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【技術的負債をどう返済するか】スタートアップCTOに試行錯誤の歴史を聞いた/「スプリントの50%を負債返済に」が失敗したワケ(全3記事)

「『50%の時間を技術的負債返済に』はぜんぜん駄目だった」 カミナシ社・原トリ氏が語る、試行錯誤の過程

ノンデスクワーカー向けのSaaSを手がけるカミナシの取締役CTOである原トリ氏が語ったのは「カミナシの技術的負債」について。返済するにあたって、どんな試行錯誤をしてきたのかを時系列に沿って話しました。前回はこちら。

「負債にも50パーセントの時間を使ってください」は機能しなかった

西村賢氏(以下、西村):最初にやったことに価値がありました。そして、次は第2段。

原トリ氏(以下、原):この説明会やった時に、6月は一回止めますと(話しました)。完全に機能開発を止めて、サポートから流れてくるチケットに関してはオンコール体制を組んできちんと対応するけれど、機能開発はしないというのを戦略として……。

西村:これ、カミナシの歴史で初めてですね。

:たぶん、初めてだと思います。

西村:そこは「大丈夫なのかな?」とかなかったんですか? 

:「この1年大きい機能、出てないよね?」みたいな共通認識は、全社にあったから経営の中で意思決定が早かったんです。

西村:なるほど。なにか技術的にうまくいっていないというのがあった。

:そうです。プロダクトがうまくいっていないという認識がまず全社にあって、かつ、これがカミナシの底力というかすばらしいところだなと思うんですけど、プロダクトはぜんぜん伸びていないんですけど、売上は事業計画どおりにきちんと伸びていたんですよ。

西村:めっちゃいいじゃないですか(笑)。

:そうなんですよ、そうなんですよ。それがあったから、「じゃあ、ちょっとやってみましょうか」という意思決定が経営でもできたし、全社にも、これが一定片がつくと、また機能が出てくるようになるのかなという期待値を持ってもらうことで、わりとさくっと合意形成はできたのが、この6月。

西村:すばらしい。

:それが終わった後は、機能開発も負債返済もやりますよ、みたいなのをやったんですよ。

西村:両方やる。

:6月は、機能開発を完全に止めたんですね。7月は、50パー・50パーでやってくださいと。「もうこれはルールです」と言って、一回ボールを投げたんですね。

西村:負債にも50パー使ってくださいと。

:そう、きちんと時間を50パーを充てろという話はしたんですけど、これはもう明確に失敗でした。そもそもこの時間どおりにやってくださいねということがハンドリングできる組織レベルだったら、こんなこと言わなくても自分たちでたぶん負債を片づけているんですよ。だから、もっときちんとした仕組みじゃないと駄目。

西村:「時間を分けてください」じゃ駄目?

:駄目。「時間を割り当ててくださいね」は、ぜんぜん駄目でした。なんにも機能しなかったですね。

西村:でも、50パーセントの時間、みなさん、その負債に対して何をやっていたんですか。

:だから、そもそも時間をちゃんと見ていないんですよ。そんな余裕がもうない。

西村:やはり必死なんですね。

:そう、スプリントのプランニングをしても……スプリントは終わっていないんですけど(笑)、ぜんぜん終わらない。なぜ終わらないかというと、もうバンバンサポートからチケットが入ってくる。

チケットの様子を5月、6月ぐらいから見ていたんです。これもたぶんスタートアップあるあるなんですけど、「データを修正してほしい」みたいなリクエストがお客さんから来るんですよね。

画面の機能から修正できないんだけど、このままになっていると記録として問題があるから訂正してほしいみたいな。

西村:マニュアルでやってほしいと。

:そう。そういう話が来るんですけど、よくあるやつって、お客さんに機能としては提供しなくても、社内の管理画面とかでできるようにしておかないと、全部エンジニアリングに流れてくるんですよね。すごく危険なデータベース作業を手作業でやるみたいな。

西村:ドキドキしながらね。

:そう。で、その結果、事故るんですけど。事故るとマッチポンプで仕事が増えて、お客さんとの調整があらためて増えたり。なので、社内向けの管理画面をきちんと作らないと、CSが自律的に解決できる範囲が超狭いままなんですよね。

西村:なるほど。お客さんの典型的なトラブルは、UIがあればCSレベルで。

:こっちで解決できるようにしましょうと。ただ、それを外の機能として出すには、いろいろ考えなきゃいけないことがあるはずなので。

西村:ぜんぜんレベルが違いますよね。

:そう。だから外に出す必要はない。でも、サポートとかCSとか、あるいはプロダクトのナレッジがそこまでないエンジニアでも安全にそういったデータ修正の依頼などに対応できる機能を生やさないと、スプリントプランニング終わったものに対してガンガン突っ込まれてくるチケットみたいなものが一生減らないという。

もっと言うとこの前から、「内部向けの管理画面、きちんとやってくださいね」という話はEMにはしていたんですが、EM自身も、なんて言うんですか、弁慶のように、流れてくるボールに対して自ら立ち向かうみたいな男前な動きをしていたので。

西村:男前ですね。

:ぜんぜん進まなくて。なので、もうチームを分けて、2人。

西村:もう、管理画面作りますと。最近「Retool」とか、いいやつありますよね。管理画面用のSaaSみたいな。

:そう。そういうのもあるし、今回は自分たちで。

西村:自分たちで作ったんですね。

:もともとすごく小さい内部向け管理画面はあったんですよ。これが何かというと、契約してくれたお客さんの最初のテナントを作る。

カミナシのデータベースには、「companies」という、「会社」のテーブルがあるんですけど、そこの1レコードを作る機能だけがあったので、そこの周りに。

西村:生やしていったんですよね。

:チケットを7月、8月ぐらいに全部分析して、多いやつや緊急性が高いやつを並べて優先度つけて、管理画面に機能を生やしていくことを始めたんですけど、このチームは機能しましたね。

メインのプロダクトの時間をきちんと確保するという意味でもそうだし、Docを書く習慣も、やはり小さいチーム、2人とかでやったので習慣化できました。

西村:なるほど。全チームに対して50パーという時間の割り当ては機能しなかったけれども、明確なタスクとして、「これをやろう」と言って2人アサインしたら、これはうまくいった。

:そうですね。こっちは機能しましたね。負債返済は、7、8、9月ぐらい、ほとんど進捗していないですね。(スライドを示して)こっちも3ヶ月ぐらいで、ようやくアップデートバージョンの管理画面を最初にリリースして。

西村:だいぶそれでCSとかトラブル対応とかは、楽になった。

:そうですね、はい。

西村:なるほど。

(次回へつづく)

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