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次世代クリエイターはなぜロボットで表現することを選んだのか ミレニアル世代の女性が ハードウェアを弄る理由(全2記事)

憧れはエヴァンゲリオンの“葛城ミサト” ロボットアーティストが渡米して気づいた、“出会った人全員がロールモデル”の考え方

ロボットというと、多くの人が二足歩行ロボットや産業用ロボットを多い浮かべるかもしれません。しかし、そのどちらにも属さないロボットを作ろうとしている人がいます。 ロボットアーティストの近藤那央氏は、ペンギン型のロボットをはじめとして、生き物らしさをロボットで表現する「ネオアニマ」の制作に取り組んでいます。 今回はその近藤氏に、産業ロボットなど“役に立つロボット”ではなく“人間と共存するロボット”を制作する理由と、その思想の源についておうかがいをします。前半は、近藤氏が今アメリカでやっていることと、行動の裏にある思想について。

クリエイターをつなげる音声ソーシャルメディア「nocnoc」を開発中

ーー近藤さんは今米国にいるということで、まずは、米国で何をしているかを教えてください。

近藤那央氏(以下、近藤):私が今米国で取り組んでいることは、大きく分けて2つあります。1つはアーティスト活動。ロボットなどの日本から引き続きやっていることを中心に、個人活動としてやっています。

もう1つが、2年前に始めたスタートアップの起業家です。今ソーシャルメディアスタートアップを開発していて、まだテスト段階なのですが、けっこう悪戦苦闘しています。

ーー米国で起業したということで、どのようなきっかけで起業したのでしょうか?また、起業家として具体的にどんなことをされているのでしょうか?

近藤:諸事情で突然シリコンバレーに来ることになったので、学校などに行く予定はありませんでした。せっかくなので、ここでしかできないことをやろう。なにかアイデアを見つけて、自分で始めたいなと思いました。

私はアーティストとしての活動を、生涯を通して末長くやりたいと思っているのですが、クリエイターとしての経験から、もっとモノを作る人同士がつながれて、深いコミュニケーションをもって、友だちとして仲良くなれる仕組みを作りたいなと思っていました。

その思いから、最初はリアルイベント向けのアプリを作っていたんですが、それが2020年のコロナ禍であまりうまくいかなくて、もっとオンライン上でできる仕組みを作りたいなと思って、現在の「nocnoc(ノックノック)」にピボットしました。

今トレンドの、音声ソーシャルメディアなんですが、落書きできるホワイトボードみたいなものがついていて、音声でしゃべりながら絵を描いたり、絵にまつわるゲームができたり、写真をシェアしたりできます。それを特に、アニメ好きのアメリカ人用に作っています。

ーーアニメ好きのアメリカ人に向けて、ということですが、何か「あ、これはいける」みたいな出来事があったのでしょうか?もともとそういう構想があったとか?

近藤:もともとのアイデアは、クリエイターや同じ趣味をもった人同士が仲良くなれるプラットフォームでした。私はもともと日本でアニメがすごく好きだったので、そのバックグランドも活かせて、アニメや2次創作、自分でクリエイションすることが好きな人たちから、クリエイター全般に広がればいいなと思っていて。そこをターゲットにしています。

トレンド的にも、今急激に米国ではアニメがポピュラーになってきていて。特に2020年のパンデミックで、アニメを観る人がだいたい倍ぐらいに増えたと言われています。

ほかにも、18歳から29歳の40パーセントの人がアニメ、映画に対して好意的な印象をもっているという統計があります(※)。若い人たちがアニメに対してかなり肯定的で、すごくいろいろライトに取るようになってきているという時代背景があると思うのですが、いまだに米国は日本とは違って、アニメはサブカルチャーの雰囲気がまだかなり強くて、日本の20年ぐらい前の雰囲気なのかなって思います。10年から20年ぐらい前の、アニメを好きな人はたくさんいるんだけど、ちょっと恥ずかしいというか、まだ社会的にはそこまで認められていない状態だなと思っています。

それが今後10年で、もっと爆発的に日本のようにポピュラーになっていくんじゃないかと思っています。そういったところをターゲットにしているプラットフォームは、ゲームストリーミングだと「Twitch」や「Discord」のコミュニティであったりするのですが、今のトレンドである音声ソーシャルメディアと組み合わせて、もっとサブカルチャーにフォーカスしたコミュニケーションサービスを作れないかなという狙いでやっています。

憧れは若くして大きな組織を引っ張る『エヴァンゲリオン』の葛城ミサト

ーーこのサービス開発のバックグラウンドにはご自身のアニメ好きがあるのですね。ちなみに、近藤さんが好きなアニメはなんでしょうか?

近藤:私が一番好きな漫画家さんは、望月淳先生です。10年前にアニメ化された『PandoraHearts』という作品や『ヴァニタスの手記』というアニメ化された原作者です。あとは、『新世紀エヴァンゲリオン』も好きですね。最近は古いアニメをけっこう見ていて、『少女革命ウテナ』とかを観ています。

幾原邦彦監督が、けっこう好きなんです。最近ではありませんが、『輪るピングドラム』とか観ています。あまりジャンプ系は詳しくなくて、スクウェア・エニックス系が好きです。(笑)。

生活の中でも、アンティークっぽいモチーフが好きなので、おとぎ話みたいな雰囲気の世界観に浸れる作品がけっこう好きです。あとは、カッコいい女の子が出てくるやつも好きですね。

ーーカッコいい女の子とは、強いとか、そういう感じですか?

近藤:『エヴァンゲリオン』でいうと、ミサトさんとか、『ウテナ』でいうと、ウテナみたいな媚びていないカッコいい自立した女の子のキャラクターが好きなので、そういう人が活躍するアニメは好きですね。

ーーそれは近藤さんにとって憧れや、目指す感じなのでしょうか? それとも自分と似ているな、という感じなのでしょうか?

近藤:自分がなりたい像であり、自分が共感できるという点では、似ているのかもしれませんね。ミサトさんは、アニメキャラの中では若くして大きな組織を引っ張っていて、すごく決断力があるキャラクターなので、私はすごく好きです。

ーー逆に現実の世界で、近藤さんのロールモデルや目標にしている人、こうなりたいなと思う人はいるのでしょうか?

近藤:この質問はわりと難しいなと思っています。人生のいろいろなところで選択するうえで、ロールモデルはメチャメチャ大事だと思うんですが、ロールモデルって1人じゃないと思うんです。

日本の人は、ロールモデルを1人だとけっこう思いがちだから「この人みたいになりたい!」みたいな感じで「ロールモデル誰ですか」とか「ロールモデルにならなきゃ」とか、そういう考え方があるのかなと思っています。

最近「おもしろいな」と思ったことがあって、日本で活躍している若手の人が「ロールモデル誰ですか?」と訊かれた時に「自分は新しいことをやっているんで、ないです」と答えているインタビューを見たときに思ったんです。

それは、「誰かになりたい」がロールモデルの固定概念だから、そう思っているのかなと思いました。今まで生きてきた中で「誰も見ていないです」ということはないじゃないですか。だから、出会った人全員がロールモデルなんです。出会った中で、特に「あ、憧れるな」って思った瞬間だから、誰々さんとかじゃないんですよね。

例えば私の場合、ミートアップで会った女性たちが、企業の中ですごくリーダーシップをもってやっている人ばかりで、自分の話をしたらすごくおもしろがってくれて、仲良くなったという経験から「女性で、こんなにリーダーシップをとってやっている人たちがいるんだ」「自分もこの人たちみたいになれるかも」とか「対等な立場でスタートアップができるかも」とか思いました。スタートアップのカンファレンス行った時も、若い人がメチャメチャがんばっていて、その姿を見た時に「わ、すごい」と思う経験をいくつもしました。

そういう人たちが、自分の中で潜在的なロールモデルになっていると思うので、そういう意味でも、自分が憧れられる人にたくさん会える場所に行ったほうがいいなと思います。

渡米して感じた「自由の国アメリカ」のイメージと現実のギャップ

ーー渡米は、ロールモデルになる人たちとの出会いを求めて、ということもあったのですね。実際に渡米されて、思っていたイメージとのギャップは感じますか?

近藤:来て3年経ったので、あまりフレッシュな記憶がないのですが、日本では、米国はこうやっているのに日本はダメだみたいな論争が多いじゃないですか。だから私も、米国は本当にすごくてなんでも最先端なんだろうなとか、考え方がめっちゃ先進的で、エリートの人はすごいんだろうなとか思っていたんですが、やはり人間なので、思ったよりもすごくないなというのがわかったという感じですかね(笑)。

ーーなるほど(笑)。なにか近藤さんの中で体験したものがあったのでしょうか?

近藤:例えば、日本だとすごく優秀に描かれているGAFAのエンジニア人たちも、特別頭がいいわけではなくて、日本のエンジニアでもぜんぜん戦えると思います(笑)。あと、2020年のコロナや選挙の関係で、けっこうアメリカ人は人に流されやすいんだなと思いました。

アメリカ人でもめっちゃ空気は読むし、なんなら日本人より空気を読んで動いている人が多いような気がします。そういうところが最初に思っていた「自由の国アメリカ」とはちょっと違って、表の顔と裏の顔があるなと思っています。

ーーそれはきっと、そこで生活してみないとわからないことですよね。

近藤:そうですね。例えば、最近富豪の人たちが宇宙旅行をしているじゃないですか。

彼らは、人間が地球を汚してしまったから「第2の生活拠点として宇宙を目指さなきゃいけない!」みたいなことを言っていますよね。

でも、彼らはプライベートジェットを乗り回したり、めっちゃクルージングをしたりしていて、環境破壊をすごくしているんですよ。

表向きには地球を守るとか言っておきながら、結局はたぶん自分が宇宙に行きたいだけなんです。そういう感じ(笑)。そういう人がけっこうエリート層には多いのかなと思っています。

米国が分断されているって言うじゃないですか。これは本当に、分断されているんです。このあたりにいるエリート思考の人は、生活に余裕があるので、地球のことを考えられるんです。

だから行き過ぎると「地球をよくするために宇宙に行こう」という発想になるんですが、生活に余裕がない人は毎日に一生懸命だから、そんなことを考えている人を見ると「なんだアイツってなる」ってなる……そういうところの差で、すごく分断されているのかなと自分では感じています。

ーーそのような状況でも、近藤さんの居場所は、今は日本より米国なのでしょうか?

近藤:私は海外からの視点を得ることができたので、インターネットの時代ですし、もうなんでも調べられるという意味では、どこでもいいと思います。日本だけにいると調べないじゃないですか。

検索する言葉もわからないし、どういうコミュニティがあるかもわからないから、アクセスもできなくて、結局日本のメディアしか読まないというのはやはりよくないと思います。

アメリカ人もそうだと思いますけどね。彼ら、アメリカから出る気がないので、ちょっと狭いなと思います。政治的にいろいろな考えをもっている人がけっこう多いんですが、それも要するに、流れされているんです。そういうトレンドがあって、この地域はこうだってなっているのも、そういう環境で育ってきたからそういう考え方があるということだと思っています。

日本と米国は考え方がそもそもけっこう違うんですよね。具体的に言うのは難しいんですが、生活習慣を見ていてもこの人たちはそもそも考え方が違うなと思うことがあります。だから、米国にいても別にグローバルではないなと思います(笑)。

2つまったく異なるところに行くことによって、1つではないんだということがわかると思うんです。3つ4つのことはよく知らなくても、3つ4つがあるんだということがわかるじゃないですか。

1つの国だけにいると、1つしかないと思っちゃうんです。

渡米して気づいた世界的に見ておかしい状況にいた自分

ーー日本のことがあらためて見える部分があると思うんですが、例えばジェンダー感は、米国と日本でだいぶ違うなと感じますか?

近藤:そうですね、これは本当に違うと思います。私は女性の心で女性の体をもっている人間ですが、社会的にマイノリティだと言われていても、日本の東京にいた時はそこまで差別を感じたことはありませんでした。その状況も、実は世界的に見るとおかしかったんだということが、米国に来てみてやっとわかったんですね。

ログミーさんも、イベントをたくさん取材されているのでたぶんわかると思うんですが、どのテック系のイベントに行っても参加者全員が男性で、紅一点みたいな感じでとってつけたように女性がいたりとかするじゃないですか。そういうアレンジは、米国はほぼあり得ないです。

あと、これはカルチャーの違いだと思うんですが、米国ではエンジニアの勉強会ってあんまりない気がします。日本よりも技術に対して、本当に仕事として向き合っている人が多くて、社外で他のエンジニアと自習する人はあまりいないです。仕事に必要なスキルを得て、仕事の時間に仕事をして終わり、みたいな人が多い印象です。

技術がメチャメチャ好きなギークなソフトウェアエンジニアは、思っていたよりもあまりいなかったというのが正直な感想です。

ーーシリコンバレーでもですか?

近藤:シリコンバレーでですね。本当に好きな人は、たぶんスタートアップや大学にいます。これも聞いた話ですが、GAFAなど大企業に行く人たちは、もうエリートコースとして、どこ大学のどこの学科でコンピューターサイエンスを取って、こういう面接を突破してGAFAに入るみたいなコースができあがっているので、仕事として、お金のためにやるという人がけっこう多いみたいです。

日本ではなぜいまだに理系のジェンダーギャップが大きいのか

ーー米国では理系分野で活躍する女性は多いと思いますが、日本においては、女性が技術や工学系の道を進むというと周りから、「あ、そっちに進むんだ」と言われるみたいなこともまだあると思うのですが、そのあたりはどう感じてますか?

近藤:本当にあると思います。さすがにもう時代的に、女だからこうしなさいとか、わかりやすい差別を言う人はいないと思うのですが、やはりその環境がよくないですよね。

人間はけっこう影響を受けやすい生き物だと思います。直接言われなくても空気を読むじゃないですか。技術とか工学とかの道に行っている人が周りにいなかったり、テレビとかで、変な取り上げられ方をされていたり、そういう積み重ねで、理系の道は変なんじゃないかと思ってしまうこともあると思います。

ほかにも、例えばメチャメチャ好きじゃないと、行ってもやっていけないんじゃないかとか思ってしまったり……高校生の分野選択って、けっこうノリで決めているところがあるから、そのノリで流されちゃうよなとは思います。

ーーそれは、やはり米国にいるとより強く感じますか?

近藤:そうですね。日本では女子学生が多い大学ですら、先生は男性ばかりじゃないですか? 私の母校は慶應SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)なんですが、学生の男女比率が全体を合わせると5分5分ぐらいなんです。すごくダイバーシティがある生徒構成なんですが、一方で教員は8割9割が男性なんです。それは普通に考えたらおかしいじゃないですか。だけどそのことに、学生時代は気づけなかったんです。

学校側も、パネルディスカッションの授業を、男性教員だけで組むことがけっこう多くて、それに対して生徒も教員も問題意識をもっていなかったというのが、けっこう危ないなと思いました。

慶應SFCは文理選択がないので、理系の研究室も5分5分ぐらいで女性がすごく多いんですが、それでもやはり、そこから上がって准教授や教授になる人は男性ばかりでした。その理由は、自分が研究室に入った時に、マスター以上に女性がいない、もしくはかなり少ないことがけっこう大きいと思うんです。

米国だったら、教授レベルに女性がいたり、ポスドク(博士研究員)の先輩が女性だったりします。そういうのを見るだけで、自分ももっと勉強続けようかなと、かなり変わると思います。

これはビジネスシーンも然りですね。

(次回につづく)

Attitudes to anime movies among adults the United States as of January 2020, by age group

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