社員からの質問に答える「CEO質問会」を開催

川上昌直氏(以下、川上):今、ヒントになる言葉としてひとつ、組織文化をどう作るかというのは非常に難しいと思うんですが、そのなかで雰囲気づくり、オフィス環境というお話しが出ました。これに関してはみなさん、松本さん、森川さん、辻さんは、どのようなオフィス環境を作ることで、文化、雰囲気を調整しようと思われていますか?

松本大氏(以下、松本):当社も、役員の部屋とかはないんですよ、1つも。私自身も含めて全員、大部屋に席があります。席と席の間をさえぎるいわゆるパーティションも一切なく、みんなの顔が見られる。もちろん良いことも悪いこともありますけども。

オフィスの席の並べ方も実は工夫してあり、動線に対して垂直に席が並んでいるんです。これはどういうことかというと、動線に対して垂直に席が並んでいると、私がぐーっと歩くと社員の半分の顔が見えるんですね。戻ってくるともう半分の顔が見える。実際に全員の顔を見るわけではないんですが、なんかこうコミュニケーションが取りやすくなります。

あとはオフィスの空間ではないんですけども、毎朝、全社員向けにメールを書いています。これもある意味でトリックなんですけど、そうすることによって、社員が私に話しかけやすくなるみたいです。毎日、声をかけられてみようと。

このように、いろいろと風通しをよくするようには考えています。そうですね、場所というよりも環境でしょうか。つい最近も、日本に3拠点ある各オフィスを訪れ、社員から出るあらゆる質問に直接その場で答える「CEO質問会」という会を、各2時間ぐらい開催しました。

川上:それはどんどん質問を受け付けるんですか?

松本:僕からあらかじめ用意していた話はゼロ。

川上:ゼロ。

従業員に対しても説明責任がある

松本:質問には全部答えます。法律上答えられないものなど除いて、全部答える。議事録も全部作り、数日以内に全社員に配信します。各拠点でどういう質問があり、どういう答えをしたかがすべてわかるようにするんです。

とにかくコミュニケーションをなるべく多く取るようにはしています。

川上:松本さんの頭の中をみんなにシェアするというような意図もあるんですか?

松本:1人の意見って1なので、仮に2倍の能力があるスーパーマンがいたとしても、たった2にしかならないんですよ。でも、100人が同じ向きで働けば100の力になる。そのために、社員みんなの向きをしっかり合わせるということがすごく大事だと考えています。

川上:なるほど。

松本:あとは、自分はこう思って働いてたのに会社は違うぞと思うことがないようにと考えています。社員もみんな、家族もあるし、本人の価値観などもあるので、考え方もそれぞれです。ミスマッチで生まれる不幸を避けるために、私の頭のなかをシェア……というよりも、とにかく説明する義務があると考えています。私には全社員に対して、なにを考えてこういうことをやったのか、やらなかったのか、ということをとにかく説明する義務がある。そういう考えがあるのでコミュニケーション量はかなりのものになっていますね。

川上:従業員さんに対する説明責任ですか?

松本:そうですね、はい。当然、株主様やお客様に対してもあると思いますが、従業員に対しても説明責任があると思います。

川上:なるほど。

今なにをすべきか? ラグビー型経営の考え方

岩田彰一郎氏(以下、岩田):あの、割り込まさせていただいて?

川上:もちろんです。

岩田:オフィスにパーティションがないとか、4人で創業したところも一緒で、すごく似てるところが多いんです。私も創業以来、朝礼を毎週月曜日にやってるんですね。必ず生で、今、会社に起こってることを伝えるようにしていて。これをラグビー型経営って言っていますが。

今、グラウンドのなかのどこにボールが転がってるかによって、フォワードであっても、バックスであっても、なにをしなきゃいけないのかが変わってくる。そういう意味では、グラウンドの広さとボールが転がってるところ、最近グラウンドも変えているのでみんな大変だと思うんですけども、そういうことをオープンにして、「なんのために働いているのか」「今、なにをしているのか」とういうことをできるだけ共有するようにしてます。

松本:当社では毎月、「全体会」というのをやっています。

川上:全体ですか。

松本:メガフォンマイクで、こういうふうに話すんです。社長が話すからというのでみんな目をキラキラさせて聞く……わけではなく(笑)。

(会場笑)

松本:たとえば会社に対して疑問があったりすると、目線が下に行ったり横に行ったり、集中して聞いていないのがわかる。こういう社員の変化にも気づけるので、これも日本の3拠点で直接社員の顔をみて話すということをやっています。

川上:ありがとうございます。すごく組織が急激に拡大した瞬間を見てらした森川さんは、雰囲気の重さというか、その辺りはどういうふうに。

環境に慣れるとパターン化してしまう

森川亮氏(以下、森川):そうですね。人間は緊張だけでもダメですし、一方で弛緩だけでもダメというか、バランスがすごく重要かなと思っています。昔、会社が急成長したときに、いろんな福利厚生とかオフィス環境を整備したところ、みんな仕事をしなくなってしまった(笑)。

(会場笑)

森川:あまり気持ちよすぎるとみんな眠くなってしまうのかな。以前オフィスが渋谷にあったときは、街の刺激がけっこう強かったんですよね。なのでオフィスではのんびりできるかたちで横になれるスペースを作ったりとか、そういうことをやってたんですけど。

今はむしろ原宿の住宅街にあって、街全体がのんびりしてるんですよね。なので、オフィスは刺激的にしようということで、今は音楽をガンガンかけて壁を黄色に塗って、目がパチパチするような、そんな感じで仕事をしています。

川上:そういう意味では、“ゆったり”と“ピリ”のミックスは必要かなという感じですかね。

森川:そうかなと思いますね。どちらかだと、やはりダレてしまうので。環境に慣れるとパターン化してしまうので、なるべく変化がある環境に身を置いた方が、変化があったときにすごく対応できる準備ができるんじゃないかなと思います。

川上:このあたり、辻さんはいかがですか? 今、まさに組織が大きくなろうとしている瞬間に、どのようなことを田町のオフィスで心掛けられていますか?

辻庸介氏(以下、辻):組織が大きくなるときは、だいたい30人~50人くらいで一回大きな山が来るとよく言われるんですけども。当社も山が来まして。そのときに人事の責任者を採用したことがすごく正解でした。彼がいろんなことを仕組化していってくれました。

全社員と1to1でミーティングをして、期待値とか、やりたいこと、課題に感じていることを全部ヒアリングして、それを経営に反映していくみたいな作業をしてくれたんですよ。そのあとすごく安定して、人はどんどん増えてますけども、1人も辞めないというかたちになり、それはすごくよかったというところですね。あとは森川さんにアドバイスいただいて。

コミュニケーションに王道はない

川上:それはどんなアドバイスを?

:社員総会に来ていただいて、対談させていただいたんです。アウトプットで、上の社員と下の社員がどうしても出てしまうじゃないですか。下の社員を見過ぎてなんとか上げようとしなくてよいと。そうすると上の社員がバカらしくて辞めてしまうと。上の人を見てやるんだ、みたいなことをおっしゃって、その場が凍てついたんですけど(笑)。

(会場笑)

:さらに単純作業を日本でやるかぎり付加価値をつけないといけないというような話をいただいて、社内がひっくり変えってしまったんですけども。そういうのはおもしろいなと。

川上:それは松本さんの下にいらっしゃるときからの奮闘もあいまってっていう感じですかね。

:(松本氏を見ながら)ですかね?

松本:(首をひねる)。

(会場笑)

:松本さんはもう本当に社内を歩きまわられたり、やる人がやりなさいみたいな感じで、あんまりコレをやれという感じではないので。社長になってから思ったのは、毎朝メールを書くのは本当に大変で、僕はもうぜんぜんできてないんですけど、毎朝メールを書かれたり、毎日ブログも書かれたり、コミュニケーションをとても大事にされているので、それは真似しようと思ってもできないなと思います。(松本氏に)ちゃんと持ち上げておきました。

松本:(笑)。

川上:松本さん、今のお答えで?

松本:でも本当にコミュニケーションには王道はないので。睡眠時間と一緒で、倍やれば倍になるという感じもするんです。すごいローテクだと思いますが、ほかに上手くやる方法はないと考えています。

川上:会場のみなさん、経営者の方が多いので、どういったようなメッセージを毎朝投げられているのか、ご参考までに。

松本:それは本当にさまざまです。「昨日飲み過ぎた」という話のときもあるし、マーケットや会社で起こっている話のときもある。要は距離感を縮めることが目的なので、必ずしも叱咤激励のメッセージばかりではないんですね。

川上:ありがとうございます。今、会社モデルで雰囲気作りをするためには一体どういうところを見ていけばいいのかというところで、かなりいろいろなヒントをいただきました。

ライバルとの関係はどう意識するか

では、Twitterの画面をお願いします。ここからはみなさんの質問を私の方が引き受けさせていただこうかと思っております。見た感じ、おもしろいものをいただいておりまして。たとえば「No.2はNo.1の真似をするからNo.1になれないんでしょうか?」という質問をいただいております。

No.1、No.2というのは今回のタイトルのテーマにも入っておりますが、「No.1になって見えたもの、見えなくなったもの」という質問もいただいております。おもしろいですね。No.1があれば、No.2あるいはそれ以外の方もいらっしゃるということがあると思いますので、ここで私の方から質問させていただきます。

No.1とNo.2の関係、ライバルの関係なんですけども、この点に関して兼ねてから森川さんがすごくおもしろいことをおっしゃっていまして。「企業というのはとにかくお客様を見なさい、顧客をとにかく見なさい」というお話しで、語弊があるかもしれないですけども、ライバルは見ていないというニュアンスだったかと思うんですけども。

ただ我々、経営の勉強をし始めますと。どうしても3Cという感じで、必ずコンペティター(Competitor)な存在を明らかにしながら自社の戦略を明確にしていくというのが出て来るんですけれど。このあたり、No.1、No.2という話もあったので、森川さん、いかがでしょうか。

森川:そうですね。僕の場合は性格的になるべく楽してNo.1になりたいと思うタイプなので、そうするとズルい道を探そうと思うんですね。No.1がいて、それを乗り越えるのは簡単じゃないですよね。裏道を使ったり、空を飛んだりしないとなかなかしんどいかなと思っていて。だからそういう道を探すようにしてるんですけど。

そもそもここにいて、これを乗り越えるよりはこの先に何があるのかを見て、一気にそっちに進んだ方が、すぐにはNo.1にはなれないんですが、次にきっとNo.1になれるかなと思っていまして。だからどちらかと言うと、今あるもののその先がどうなるんだろう、と。そこはむしろ今のNo.1はやりにくいんじゃないか、というようなところをチクチクつつきながら上を越えていく。そんなイメージですね。

川上:要は競合の姿というか、ライバルの姿をみて世の中を見るというようなニュアンスでいいんですかね。

森川:顧客価値の未来ってことですかね。人間というのはすごくわがままですから、昨日までコッチがよいと言ってたところの真逆に行く可能性が非常にあるわけですよ。周期的にね。丸と四角が行ったり来たりするようなものなんですけども。

丸の下に丸を置きたくてもけっこうしんどくて、丸の次に四角が来るんだったら、最初から四角にいった方がよい。丸で成功した会社は、なかなか四角にいけないんですよね。そうすると、その次を見据えて、そこの価値を明確にしてわかりやすく伝えるということがけっこう重要かなと思います。

違うラインを取らないと勝ち目がない

川上:このあたり、ほかのパネラーのみなさんはどうでしょうか?

松本:ヨットのレースを考えてみるとわかりやすいかと思いますが、前方に1番手がいて、その後ろを追いかけていくときに、同じ潮の流れに乗っていたらまず抜けないんですよね。同じ風と同じ潮じゃ(抜けない)。

違うラインを取らないと勝ち目がない。でも、違うラインを取れば勝てるかというと、そうでもない。1番であるのには1番である理由があるから、そのヨットが取っているラインは正しい可能性がすごく高く、余計に差を離されてしまうかもしれない。だけど、その後ろだけにいたらずっと1番手を抜くことはできないのです。

この判断は難しいですよね。だからいつも悩むところではあります。でも結局はお客様に、自分たちの会社はこういうサービスを提供することがよいと思っているというような、ビジョンというか信念みたいなものがないとなかなか長くやっていくのはキツイかなと思います。もちろんこれでも勝てるとは限らない。だけど挫折せずに長く続けないと、どっちにしても勝てることはないですし、社会なども変えられない。

そう言った意味では、先ほど会社モデルとおっしゃっていましたが、ずっと高い好奇心を持って続けられる会社や、自分が続けられる仕組みというのをつくるのが、1番。とは言いませんが、かなり大切なんじゃないかなとは常に思っています。

岩田:No.1と戦うと言っちゃった以上、森川さんと似てますけども自分がNo.1になる、なっていく姿、戦う領域を設定するという意味では、みんなけっこう共通してると思うんですね。我々の場合はこれからeコマースになると、でも楽天さん、アマゾンさんがいて、20年遅れていて追いつけない。

日用品から日用品以外のeコマースをやろうと領域を決めて、昔からアスクルが持ってる明日届けるという物流力がありますから、その領域のなかでどう価値を作るかというのが1つです。もう1つは、これもみなさん共通なんですけども、やっぱりお客様は正しい。

ずっと通販をやっていて、カタログを作っていて感じるのは、お客様はこの商品いいなと思ったら買うし、よくなかったら買わない。いくらグループインタビューをしたり、アンケートを取っても、買う・買わないのボタンを押すeコマースというものでは、やはりお客様は正しいし、統計学的にも正しいし、理念としても正しい。

そうなってくると、お客様にどう喜んでいただくかというところは愚直にいくしかないと。ひたすらどうやったらお客さんに喜んでもらえるかを、徹底的にやっていく。No.1のときは今度はライバルにアドバンテージを与えないというのが、社内で昔からやっていて。小さくても先行してやっていると後ろから追いかけてくるので絶対にアドバンテージは与えない。それは徹底してやってきましたね。