抜擢人事の仕掛けとは?
司会者:続いてのプログラムは、Key session Ⅱ「抜擢人事の仕掛けとは」と題しまして、トークセッションを行っていただきます。
では、パネリストのみなさんをお呼びしたいと思います。お1人目は、株式会社サイバーエージェント、曽山哲人様。お2人目は、株式会社TEAMBOX代表取締役、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、中竹竜二様。続きまして、日清食品ホールディングス株式会社人事部人材開発室課長、橋本晃様です。モデレーターは引き続き、水谷健彦様にお願いいたします。
それでは、ここからの進行は、水谷様にお願いいたします。
水谷健彦氏(以下、水谷):では、session Ⅱは、抜擢する側ということでお話を進めていきたいと思います。まず、みなさんから5分程度、各社の抜擢人事の進め方についてご紹介していただければと思います。まず、曽山さんからお願いできますか。
曽山哲人氏(以下、曽山):改めまして、みなさま、よろしくお願いいたします。まず、抜擢人事についてということでお話しましたが、人材育成についても紐付けて簡単に紹介させていただきたいと思います。
私自身は、今、42歳です。サイバーエージェントという会社には、20名のときに入社し、今現在、有期雇用の社員も含めると、サイバーエージェントにはだいたい7,000名います。15年で20名が7,000名くらいになったという会社です。
そのなかで、やはり社員の顔と名前が一致しないということで、カオナビのツールを使って人材発掘をしています。Twitterとブログもやっていますので、ぜひ「曽山」で検索してフォローしていただけるとうれしいです。
テーマとして人材育成において一番重要視しているキーワードはなにかというと、もう、このひと言につきます。「決断経験」というキーワードをご紹介させていただきます。ここに書いてあるとおり、人材の市場価値は、まず決断の量。そしてその次は、決断の質。これによって、人材の価値は決まるということです。
例えば、サイバーエージェントの場合は、新しい産業で事業展開しているベンチャー企業なので、研修などでいい人材が育つのかというと、そんなことはないと。もちろん研修も大事なんですけれど、それ以上に大事なのは、良質な決断経験を本人にさせるということ。
決断経験とは具体的になにかというと、例えば営業で、この資料とこの資料、どっちを持って行こうかな、これも決断です。もしくは上司に対して、ちょっとチームの問題があるから、なにか提言してみよう、これも決断です。
ということで、大きいものから小さいものまでありますので、決して大それたものだけではなく、日々、自分が決めたと言える決断がどれくらいあるのかということが非常に重要です。
これは、1年目からでも、決断経験は提供できるはずだと考えております。
サイバーエージェント流、5つの抜擢の仕掛け
具体的な取り組みとして、サイバーエージェントの代表的な人材の抜擢の仕掛けについて5つほどご紹介します。
まず1つ目が、「CA8」と呼ばれるものです。これはサイバーエージェントの8人という意味のネーミングで、8人の取締役が2年に1回、2人入れ替わるというものです。これはサイバーエージェントのなかでも非常にうまくいっています。これを取り入れてから3年後には営業利益が3~4倍増になるなど、経営陣を定期的に入れ替えるということが、役員を活性化させるようになったんですね。
このポイントは、「人材を育てたい」「人材に変わってほしい」ということがあると思うんですけど、人材に変わってほしければ、「経営トップから変わるべきだ」ということで、それを習慣化しているものです。
抜けた人が降格と受け止められないように、「席を譲る」という考え方も浸透させています。実は私も取締役を6年やった後に、2年間執行役員になって、つい先日、また取締役に入ることに決まったんですけれど、そういった出戻りの事例もあります。
2つ目は、新規事業の発掘と優秀人材の発掘の両方ができる仕組みで、「あした会議」と呼ばれる、サイバーエージェントのあしたを作ろうという会議があります。
新規事業プランコンテストを社内でやっている会社も多いと思いますが、それと少し違うのは、役員がチームリーダーとなり新規事業や課題解決の案を持ってきて、それをみんなにプレゼンして、役員が全員そろっているその場で決議し、提案内容の優劣を競って順位が決まるというものです。
新会社を作るなら、社長は彼がいいだろうとか、コストダウンの仕組みとして、こういう制度を入れようとか、そういったものを持ってくるというものです。
これは10年前から始めて、年に1-2回やっているんですけれど、子会社がこれによって28社生まれて、それによる売上は累計で700億円、営業利益が100億円ということで、新規事業を考える社内制度として、極めてうまくいっている仕組みです。
3つ目は、「NABRA」です。新規事業を増やすために、サークル・部活のようなNABRAというチームを作って、新規事業についてどんどんインプットし、提案する場を作っています。
あとは、人材の抜擢について非常に特徴的、大切にしているのが、4つ目の社内ヘッドハンターです。人事のなかに、4人、社内ヘッドハンティングをする専門のメンバーがいまして、ふだんから事業部長や社員と面談をして、より適材適所なところにどんどん異動させるための人事を役員会に提案するという仕組みを取っています。
5つ目は、「CA36」。サイバーエージェントには取締役と執行役員あわせて18人いるんですけど、その18人とは別に、その予備軍ということで30歳以下を18人選抜して、月に1回とか、2ヶ月に1回とかのペースで勉強会をやっています。ここで人材の抜擢と育成をしています。
私からは以上になります。ありがとうございます。
プロスポーツにおけるタレント発掘と育成
水谷:ありがとうございます。では、引き続き、中竹さんお願いします。
中竹竜二氏(以下、中竹):中竹です。よろしくお願いします。
今日は、スポーツの分野ということでお話させていただいたほうがいいかなと思っています。自ら会社も経営していますが、その話はたぶん1割くらいかなと思っています。僕自身は、今、日本ラグビーフットボール協会で、コーチングディレクターという役職、ラグビーのコーチをコーチするという役職を担っています。
自己紹介として、僕自身、コーチを育てているのですが、実は、スポーツ界における、人材の発掘や育成の研究は、どんどん進化しています。具体的に、今、日本ラグビー協会のなかで任せていただいていることは、主にこの5つがあります。
例えば、いい選手を発掘して日本代表にするという仕組みと、基本的に僕の役職としては、いいコーチを発掘して強化すると。
よくあるのは、やはり企業も同じで、採用側と育成側がしっかりコラボレーションしないと、せっかくいい人材を発掘したのに育成が悪かったら、「結局、あいつダメだったじゃないか」と、採用側の責任になったりするわけですね。
ですが、育て方に一貫性がなかったら、そもそもうまくいかないので、これを「一貫指導」という仕組みで、今、行っています。ラグビー日本代表でいうと、17歳が最年少です。そこから、18歳、20歳、ジュニアジャパンがあって、日本代表というものがあります。
僕がそのなかで始めたのが、そこにいるコーチ陣を全員集めて、セレクションの方針を一貫するとか、トレーニングの仕方を共通化するということをやらせていただきました。
もう1つは、コーチというトレーニングをする人と、セレクター、要するに抜擢だけをする人。先ほど曽山さんのお話にもありましたけれど、社内にオリジナルな専門家を入れるかたちで、セレクター、TIDと言われるスタッフも作りました。
「テクニック」と「スキル」の違いを定義する
けっこう大事なことは、言葉が変わるわけです。「彼いいよね」「あのスキルいいよね」というのが、同じことを言っているようで、実はバラバラということがあります。実はこれは、企業でもよくあることなんですけど。
これを、ラグビー界でも統一しました。去年(2015年)、日本を南アフリカに導いた監督であるエディー・ジョーンズを入れて一緒に議論して、彼と僕で、言葉を共通化しようと。
要するに、「テクニック」と「スキル」というものを明確に分けて、テクニックというものは、人間の動作です。パスを取る、キックを蹴る。スキルというものは、状況判断を伴った、先ほど決断というお話がありましたけれど、ディシジョンメイクを伴ったものをスキルというふうにしました。型か実践に使えるスキルかという話です。
実は、日本人のテクニックは非常にレベルが高いですが、試合になると使えない。「本当の強化はスキルにあるんだ」ということで、日本のトレーニングの抜本的な改革をするために、それを数字に置き換えて、「もっと君たちの練習をスキルベースにしてください」という話をしました。
もう1つは、Tactics(タクティクス)とStrategy(ストラテジー)。要するに、戦略と戦術を分けました。これはもうあまり詳しくは言わなくていいと思います。
実際に人を選ぶときにどういうところを見るかというと、例えば、今までチームスポーツであれば、ボールを持っている選手や蹴る選手、サッカーだったらシュートを打つ、蹴る選手にフォーカスされていましたが、今はやはりテクノロジーの進化で、全員にGPSが付けられます。
要するに、キツイ顔をしていても、本当に走ったかどうかわかるわけですよ(笑)。ボールを持っていないところでもどれだけちゃんと働いているか、ということがわかるようになってきました。昔から天才名監督は、そんなことはGPSがなくてもわかったわけですよ。
これを共通化していくために、ボールを持っていない時の動きというものが、OFF the Ballですね。この部分が、抜擢する際の大きな要素になってきています。同じスキルであれば、いかにOFF the Ballがいいかというものが、共通化されています。
「OFF the Field」の態度が評価に直結
それからさらに、これは最近出てきたのですが、競技中のパフォーマンスだけではなくて、競技を離れた時も。
これが、なぜかというと、プロスポーツは今、ほとんどがツアーなんですよ。F1のようにワールドサーキットをやるわけですね。野球もそうです。サッカーもそうです。そうしたときに、当たり前ですが、1日中練習をやっているわけじゃないんですよ。
1日移動に使い、食事をして、トレーニングをする。そうすると当たり前ですけれど、人間ですから、自分のことだけじゃなくて、チームメイトをサポートする、気が使えるとかということが、チームにとって非常に大きな要素になってきます。
結局、それがチームにとって最も大事だということが、実は研究でも出てきました。我々はそれを、OFF the Fieldと呼んだり、グラウンドじゃないときのパフォーマンスというふうに言っています。
これ(スライド)は、U20という日本代表チームを率いた時のレポートです。OFF the Fieldでの自分のツアーでのレビューを書かせたら、おもしろいことに、赤字の箇所にあるように、「今回の遠征で、ON the Fieldの部分が順調に成長していけたのは」、要するに自分のパフォーマンスがよかったのは、「OFF the Fieldでの行動をしっかりとできていたからだと思う」と。
「ここに確信が持てる」と、30人ツアーに行ったら、20人の選手が書いてくれました。こういうことなんですね。昔の、礼儀正しく云々という話ではなく、直結して、パフォーマンスに特化します。
実は、これは我々レベルの話ではなく、今世界をリードしているオールブラックスも、こういう言葉、「Better People make Better All Blacks」、これをもとに強化し、今、世界の頂点に立っています。
これを科学的に研究したのが、アメリカのポジティブ・コーチング・アライアンス。これは言葉が逆ですけれど、「BETTER ATHLETES BETTER PEOPLE」。これも同じで、「いいパフォーマンスをあげる人は、いい人であることが前提である」と。これを今、全米で、何万人というコーチが受け、子供たちが受けています。ちょうど2017年、日本支社を立ち上げて、展開する予定です。
これは私の会社ですね。TEAMBOXという会社を経営していますが、実は、ビジネスもまったく同じですね。業務上のパフォーマンスだけではなく、それ以外の態度。会社に着いて挨拶できるか、掃除ができるか、ミーティングの後ちゃんと片付けをするか、ここに特化するだけで、その企業のパフォーマンスは上がります。これは確実に言えます。
こういうことをちゃんと可視化するということが、実はこれからのマネジメントにおいて必要なんじゃないかなというのが私の見解です。
グローバル経営人材育成に向けた取り組み
水谷:ありがとうございます。最後に橋本さん、申し訳ありませんが、やや巻きでお願いします(笑)。
橋本晃氏(以下、橋本):みなさん、改めまして、こんにちは。日清食品ホールディングスの橋本と申します。
簡単に自己紹介だけ。私は、日清食品には昨年6月に入社いたしました。以前は外資系メーカー2社で、HRマネージャーとして勤務していました。
後ほどご説明しますが、日清食品は現在、グローバル化を急速に進めております。現在私のチームで、人材開発業務とグローバルHRの業務を担当しているのですが、本日のテーマである「グローバル経営人材育成」をどう進めていくかということを、日々考えているという状況です。
具体的な取り組みについて。まず最初に着手したのが人材育成カリキュラムを整備し、体系立てたということです。その中でコアとなるプログラムが企業内大学としての位置付けである選抜研修ですね。
選抜研修以外にも各種プログラムを用意しています。考え方としては、若い段階から修羅場経験を含め、様々な経験を積んでもらうことが大事という観点から各種制度を整備しています。また、研修を修了した人材についても、特にポテンシャル人材に関しては、その後のキャリアパスを明確化させ、いかに本人をモチベートさせ、かつ効果的な育成プランを考えていくか、という点が課題であると感じています。
また、制度面だけではなくて、やはりソフトの部分も重要だと感じており、今、一部の事業部では上司と部下のコミュニケーションを密にしていくために定期的な1on1ミーティングの実施を導入しています。
上述した施策はすべてこの5番目に書いてある、グローバル経営人材をどれだけ育成していくかということを実現するために行っています。
「人は10%しか研修では伸びない」
先般発表しました中期経営計画のもとに、簡単にお話します。前述しました通り、弊社では、現在、急速にグローバル化を進めております。
おかげさまで、国内のビジネスは好調で推移しているのですが、海外では、まだスタートアップ間もない国もあり、今後一層グローバル化を進めるにあたって海外事業をより成長させていく必要性があります。その中で今以上にグローバル経営人材が必要となるということで、中期経営計画のテーマの1つでも、育成強化というものがあげられています。
今日は人事の方も多数いらっしゃると思いますので、釈迦に説法かもしれませんけれど、先ほど曽山さんからも「教育研修だけでは人は育たない」というお話がありましたが、我々もまったく同じ考えを持っており、「70:20:10の法則」については、社内でも常に話しているところです。
私のチームで教育研修をやっていて言うのも何なのですが、人材の成長という点において純粋なクラスルームトレーニングの果たす割合は10パーセントであると言われています。やはり、どれだけ現場で厳しい経験を積むか、ストレッチできる仕事をアサインしていけるかという点が重要だと考えています。
この70パーセントの部分をどれだけリッチにするかが人材育成には重要であると考えているということですね。その中で、カオナビさんのタレントマネジメントシステムを活用して、弊社内ではタレントマネジメントに取り組んでいるという状況です。
「人望」がない人は管理職にしないほうがいい
水谷:ありがとうございます。まず、最初の話題を、人材の発掘というところで進めていければと思います。スライドの17番を出していただけますか?
中竹さんにご説明いただいたものなんですが、これはビジネスのほうの組織で、ON the Stage VS OFF the Stage。それをON the Jobというふうに囲われて、あとは、仕事以外、OFF the Jobというところも視野に入れてということなんですが。
この視界のなかで、抜擢人材のなにを見て、なにを評価して抜擢したことがあるとか、それがうまくいった、みたいな話ができると、今日来場していただいているみなさんにも、抜擢人事の、まず発掘ですよね、その参考になるかなと思っています。
まず曽山さんからうかがいたいんですが、いかがでしょう? 先ほどの石田(裕子)さんも、まさに抜擢された人材だと思いますが。
曽山:そうですね。先ほど、たまたま石田を今回ご案内させていただきましたけれど、石田の場合も、基本的に仕事はもちろん真面目にやっているんですけれど、やっぱり人柄がいいんですよね。
実際に、私たちが管理職として登用するときに、役員会で決議を取るんですけど、その時に、管理職の登用基準に入れていることが1個だけあるんです。それがなにかというと、「人間性」というものを入れています。人望がない人は、絶対に管理職にしないほうがいいと。
下手でも、人望があるとみんながサポートするんですけれど、すごく仕事ができても、人望がないと本当について来ないので。基本的に人望がある人。もしくは、それを磨こうとしている人を、積極的に上げていこうとしているので、OFF the Jobというのは、本当にそうだなと思いました。
スポーツでも、そんなにグラウンドの外のところを見てるんですね? 僕はびっくりしました。研究でも出ているんですか?
中竹:そうですね。やはり最初は、OFF the Ballの話から、結局、もっと、人って、人であるよねというところですね。
実際、ゲームのパフォーマンスって、例えば、サッカーだと90分で、ラグビーだと80分ですけれど、グラウンドで練習している時間も短いわけですよ。
人が、どうやってコミュニケーションをとって、「こいつのためにがんばろう」と思うかということを考えたら、先ほどおっしゃった、アティテュード、態度ですね。これはもう評価項目に用語として、すでにあります。
曽山:入れてあるんですか?
中竹:はい。いかにアティテュードがいいかという項目ですね。
周りに信頼されないと回らない
水谷:先ほどのスライドをしばらく出しておいてほしいんですが、曽山さんのなかで、石田さんを評価したときに、どの部分をどう評価しました?
曽山:やはり一番大きく見たのは、外があるんだという。OFF the Jobという、先ほどの場合だと、ボールがあって、グラウンドの外を見てるんだということが、純粋に驚きでしたよね。
OFF the Ballを見るだけでも、自分もラクロスというスポーツをやっていて、OFF the Ballを見てるのすら大変なのに、OFF the Groundもたしかに見ておけばよかったなということは、今、すごく感じたというのは、一番大きいですね。
水谷:なるほどですね。この視界を得たときに、例えば、先ほどの石田さんを見たら、彼女のOFF the Job、ここがよかったなみたいなことまで見て抜擢したのか、そこまでは視野に入れていなかったのか?
曽山:私、彼女とはふだん、直接の上司部下の関係にあって、昔、彼女が営業で、私も営業の管理職だったときに、彼女自身のミスがあって、トラブルが起きたことがあったんですよ。
その時に、最初、なにが起きたかというと、「私のせいじゃありません」と、私に食ってかかってきたんですよ。ただ、まずはお客様が怒っていることを理解しなきゃダメだと言ったら、その後、結局、反省して自分のミスを理解したんです。
ようやくそこから、お客様についてきちんと向き合えるようになったと同時に、彼女は、私に対して、もっと大きな仕事がほしいということを言ってきたことがあるんですね。
その時に、「まだダメだ」と。なぜかというと、「まだ、ああいうトラブルの対応とかがちゃんと終わってないから、ちゃんと終わらせることと、今のお客さんで信頼関係をちゃんと作ってね」と。それでなにをやったかというと、自分が成果を出すために、周りのチームとの連携をきちんとするようになったんですよね。
そうすると、周りからも信頼されるようになってきて、「だったら私が持っている大きなお客様をお任せしても大丈夫」となってくるので、結局は、こういった例からも、そのOFF the jobのところが効いてこないと、回らないなというのは感じますね。
水谷:最初の着眼点は、ON the Stage、仕事の話ですね。そこからどんどん広がって、広い視界を見たなかで、彼女を評価していったということですね?
曽山:そうです。結局、人間性とか人望がどこで出るかというと、例えば、社員同士で仕事が終わって飲みに行く。これもOFF the Stageとも言えるし、OFF the Jobとも言えるところだったんですよね。土曜日に飲むとかなると。
そういう時に、嫌われていると、実際、絶対フォロワーが来ないので、そういう意味では、そういうところもちゃんと見られているというところ。伸びるリーダーは、たしかにそこを見てるなと思ったので、やはりOFF the Jobの姿勢が結果的に信頼を勝ち得てくるなということは、すごく感じましたね。
若手もどんどん挙手制で抜擢
水谷:日清さんはいかがですか?
橋本:そうですね。我々の教育研修体系ですが先ほどのスライドでご説明した通り、ハンズアップという言葉がキーワードになっています。
選抜研修については、若手層からシニア層まで5つのプログラムがあります。シニア層の研修では、会社側が選抜してノミネートするんですが、若手層のプログラムはハンズアップなので、希望者には等しく門戸を開いています。
曽山:挙手制ということですか?
橋本:そうですね。挙手制です。応募者にはレポートを提出してもらい、書類選考を通過した人をインタビューでさらに選考するステップはあるんですが、希望する者にはチャンスが均等に用意されています。
あと海外トレーニーという制度にも力を入れています。グローバル化を進めているなかで、海外の現地法人が増えているんですね。やはり海外で成功するためには早く行ったほうがいいだろうということで、今までは年に2人だけ送っていたんですね。でも、2人じゃどう考えても追いつかないということで、実は今年度から10拠点に変えました。
また手をあげてもらう年齢も早めました。今は入社2年目で手をあげて、3年目には現地赴任するというような体制になっています。ハンズアップのプログラムを増やしていくと、社内でどういう人材がいるのかということを、人事も可視化できるという側面もあります。
あとは、弊社ではCEOが次長以上の管理職に年に1回必ず面談を実施しています。CEOのアポイントを取るのは決して簡単ではないのですが、毎年必ず実施しています。おそらくそこでOff the stage の部分は判断しているのだと思います。
「失敗したら、すぐ戻れ」再びチャンスが与えられる文化
水谷:その面談のなかでOFF the Stageを見にいくと。もう少し具体的に、「このあたりを見ていそうだ」「こういうことを保有していると評価していそうだ」みたいなものってありますか?
橋本:「どこを見ているのかな?」と考えたときに、従業員として当然result(結果)を出すのは大切なんですけれど、どれだけチャレンジしているかとか、先ほどの話じゃないですけれど、人間性が本当にしっかりしているかという点について、おそらくその面談だったり、日頃のコミュニケーションでウォッチしているんだと思いますね。
水谷:仕事のテクニカルなスキルもON the Stageで見るんでしょうけれど、そもそもチャレンジできているかとか、そういった部分ですよね。それをOFF the Stageというふうに見ていたり。人間性のところはもう、もしかしたらOFF the Jobということですよね?
橋本:そうですね。
水谷:そういうところまで見ているだろうと。
橋本:そうです。
水谷:そのあたりに注目し始めたのは、もともと昔から注目していたのか、ここ最近の流れなのか?
橋本:私は昨年入社したばかりなので昔のことはわかりませんけど、おそらく昔からだと思います。ここ最近の話ではないですね。
生活を変えたら、プレーも変わった
水谷:中竹さんは、まさにこれで発掘されているということだと思うんですけれど、実際にラグビーの選手を見るなかで、どこを最も重視しているのか、すべて均等なのか。
中竹:実はこれ、見方をどう取るかなんですね。OFF the Jobや、OFF the Fieldが悪い人間を、悪いと捉えるのか、ポテンシャルがあると捉えるのか。
僕は発掘のところを17歳、最年少から見ていくわけですけれど、例えば、これは実際の話ですごくおもしろい話があります。U20をやりました。本大会に行く前にフィジーに遠征行ったわけです。その時はやはり幅広く人材を発掘して、もう本名で言ってしまうと佐々木凛平という選手がいたんですよね。「ごめんね、凛平」という感じですよね(笑)。
東北から選ばれた、高校時代は東北でがんばっていたエースです。それで、東京にやってきて、いいから発掘したんですけど、高校時代はもう彼の能力だけでチームを引っぱり、1人で独走して、1人でスコアしてくると。ですが、当然ですけれど、大学に入るとそんなに活躍できないんですけれど、そこそこ活躍していたから選んだんですね。
ただ、フィジー遠征に行ったらやっぱりは能力が高いので抜けるんですよ。だけど、強い相手とやるとどういうことがあるかというと、1人で高い嗅覚で抜けていった後、彼の天才的な能力に誰もついていけないので、実はその後、絶対にボールを取られるという現象が起こったんですね。
それで、「お前なんでパスできないの?」と言ったら、「いや、パスとかしたことないですよ」とか。でも、すごいいい奴なんですね。「わかった。お前、よく見たら、ふだんから人のこと考えてないよね」。
僕、面談も何度もやるんですよ。ツアー中に何度も面談をしたんですけど、「お前、絶対ミーティングにギリギリに来る。自分が食べた後、片付けない。挨拶もしないでしょ。それにお前、同じ部屋の奴としゃべってる?」と言ったら、「僕、無口なんでしゃべってないです」。「いや、まず騙されたと思って、朝起きたら必ず隣の人に『おはよう』と言って。食事行くときにはちゃんと自分のところを片付けて帰る。とにかくそれをがんばって、人としゃべって」と言ったら、ツアーの最後のほうには、こいつ、本当にパスできるようになったんですよ。
曽山:へー。
中竹:彼は悪気なく、今までは能力が高すぎて1人でやってきた、誰も悪いと言わなかったことに対して、「いやいや、自分の能力を高めるために、ラグビーのことじゃなくて生活を変えようね」と言ったら、本当に変わったんですね。
実はこれはトレーニングのコーチング論でもあるんですけれど、本当に伸ばしたいスキルは、そのことだけをやっているときには伸びないんですよ。
例えば、僕自身、今コーチのコーチをしていますけれど、我々がやるコーチングカンファレンスは、ラグビーのコーチが集まってもラグビーのことをテーマにしないんですね。なぜかというと、あまりに慣れ親しんでいて、ある程度レベルが高いんですよ。
なにをやらされるかというと、いきなり歌を歌わされるんですね。「はい。では、今のこの歌をまったく知らない人に教えてください」と。ここにコーチングの本質があって。
そういう意味でいうと、本当に伸ばしたいスキルは、目の前のふだんの現場では伸びないということがコーチング論にあります。なので、このON the FieldとOFF the Fieldの関係性が、実は論理的に成り立つんですね。
水谷:まず発掘という意味でいうと、OFF the field、OFF the Jobが弱くても発掘ですね。
中竹:そうですね。
水谷:そして、今のお話でいうと、関わるうちにそれが伸びるということですね。
中竹:逆に、同じ能力でOFF the JobとかOFF the Fieldが高い人間は、伸びしろがないってことかもしれないですね。
水谷:もしかしたら。
中竹:だから、平たくいうと、若い世代は人間的にどうしようもない奴、だけどポテンシャルが高い。今、そこそこいい奴という人を選んだほうが確実に変わる可能性はあると思います。