2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社リクルートライフスタイル
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原隆氏(以下、原):私『日経FinTech』のずいぶん前に『日経ネットマーケティング』(現日経デジタルマーケティング)という媒体の創刊に携わっていたんです。当時は2007〜2008年のガラケー全盛期で、このころからいわゆるOne to Oneマーケティングみたいなものがモバイルでありました。
当時はマクドナルドが非常にモバイルの活用に積極的で、購入履歴をもとにクーポンを個人に出し分けていくような構想を進めていました。結果的には、実現されませんでしたが。でも、昔からデータの活用はうたわれていました。なかなかこうした動きが活用にまで至らないのはなぜなのでしょうか。
塩原一慶氏(以下、塩原):1つは、商品マスタの問題が大きいのではないかと思います。違うインフラ基盤を使っていると、その人がどこでいくら使ったかわかるけど、なにに使ったかまではわからない……。
原:情報がちゃんと整備されていないということでしょうか……。
塩原:そうですね。商品情報がとにかくほしいというのは、ここ10〜15年変わらないです。大手コンビニや大手流通業とかになると、自社でクレカやポイント発行して自社会員の囲いこみをしてますよね。
原:自社でそれだけの面を押さえていれば、社内で回せるんでしょうね。
大宮英紀氏(以下、大宮):あとは、仕組みはもちろん、経営としてそれを使うかどうかという、意思決定も含めてじゃないでしょうか。
僕らのAirレジなどがSaaSベースのサービスにしている理由は、日々の業務に伴い蓄積されていくデータを活用して、人の行動をよりなめらかなかたちにするようなサービスが出てこないと、One to Oneもできないし、おもてなしも含めて、いろんなものが変わってこないと思っているからです。
データを活用にする構想は各社あるものの、進めようとするとハードやソフトへの投資が必要ですし、社内のオペレーションや判断軸も含めた組織文化や行動自体も変える必要がでてきます。金額的な投資だけでなく、心理的なハードルも乗り越える必要がある。そこまでしてやった結果が、例えばパーソナライズされたクーポン1枚を配信するとかだけだと、果たしてユーザー側としては「それって、うれしいんだっけ?」な状態なんで、つまりは投資に対する成果が得られない。結局、ユーザーの体験を一貫して考えてることが必要です。
先ほどお話していた、JapanTaxiが配車アプリからウォレットアプリへ移行し始めている件についてもそうだと思うんですけど、人のふだんの行動のなかにどうやって溶け込んでいくかなんです。それによって、これから大きく変わっていくだろうなと思います。ただ、それに関してはやはり、ボリュームを持っている人たちが強いわけです。そうじゃない人たちが断片的なデータを持っていても、変えられることは局所的です。
JapanTaxiのように配車してタクシーに乗り降りするシーンもあれば、Alipayのようにまるっとすべてのシーンをスムーズにするのか。今、どちらにいくのかというと、それぞれがそれぞれの規格でやってしまっている。
原:そうですよね。今ので言うと、Airレジ、Airペイはどちらの世界に属しているんでしょうか。イメージとしては、いわゆるAlipayのほうですよね?
塩原:我々はウォレットサービスに関しても、リクルートかんたん支払いや、リクルートカードやポイントは提供しています。なので、垂直統合を狙っていないかというと、嘘になりますね。構想としては、ありえますね。
先ほどお話した、ユーザーの決済の多様性はあってしかるべきです。「すべてを1つに」はもう無理なので、そこは多様性ある決済の手段を、シンプルに、よりリーズナブルに提供していくことが我々の使命だと思っています。
そういう意味で、AirペイはiPhoneやiPad、カードリーダーがあれば、クレジットカードも交通系電子マネーも、QR、LINE Pay、Alipay、Tポイント、Pontaもすべて対応している。そういったところに今、注力している状況ですね。
原:AirウォレットとAirレジ、Airペイの世界には垂直統合のイメージがあった。けれど、どちらかというともっといろんなものを吸収できるようなプラットフォームにしていくというところですよね? 多様、多彩な決済。
塩原:今はそうですね。
大宮:僕は、どちらかというと……。みなさんがよく言う「プラットフォーマーになりたい」というのは、あくまでも企業側から見た際のロジックなんです。お店の人たちのワンシーンを考えたら、1つの端末ですべての決済ができるほうがいいじゃないですか。
だから、基本的にはそういった経営課題などの負を、とにかく改善しようと進んでいます。そうすると、Airペイ単体で、まずはどんなサービスも受けられるようにしたほうが、お店の人は便利になる。「Airレジも、いろんな業界で連携しながら利用できるようにできれば便利だね」と。
ただ、日本交通の例もそうですが、人の行動がすべてなんです。そこをすべて、なめらかにしなければいけない。それを実現する手段として、ほかのサービスと連携するなどの動きは必要ですね。
僕、少し前まで、IFTTTのように「あることが起こったら、このプロセスがあり、こういった結果になります」みたいなものがもっと世の中に浸透していくんだと思っていたんです。でも、意外に来なかった……。今でも、先々は来るとは思っているものの、まだその段階へは遠いかもしれません。
原:iPhoneとAndroid、MicrosoftとLinuxなど、垂直統合の世界とオープンな世界は常に対峙し続けています。iPhoneはハードウエア、ソフトウエア、サービスを垂直統合したことで、あの顧客体験を生み出している。
そういう意味だと、キャッシュレスの分野はどちらなんでしょうね。日本交通のようなバーティカルな世界なのか、それとも今Airレジが目指しているようないろんな世界がつながる世界なのか。どちらでなめらかな体験、なめらかなキャッシュレス化が起こりうるのか。
大宮:これはあくまでも私見ですが、“ゆらぎ”だと思っているんです。どちらかではなく、どちらにも存在する。
「じゃらんnet」を担当していたときにすごく思ったことがあります。宿泊施設側では空室情報を、少し前で言うとじゃらんや楽天トラベルなど、特定のサイトにそれぞれ手作業で出していました。それが今は、一極集中在庫管理のような仕組みができていて、自動的に空室情報が各予約サイトに出るようになっている。1つの空室情報が、どのサイトにも同じような情報で出ている。とても手軽だし、予約を受け付けられる販路が増えるのでホテル経営としては合理的です。
そんななか「このサイトにしか出さない」という場面もあるんです。手間を考えると一極集中型に流れていくんですけど。宿泊施設の予約をもっと間際まで予約できるようになったら「じゃらんnetのほうが予約をとりやすいし、人がいっぱい来るから、ここに集中する」という感じになる。すべての旅行サイトに空室情報を出すような共通化もあれば、一方で一極集中のような限定してくる流れもある。それぞれがゆらいでいるのがおもしろいと思っているんですね。
原:そういった、いろんな業界があるわけですね。
大宮:共通化すればするほど、ニッチなところで「こっちのほうがチャンスだ」説が出てくる。そして、そのサービスが主流になってくる。そうすると共通化の動きも出てくる。でも、時間が経つとまたニッチなところで局所的な動きが発生する。だから、基本的には常に”ゆらぎ”ながらいる。デジタル化など、テクノロジーに置き換わっていくところにも“ゆらぎ”を与えて、どうすればなめらかにできるのかは論点かなと思っています。
大宮:逆に原さんに聞きたいのですが。僕らは自社サービスにフォーカスしていますが、逆にいろんな企業を見られているなかで、キャッシュレスをどう感じられているのかなと……。
原:そうですね。銀行もクレジット会社でも、キャッシュレスを進めていますよね。とはいえ、例えばセブン銀行はATMを主事業にしているところなので、キャッシュがなくなると困るんですけど。一方で、現金の不便さをどこよりも理解しているのもセブン銀行かなと思っています。
そう見ていったとき、セブン銀行以外のところが「キャッシュレスだ」と言っていても、「いや、そうなるといいんだけど……」と感じてしまうところがあります。なんというか、現実的に目指すところのギャップについて、真剣に考えているところはどれくらいあるのかなと思うんです。プライバシーなどのユーザーサイドの問題、手数料などの負担を抱える加盟店サイドの問題。いろんなところで「あなたたちはそう言うけどさ!」という声に耳を閉ざしながら、夢を語っている気がするんです。
おっしゃるとおり、何十年後かという話だったら、キャッシュレスな世界になっていくと思うんです。「そこに至るまでのロードマップは?」と、私はなんとなく感じています。いかがでしょうか?
大宮:「エコシステムを作りたい」「ポータルになりたい」「プラットフォームを作りたい」という意見もありますが、あくまでも僕自身としては……なんといいますか、お店の方たちにとっては別にどうでもいいことなんですよ。僕らは、基本的には「困っているから使いたい」「これがあるから使いたい」にちゃんと向き合いながら、一方でエコシステムを作っていくように取り組んでいかないといけない。
最初だけ「作りたいです」と手を挙げるのは簡単です。それによって、未来に向けてなにかやっている感じにはなりますけど……。先ほどもお話しましたが、合理的なだけでなく、情理的な部分も含めながら、ユーザーにとって導入されるべきサービスにしていくのがまず大前提です。
その裏側としては、それに向けて便利になる、ワークするアーキテクチャを組み込む。でも、表面ではお店の方に向き合っている。そのバランスをどうとっていくかを考えるほうが、めちゃくちゃ重要です。
原:お店側からすると、接点が重要ですよね。塩原さんは、いかがですか?
塩原:私も同感です。先ほどお話しましたが、やはり多様性はあってしかるべきで。レジでもちろんドロアを用意して、キャッシュも受け付けるようになるんですけれども。
キャッシュレスによって、クライアントサイドにとって一番価値が大きいのは、時間を作ってあげることだと思っています。決済そのものの行為がなくなれば時間ができて、さらにいうと、そのあとの集計や会計、税務処理がすべてなくなるのは、業務効率が上がり合理的です。そういうところでお役に立ちたいというのが、大前提としてありますね。
とはいえ、今現在は開発の途上で、まだお店にとって便利に使えないところが一部ありますね。少なくとも、クライアントサイドで100パーセント使える環境を作らなきゃいけない。その一助になりたい気持ちが、ものすごくあります。
実際にユーザーサイドでも、2000年くらいまでは券売機で切符を買っていた人たちが、今ではSuicaで改札を抜けていくようになっています。そういった体験の認知が広がるのは、時間も掛かると思うし、啓蒙活動も必要だと思っています。そういう意味では、政府や役所の介入に期待しているところはありますね。
原:韓国は確か税金を変えたんでしたっけ?
大宮:そうですね。税金をどう回収するかというときに、クレジットカードの何パーセントを確定申告したらバックする……というのを国が決めていましたね。
原:先ほど、最終的にはどの道から行くにせよ、キャッシュレス化は必ず来ると、大宮さんも塩原さんもおっしゃっていました。その時のイメージとして、なにかありますか? 例えば私は起きて、会社に行って、ランチを食べて、夜飲んで……のライフスタイルが、キャッシュレス化によってどのような世界に変わるのか。
塩原:僕、現時点で出社するときはバッグを持たず……iPhoneだけです。
原:えっ、そうなんですか?
塩原:もちろん、会社の引き出しの中に、キャッシュはいくらか置いてます。というのも、まだ電子マネーなどが使えないところもあるので。でも、現金を持たないキャッシュレスを実践していてぜんぜん困らないですね。
原:私は不安症なので、いつもバッテリーとか持ち歩いているんですよ。だから、カバンが重たいんです。スマホの電池とか、なくなったらどうするんですか?
塩原:いろんなところに充電器をおいてあるんです。家とか職場とか。そこで使えるようにしています。
これから先、スマホもなくなるんだろうなと思うことがあります。
原:(スマホを片手に)これすらなくなるということですか? では、代わりになにが……?
塩原:なんでしょう。ICチップみたいなものでしょうか。
原:埋め込みですか(笑)。前に、MITメディアラボの伊藤穰一さんにインタビューさせていただいたとき、ちょうど「Google Glass」が出たタイミングだったこともあって、その話題について投げかけたんです。そうすると「私は使わない、あれをつけて居酒屋に入ってくるやつは変でしょ?」と。
伊藤さんいわく、人類の歴史から考えてみると「もともとメガネが不便だからコンタクトを生み出したのに、なぜ退化したものが流行するんだ」と指摘されていて。言われてみると、たしかにそうだなと思ったことがありました。
塩原:そういう意味だと、少なくとも決済だけはこの先、認証と伝送、そのあとの保存、そしてなにか不正が起きた時の対応みたいな話だと思っています。そのステップからいうと、認証作業はスマートデバイスである必要はない気がするんです。声や指紋、静脈など、いろいろあります。そちらの方向へいってほしいと思いますね。
原:先ほど大宮さんがおっしゃっていた、顔パスも1つの認証ですよね。
大宮:先ほどの(持ち物の)話ですが、僕も基本的には支払いシーンはスマホとApple Watchがほとんどなんですよ。なので、寒い冬とかに財布を出さなくていいのは便利。ただし、バッグにはPC2台に加えて、バッテリーは入っています(笑)。
原:私側じゃないですか(笑)。
大宮:そうそう(笑)。ただ、支払いシーンは基本的に体の一部にひっついている感覚ですよね。なので、僕はApple Watchで認証していますね。電車に乗ったり、タクシーに乗ったり。コンビニもこれです。
iPhoneだと、ポケットから取り出して起動する必要があります。財布を開けて現金を出すより便利ですが、やはりなにかしらの操作が必要です。Apple Watchだとかざすだけなので、便利さが大きく変わりました。
人間には「お金を大切に思いたい」という情理的なもの、心理的なものがあるじゃないですか。今後のサービスでは、おそらくそれもすべてテクノロジーで便利なものになっていくんですけど。摩擦をなくして、めちゃくちゃなめらかにしすぎたがゆえに、なんの引っ掛かりもなくなることは往々にして起こります。
決済やお店でいうと、人が介在した自己表現、または自己承認のようなものを組み込んでいかないといけない。じゃないと「なめらかすぎて逆に気持ち悪い」となってしまう。サービスを作る上ではすごく重要で、合理的な部分だけじゃなく、情理的な部分も加えていかなきゃいけない。
先ほどの話ですが、究極ではデバイスがなくなり、人の脳とかになにかしらのチップが埋め込まれるとかになる。そういった世界が実現すると、人はなにも考えなくても、いろんなサービスを受けられるようになる。そうすると、プライバシーの問題が出始めますが、だからこそ、人しかできないものが希少価値になってくる。
もっと、エンパワーメントするようなサービス作りをしていかないといけない部分は、正直あると思っています。
原:時間となりましたので、本日はありがとうございました。
大宮、塩原:ありがとうございました。
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