りなさい」というふうに。しかし、今年から横やりが入り始めてきたんですよ。

家入:へえ。

永田:今、日本のジェット燃料って10兆円分、供給されてるんですけど、大手2社がきれいに50パーセントずつ供給してるんです。

佐別当:偶然ですかね?(笑)。

永田:1社も参入したことがないので、僕らが日本の戦後初めての新規参入になります。昔で言うと、ドコモとKDDIみたいなものです。そこに「いざ入ろう」となった瞬間に、世界がガラッと変わりました。

今までは「がんばりたまえ」と言われてたのが、「将来のコンペティターかもしれない」みたいな雰囲気に変わったというのはあります。去年まで出てた助成金が全部止まったりして、それをどうやって塗り替えるかの話です。

佐別当:わかりやすいですね。

永田:なので、60億円の実証プラントを作りたかった時に、なにをしたかと言うと、株式市場を使いました。僕たちは社会の力で前に進んでいるんです。それができるって、すごく幸せなことだと思っていて、昔は20代で作った会社が、燃料の工場を作るなんて絶対できなかった。

だけど、「これをやったら社会が変わるかもしれないから、お金出してやるよ」という人が10万人いてくれるから、できていることがあって、戦う力の源が変わってきたなと思っています。それがあるから、TeslaだってスペースXができているわけですよね。そういう力をもらっているので、既存の社会と戦うすべを持っているんだと思います。関係者の方がいらっしゃいましたら、引き続きよろしくお願いします。

佐別当:「新しい価値を作るためにがんばっている」ということですね。

永田:そうですね。とくにインフラですよね。孫さんが携帯電話に参入したのって、本当にすごいですよね。ある種、アメリカでは無理だったわけじゃないですか。

佐別当:本当にそれ(永田氏のプロジェクト)が成功したら、宇宙どころか、どこへでも行けちゃう社会が実現するかもしれないですね。

永田:例えば、CO2を出さないエネルギー源が生まれるとか。これも宗教ですけど。