2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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藤岡清高氏(以下、藤岡):それから起業の道に進まれると思うのですが、いろんな苦労をされてここまで来ていると思います。どの点で苦労されて、どのように乗り越えてきたのかを教えていただけますか?
文原明臣氏(以下、文原):まずは人集めが大変でした。やりたいものの、自分だけでは何も作れないので、チームを作らなければなりませんでした。
「とにかく一緒にやってくれる人を探そう」と関西で開かれているWebの飲み会や、ITに関わっている人たちが集まるような場所に行って、会う人に提案していたのですが、興味を持っていただけてもそこから先に話が進まないことが多々ありました。
その後もIT系の勉強会に定期的に参加していましたが、ある日勉強会のメーリングリストに「今度テックウェーブの方が東京から来られます。新しいモバイルのサービスを考えている人を探していて、誰かプレゼンしてみたい人はいますか?」というメールが流れてきました。
その時に「チャンスだ」と感じて、テックウェーブの方と、ソーシャルマーケティング会社の役員の方の2名に話をしました。そこで勉強会の主催者とソーシャルマーケティング会社の方が興味を示してくれました。
また後日話をすることになり、東京に行くことにしました。東京でもお会いして、ついでにTwitterで東京のWeb系の方々とつながっていたので、そういう人たちとお会いして、1週間ぐらい滞在しました。
結局、そのソーシャルマーケティング会社の方との話は進まなかったのですが、たまたま滞在先のシャワーが使えなかったので「銭湯ないかな」とTwitterでつぶやいたら、返信が来て、その方のプロフィールを見るとエンジニアと書かれていました。
アイデアをメッセージでやりとりして興味を持っていただいたので、渋谷で話して「なんかおもしろいから手伝う」と言ってくれたのが今のCTOです(笑)。
藤岡:Twitterから拾うのはすごいですね。
文原:その時はすべてがチャンスに見えました。それから実際に動き出したのですが、彼はサーバーサイドの専門なので、ほかにもフロントエンドのエンジニアやデザイナーが必要でしたが、なかなか見つけることができませんでした。
そんな時に神戸のコワーキングスペースに立ち寄りました。そこの代表に話したら興味を示して下さり、その方がUstreamで配信している番組で告知することになりました。それに東京の方が賛同してくれ、デザイナーを紹介してくれました。
また、その時にたまたまIT系の人たちと10人位でシリコンバレーに行くことになりました。その仲間たちに「今iOSのエンジニアを探している」と話したところ、「知り合いにいるから紹介します」と言ってくれました。旅から戻って紹介してもらったら、その日に「やります」となり、ようやくiOS、デザイナー、サーバーサイドのメンバーが揃いました。
藤岡:最低限、システム作るメンバーがそろったのですね。
文原:メンバー集めに8ヶ月かかりました。それがスタートまでの大きな苦労でしたね。その後、MOVIDA JAPANからの出資の話も決まり、集中して取り組める環境が揃ったので、東京に出てきました。
文原:ここから2012年3月にリリースする予定で動きました。出資も決まったので、iOSの方にはフルコミットしてもらい、12年3月に間に合うように動いてもらいました。しかし、このままだと間に合わないことがわかり、フリーでやっているiOSのエンジニアを連れてきて2人体制で対応するようにしました。
その人にお願いして、定期的にミーティングはして、そこで口頭の確認だけで別にコードは確認していませんでした。「今これくらいです」「あとどれくらいです」「あと大体これくらいです」とやりとりをして、リリースの直前に出てきたのが1行も書かれてないコードでした。
でも、なんとかリリースにこぎつけなければいけないので、別のiOSのエンジニアをご紹介いただいて、その方が手伝ってくださったので、また進み始めました。
この時は本当に大変でした。開発が進まない、最初の500万円がもうない、なんとかしなければならない……。個人のツテで投資してくださる方を探して、なんとか出資いただけることになりました。そして、2012年8月にリリースにこぎつけました。
当初はテック系メディアに取り上げられました。しかし1000、翌日700、翌々日200、さらに50とダウンロード数が減っていきました。そうなると、逆にリリースしたからこそお金が集まらなくなりました。
投資側からすると「もう少し様子を見たい」という状況だったのだと思いますが、ダウンロード数が伸びず、見込んでいたお金が一切集まらずにどんどん減っていきました。そして、僕はメンバーを心配させたくなくて、みんなとお金に関する話をしていませんでした。コミュニケーション能力が不足していたのだと思います。
藤岡:社長が1人で考えていろいろ動いていて、その情報共有ができてなかったということですか?
文原:言ってしまえばそうですね。それ以外にも、お酒が得意ではなかったので一緒に夕飯を食べに行くようなこともまったくしていませんでした。僕はお金の心配をさせたくないからお金に関する情報をシェアしなかった。
でも、みんなの言い分からすると、お金の問題は重要だからコアメンバーくらいには共有して、一緒に考えてやればいいという考えがあったようです。ものすごく正論ですが、当時の自分はそこまで頭が回らず、勘違いをさせてしまったと思っています。
その後2013年2月にはキャッシュアウトしてしまい、何もできない状態がしばらく続きました。
この頃、カフェにいた時にパニック症候群になりました。突然動悸が激しくなってトイレでしばらく休んだのですが、それは困りました。
結局、支払日が来たら、謝ることしかできませんでした。いろんな人たちに謝って回りました。そして、本当にありがたいことに、全員になんとかご理解いただくことができました。
例えば、コワーキングスペースを貸してくれていた友人は次の増資が入るまで支払いをずっと待ってくれました。直前はパニック症候群になりましたけど、超えるともうどうしようもないことですから、なんとか乗り越えることができました。
ただ、資金繰りの問題は依然あり、みんなのモチベーションも下がっていく中で徐々に人がいなくなりました。それによって開発ができなくなったのが、2013年5月頃です。
フロントエンドの人間も辞めてしまい、そこからはもう「キャッシュはどうする?」「サーバー代だけは何としても止められない!」といった状態でした。そんな状態でしたが、サービスは伸びていました。
藤岡:ダウンロード数は伸びていたのですか?
文原:はい。徐々に伸びていましたし、絶対にいけると思っていました。モータースポーツでやりたいことを諦める経験をしていて、「絶対にやろう!」と諦めたくない気持ちが強かったです。当時は、その気持ちが支えになりました。
しかし、開発ができないので、開発メンバーをなんとか集めようとしました。そして、フィリピンで働いていたiOSエンジニアにリモートで手伝って貰いました。そのように外注で開発メンバーを引っ張ってきて、少しずつ開発は進めていました。
藤岡:なるほど。資金のほうはどうなさったのですか?
文原:資金のほうは相変わらず難航していました。一度VCからの出資が決まりかけたのですが、他社から断られたことがきっかけで頓挫したこともありました。
そんななかで、お世話になっている方に相談していた時に個人投資家を紹介されました。その方にその飲みの席でプレゼンしたら、気に入っていただけて、その方の友人である音楽系事業会社の代表を紹介していただきました。お会いしてから2ヶ月で出資が決まりました。
早く開発したいから、その時点でサーバーサイドのスタッフを1人雇いました。開発も動き出して、サービスもタイムリーに伸び始めました。
サービスは徐々に伸びていたのですが、その出資が入った2013年末時点でユーザー獲得がデイリーベースで以前の6倍程になっていました。
ちょっとしたことなのですが、アップルストア上のスクリーンショットやターゲット、タイトルを変えただけで新規ダウンロード数が6倍になりました。
藤岡:ちょっとした工夫で変わるのですね。
文原:結局、資金の問題やチーム作りの課題、これらを全部乗り越えられたのはモータースポーツでの体験があったからだと思っています。夢が断たれて鈴鹿レーシングスクールフォーミュラから、鈴鹿サーキットから帰る時に、車の中でボロ泣きしました。その悔しさがあって、「次は絶対に諦めたくない、負けたくない」という思いがありました。あと、「このサービスは絶対間違ってない」と確信していたので、耐えることができたと思っています。
藤岡:やり続けていれば、必ず逆転できると?
文原:「絶対なんとかなる!」と思っていました。
藤岡:振り返ってみて、成長すべき点は見つかりましたか?
文原:お金まわりの認識の甘さとチームのコミュニケーション不足です。スタートアップベンチャーには簡単に資金が集まるものだと思っていました。あとは、メンバーとの情報共有の甘さ。今は、もう少し資本政策を共有するべきだと思いますし、サービス作りという点でもチームを一致させる取組みを徹底してやりたいと思いますね。
藤岡:資金繰りを乗り越え、これから更なる成長局面に入っていくわけですが、これから社会をどう変えていくのでしょうか?
文原:当たり前に人と歌い合うことやセッションし合うことができるような社会を作りたいですね。僕の頭の中にあるのは、“We are the world”の歌が世界中で、人種も国境もすべて超えて一緒に歌いあっているのが当たり前にできる状態を作りたいと思っています。
僕は、音楽は1つのコミュニケーション手段だと思っています。ジャズの中でもブルースは、もともとシカゴの奴隷が娯楽の代わりに雇い主への文句を一定のリズムに乗せて罵倒するという大衆娯楽から始まっています。
僕はそういう音楽が好きです。コミュニケーションとしての音楽という捉え方をしていて、それが当たり前にできる状態に世の中を変えたいという気持ちがあります。
藤岡:そのビジョンを実現するために、今不足しているのは何でしょうか?
文原:もちろんまだまだ小さな会社なので全部が足りていませんが(笑)、とくにマネージャー層が不足しています。一番必要だと感じているのは、プロダクトマネージャーです。プロダクトに関して全部を統括して見る人がいません。
全体を管理できて、経営側に例えば「マネタイズをこうしたい」とか、「僕の思想的にこういうことはしたくない」「ユーザーからはこういう声がある」というような指摘ができる人物が欲しいです。
フラットな組織を作りたいのは当初からあったのですが、一方である程度指揮系統が明確化していることも会社として必要なのかなと痛感しています。それをやらねばならないのが短期的な課題です。
中期的に考えると、マネタイズをいかに成功させるかが課題になってきています。今年度の目標としては、マネタイズをきちんと回収して一定の数値までもっていきたいですね。
藤岡:プロダクトマネージャーが欲しいという話がありましたが、求める人物像はありますか?
文原:個人的には、すごくおもしろいものを作っていると思っています。おもしろいものを自分の手で作っているということは、ある意味全員クリエイターの側面を持っていると思います。
そして、クリエイターは自分のアウトプットのたった1ミリのズレすら嫌がる、こだわるものです。その感覚はこれからもすごく大事だし、すごく愛おしいものだと思います。
例えば、ほんのちょっとでも「何かおかしい」と思うのなら、そこはこだわってやると絶対良いものができると思っています。楽しんでこだわりを持てる人が理想的ですね。
藤岡:今のタイミングで、nana musicで働く魅力について教えてもらえますか?
文原:今はデスバレーを抜けてそれなりに成長軌道に入って、数字もある程度ついてきています。ですから、いいタイミングでスタートアップを経験することができます。当時ほどの苦しさもなく、むしろ今からだと「国内で当たり前のサービスになっていく」「世界で初めて通用する日本初のサービスになっていく」という目標と夢に向かっていけるので、いいタイミングだと思います。
まだ組織としては未熟なので、自分でこだわりをもってこうやりたいと言ってくれれば、基本的にはそれができる環境です。「ワクワクするおもしろいことを作ってみたい」とか、「グローバルでやってみたい」と思っている方には楽しんでもらえる場所だと思います。
藤岡:グローバルのユーザーは何ヶ国くらいですか?
文原:先月で投稿あった分で113ヶ国です。
藤岡:113ヶ国! すごいですね。
文原:でも、海外で何ができているかというと、ほとんど何もできていません。一定のユーザーがいるだけの状態なので、このあたりももっとテコ入れをしていきたいです。
藤岡:これからの成長に期待しています。文原さん、貴重なお話をありがとうございました!
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