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コロナ禍x五輪起因の様々な問題に、LINE NEWSの企画と報道現場はどう向き合ったか(全1記事)

2022.02.08

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1年かけたプロジェクトを白紙にした「五輪の延期」 LINE NEWSの「何が起きても対応できる」プロダクト開発の裏側

提供:LINE株式会社

新型コロナウイルスをきっかけに、世の中の潮流が変化し続けた2021年。従来とは大きく状況が変わった中で、「変化の波にどう乗った? 2021年らしいプロダクト・プロジェクトの振り返り」と題して、プロダクトマネジメントに関する学びを共有するイベントが開催されました。本記事では、LINE株式会社の渡邉雄介氏が登壇。東京五輪の報道プロジェクトから学んだ、不確実性の高いプロジェクトの進め方について解説しました。

五輪報道のプロジェクトをリードする中で得た気づきや学び

渡邉雄介氏(以下、渡邉):皆さん、最後のセッションということでお疲れの方もいると思いますが、大丈夫でしょうか? 長々としたタイトルを付けていますが、難しい話や数字は出てこないので安心してください。

最初に自己紹介から。渡邉雄介と申します。LINE NEWSとLINE Searchのサービス企画をしていまして、詳しくはconnpassに上がっていますので、ご興味のある方はそちらを見てください。

私は今年の7月末まで、LINE NEWSとLINE Searchのプロダクトの中で、五輪の報道プロジェクトをリードしていました。最初は1年のつもりだったのですが、延期があり実に2年ほど関わることになりまして、いろいろ苦しみもありました。

その中から、私が体験した気づきや学びをいくつかお話しできればと思っています。皆さんご自宅にいるのであれば、リラックスしてお酒とか飲みながらでも聞いてもらえればと思います。

余談ですが、最近娘が五輪(開会式の)の前日というすごいタイミングで生まれました。私は五輪(報道プロジェクト)をリードする立場にも関わらず、五輪開催中は育休を取得して娘のおむつを替えたりミルクをあげたりしていました。そんな時期でも快くメンバーが送り出してくれたりして、LINEはいい会社です(笑)。

日本人口の2人に1人が見ている「LINE NEWS」

渡邉:この辺はわかる方もいるかと思いますが、まずはLINE NEWSをざっくり紹介させてもらうと、大きく3つの特徴があります。

1つ目は「LINE NEWS DIGEST」で、これはLINE NEWSが始まった2014年から続いているもので、LINE NEWSのLINE公式アカウントで1日3回、ニュースを配信しております。

次に、LINEの右から2番目にあるタブですね。2017年にニュースタブを始めました。

最後は時期が前後するのですが、2015年の12月から始まっているLINEアカウントメディアという、LINE NEWS DIGESTの配信の仕組みを使って、800以上のメディアさんに配信していただいているものになります。

今回お話しするのは、ニュースタブの中の「五輪報道特設枠」です。五輪のような世間的注目度の高い大きなイベントがあるときはニュースタブの目立つ箇所に「特設枠」が入ったりします。五輪においてはそこから試合実況、スケジュール、メダル、選手詳細といった各ページのハブにもなります。

あと数字にも触れておくと、LINE NEWSは今年8月時点で7,700万人のMAU(月間アクティブユーザー数)があります。日本の人口の2人に1人以上は見ていて、ITに疎い私の親だって見ていて「あの辺のことやっているよ」と言えば、親でもわかるのが、私のモチベーションの1つだったりします。

「五輪以外のプロジェクトは保留」になるほどのリソース投入

渡邉:では始めていきます。五輪プロジェクトがいつ始まったかというと、2019年の秋からスタートしました。約1年前というところで、「そんな前から始まるの?」と思った方もいるかなと思います。

ニュースサービスのトラフィックが増える時期って、いつだと思いますか? 少し考えてみていただきたいのですが、それは大きなイベント、世間的注目度が高いイベントがある時です。皆さんが日常で「Oh!」と思う注目度の高いニュースは、Push通知などで突然目にすることも多いと思うのですが、そういうものはニュースのトラフィックは伸びますが、予測ができません。

しかし、自国開催かつ夏の五輪期間は、誰々がメダルを取ったor取れなかったなどのビッグニュースが集中的に発生するので、ニュースのトラフィックが爆増する日付や時間帯まで、かなりの精度で予測できます。そして予測可能なら、計画にも盛り込めるということで、当時の事業計画でも「2020年は五輪で一気に伸びるぞ」と見込んで準備していたんですね。

ピーク時は企画開発共に、実に3分の2程度のリソースを投入しました。これは逆にどういうことかというと、並行で進んでいた五輪以外のプロジェクトはペンド(保留)になったということです。

毎週社内ではプロジェクトの優先順位を決める会議が行われているのですが、そこで五輪以外の企画担当が案件を説明しても「五輪のあとですね」と言われるわけですね。それで悲しい顔をして帰っていくようなことが毎回あって、けっこう堪えました。

私はその原因の五輪担当であるわけですが、完全に外部要因なので本来的には誰も悪くないんです。でも自分のプロジェクトが止まるつらさはすごくわかるので、申し訳ないなと思いつつ、ただ当時は五輪プロジェクトを成功させるためと自らを奮い立たせてやっていたところがありました。

開催されるかわからない中でのプロジェクト進行のつらさ

渡邉:そして忘れもしない2020年春… 次に私が何を言うかわかりますか?(笑)。3月24日に、1年程度の延期が決定しました。

こんなに力をかけてやっていたプロジェクトが延期になり、リセットされる。本当に昨日のことのように思い出します。その中で、2021年。「五輪が開催されるかわからない中で、どう要件定義していけばいいんだろう」というのが(課題として)のしかかってきたわけです。

ここで皆さんに1つ質問したいのですが、今年の年初から春ぐらいにかけて、五輪はまず間違いなくやるだろうと思っていた人はZoomで手を挙げてもらっていいですか?(笑)。カウントしてどっかに送りつけるみたいなことはやらないので大丈夫です。正直に手を挙げてもらえれば! 

(会場挙手)

ありがとうございます。ざっと3割程度でしょうか。そんな中で五輪のプロジェクトメンバーもガッツリ減ったんですよね。

2年も待つわけにはいかないし、そもそもやるかどうかわからないプロジェクトじゃないですか。実際に五輪に関わる企画者は私を含めて3人くらいになってしまって、でも(何年)延期(するか)は完全に決まったわけではないから、プロジェクト自体は解散できない。

そんな中で、上長や編成やデザイナーや開発者に、どういうスタンスで説明していくのかかなり悩みました。つらさは伝わったかなと思います。

スタートは「私は周りが見えている人間ですよ」という証明から

渡邉:こういう状況になって最初に思ったことは、とはいえ(私は)五輪をリードする立場ですから、「私が五輪の開催を信じなくてどうする」というところで、「とにかく開催を信じて付いてきてください」という土下座スタイルですね。

これは私がものすごくカリスマ性を持った人だったらいけたかもしれないんですが、残念ながらそういうわけではなくて。社内での反応は「感染者数が増えているよね」とか、「某メディアの某記事で、誰々がこういう発言あったよね」とか、あと「世論調査の結果みました?」という、賛成と反対(の両方がある)。

みんな優しいのでこんな感じで笑って言うんですが、そりゃそうですよねという話です。私も逆の立場だったら同じ質問をしていたと思うし、めっちゃわかりますよ。

みんなも2019年は少なからず五輪に関わっているが結果を出せていない状況で、今年もがんばって延期・中止になったら目も当てられない。私のスタンスとしては、ここは徹底して冷静にいこうということで、今の感染者数とか某メディアの記事や世論調査といった質問は、言われる前に自分から言う。「それは全部わかっています。その上でこういう戦略を立ててきたんですが、どう思いますか?」からから入ることを徹底しました。

まず「私は周りが見えている人間ですよ」と証明しないと始まらないというか、そこからスタートしなければというところで、これでやっと話を聞いてもらえたところがあるかなと思います。

プロジェクトの定義を「五輪」から「ビッグイベント」へ拡大

渡邉:次に目を付けたのはプロジェクトの範囲や定義です。もともとは「五輪プロジェクト」でしたが、五輪だけにフォーカスしてしまうと、延期・中止になった時に目も当てられないことにもなるので、視野を広げようと思ったんですね。

たとえば五輪の他に、サッカーW杯ですとか、高校野球やラグビー、スポーツ以外でも選挙とか、このあたりを「ビッグイベント」と定義できるんじゃないかと思ったんです。

五輪のためだけではなくて、こういうビッグイベントのための報道特設枠を作りましょうとゴールを再定義しました。これは実際に最初に作ったUse Caseです。

上が五輪で、下が選挙の例です。このように五輪以外でもさまざまなイベントに対応しつつ、ニュースバリューに応じて運用する枠を増減したり、掲載位置を上下させたり、汎用的にできるような機能を盛り込みました。

運用枠を減らす・増やすというのはどういうことかというと、例えば夜中とか日本代表選手が試合をしていない時間帯とか、そんなに注目度が高くない時は、ニュースタブで目立ち過ぎないように枠を減らして他のニュースに目が行くように随時調整したりすることです。

一方で、サッカー日本代表戦とか、誰々がメダルを取りましたという、号外レベルの注目度がある時は、「ビッグバナータイプ」と呼んでいるところで全面に押し出すこともできます。

またこの図だと少々分かりづらいのですが、ページ全体の中での掲載位置も自由に変更できます。ニュースタブの中で注目度が高い時は上部に置くし、そうでもない時は真ん中や下のほうに置いたり、選挙系など画像がない記事が多いときはテキストタイプの枠を入れられるようにしたり、イベントの開催前に期待感を持たせるためにカウントダウンも出せるようにしたり、などなど。

これらは実際に運用する編成チームと企画でかなり議論して、「こういったことができるような枠を作っていきましょう」と言って増やせた感じです。

デザインは「何が起きても対応できる」「優れたUI」を両立

渡邉:先ほどのUse Caseを元に、デザインチームに制作してもらったものがこちらです。

デザインチームには、今までは決め打ちで「五輪報道の特設枠のデザインをお願いします」という感じでコミュニケーションしていましたが、今回はかなり冷静に「優れたUIデザインを維持しつつ、どんな未来でも、何が起きても対応できる」ことをテーマに話しました。

デザインチームからしてみると、何が起きても対応できる、何でもできるような機能や施策は嫌がられます。できることが多くなればなるほど、デザインを専門としていない企画や編成が手を加えると、途端に素人くさくなるので、基本的には避けるべきです。

しかし今回の五輪プロジェクトにおいては、やるかどうかわからないので決め打ちでのデザインもできないし、それが最適解かどうかも開催するまでわからないわけで、そういった非常に挑戦的な依頼をデザインチームにしたわけですが、しっかり理解していただいただけでなく「やろう!」と乗ってきていただけました。開催直前まで細部にこだわって調整していただきました。

「開発からの解放」をテーマに、繰り返し使えるシステムを構築

渡邉:次は開発者とはどのような話をしたかです。これは実際の仕様書の一部で、ビッグイベントのヘッダーに当たる部分です。細かいので雰囲気で見てもらえればですが、開発にはズバリ「開発からの解放」をテーマに話しました。

今まではデザインチームと同様に、五輪のたびに開発を依頼していました。そのため五輪が終わったら基本的には使い捨てて、またいちから企画を考えていたのですが「今回ビッグイベント枠を作ったら、ニュースタブにおいてはそれ以降の開発は基本的にないです」という話をして、毎回2~3ヶ月かかっていた開発がなくなれば他の施策やプロジェクトに注力できますし、ニュース全体にとってもいい話ということで開発も説得していきました。

その結果、7月から、実際にこういった形で五輪の特設枠になりまして、10月は衆議院選挙、最近だと12月に、「NEWS AWARDS」で使ったり、年末にも使う予定があります。これからもたびたびこういう枠が出てきますので、もし見かけたら「前に話していたビッグイベント用の枠だな」と思ってもらえれば(笑)。

不確実性の高いプロジェクトと向き合うための3つのポイント

渡邉:五輪という意味では特殊なプロジェクトではあったのですが、一般的に「不確実性の高いプロジェクトとどう向き合うか」というところで、最後に3つのポイントをまとめていきます。

1つ目が、不確実さをしっかり認識してメンバーと共有していくことです。やはりこういうプロジェクトは、独りで突っ走ってしまったりするわけですね。自分だけがやる気で、周りが付いてきていないことは往々にしてあるので、メンバーが付いていく十分な理由があるかも含め、自分が思う以上に結構な頻度で後ろは振り返りつつやったほうがよいかなと。そして、自分が一番冷静にシビアに見ているか、最悪のケースを考えているかというところも気にしていました。

2つ目が、「ゴールの再定義、汎用化の模索」ということで、それ自体はあらゆる手段のひとつでしかないんですが、そのゴールはいま現在も本当に適切か自問自答しようという話ですね。常に変化する状況の中で、あえて変えずに一本芯を通すのか、それとも柔軟に変えていくのか。一番大事なのは、自分がその選択に目を逸らさずに向き合って、自信を持って進めるかということですね。

最後が、「WOW」です。LINEでは「WOW」という価値基準があって、「ユーザーを感動させる初めての体験」や「思わず友だちに教えたくなるような驚き」を重要視しています。

LINE STYLE BOOK

さらに私の勝手な解釈では、WOWはLINEのユーザーが目にするところだけでなく、今回のように社内においても、さらにはプライベートでも「自分がどれだけわくわくしたか」「人をどれだけわくわくさせられたか」が、人生の充実感をはかるパラメータの1つだと思っていますし、育休もしっかり取って娘の成長に日々わくわくしています(笑)。

以上です。ありがとうございます。

「汎用化」によって社内の優先度を上げる

司会者:ありがとうございます。めちゃくちゃおもしろい話だったので、皆さんアドレナリンが出たんじゃないですか? せっかくなので1問質問させていただいて、そのあとアフターセッションに移ろうかなと思います。

ご質問をいただいていて、もしかしたら話の中でも触れられていたかもしれないんですが。「汎用的に構築していく」という話があったと思うんですけれども、今回のプロジェクトも含めたLINE社内のプロジェクトでは、実施する意思決定やプロジェクトの推進等々において「汎用性」は重視されるものなんですか。

渡邉:そうですね。汎用であることに越したことはないと思っています。もちろんある目的のためだけに特化してスピード重視で作る選択をすることも往々にしてありますが、汎用的にできれば他でも使えるし、また同じようなことをしなくて済むので、汎用化の手段がとれないかは常に頭の片隅にありますね。

私はここ数年、ニュースの中でもスポーツ領域を専門にしているチームに所属していましたが、スポーツのためにやる施策は、正直なかなか社内でも優先度が上がらないんですよ。

スポーツ以外にも様々な領域の施策があるわけで、そういう時にスポーツ以外でも、さっき出した選挙でも使えますとか、汎用化することによって優先度を上げていけるならニュース全体のためになるので、そういったアプローチができないかはよく考えます。

司会者:なるほど、ありがとうございます。スポーツは確かに大きなイベントではありますが、常にあるものだから、優先順位が上がりにくいのかもしれないですね。

渡邉:そうですね。そういった中でスポーツの案件は、着実に1歩1歩進めていくために「汎用化」を重要視しています。もちろん、あまり汎用化しすぎてろくに使われない機能を開発しても本末転倒というのもあると思うので、そこはバランスですね。

司会者:ありがとうございます。ではこれでいったんこの回は締めて、アフタートークに移ろうと思います。渡邉雄介さんへ盛大な拍手をよろしくお願いします。

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