京王電鉄IT管理部長/感性AI代表の虻川氏が登壇

虻川勝彦氏(以下、虻川):みなさん、こんにちは。京王電鉄でIT部門長をやっております、虻川と申します。今日は『京王グループでのkintoneアプリ増殖法』という題でプレゼンさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

会社概要は、ざっくり言うと、新宿と渋谷の西側に電車を走らせている会社です。今回は、会社のことを覚えてもらうよりも「kintoneをどういう環境で導入したか」という視点で見ていただけるといいかと思います。

京王グループは京王電鉄が中核の56社からなる企業体で、鉄道、バス、タクシーなどの運輸業、百貨店やストアなどの流通業、不動産業やホテルなどのレジャーサービスなどをやっています。

京王グループで最初にkintoneを導入したのは、京王電鉄バスです。今日はそこもお話しさせていただこうと思います。

最近の取り組みということでは、座席指定列車を始めたり、Alexaが日本に展開されたときのファーストローンチパートナーとして、いくつかのスキルを展開しています。

これはどうでもいいんですが、私の自己紹介です。お笑いの虻ちゃんと同じ虻川です。なかなか虻川という名字の人に会ったことがないんですが、親戚ではありません。

去年から京王電鉄のIT管理部長と、併せて京王ITソリューションズというシステム会社と京王パスポートクラブというクレジットカード会社の取締役もそれぞれ兼務しています。

その前は、6年ほど京王電鉄バスに出向していました。先ほど申し上げたとおり、ここでkintoneの導入をしております。実は今年の5月から「感性AI株式会社」という、感性をAIで活用する会社をはじめておりCEOをさせていただいています。

このイベントを福岡でやるのに、「京王って九州とぜんぜん関係ないじゃないか」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、実は関係があります。

ここで一つ質問です。みなさんおなじみの九州バスネットワークポータルサイトと言えば何ですか? 

(会場の参加者が回答)

さすがです! 『@バスで(あっとバスで)』。このサイトでございます。九州はすごくバスが発展しているので、このサイトでバスの予約をされた方もいらっしゃるかと思います。

このサイトから高速バスを予約するときには、こういうサイトが出てまいります。実は、この『ハイウェイバスドットコム』は当社が構築・運営しているサイトです。九州のバス会社様とは非常に密接にやらせていただいております。

『ハイウェイバスドットコム』は、実はけっこう歴史がありまして2000年からインターネット予約サイトをはじめております。2016年からシステムの信頼性向上を目的にオールAWSで構築をしております。

普段私はこの予約サイトをご紹介をするときに「高速バスのご用命は『ハイウェイバス(ドットコム)』で検索してください」といつも言っているんですけれども、もちろん今日は『@バスで』で検索をお願いします! とお伝えさせていただきます(笑)。

kintone活用の4つのポイント

今日はkintone活用に関して、この4つの視点からお話をさせていただきます。一つ目は京王グループでkintoneを初めて導入した京王バスの事例、二つ目は京王グループで横串で展開している事例です。

3点目は、先ほどお話しした感性AIというまったく新規の会社を一から立ち上げた際の事例。そして最後に、京王グループ内でのkintoneの使い方・考え方の4つをお話しさせていただこうと思っています。

ですが実は枠が20分しかありませんので、どういう方がいらっしゃっているのかをお聞きして、どこに力点をおいてお話しするかを決めさせていただこうかなと思っています。挙手にご協力ください。

kintoneをこれから使う、または導入したての方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

けっこう多いですね。ありがとうございます。kintoneを普通に使っている方は?

(会場挙手)

なるほど。ありがとうございます。kintoneをバリバリ使っている方は? 

(会場挙手)

あ、さすが! 悩んでいる方は、今手を挙げた方にいろいろ聞いてみてくださいね(笑)。

もう1点質問をお願いします。kintoneを企業の部署単位で使っている方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます。企業全体で使っている方は?

(会場挙手)

これは多いですね。グループ企業、もしくは複数の企業で連携して使っている方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます! 導入したての方が多いようなので、最初にkintoneを導入した京王バスのお話を少し厚めにご説明させていただこうと思います。

京王グループは、京王電鉄が中心となって運輸、流通、不動産、レジャーサービス、その他事業を営んでおります。

「情シスだからできる革新を」

まず最初の一歩ということで、京王電鉄バスにkintoneを導入したお話をさせていただきます。導入は、私が京王バスに異動してきて少し経った2014年でした。

実は京王バスのシステム環境は、まだレガシーなシステムのIBMのAS400というオフコン(オフィスコンピュータ)がたくさん稼働していました。黒い画面に文字だけ出てくるようなイメージのって……若い人はわからないですよね、すみません(笑)。そういったシステムがかなり残っていました。

その後につくられた他のシステムとのデータ連携はあまり考慮されておらず、個別最適のシステムがどんどん出来上がっていきました。

実は、バスの運転手には、昔SEをやっていた人などもいます。その人が善意ですごく複雑なエクセルを作ってくれたりすることもあって現場で使われていました。

ところが、「ファイルが壊れて業務が回らないので何とかしてくれ」という問合せが入った時には、作ってくれた人はだいたいいなくなってしまっていて、どうにもならないというケースも起こっていました。

既存のホストのシステムにもエクセルにも入力するという、重複業務もかなり発生しており、現場の方々の手作業に頼っていた部分も多くなっていました。

さらに、そういうシステムを改善する予算がない。このままいくと、さらなる生産性の低下や運用破綻が起きると考え、「業務改革に取り組もう」と動き始めました。

お金がない中でどうやって業務改革を進めていこうかと考えていたときに、電車の中に「情シスだからできる革新を。」というキャッチーな吊り広告がかかっていたんです。

この当時、サイボウズさんはこういった情シス向けの広告を出されていたんですよね。この他にも「情シスしか出せない瞬発力を」「情シスだけが見える打開策を」というようなシリーズがたくさん出ていて、まさにこのキャッチフレーズに取組んでいた真っただ中でしたので、とても響きました。

遺失物の業務プロセスを紙からアプリへ

しかし予算がないなかでどうしようかなと思っていたところ、ちょうど警察から遺失物の情報をデータで受け取りたいという話をいただき、そのシステム予算が付いていました。

遺失物管理のパッケージを検討していたところ、「これはkintoneでできるんじゃないの?」と思い、その予算を使ってkintoneを導入しようと試みました。

まだぜんぜん触ったこともなかったので、30日のお試し期間を使って、周りの2~3人だけで動くシステムが作れてしまったので、けっこうスムーズに承認が取れました。

ただ、「遺失物のシステムを入れる」とだけ言えばよかったんですが、もともと業務改革への想いが強かったので「kintoneを使えばこんなことができます。あんなことができます」とやりたい事を語ってしまったんです。

そうすると経営層から「そんなことを始めたら、アカウントがどんどん増えて金がかかるのでは?」と。

kintoneはサブスクリプション型なので「1アプリしかなければ1ユーザーあたり1,500円のコストですが、100アプリ使えば1アプリ当たり15円ですよ」「そんなに安いサービスは他にないですよね!」とコスパの高さを説明しkintoneの導入を決定しました。

アカウントは必要に応じてじわじわと増やしていきました。でも、増やすには当然コストがかかるので、「このアプリは絶対必要だよね」というキラーコンテンツを作ったときに、アカウントを増やす流れにしました。

遺失物管理のアプリは、今までの紙での処理からシステム化するために業務プロセスを全て作り直すところまでを含めて、2ヶ月で構築しました。システムの制作期間的には、実質2週間程度というところでしょうか。

これが実際の「遺失物管理アプリ」です。警察のコード管理で3階層の分類があるのですが、慣れないとわかりづらいんです。

そこで、一つでもキーワードを入れたら、それに関するものが表示されるような要素を取り入れるなど、現場に優しいシステムを目指して作りました。

バス運転手への指導効率が大幅に向上

あと、次に入れたアプリがこの「添乗評価アプリ」です。京王バスでは添乗評価という仕組みを取り入れており、実際にバスに乗って運転の状況をチェックしていきます。

当時は、これを紙でやっていたんです。紙で記入したものを本社に集めて、エクセルに入力して、営業所に定期便で送ると、2週間もかかるわけです。2週間前の運転は、乗務員は覚えていないので、なかなか実感が湧かないと思います。

kintoneでのアプリを導入すると、評価がすぐに営業所に送られるので、最短バスが帰ってきたときに指導ができます。本人も覚えているので、実感が湧きます。このアプリの導入でスピードが上がっただけではなく、実際に指導効率も上がりました。

あとは「指導履歴アプリ」です。乗務員台帳という、法定で作らなければいけない部分に加えて以前は紙でバラバラに管理していた様々な情報をアプリ化し、人の切り口で横串で参照できるようにしました。

アプリ自体は2週間でできたんですけれども、管理項目は、今後もどんどん増えていきます。管理項目が増えてアプリが増えても、この指導履歴アプリの使い勝手は変わらずに、項目が増えていくだけなので、非常に使いやすいとご好評いただいています。

京王グループ全体に広まりはじめたkintone

次は京王グループの横串での利用例ということで、この部分の全社共通業務です。ここではグループ内で起きたセキュリティインシデントを検知し対応方法を提供する「京王SIRT」という組織が提供している「セキュリティポータル」の説明をします。

そのグループ会社と情報共有する基盤がkintoneで構築したセキュリティポータルです。

SIRTの対応プロセスは、インシデントが起きたときに検知したところがkintoneのセキュリティポータルに「この端末ウイルス感染しています」等の状況を入力し、SIRTがグループ会社等の当事者に「こういう対応をしてください」と指示を出します。最終的な対応が終わるまで、このポータルで管理されていきます。

これは実際の画面です。実はこのセキュリティポータルは、以前に、ある「aPaaS」を使って1年前に作られておりました。

ところがアカウントコストが非常に高価だったので、一部の会社にしか導入されていなかったんです。

「この仕組みはグループ全体で導入するべき!」と考え「kintoneで自前で作ってしまおう」と、入れたばかりのシステムを更新してしまいました。アカウントが倍になったのにコストが削減し、短期間で全社導入ができました。

この仕組みを見たり聞いたりして、他部署やグループ会社の方からも、「うちでもこういうのやりたいんだよね」「今までメールだったものをkintoneでアプリ化して情報をしっかり管理したい」という話がけっこう増えてきています。

自社やグループ各社で「この仕組み、意外とよくない?」という話がじわじわと出てきて、今、増殖をはじめたところです。

新規事業でのkintone活用事例

次は新規事業でのkintone活用です。5月25日に感性AIという会社を作りました。こういうコラボレーションツールを使っています。

業務プロセス全部をkintoneで作っているので、kintoneがないと業務が回らない状態になっています。

実際にアプリをご紹介します。これはお客様のお問い合わせアプリ。このホームページはkintone連携サービスのFormBridgeでできています。こちらから問い合わせをいただくと、kintoneに連携してデータが流れていく仕組みをノンコーディングで作っています。ぜひみなさまお問い合わせください(笑)。

案件管理のアプリもkintoneで作っています。こちらも連携サービスのプリントクリエイターを利用して、、お見積書や請求書が発行できる仕組みをノンコーディングでつくっています。

この画面ではサイボウズさんに1,000万円のご請求書が出てるようなんですが、石井さん、これはどこにお送りすばいいんですか?まだサービスの説明すらしていないのですが(笑)。

他には名刺管理。有名なS社さんほどの品質ではないんですが、名刺をスキャンしてkintoneへデータを登録する仕組みも使っています。

この会社で社外の人たちとプロジェクトを立ち上げたときには、ゲストスペースを使ってプロジェクトのポータルを立ち上げることがあります。既に汎用的に使えそうなアプリセットを用意しています。

プロジェクトが立ち上がったら、ポータルを作成しアプリセットが展開されるところまで、数分でできるようになってきています。

定着もはじまっています。「簡単そうだけど自分たちではやりたくない」というグループ会社に対しても、グループのシステム会社である京王ITソリューションズでkintoneの導入・運用をサポートできる体制ができつつあります。

最後にkintoneの使い方・考え方です。実はユーザーには「kintoneで100点満点のシステムはできない」と最初から言い切っています。「でも、スピードとコスト感では絶対に負けない」と説明しています。視覚的にわかりやすいように、スクラッチとの比較でこのようなグラフを作っています。

次に、ヒアリングに来られた方から「どんなプラグインを使っているの?」という事をよく訊かれるので、記載しておきました。

こちらは「どんなサービスを使っているの?」というものです。

「けっこうカスタマイズして使っているのでは?」とよく言われるんですが、実は極力カスタマイズしない方針でアプリを作っています。カスタマイズしたのは、実は遺失物アプリの1点のみです。

アプリの依頼から構築・運用・終息までのライフサイクルもアプリで管理しています。アプリの生産性においては、アプリにもよりますが「ユーザーのヒアリングをしている会議中にアプリを作成し、打ち合わせ最後にレビューをし、席に戻ったらすぐに使えますよ」というスピード感を目指しています。

あとは、モバイルアプリでのプッシュ通知も利用していますが、メールで通知してもなかなか処理しない人には有効です。だいぶ回答スピードや回答率が上がりました。

「超スピード・低コスト・激フレキシブル」を実現する武器

kintoneのおかげで、業務改善の時間がだいぶ増えました。

私たちは、kintone導入で「超スピード・低コスト・激フレキシブル」を実現する武器を得た、と考えています。

ただ、導入にあたっていろいろな問題も出てきます。

業務改革・改善は、最初からつまづくことを前提にした心構えで取り組みましょう。あと、アプリはすぐに作って動かす。ダメなところは直せばいい。それでもダメなら捨てればいいと思っています。まずはすぐにやってみることが大事。

悩んだら、こういうkintone hiveやkintone Caféなど、たくさんのイベントがあります。さっき手を挙げてくれたスペシャリストもいますので、いろいろ声をかけてみてください。

ぜひみなさんもkintoneを楽しんで活用していただければと思います。「Cybozu Days 2018 楽しいは正義」、本当にサイボウズさんは名前をつけるのが上手ですよね。みなさんも、いいものができたらぜひ共有してください。今日はありがとうございました。

(会場拍手)

石井優氏(以下、石井):ありがとうございました。この20分の中で、かなりギュッと凝縮した(お話でしたね)。

虻川:ちょっと押しましたね。すみません(笑)。

石井:最初は紙からの業務の移行も多かったと思います。今まで紙だったものがタブレットになったりすると、社内からの反発もあると思うのですが、どうやって説得したんですか?

虻川:正直、「今のままでいいよ」と言われるのは、最初から折り込み済みです。

石井:なるほど、なるほど。

虻川:今のままでも隠れたコストがかかっているものがあります。そういうことをしっかりと積み上げていって、「kintoneだと追加コストなしででできちゃうんだけど」と。

他のシステムとの連携で極力データを入力しなくていい環境をつくるというのも効果がありますね。どうしてもダメなときは「じゃあ一緒に飲みに行きましょう」というのも1つの方法ではあります(笑)。

石井:なるほど、コミュニケーションしながら。攻めの姿勢がすごく参考になったと思います。ありがとうございます。

虻川:ありがとうございました。

(会場拍手)