グループで成功を収めた「もるペン!」プロジェクトとその裏側にあった葛藤

ーーここからは、近藤さんが作っているロボットについてお話しを聞かせてください。近藤さんと言えば、やはりペンギン型ロボットの「もるペン!」プロジェクトが有名だと思うのですが、これについてその当時はどのように感じられていましたか?

近藤那央氏(以下、近藤):ペンギンロボットに関しては、学生プロジェクトですし、AIとかをやっていたわけでもないので、技術的にメチャクチャ優れていますとは、そんなに胸を張れないのですが、水中ロボットのデモを1ヶ月続けて1日5回やったのは、日本で我々しかいないのかなと思います。

私は、あまりエンジニアリングが得意ではなくて、コンセプトや世界観などエンジニアリング的に言うと、レイヤーが高いことをやるのが好きなんです。知識としては羅列的には知っているけど、私がやったらめっちゃ時間かかるので、そのビジョンに共感してくれる人と一緒に、自分だけじゃできなことができたのはよかったですね。そこだけは、ロボット関係者にも、わり胸を張っているところです(笑)。

ーーそれだけやるとなると、保守・点検がすごく大変な気がするのですが。

近藤:すごく大変です。5年かけて、最終的に1ヶ月間展示できるレベルまでもっていった感じです。おもしろいことに、クライアントさんもどんどんレベルアップしていくんです。

例えば、技術コミュニティは優しいので、最初は壊れてもしょうがないねとか、毎回これで1日だけやってくれればいいよとかそういう感じで、楽にさせてもらっていました。最後のクライアントさんは、玉川高島屋(玉川高島屋S・C)だったのですが、本当に興行なんです。彼らはチケットを売って、子ども向けのイベントの興行をやっているので、ロボットが止まっては困るんですよ。

そういうクオリティを求められる現場に最後にもっていけたのは「TRYBOTS」というペンギンロボットのプロジェクトの中の、1つのアチーブメントなったかなと思います。

ーークライアントさんの要求が高くなってきたというところについて、近藤さんのモチベーション的にはどうだったんでしょうか?

近藤:いいチャレンジだったなと思います。毎年ロボットを作って、さまざまなところで展示していると、協力してくださる方が現れてきて。最後のロボットがきちんと動いたのも、協力してくれる町工場の方がいらっしゃって、そこで精度のいい防水システムを作れたからです。あと、コワーキングスペースでプロの方が私たちができないところをヘルプしてくれたたことも大きいです。

ーー「もるペン!」があって、近藤さんの活動がだんだん広まっていったと思うのですが、自分がだんだん有名になっていくというところは、当時どういうふうに感じられていましたか?

近藤:最初のほうは、ロボットの活動をもっとエンジニア外のいろいろな人に知ってもらいたいという気持ちが多かったので、いろいろな媒体を使って、露出を増やしていました。それによって、ロボット専門外の人からも依頼が来るので、イベントに出して、そこでお金をもらって、自分たちはもっと新しいチャレンジをできるみたいな感じでやっていました。

私がグループを代表していたので、だんだん私だけがスポークスマンみたいな感じで注目されるようになって、それで悩む時もけっこうありました。

ーー自分だけが注目されているというところに対する葛藤でしょうか?

近藤:そうですね。そういうのもありますし、よくある日本の女子大生がうんたら、みたいに紹介されることにモヤモヤするのもけっこうありました。

あとは、ロボットグループの代表というと、メチャメチャエンジニア思考の人だと思われがちで、女子大生エンジニアみたいな感じで紹介されることもあったのですが、私はあまりエンジニアリングは得意ではないなと思っていて、大学もエンジニアリングではないところを選択して、一方でグループの友人は、いわゆる理工系大学に進んで技術的な部分を担っていたので、「実際とは違うのに」というところに、悩んだ時もありました。

現在は生き物らしいロボット「ネオアニマ」を制作中

ーー自分が思っている自分と、周りの評価する自分にギャップがあって、そこに苦しむ時もあったのですね。ちなみに現在もロボットを制作はされてはいるのでしょうか?

近藤:はい、そうですね。生き物らしいロボット「ネオアニマ」というタイトルで続けています。私が昔から憧れているのは、それこそファンタジーの世界で、今いない生き物が人間と一緒に楽しく暮らしていたり、森に住んでいたりする世界で、ロボットもそういう存在になったらいいなと思っています。

人間と同じ世界を共有するロボットを作りたくて、自然さを表現するために生き物らしさがキーかなと思っています。

人間を介護してあげるとか、まったくペットと一緒の存在とはちょっと違って、存在していることによって場の空気が変わるようなロボットを目指しています。

ーー人間の世界に溶け込む、共存できるロボットというアイデアや思考の源は、やはりファンタジーが好きというところになるのでしょうか? それとも、ペンギン型のロボットを作っていく中で、だんだんとこういうのがいいなと思われたんですか?

近藤:どっちもありますね。ファンタジーは、意識してやっていたわけではなくて、あとから考えてみると、もともとこういう世界観が好きだったなと思いました。無意識のうちに、影響は受けていますね。

幼い頃にペットを飼っていて、「AIBO」を親が買ってきたことで、コミュニケーションロボットというものに子どもの時から触れていたので、ロボットという存在があるんだということは知っていましたし、ロボットはここはできないとか、ここはかわいくないなど、ロボットの現状について実感していました。

飼っていたペットとロボットを比べることで、コミュニケーションロボットの課題を小さいころからよく考えていたというバックグラウンドがあったうえで、高校生になって自分でロボットが作れるようになった時に、研究としてペンギンロボットを友人と一緒に作ることになりました。

大学生になって、仕事の関係で、子どもたちなど技術者ではない人に見せる機会が増えてきて、そういった中で、人々がロボットに向ける反応がけっこうおもしろかったんです。そういった方々からは、技術的な面よりも「ペンギンみたいだ」とか「かわいい」とか「楽しい」とか、感情的なフィードバックをいただいたのですが、自分的にはそれがすごくおもしろかったんです。

昔から自分が考えている、「どうやったらもっとこのロボットがよくなるんだろうか」みたいなところと合わせると、もしかしたら生き物らしさがキーで、そこはロボットの技術というよりも、表現の問題なのかなと思いました。私は、表現やビジュアルアートがもともと好きなので、そういうところを自分で提案していたら、それはユニークだねと、今はいろいろなところで展示させてもらったり、「PLANETS」というメディアで掲載をもたせてもらっています。

ーー今作っているネオアニマは、「もるペン!」の延長線上にある感じですか?

近藤:延長線上ですね。ネオアニマを最初に作ったのは、大学の卒業研究でした。ペンギンロボットを作る中でいろいろ感じていて、どうやったらもっと生き物みたいに見える、生き物ではないクリーチャーが作れるのかなというところで、この「にゅう」という、お化けみたいなロボットを最初に作りました。それが自分でもすごく気に入って、周りもおもしろいねと言ってくれたので、個人のプロジェクトとして、生き物らしさというのをアーティストとして発表してもおもしろいなと思って、そこからやっています。

ーー「にゅう」に関しては、お一人だけで、今やられているんですか?

近藤:そうですね。でも、けっこう技術的な面は、夫に手伝ってもらっているので、2人のプロジェクトともいえます。

生き物らしさを表現するための一番の課題は「保守」

ーーちなみに、今「にゅう」はおうちにいるんですか? (笑)。

近藤:「にゅう」、家にいるんですけど、動かないです(笑)。ロボットは、やはり保守が難しいですね。ペンギンロボットの時も、保守が一番大変でした。「にゅう」は水の中に入れていないので、ぜんぜんもつのですが。それこそAIBOだと、毎日動かしたらたぶん壊れますし。やはり難しいですよね。

ーー生き物らしさを表現する上では、「保守」がけっこう大きな課題なのでしょうか?

近藤:はい、課題ですね。生き物って動きを止めないじゃないですか。常に動いていることが必要なんですが、ロボットは常に動いていることが故障に直結する原因になるので、かなり相反している部分がありますよね。

ーー保守のほかに課題だと感じられるところはありますか?

近藤:生き物らしい動きを、どう機械で作るかは、ずっと難しい点だと思っています。生き物は機械で作られていないので、そう見える動きを機械で無理やり作らなくてはいけなくて、しかもそれは、今まではぜんぜん求められなかった動きなのでロボットには必要ないことじゃないですか。

そこにメソッドがあるわけではないから、そのあたりを自分の右脳的なデザイン、表現、みたいなところと、実際のテクニカルの落とし込みにズラさなければいけなくて、それがとても難しいし、あまりうまくできていないなと思います。

ーーメソッドがないところで、どういうところを参考にするのでしょうか?

近藤:基本的な生き物の動きは、生き物を観察したり、アニメーションで、こういうふうに動いたらいいんだなと学んだりします。あとは、本当に想像です。自分の想像は、そういうアニメーションとか、動物とかから来ているものだと思うので、そういうところからアイデアをもってきて、それを機械でどうやって作ろうかみたいな感じです。

ソフトロボティクスやアニマトロニクスなどの分野もあるので、そういったところの技術もちょっと拝借しています。その2つも新しく研究者がそれほど多くはない分野で、あまり文献が出ていないので、ちょっと調べるのは難しいんですが、いろいろな動画を見てこんな感じかなってやっています。

ーーロボットが人間の生活の中に自然と溶け込んでいる状態や社会を作るのが近藤さんの一番のゴールなのでしょうか?

近藤:そうですね。自分も絶対それを表現したいというか……常識的に考えて、ロボットがめっちゃウジャウジャ動いているってあまりないとは思うんですが、そういう空間に、自分が行ってみたいなというのがあるし、そういう考え方も一般的ではないと思うので、自分が作りながら示すことによって、いろいろな人が、そういうロボットや社会もありかなと思ってくれて、一緒に考えていけたらいいなと思います。

ロボットは自分のユニークさを活かせるメディウムのようなもの

ーーやはり近藤さんは表現する方法として、ロボットがいいなと思っていますか?

近藤:そうですね。自分のメディウムみたいな感じで、私のユニークさが活かせるのがロボットなのかなと思っています。私はARにも興味があるので、将来的にはARとロボットと合わせるのもいいなとか思って、実際にちょっとやったりもしました。

私が興味があるのは、ゲームのように、はい始めて、はい終わりみたいな感じではなくて、自分と一緒に住めるとか、一緒に場所を共有できるとか、ゆるくずっと一緒にいられる存在です。そうなるとロボットか、常にARグラスをかけているとして、ARかになるかなと思います。

やりたいことともっているスキルのバランス調整が難しい

ーー今やられていて、逆にこういうところで挫折しそうだなとか思うことはあります?

近藤:そうですね。個人プロジェクトを続けるというのが、やはり難しいです。

私は組織に所属しているわけではないので、自分で全部決めななければいけなくて、そこがけっこう難しいです。アートと言っていますが、別にアートのコミュニティの中で、アートとしての表現を学んできたわけでもないですし、そのあたりを今はまだどっち付かずというかとりあえず細々とやっています。

20代の間は、社会人経験も含めて「nocnoc」を真剣にやりたいと思っていることもあって、米国でどう生きていくのかは、まだあまり定まっていません。

あとは自分がやりたいことと、自分自身がもっているスキルがあまり釣り合っていないのもあります。ロボットは総合的なものなので、デザインももちろん必要だし、機械、ソフトウェア、ハード、エレクトロニックのことなど、全部必要です。

本来は何100人のエンジニアたちが作るものを、プロトタイプとして、1人プラス数人の協力者でやろうとしていて、しかも自分もエンジニアリングのエキスパートというわけではないので、そこで自分が求める、「こう動いてほしい」「こういうふうになってほしい」という理想と、自分のもっているスキルが合ってはいません。、人を呼んでくるにしても、作りたいものと、作れるものとの間でどのようにう落としどころを見つけるかは、現実問題として難しいところです。

新しいことをやっているので、この人を雇ってくればできるということではないんです。アプリ開発であれば、メソッドがあるので、私がデザインしてこういうコンセプトでこうやってやると決めれば、それを作ってくれるiOSエンジニアは探せばいいですよね。

そういう人は、探したらいるわけです。これぐらいのお金で、これぐらいの期間で、これぐらいの工数でやりますと計算できるんですが、私が作っているロボットは、そういうのがまったくありません。しかも、ロボットが作れますという人と一緒にやったとしても、私が作りたい動きをその人が作りたいかとか、そこまでこだわってくれるのかとかわからないじゃないですか。

人を探すのも難しいので、私の技術が稚拙だとしても自分がこだわって作ったほうが、自分の求めるものに近くなるかなとは思います。

自分の考えで社会をおもしろくしていきたい

ーー近藤さん自身が目指すところは、やはりアーティストなんでしょうか? それともクリエイター、あるいはエンジニアでしょうか? そのあたりを決めていますか? あるいは、それも全部総合して目指しているのでしょうか?

近藤:もう、職業もわからない時代ですからね(笑)。100年後に、その職業があるかは本当にわからないので、包容力あるワードのアーティストが、一番広いかなと思います。

ーーとなると、近藤さんは最終的になにを目指していて、どうしてそれを目指しているのでしょうか。

近藤:最終的って、人生の終わりってことですか?(笑)。新しい生き物みたいな、人間ではないインタラクティブに話し合える存在を生み出してそういう世界に住みたいので、そこをずっとやっていきたいなと思います。

あとは、自分の考えによって社会をおもしろくしたいなと思います。便利にしてくれる人は、ほかにたくさんいると思うので、便利にしたいというよりは、おもしろくしたいなと思います。

シリコンバレーもそうですが、このあたりは文化が少なくて、アートに興味がない人ばかりなんです。興味があると言っても、話を聞くと投資目的で、最近だとNFTが〜という感じで、作っている側からすると「あ、そう」みたいな(笑)。

現代アートは、その人が感じている今の問題とか、その人の感情とかがビジュアルに現れるから、それを見ることによって、他人の視点を見ることができるなと思っているので、私は、昔の現代アートではなくて、今の人が作った今の現代アートを見るのが好きなんです。

アートは、私の生活や考え方をすごく豊かにしてくれると思うんです。自分にとっては、スタートアップも自分が表現したい、クリエイターが平和に集まって熱量を共有する世界の1つなので、それを通して、自分はこういうふうに考えていると伝えられて、他人になにかしらの影響を与えられたらいいなと思います。