2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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質問者4:今日は講演ありがとうございます。「居場所の拡張」というお話が出ていたんですが、「物があまり重要じゃなくなっていく」という話とつながっていくのかなと思います。
例えば「メタバース」といったものと、「国」という概念はどう整合していくんでしょうか。言ってみれば、どこの土地にいるかが重要じゃなくなってくると、国という単位がものすごく中途半端になってくる気もしていて。そこらへんに対して、佐々木さんのご見解をいただければありがたいです。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):大変良い質問ですね。まず、国をなんのレイヤーで捉えるのかが大事です。
例えば安全保障のレイヤーで言うと、今回のロシアのウクライナ侵攻とかを見れば、国というものが今後もなくならないのは如実に明らかなわけですよね。でも一方で、メタバースとかの空間は国境は関係なくなる。
「そうは言っても言語の壁があるよね」と思うんだけど、DeepLをはじめ、今は機械翻訳の精度はものすごい勢いで進化していてます。
おそらく5年、10年のうちには、普通にしゃべって同時通訳を機械でやってくれて、遜色なく普通にしゃべれる時代は間違いなくやってくるから、「普通に日常会話するだけだったら、もう英語を学ぶ必要ないよね」ぐらいには間違いなくなるでしょうね。ということを考えると、文化的なレイヤーは消滅していくかなと思います。
佐々木:経済的にはすでにグローバリゼーションが進んで、今の時代の状況だと、ロシアがウクライナに侵攻して、中国も外側に向かって強い圧力を耐えていますけれども。
一方で「それって19世紀の終わりぐらいみたいだ」「第二次世界大戦ぐらいのブロック経済が戻ってきた」みたいなことを言っているんだけど、当時とは比べ物にならないぐらい経済圏の結びつきが進んでいるわけです。
そうは言っても、iPhoneは主に中国で主に組み立てられていたりするわけです。だからやはり、経済的なグローバリゼーション、国境線はすでになくなっている。
もちろん、それぞれの民族固有のローカル文化はちゃんとあって、それは残っていく。例えば、日本のアニメ文化は残っていくでしょう。
昔だったら、我々がアフリカのガーナかなんかで歌われているラップとかに触れる機会はほぼなかったけれど、(今なら)YouTubeで普通に触れられたり、Spotifyでも聞ける時代になって、すごく遠い国のさまざまなローカルカルチャーに触れるのも簡単になってきている。だから、あらゆる意味で国境がなくなっていくのは間違いない。
ただし、安全保障という1点での国境は頑として残るし、同時にそれぞれの国の固有文化は残っていく。それは民族固有の文化の場合もあるし、地域の場合もあるのかもしれないんだけど。
「インターネットが普及して、グローバリゼーションが普及すると、すべてがマクドナルド化する」みたいなステレオタイプの言い回しがあったけど、あれは嘘だったわけですよ。
「インターネットが普及した結果、逆にローカルカルチャーが大事にされる世界がやってきた」と、この20年で言われるようになってきたことで、カルチャーとしての固有の国は間違いなく残っていく。ただ、レイヤーで分けて考える必要があるかなと思います。
質問者4:ありがとうございます。
質問者5:お話ありがとうございました。いろんなお話を聞く中で気になったのが、今後生活の働き方も変わっていき、言語の壁もなくなっていく中で、個人にはどういった能力が求められるのかを聞かせていただきたいなと思います。
佐々木:それもとても良い質問なんですが、答えがすごく難しいですね。井上智洋さんという経済学者がいて、経済学の視点からAIの進化を見る『人工知能と経済の未来』という、非常にすばらしい名著を5年ぐらい前に出されています。
最近だとメタバースの本を書かれていますが、井上さんが言っていて「なるほどな」と思ったのは、「ARの時代に残る仕事は『CMH』である」と書いてあったんです。
CとMとHが何の頭文字かというと、「クリエイティビティ」と「マネジメント」と「ホスピタリティ」なんです。
クリエイティビティはわかりますよね。AIはいろんな画像を生成したり、文章を生成できるけど、ゼロからまったく新しいものは生み出せないわけです。ゴッホがいない世界で、ゴッホの絵は描けない。バッハのいない世界で、バッハの音楽は作れない。「バッハらしい音楽」や「ゴッホらしい絵」を描けるのが、今のAIです。
そういう意味でいうと、映画を撮ったり、小説を書いたりとか、人間のクリエイティブは今後もなくならないということだと思います。
佐々木:MとHは両方とも近いんだけど、Mの「マネジメント」は管理職のマネジメントですよね。
管理職というのも、昔は「単にハンコを押すだけ」というイメージだった時代もあり、平成の時代には「ひたすらコストカットしてノルマを上げる人が管理職」みたいなイメージもありましたが、今の管理職はちょっと違ってきていて。
いかにチームのまとまりを作るかとか、やる気のない人のやる気を出させるか。要するに、どっちかというと「人を支える仕事」みたいな感じになってきているので、すごく専門職です。
もはや、プレイヤーで優秀だった人をマネージャーにするんじゃなくて、マネジメントできる専門人材を雇おうという動きさえも出てきているわけです。
そういう中で、人と人をうまく結びつけてやる気を出させたり、「チーム一丸となってがんばろうよ」と、下から支えたりする仕事はAIにはできないので、たぶん今後もなくならない。
最後のHはホスピタリティ。日本語で言うとおもてなしですよね。これもよく言われるんだけど、介護にもロボットが入っていって、ロボットがおばあちゃんをお風呂に入れる時代がやってくるかもしれない。
だけどその時も、そばにいて「おばあちゃん、大丈夫だよ」と言って、手を擦ってあげる介護士さんのおもてなしの心というか、優しさみたいなものはなくならない。
ファストフードがどんどんロボット化していって、座ればロボットが牛丼を運んでくる時代になっても、近所の感じの良いカフェで毎日会うスタッフの感じの良さは欲しいよねと、やはり我々は思うわけです。そういうホスピタリティはなくならないかなと思います。
マネジメントとホスピタリティって似ていて、結局は人と人のコミュニケーションなんです。さっき「関係のテクノロジー」という言い方をしましたが、関係のテクノロジーによって支えられて、人と人が会う。
でも、会うだけではダメで、会った時にどうやって良好な関係を作り、良い仕事をできるようにするかという、関係にプラスアルファした人間的なものが今後一番重要になってくるんじゃないかなと思います。だから、コミュニケーションの仕事が非常に重要視されていく時代が、間違いなくやってくる感じはしています。
質問者5:ありがとうございました。
財前英司氏(以下、財前):まだちょっと時間があるので、あと1人、2人ぐらい(質問をどうぞ)。
質問者6:お話ありがとうございます。最後のほうに「起業家は優秀な方が多いけど、弱者に対する目線が弱い」という話があったと思います。弱者に対する目線というのは、持とうとして持てるものじゃないと思うんですが、どういうふうにやっていったらいいのでしょうか。
佐々木:弱者を哀れんではいけない。多様性というと、我々はついLGBTとかの話をしちゃうわけです。「みんながキラキラしているのが多様性」というか。でも、本当の多様性とはそうではなくて、自分にとって不快なものを許容するのが多様性です。
例えば、弱者と言うとみんながイメージするのは前段の話だったり、あるいはシングルマザーだったりするんですが、一方で「40代非正規雇用、年収200万円の男性」というのは誰も弱者扱いしてくれないんです。
これはインターネットのスラングで「KKO(キモくて金のないおっさん)」という言い方をするんだけど、KKO問題は時々ネットで議論になっているんです。
なんでこの人たちは(弱者として)忘れ去られているかというと、「近寄ったら怖い」「逆に襲ってくる」みたいな話もあるわけですよね。そういうものさえも、ちゃんと許容しなきゃいけない。
「なんで許容しなきゃいけないのか。そんなの見捨てていいじゃないか」と思う人も、当然いるわけですよ。でも多様性が大事なのは、哀れみの心があるからじゃなくて、現状では役に立っていないかもしれないけれど、局面が変わった時に突然役に立つ人が現れるかもしれない。それを担保するために、多様性があるわけなんです。
佐々木:昔、ニコニコ動画がなぜ作られたのかを取材して1冊の本にしたことがあって。ニコニコ動画の基礎的なコードを書いたのは、戀塚昭彦さんというドワンゴのプログラマーだったんですよ。
戀塚さんは会社に所属していたのでドワンゴ社員だったんだけど、2年ぐらい病気かなにかで、会社にはぜんぜん来ていなかった。
たまにしか来ていないんだけど、社長の川上(量生)さんが「でも、そのうち何かやってくれるかもしれないから、ちゃんと給料は払っておくよ」と言って、まったく何もしていないのに2〜3年ずっと給料を払い続けたんですね。
その時は何もしていないから、当然みんなから「クビにしろ」という話もあったらしいんだけど、それを押し止めて給料を払い続けた。
そうしたら、2〜3年経ったあとに「ニコニコ動画を作ろう」という話になった時に、「戀塚にやらせたらいいんじゃね?」と。そうしたら、すごく成功した。
そういうふうに、局面が変わると当然活躍する人もいるわけですよ。そのために多様性があるんですよね。
だから、多様性がなくなった共同体や社会は非常に脆弱であると言われている。ある現状の局面においては強いかもしれないけど、局面が変わった瞬間に総負けになってしまう可能性がある。これが多様性の本質であると言われています。
この概念を学ぶことこそが、弱者に対する目線を持つ第一歩なんじゃないかな。哀れみの心を持って、「かわいそうな人を救わなきゃ」とか言っているうちは、本当に弱者目線には立てないんじゃないかなと思います。
フラットに同じ立ち位置になれるかどうかという、姿勢の問題だと思うんです。だからこれは、社会が「ルールとしてこうしよう」という話じゃなくて、あくまで社会に対する一人ひとりの個人の向き合い方の問題かなと思うんです。
質問者6:ありがとうございます。
財前:ほか、大丈夫ですか? じゃあ、最後にお願いします。
質問者7:去年の6月ぐらいから、NFTの取引量がめっちゃ減少しているというニュースを見て。Web3が未来には来るんだろうけど、今はまだ来る未来に確信が持てていないというか、信じられていないと思っていて。
よく「Web3が何を価値提供できるのかを考えるのが大事だ」というふうに聞くんですが、これから来るかもしれない未来にどういう心持ちで挑戦していけばいいのか、教えていただきたいです。
佐々木:現状のWeb3が衰退しているように見えるのは、金儲けの手段としか捉えていないからですね。結局NFTも、得体の知れないつまらないデジタル画像にお金をつけたり、あるいは本でも『キャプテン翼』事件というものがあって。
『キャプテン翼』の版権を持っていない会社が、勝手に『キャプテン翼』をNFT化して儲けようとした話がある。ビットコインもそうだし、全体的に金儲け臭がすごいんですよ。
それって結局、単に詐欺師や山師や金儲けが好きな人が集まって「Web3、Web3」と言っているだけです。当然、そんなものは崩壊するのが当たり前だよねと。
振り返ってみると、1990年代後半のインターネットも得体の知れないやつがいっぱいいて、そういう感じだったんです。いまだに僕は覚えていますが、今の東証グロースに上場した会社があって。「最先端のWeb企業現る」みたいな感じでものすごく盛り上がって、上場パーティには芸能人が山ほど来たりしたんです。
その社長は僕もいっぱい取材したんですが、1年後ぐらいにその人が暴力団とつながっていることがばれて、暴行罪で逮捕されて刑務所に10年以上入って終わってしまった。そんな人がいっぱいいたんですが、今のWeb3はまさにそれです。
得体の知れない人がいっぱい群がって金儲けしている段階を、まずは乗り越えて次に進まない限り、Web3の本質は現れてこない。インターネットの1990年代後半のあの馬鹿騒ぎは、ネットバブル崩壊とともに終わったんだけど、それでもネットが終わったわけじゃなくて、ネットの本質はそこから始まったんですよね。
そこまでちゃんと射程を伸ばしてこの先を見ていく必要があるし、金儲けとか山師・詐欺師にばかりを見ちゃっていると本質を見誤るので、そこらへんを考えたほうがいいんじゃないかなと思います。
佐々木:あともう1個、これはなんとも言えないし、人によって考え方は違うのではっきりしないんですが、そもそもブロックチェーンである必要があるのかどうかは考えたほうがいいかなと。
基本的にWeb3というものは、これまで現れたWeb2.0やそれに伴うプラットフォームの巨大化という現象に対して、その次にテクノロジーが進まなきゃいけない段階が来ている。
「Web2.0に対するアンチテーゼとしての3が必要だ」という論調でこの本を書いているんです。だから、別にブロックチェーンはもうなくてもあってもいいけど、それが本質とは思わなくてもいいんじゃないかなというのが個人的な考えです。
でも、これは人によって考え方が違うのでなんとも言えないと思うんだけど、そういう議論を進めながら、今後はようやく本物のWeb3が進んでいくフェーズがやってくるんじゃないかな。この前の取引所のFTXの破綻なんて、まさに最初の大騒ぎを終わらせる良いタイミングだったんじゃないかなと思っています。
質問者7:ありがとうございました。
財前:以上で質問も終わりましたので、イベントも終わりたいと思います。最初に言ったように、テクノロジーに対する理解とか、それをどうやって使いこなしていくのかというリテラシーを身につけなきゃいけないなという一方で、我々はそれをどうやって使いこなしていき、備えていくのか。
ビジョンを持つ必要があるのかなと思いましたし、まだみなさん本をじっくり読まれてはいないと思うんですが、今言ったようなことを考える中身になっています。
付箋を見ていただけるとわかるんですが、私も読みながら何回もいろいろ考えていました。今日の佐々木さんの話を踏まえて、またご自宅に帰って本を読みながらいろいろ反復していただけたらいいなと思っています。そういうわけで佐々木さん、ありがとうございました。
佐々木:どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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