2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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財前英司氏(以下、財前):じゃあ、次の(テーマの)メタバースに入っても大丈夫ですかね?
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):はい、大丈夫です。
財前:章立てとしては「メタバースと自動運転が都市を変える」ということだったんですが、実際にメタバースがリアルの世界に及ぼすコミュニケーションの拡張と居場所の拡張について書かれているんですが、これってどういうことなんですか?
佐々木:Web3というのは、単なる支配から脱却するというよりも、人と人、人と会社のその関係性を変えるものであると。だから、関係と承認のテクノロジーという、新しいテクノロジーの概念が必要じゃないかと考えています。
「テクノロジーを関係のために作ろう、使おう」という考え方をほかのテクノロジーに適用すると、もっといろんなものが見えてくるんじゃないか。さらに、メタバースって実は関係のテクノロジーなんじゃないかと思います。
今のメタバースって、ごついヘッドマウントディスプレイをガチャンと頭にはめて、仮想の梅田の街を歩き回る、みたいなエンタメ的なものだと思われているんだけど、たぶんエンタメだけだったら社会に普及しないです。
例えばみなさんが使っているスマホは、わずか10年ちょっとでこれだけ社会にめちゃくちゃ普及した。これはなぜかというと、エンタメじゃなくて日常生活に欠かせなかったからですよね。今やスマホの地図がないと街も歩けない、というぐらいになってきている。
SNSでいつでも誰でも連絡を取れる。メタバースもそのぐらいになっていかなきゃいけなくて、そのためにはいくつかハードルがあります。
佐々木:例えば、今のガチャンとしたヘッドマウントディスプレイじゃなくて、透過型のAR眼鏡と言われているものです。
みなさんがかけている眼鏡ぐらいのサイズで、景色もちゃんと見えて、同時に眼鏡の中にVRのCGで表示されるものも見える。そういう複合型の機器が必要になってくるだろうと思います。
実際、Appleが今年出すか来年出すかと言われているのは、今出ているOculus的なヘッドマウントディスプレイじゃなくて、透過型の眼鏡じゃないかとずっと噂されているんですね。だから、Appleなんかはそっちが本命だと考えている。
実際にMeta社のQuestは、もう透過型になっているんですよね。やはり、透過型じゃないと日常生活ができない。
ヘッドマウントディスプレイをつけて、100インチぐらいの画面でNetflixを見るアプリがあって。あれはすばらしいんですが、見始めて気づくのは「あっ。酒飲もうと思ったけど飲めないな」というね(笑)。慣れている人だったら「飲める」とか言うんですが、あれは絶対にこぼすよね。
(メタバースが)日常生活に入ってくると同時に、おそらく今のようなアニメ型のアバターではなくなる。最新の技術だと、スマホで自分の顔を撮って、まるでTouch IDの指紋を登録するように、自分の全身像に似たそっくりの3Dの写真像がメタバースに作れるとか。
みなさんのリアルな体が映像となってメタバースの中に入っていくと、オンライン会議の代替物としてすごく有能になってくるんじゃないかと思います。
佐々木:コロナ禍に入ってから、みなさんもリモートワークでZoomをやるようになったと思いますが、めちゃくちゃ人数が多いとしゃべりにくいですよね。2人でやっているならまだしも、8人ぐらいで会議している時に手を挙げてしゃべろうとすると、全員の目がこっちを向く。
人見知りの人は到底発言できないというのが、オンライン会議の問題です。あと、普通の会議と違って、全員がタイル型に平面に並んでいるのは変だろう、とかね。
例えば、円卓の中にみんなが座っているような立体的な3Dの会議にしていくのは、今後すごく重要だと言われています。その場所として、メタバースはすごく注目されているんですね。
高級なものは解像度がすでに4Kぐらいまでに達していますが、4K、8Kが当たり前になって、しかもみなさんの実像がメタバースの中に表示されて、円卓を囲んで会議ができる。隣にいる人と、身近にしゃべれる。
VRをやっている人に聞くと、「疑似的な感覚なんだけど、近くでしゃべると体温を感じる時がある」という話になります。もちろん(実際には)感じるわけないんですが、近すぎてそういうのを感じちゃうらしいんですね。そのぐらい、リアルに近い感覚になる。
僕は今日、東京から2時間半も新幹線に乗って大阪までやってきて、しゃべって明日の朝には帰ります。だけどそんなことをしなくても、メタバース空間の中では触れはしないけど、ほぼリアルで会っているのと変わらないぐらいの感じで会えるようになる。それぐらいの技術にはなっているかなと思います。
それこそがまさに、エンタメとしてのメタバースじゃなくて、リアルに人と会う距離を縮めるためのテクノロジー。つまり、関係性を一気に縮めるテクノロジーとして作用するんじゃないかと思います。
佐々木:田舎にいようが、山の中にいようが、東京にいようが、大阪にいようが、どこにいようが関係ない世界は、間違いなくあと10年ぐらいでやってきますよね。やはりこれも関係のテクノロジーだろうという話なんです。
同時に、自動運転なんかもそうだよねという話をしていて。今の自動運転はまだまだひよっこなんですが、完全自動運転で運転席のいらない車は、技術的にはまもなく可能になってきている。完全なレベル5と言われる運転席のない自動運転車を普及するのには、10年かからないですね。
ただ、問題は法制度です。車が事故った場合に誰が責任を持つんだとか、車の保険はどうするんだとか、考えなきゃいけないハードルがたくさんあるので、そう簡単には普及しないと思うんですが、いずれ車はすべて自動運転車になっていくだろうと思います。そうなると、たぶん人間の運転する車は邪魔でしかないです。
「前の車との距離は何十メートル空けなさい」と言われるじゃないですか。普通にみなさんが車で道を走っていて、隣の車との距離もちゃんととらないと危ないですよね。でも、自動運転だとそれが要らないので、前の車との距離が30センチぐらいでもかまわないし、2車線の道路を3車線にすることも可能なんですよね。
全部の車が連動して走ることができると、渋滞もなくなるし、非常にスムーズに運転できるようになる。その時に一番邪魔なのは、人が運転している車です。
佐々木:いずれは、タクシーやバスといった公共交通サービスも自動運転車になっていって、人間の車は排除されて、人が運転したい場合には「どこかのサーキットコースに行ってやりなさい」という話になっていく可能性は高い。
そうなると、もはやバスもタクシーも全部消滅して、すべて自動運転の無人タクシーに変わっていくかなと思います。
実際にテスラの社長のイーロン・マスクは、しばらく前に「いずれ無人タクシーの料金は鉄道とバスと同じになる」と断言しているんですよね。
つまり、我々が今タクシーに乗ろうとすると2,000円とかが掛かるので「高いな」「あんまり乗れないよな」と思うんだけど、無人タクシーだったらぐるぐる走り回っても200円で済むとか、いずれはそういう感じになっていくわけです。
だからもう、車を私有する人はいなくなりますよね。そうなると、距離の概念もどんどんなくなる。キャンピングカーが自動運転化されたら、トレーラーハウスみたいな感じで、夜に梅田の駅の駐車場に停まっている自分の家(車)に帰って寝て、目が覚めたら東京とか、下手するとそういうのも普通になってくるわけです。
そう考えると、ますます「どこの場所にいるか」ということは、あんまり意味がなくなってくる。メタバースと自動運転が完全に普及した世界においては、もはや人間の居場所や人と人の距離は、今の我々が感じているものとは120度ぐらい違うものになっているんじゃないかなと思うんですよね。
財前:佐々木さんの本にも書いていただいていますが、オリィ研究所の「OriHime」。ALSの患者の方は体はぜんぜん動かせないんですが、遠隔でカフェの店員をやっている。
佐々木:そうですね。「メタモビリティ」という概念です。イメージとして、自分の家に自分のコピーロボットがいるとします。会社に行って「そろそろお昼だから犬に餌やらなきゃ」と思ったら、ARでメタバース空間の中で自分の家に行って、犬に餌をやるんです。
(メタバース上では)バーチャルなペットなんだけど、実はそれと同じことが自分の家でも行われている。自分がVRの中でバーチャル犬に餌をやっている時に、リアルの家では自分のコピーロボットがリアル犬に餌をやっている。
つまり、リアルのロボットやリアルの人間とか、いろんなものが連動して動くのがメタモビリティです。例えば僕が東京の家にいて、ここに佐々木俊尚のコピーロボットが座ってみなさんの前でしゃべるとか、そういうことも可能なんです。
見た目はロボットなんだけど、発する声は佐々木俊尚の声、みたいなね。モビリティというか、リアルの世界のものとVR空間のものが、同時に存在する世界が当たり前になってくるということです。
財前:いわゆる、デジタルツインというものですよね。
佐々木:デジタルツインですね。デジタルの双子という意味ですが、自分とメタバース空間の自分が常に同時に存在している。
財前:そういう意味では、居場所が拡張をしているということですよね。どこにいようが、コミュニケーションは拡張していく。
佐々木:もう今から14年前ですが、僕は2009年に「仕事するのにオフィスはいらない」という、『ノマドワーキングのすすめ』という本を出しました。
たぶんそれが、「ノマドワーク」という言葉を日本で最初に使った本だったと思います。当時はベストセラーになったんだけど、なぜかそのあと「ノマド」というのは、「スターバックスでMacBookでドヤ顔をする」という意味になってしまった。
(会場笑)
佐々木:著者としては釈然としない感じだったんですが、あの頃に「オフィスはもういらないし、これからインターネット経由でいろんな仕事ができるようになる」ということを書いたら、けっこういろんな人から「そんなことあるわけないじゃないですか」と、すごく反論されたんです。
結果的に、あの本に書いたことが、まさに10年後のコロナ禍でほぼほぼ100パーセント実現してしまった。リモートワークをみんなが普通にやるようになって、オンライン会議をする。それ以前と今とで、まったく感覚が違っちゃっているわけですよね。
今のリモートワークの世界の延長線上に、自動運転とかメタバースも合流してきて、どんどんリモートワークがやりやすくなるとイメージしてもらうと、そんなに遠い話じゃないというのは理解していただけるんじゃないかなと思います。
財前:佐々木さんは「キュレーション」という言葉も使われてましたよね。
佐々木:そうですね。2011年に出した本(『キュレーションの時代』)で「キュレーション」という言葉を最初に使ったんだけど、いつの間にかインチキに情報操作する人のことがキュレーションになってしまって、著者としては非常に釈然としないんですが。
(会場笑)
財前:さっきも「関係と承認」の話が出ていましたが、テクノロジーによって関係と承認を実現していくためには、最終的に何が必要になってくるのでしょうか。
佐々木:Web3のトークンエコノミーをどのように実現するのかとか、メタバースで人と会う時にはどういうやり方がいいのかとか、新しいテクノロジーってまったく未知数なわけですよね。いずれも、まだこれからの話なんですよ。
だから僕の書いている本は、前半では「Web3は何か」「メタバースは何か」と、現状のテクノロジーを散々説明しているんだけど、後半はある意味提言というか、「こういうふうになってほしい」というビジョンを書いているだけなので。
そこから先は、みなさんがアプリ開発するなり、テクノロジー企業に就職するなりして実現してほしいな、というだけの話ですけどね。
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