東京本社に戻り、再びぶつかる「ガラパゴス」
伊藤英高氏(以下、伊藤):3年後、私は「東京に戻ってこい」ということで、東京に戻ってきました。まさかのガラパゴス第2幕が開きます。
戻ってきてすぐに一番大きな売上を持っている販売店さまを担当することになりました。
当時の状況はこんな感じです。メンバーは2人ですね。私ともう1名で売上は6億。人を増やしてほしいですよね。でも、ちょっと我慢してくれと。我慢している間に止まらないメール、電話どうしよう。やりたいことはいっぱいあるのにぜんぜん追いつかない。
結果的に、2人とも土日に仕事をしているんですね。土曜日とかに同じチームのメンバーに連絡をして、「今、なにやってるの?」「いや、カフェで仕事してます。ぜんぜん終わらないです」「いや、俺も同じやわ。カフェで仕事してる。よしがんばろう!」と傷の舐め合いですよね。こういうことをやってました。
私はやはり、このままでは2人とも潰れるなと思ったんですよね。そこで2人で話し合って決めたルールがあります。それは有休などで休むときは、とにかくしっかり休もう。自分で受けている電話やメールは、もう一方の相方に転送する。これはもう決まりとしてやろうと決めました。
結果、まあ当たり前ですよね。1人が休みの時は、もう1人は業務量が2倍になります。どうでしょう。ブラックですよね。
その後は人も増えて、おかげさまで今チームメンバーも増え、たくさんのチームメンバーと楽しく仕事ができているんです。
しかし、増えたら増えたでいろいろな問題、悩みが出てきます。メンバーが増えることによって、担当する販売店さまの数も増えました。そうすると販売店さまごとに、やはり特色が違いますので、それぞれの特色を覚えないといけない。
先ほどもちょっと言いましたけども、東京はもともと特定のパートナーさまを担当するという営業スタイルをとっていましたので、例外なく、そのスタイルでやってきていました。
でも、これでは属人化してしまって、ぜんぜんレバレッジが効かないわけです。私はずっと悩んでいました。やっぱりお互いに興味を持ってほしいし知ってほしい。そうすることで、人材がどんどん流動的に組み替えることができると考えていたんですけども、まったく興味を持ってくれないんですね。
退職予定のメンバーの引き継ぎをしたい、しかし…
そんな時に事件が起こります。部下が突然こんなことを言い出します。「伊藤さん、私はフランスが好きすぎてフランスと結婚したいんです。だから来年フランスに行きます」。
まあ、いろいろな疑問がありますけども、こんなことが起こります。業務が完全に属人化していました。メールはそれぞれで受けていましたので、彼女が受けていたメールはぜんぜんわからないんですよね。業務がわからない。
これはヤバイぞということで、なんとか引き継ぎしないといけない。せめてメールだけでも情報を見られるようにしてほしい。情シスの担当者のところにいって相談します。「○○さんが退職するので、メールを書き出し、見られるようにしてください」。
そうすると情シスからは「いやいや、個人宛にきているメールは個人のものだからアカウントを退職したら消すから、そのままメールも全部消すよ」「はい?」という感じですよね。
「必要なものは退職前に転送しておいてください」。私の当時の心境はこんな感じです。「はぁ?(笑)」。
私が当時思ってたことを思い出しながら書くと、「そもそも会社が付与しているはずのメール。その情報は会社の資産のはずなのに見ちゃいけないのはなぜだろう?」「見られてまずいメールってあるのか?」。
サイボウズにおいては社内ではグループウェアの中に、1対1でやり取りができるメッセージ機能がありましたので、そこである程度やり取りができるはずなんですよね。
残すは販売店さま、お客さまとやり取りだけのメールのはずなのに、見られちゃまずいことってなんなの? 情シスが言っていた「必要なものは事前に転送しておいてください」。いや、必要かどうかはその時々にならないとわからないでしょ? と思いました。
結果的に、販売店さまやお客さまに迷惑をかけて「いや、サイボウズさん、情報共有の会社なのに大丈夫ですか?と。 クレームを受けるの僕らですよ」と私自身はすごく怒りを覚えました。
個人のやりとりを引き継ぐことは是か非か
でも、なんとかしないといけないなということで、チームのメンバーに、私が大阪で成功体験をした「メールワイズを導入したいんやけどどう?」と聞きました。幸い、うちのチームのメンバーの特徴としては、非常に前向きで新しいことをポジティブにとらえるメンバーが多くて、当然「ああ、いいっすね。やりましょう!」と言ってくれると思っていました。
ところが、やりたくない理由がいっぱい出てくるんですね。「いやあ、個人にきているものを共有するのは、モバイルを使えないと無理っすね」「そもそもなんで導入するんですか?」「絶対、業務効率が落ちますよ」。
いやあ、開いた口が塞がらないです。私たちはふだん、情報システム部のみなさんやこちらにいらっしゃるみなさまに提案して、「これはいいですよ。コミュニケーション良くなりますよ。これにしましょうね」と、言って提案しているんですよ。なのにこんな理由が出てくる。
その時、私は初めてシステムを導入する側の立場のみなさんの気持ちを理解するわけです。いや、これはけっこう大変だな。ただ、私には入れたくない理由が明確になったのでアクションを起こせました。絶対に上手くいく。その信念だけは譲らずになにをしたかというと、まず「モバイル使えないと無理っすね」。移動中に作業したいというメンバーがいましたので、「モバイルで使える環境があれば君の理由はなくなるよね」。
当時、モバイルアプリのベータ版の開発をしていると聞きつけて開発に交渉して「僕らがモルモットになります。僕らのチームがモルモットになって、課題やこれからお客さまに出ていくにあたって、絶対に必要だと思う機能を洗いざらい一緒になってつくっていきます。だから使わせてください」。
そして、使えることになりました。(スライドを指して)今まで1対1でですね、こういうふうに繋がっていたものを、右側のほうの図のようなかたちに変えて「メールワイズ」で受け取って「メールワイズ」にみんなでアクセスする。
アクセスしにいく端末としては、パソコンであったりスマートフォン、いろいろな端末から見にいける。そんな環境を準備しました。
「隣の人へのおせっかい」がチーム感覚へ
ここから使い始めて今、1年とちょっとが経過しました。本当にいろいろなことがあったんですけども、3ヶ月目の変化ということで、メンバーの行動に変化が出てきます。
私が「これは絶対に上手くいく」と言って、ある意味、強制的に入れたITツールではあったんですけども、使うと決めれば今度はどう使えばいいかとみんなが考えるようになります。
まず、今までは1対1でやっていたので、自分のやり方で返していた返信。これがメールを共有することによって、いろいろな人のやり方が集まってくるんですよね。「あっ、このやり方いいな」「この問い合わせであれば、なにかある程度多そうだからテンプレートが作れるんじゃないか」。こういった話ができるようになりました。
それからコメント機能を有効活用して「これやっておきましょうか」「これもう完了してます」「〜さん大丈夫ですか?」など、こういう書き込みが少しずつ増えてきました。
さらに今までと違う環境におかれましたので、より業務を効率的にするには、この「メールワイズ」をどう使おうかというような話が各メンバーから上がるようになってきました。ITツール1つ入れただけでけっこう変わっています。
半年後、さらに意識の変化が起こってきます。なんと隣のチーム、「なんか伊藤のチームがメールワイズを使ってておもしろそうやから俺らも入れてみようか」ということで、今、営業部、ほとんどのチームが「メールワイズ」を採用しています。
さらに、自分に代わって返信する人も出てきました。「これ私できそうだったのでやっておきましたよ」。とはいえ「自分以外が返してはいけないんじゃないか」「その人にメールがきているものは、その人が返したほうがいいんじゃないか」に関しては、下書き機能がありますので、そこに保存をしておく。それでコメント欄で「これ、下書きしたので確認して送っておいてくださいね」とする。要はおせっかいですね。
隣の人を見て、おせっかいを出してあげて、助けてあげる。チームになってきた感覚が出てきました。風土が変わってきた。ITツールを1つ入れただけなんですけども、私自身はチームの風土が変わってきたなと感じました。
「営業ってこうだ」と思い込んで、みんながやっていたものが少しずつ分解されてきて、会社の風土、チームの風土が変わってきたなと感じるようになってきました。1年後、私は勝利を確信します。
ITツール1つでメンバーの考えが変わった
今、私のチームは週3ぐらいで早く帰れるようになっています。メールを共有することによって、休みたい時にしっかり休めるようになっています。それから「メールワイズ」という製品をメンバーが好きになってくれました。
最初は「なんのために導入するんですか?」「いや絶対業務効率が落ちますよ」と言っていた2人。どうですか。「神ツールや! 働き方改革にはこれ必須ですね。伊藤さん」と、どの口がそれを言っているんだという手のひらの返し方なですが、私にとってはすごくうれしいです。
私が信じたこと。それが間違っていなかったんだと証明された瞬間です。私自身、思わぬ副産物も得られました。
まず私のチームには、働きながら育児をするママ営業がいます。営業しながら子育てもするという非常にめずらしいメンバーなんですけども、「どうしてもこの案件は私がやりたい。でも、旦那も見られない状況にあって、どうしたらいいか」と相談がきました。
そのお子さんとも面識があったので、メンバーに「その人の家にいって、子守しながら仕事したら」と新しい働き方を提案し、実現できました。
さらに、先ほど導入を大反対していたメンバー、リーダーなんですけども、「僕、有休1ヶ月フルに使って語学留学してきます」と、これは本当に最近の話ですね。留学に行ったりしています。さらに、副業するメンバーも出てきたりしています。
こんな感じのメンバーです。ITツールを1つ入れただけなんですけども、みんなの考え方が変わって、「こんなことやっていいんじゃないか」「こんなことできるんじゃないか」と、そういうことを実際にやれるメンバーが出てきている。
チームの売上もありがたいことに、当初6億円だった売上が今は12億円。倍の成果が上がっています。
働き方改革のしわ寄せは営業にいきやすい
結論です。
私が「メールって共有したほうが楽じゃないですか」とみなさんにお伝えしたいのは、この1文に限ります。「会社のメールは誰のものでしょうか?」。
私は会社の資産である。メールこそ資産であると考えています。なので、それを属人化させる理由はどこにもないんじゃないかと考えています。さらにメールが営業の働き方改革を拒む大きな要因の1つであると思います。
「営業ってこうあるべきだ。営業ってこうなんだ」「僕じゃないとお客さんは怒るんです。僕じゃないとダメなんです」「今までこういうやり方でやってきたから」という既成概念。これを疑えば、いくらでも営業は働き方改革ができると思います。
最後になりますけども、営業の働き方改革。みなさんで一緒に変えていきませんか? 会社に私自身、期待しましたが裏切られました。じゃあ、会社には期待しない。自分でなにかを起こすしかないですかね。
そのためのITツールであり、ITツールを使うことで、風土は変わってきます。使い方次第でいくらでも風土は変えられます。営業が変われば世の中の働き方改革。もっと進むと思いませんか。
世の中の働き方改革、画一的なもの「早く帰れ、残業するな」。でも、売上は上げろと言われていますけども、その多くは営業のみなさまにしわ寄せがきていると思います。
営業自身の働き方、今のやり方を見直してやれること。そのためのITツールってなんだろう。メールを共有してみようかな。そういう意識の変化が非常に大事だと考えています。
既成概念の壁をみなさん一緒に越えましょう。私からのお話は以上とさせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)