アイクスグループの生産性管理

山口高志氏(以下、山口):私はアイクス税理士法人の山口と申します。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

今日は、「ホワイトカラーの生産性をkintoneで管理する!」というお話をします。ここでのホワイトカラーは、一般的に言う事務職のことだと思っていただければと思います。

では、簡単に自己紹介をします。私は、静岡のアイクス税理士法人から来ました。アイクスグループの本社が静岡にありまして、アイクス税理士法人、社労士法人、行政書士法人というかたちで、士業を中心としたグループとなっています。現在、スタッフは120名ほどいます。

今日はサイボウズさんから「普段仕事してる時と同じ格好で来てください」ということだったので、在宅勤務の時の格好でこちらに来ました。普段は真面目な業種ですので、当然スーツで仕事をしています。

我々のアイクスグループは、全国に6拠点あります。静岡を本社にしまして、東京、大阪、それから鳥取県の米子市と、沖縄県の石垣島に支店があります。この鳥取と沖縄につきましては、作業を中心とする支店となっていまして、主に静岡、東京、大阪で受注した業務を、鳥取と沖縄で処理をする仕組みで、会社は運営されています。

簡単に自己紹介を入れます。私はアイクスに2005年に入社しまして、一貫してシステムエンジニアを行ってきました。13年間アイクスグループにいますが、一度も会計処理をしたことがないという、生粋のシステム屋です。

現在は同業の会計事務所や中小企業のITコンサルティング、それから、BPOの受注を受けています。

本当は(ほかの登壇者の)みなさまのように、子どもを抱っこした写真などにしたほうがよかったと思うんですけれども、うちの娘もう中学生ですので、抱っこしたら「気持ち悪い」って言われちゃいまので(笑)、今日は写真にできずに、似顔絵にしています。

会計事務所の仕事3つ

山口:さて、みなさまは会計事務所の仕事というと、どんなものを想像されるでしょうか? 今日説明する中では、会計事務所の仕事を3つ紹介します。

1つ目が、帳簿を作成する作業ですね。レシートとかから会計ソフトに入力をする作業です。2つ目が、税金の計算です。これは税法に則りまして申告をする作業。3つ目が、訪問をしてお客さまの相談にのる仕事です。会計事務所は主にこの3つの仕事をやっています。

以前のアイクスグループでは、1人当たりお客さまを持てる件数が、20~30件で限界でした。それが今では、1人当たり100件~120件担当を持てる仕組みになりました。なぜそのようなことができるようになったかといいますと、我々は「分業」というスタイルで仕事をやるようになったからです。

以前の会計事務所は、1人ですべての業務を行っていました。スライドに、一般的な職員が1週間どんなかたちで仕事をするのかをグラフにしたものを用意しました。

1人で、先ほど説明した会計入力から申告書の作成、訪問してお客さまの相談にのることをやってきていました。これでは先ほど言ったとおり、20~30件持てれば限界というかたちになってしまいますので、我々はこれを複数の人間で担当するかたちに変更を行いました。

つまり、1人ですべての工程をやるのではなく、会計処理をやる人は会計処理だけをやる、税務処理をやる人は税務処理だけをやる、お客さまのところに訪問する担当者はひたすら訪問だけするかたちで、複数担当制に変更をしました。

従来の、お客さまに対して担当を付ける業務スタイルから、工程に担当を付けるというかたちに、業務のスタイルを変革させてきました。そうすることで、業務は効率良く進むようになったのですが、この仕組みを運用するためには徹底した情報共有が必要になりました。そこで、「kintoneを使おう」という話になるわけです。

kintoneで管理表を作成

山口:kintoneでアプリをつくることはとても簡単です。項目を追加するのもドラッグだけでできますし、コメント機能を使えば、簡単に社内で情報の共有ができます。必然的に我々もどんどん管理表が増えていきまして、業務を管理できるようになってきました。

1つ、代表的な管理表の例を説明します。我々のグループは1人ですべての業務をするのではなく、工程ごとに担当を付けて作業を進めていく、分業スタイルを取っています。その時に、今画面に出ていますような、横軸が工程になっていて、縦に人が並んでいる管理表を使っています。

こちらはkintoneのデータをもとに独自に生成している集計表になりますが、「今どの工程に何件作業があるのか?」「そのある作業というのは今誰が何件抱えているのか?」ということがわかるようになっています。

従来、こういった管理表は、お客さまの名前があって「どこまで進んでいるか?」というかたちになっているんですが、この管理表はそういうかたちではなく、「どこの工程に何件あるのか?」ということがわかります。

具体的には、これから作業をしようという時は、「担当未割当」というところにある件数から自分の業務を取ってくるスタイルです。

「今、申告書の作成には3件未割当の業務がありますよ」という状態ですので、その3件をクリックすると「どこのお客さまだよ」ということが出てきて、そのどこのお客さまの「じゃあ、ここをやりますよ」とクリックすると、それがkintoneの管理表に飛ぶかたちで、管理表からkintoneの入力画面に遷移する、というかたちの管理表を作成しています。

この仕組みを使うことで、今まで最初に「このお客さんは誰がやるよ」って決めて業務を行っていたかたちから、「今どの工程に何件あるので、ここに何人割こうね」というかたちで、計画的な生産ができるようになりました。そうすることで、従来よりも飛躍的に生産性を向上する仕組みが、このkintoneの管理表で完成したわけです。

「業務ポイント制度」を遂行

山口:しかし、ここで大きな問題が発生します。従来は、最初から「○○さん、どこやってね」と決めていたので、業務は均等に割り振られていました。しかし、今は「この工程に何件あるので、この人数でやろうね」というかたちで、誰がどこをやると決めていませんので、当然のことながら、人によって処理件数の差が大きく出るかたちになります。

手が早い人、仕事をやってくれる人はどんどん取ってくれますし、正直に言えば、手が遅い方はやらなくても仕事が進んでいくかたちになりますので、やらない方はそんなにやらない状態になります。

では、これをどう解決しようということで、我々は「ホワイトカラーの生産性を数値化することができないか?」という取り組みを始めました。今見ていただいたように、kintone上にはすべてのデータが入っています。このデータをどう活用するかがポイントです。

我々の解決策は「業務ポイント制度」です。「業務ポイント制度というと、どういうものなのか?」と、みなさん想像されるかと思いますが、各工程ごとに「この工程をやったら何ポイントだよ」ということが、すべて事細かく設定されています。

例えば先ほどの例でいきますと、申告書の作成業務は180ポイントがついています。このポイントは、その工程をやってほしい標準の時間、1分を1ポイントというかたちで、ポイントを定義していまして、先ほどの180ポイントは「その作業を180分で標準でやってほしいよ」という場合に設定されているポイントとなります。

当然、作業ごとに難しさのランクや、かかる時間が変わってきますので、ポイントは作業ごとに6段階のランクで変わるんですが、標準でやってほしい時間である1分を1ポイントというかたちで業務ポイントを定義しています。

その業務ポイントをリアルタイムにkintone上に集計することで、「誰が、どの作業を、どれぐらいやっているのか?」ということを、数値化するというかたちを取っています。先ほど言いましたとおり、その業務を標準でやってほしい時間である1分を1ポイントというかたちにしていますので、仕事が早い人はこの業務ポイントが稼げます。

時間がかかってしまう人はポイントが稼げないので、「手が早い人、仕事を効率良くやってくれる人を評価しようよ」という仕組みが、この業務ポイントを使うことでできるようになっています。

ポイント制導入のメリット

山口:ランキング表がリアルタイムで表示されるようになっていますので、あと20ポイントでその人を越せそうだとなりますと、「もうちょっとがんばろう」ということで、若手なんかは、これを使ったことで、ゲーム感覚で仕事を取っていくかたちで、業務が進むようになりました。

つまり、今まで仕事は、振られてきてしぶしぶやるかたちだったものが、自分から未割当業務を取っていくスタイルに変わってきました。

ポイントの稼ぎ方も、難しい仕事ができる人は、業務ポイントが高く難しい仕事をしますし、まだ入ったばかりの新人は、業務ポイントは低いんですけれども、効率良くできる業務の数をこなすことでポイントを稼げるので、それぞれの能力に応じてポイントを稼げる仕組みになっています。

また、こちらの業務ポイントをずっと使い続けていくことで、「自社の生産性が向上しているかどうか?」を測定できるようになりました。つまり、前年の業務ポイントを上回っているかが1つ、生産性が向上しているかという指標になるわけです。

業務ポイントを1つ定義することで、ホワイトカラー、事務職と言われる職業はどうしても、誰がどれぐらいの仕事をやっているのか測りにくいと言われていますが、数値化して業務を楽しむことに成功しています。

システムの話になりますが、kintoneで業務ポイントを集計するうえでのポイントを、少しお話します。kintoneは集計することに関しては、少し弱いところがあります。

後で入ってるデータを集計しようとすると、集計に時間がかかってしまいますので、リアルタイムで集計をするために、各管理表で保存ボタンを押した時にJavaScriptが走るようになっていまして、集計ポイントを登録するためのアプリにポイントをリアルタイムで集計していくスクリプトが各アプリに組み込まれています。

kintoneにデータを集める方法

山口:ここまで、我々がどのようなかたちで業務を数値化してきたかを見ましたが、これをやるうえで一番重要なことは、どうしたらkintoneにデータを集めることができるかになります。

そこで我々が取っているkintoneにデータを集めるための3つの手法をお話します。紹介するのは3種類です。1つは、kintoneにいかに人を呼び込むかという流れ。2つ目は、kintoneから他のシステムにどう流れをつくるか。3つ目がハイブリッドというお話になります。

まずは作業の入り口を押さえます。みなさんも仕事をされていて、「まず最初にこのソフトを起動するなあ」「ここで顧客情報を見るなあ」という仕組みがあるのではないかと思います。

我々も一緒でして、当社はkintoneを使っているものの、お客さまの住所や連絡先を調べる時は、まず、サイボウズのGaroonのアドレス帳を開きます。そうすると、「kintoneで検索してください」ではなく、いかにこのGaroonからkintoneに飛ばすかが重要になります。

kintoneは、アドレスにレコード番号やビュー番号を含むことで、直接そのレコードに飛ばしたり、その表示したい画面を表示させることができますので、お客さまの基本情報が入ってるページに、それぞれの、例えば顧客情報であれば、「カルテ」と我々呼んでますが、カルテへのリンク、進捗管理表へのリンクを、すべてリンクを貼り付けておくことで一元管理しています。

また、QRコードも活用しています。例えば、アイクスグループにある資産には、すべてこのQRコード付きのシールが貼ってあります。こちらのQRコードを、スマホで読み取れば、その資産がどういうものかという、kintoneの資産管理の画面に飛ぶようになっています。

もしその機器が故障したり、なにかあれば、コメント機能を使ってもらえば、すぐに「故障したよ」ということが通知で飛んできますので、QRコードを組み合わせることで、資産管理を徹底できる仕組みになっています。つまり、入り口をどうするかを工夫してあげることで、kintoneに情報を集めやすい体制を整えます。

いかにkintoneを業務のスタート地点にするか

山口:2つ目のポイントは、kintoneを業務のスタート地点にできるか、ということになります。せっかくkintoneでアプリをつくっても、そこに来てもらわないことには、情報を集めることができません。ですので、いかにkintoneをスタート地点にするかにポイントを置きます。

例えば、みなさんも管理表をつくったことがあるかと思うんですけれども、管理表が業務のゴールになってしまってることって多くないですかね? 仕事が終わったら管理表に登録する。

ただ、本来管理表は、業務のスタート地点であるべきでして、業務で「今日、今から何の作業をしようかな?」ということを、管理表を見て決めて、作業場所に行って作業を行い、作業が終わったら、また管理表に戻ってきて記録をする循環をつくってあげることが非常に重要となります。

そのために、私どもすべての管理表に、お客さまの作業フォルダを開くためのスクリプトも付けてあります。つまり、管理表でそのお客さまのkintoneのページを開くと、ボタンを押すだけで、そのお客さまの作業フォルダが表示される仕組みを実装しています。最初に管理表に来る目的といいますか、モチベーションをつくってあげることを徹底しています。

紙とデジタルの融合も推進

山口:最後の3つ目です。デジタルとアナログのハイブリッドです。私どもアイクスグループの代表は、常々「システムだけですべてをやろうとするな」ということを言っています。ですので、「どんなにkintoneで優れた帳票ができたとしても、エントリーをしてくれなければ意味がない」ということを言っています。我々も全員にkintoneは使っていただきたいんですが。

例えば、外回りの営業はタブレットを持って移動してるわけではないので、お客さまと面談する時は、手書きで面談報告書を記載して帰ってきます。正直、営業の方たちは忙しいので、「事務所に帰ってきてからエントリーをしてください」と言うと、なかなかしてもらえません。そこで、入力を代行してあげるというかたちで、データを徹底して集めるかたちを取っています。

今、画面に出ていますのは、「資料収集リスト」と呼ばれる、「お客さまのところに行った時に、この資料預かりましたよ」という帳票なんですが、お客さまのところでは、この紙の資料にチェックを入れて帰ってきます。

帰ってくると、玄関のところにボックスが置いてありますので、そこにこの紙を置いておくと、受付の方がこの資料を見て、QRコードを読み取るとkintoneが開きますので、そのページに入力をするかたちで、本人ではなくて代わりに入力してあげる。

紙とデジタルをうまく融合することで業務を進めていく、体制を取っています。この資料収集以外にも面談報告書もありますが、それも同じように入力を代行してあります。

以上、まとめますと、我々はkintoneに徹底的に情報を集める仕組みを構築しています。そして、その構築したデータをいかに分析して、それを楽しく業務につなげていくか、という仕組みを併せて構築することで、1ヶ所に集めたkintoneのデータを業務効率を上げるために活用していく、仕組みをつくって運用している話をしました。本日はご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

kintoneの通知機能を有効活用

伊佐政隆氏(以下、伊佐):ありがとうございました。もう目から鱗すぎて、活用のアイデアがすごいですね。

山口:ありがとうございます。実は私、kintoneを使う前にサイボウズさんの「デヂエ」を使っていて、あの当時からリンクでデヂエに飛ばすことをやっていまして、それを応用しました。

伊佐:なるほど。電話や、会社の資産管理してる資産のQRコードをピッと読み取ったら、kintoneのレコードに行く。絶対やったほうがいいですよね。

山口:あれはすごく楽です。

伊佐:めちゃくちゃいいですね。

山口:今まで我々は機械が故障すると内線かかってきてたんですけど、最近はkintoneで通知がピコーンって来ます。

伊佐:すばらしい。あれをやるだけで、社内の生産性がかなり上がりそうですね。ちょっとしたことですけどね。

山口:拠点が全国にありますので、ああいった仕組みが必要になります。

伊佐:すごいおもしろかったです。とくに聞きたいのは、業務ポイントは先に行っちゃってる感ありますね。

山口:いえいえ(笑)。

がんばっている人が評価されるために

伊佐:業務ポイントを付けて、標準化して進めていく。私の勝手なたぶん思い込みかもしれないんですけど、標準化と、現場のみなさんが楽しく働くことは、難しい融合のバランスがあると思っているんですよ。そこはどんなふうに現場では捉えられてらっしゃるんですかね?

山口:そうですね。結局、標準化しようとしても、我々の仕事はどうしても個々の力に頼ってしまうところがあります。

伊佐:そうですよね。人によってバラツキは絶対出るじゃないですか。

山口:そうなった時に、全員に同じ量の仕事をやってもらうことは、どうしても無理があるんです。

伊佐:なるほど。

山口:そうした時に、我々が考えたのは、全員に平等に仕事をしていただくのではなくて、いかにやってくれてる方たちをしっかり評価をするのか。それから、そういった方々を見て、その次の世代が育っていってもらうかを考えたので、業務の見える化を進めました。

伊佐:なるほど。別に平等にしたいわけじゃなくて、標準化して、がんばっている人がより評価される正しいところに持っていくということなんですかね。

山口:言い方が正しいかわからないんですけど、均等という名の不平等があるかなと思います。

伊佐:世の中はまったく平等じゃないじゃないですか(笑)。たぶん、これはすごく自然の摂理かなと思うんですけど、その仕組みのつくり方がすごいおもしろいなと思って。

山口:いえいえ(笑)。

伊佐:少し突っ込んだことを聞いてもいいですか? 業務ポイントをガンと稼いで非常に仕事をしているんだけどミスも多い方はどう評価するんですか?

山口:これは正直に申しますと、業務ポイントを稼げてる方と、仕事のミスの少なさは比例しています。

伊佐:そうなんですか。

山口:はい。我々、あの作業の工程の後に「決裁」というチェック工程が厳しく入っていまして、チェッカーとの往復をすごくするんですね。なので、ミスが多い人はチェッカーの往復で時間がかかってしまうので、結果として件数がこなせない仕組みになっています。

伊佐:すごいですね。しっかりできてますね。

山口:(笑)。

伊佐:まいりました、という感じになりましたけど(笑)。すばらしいです。この話を延々と聞いてしまいそうなので、今日はこれぐらいにしておこうかなと思います(笑)。本当に山口さん、ありがとうございました。

山口:はい、ありがとうございます。

伊佐:ありがとうございます。

(会場拍手)