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クリエイティブ・ディレクターの仕事術(全2記事)

「答えがないからこそ、自分を信じる」 レッドオーシャンで勝つための、クリエイティブ思考の取り入れ方

クリエイティブはITプロダクトにおいてどのような役割を果たすのか? また、IT企業はどうやってそれをコントロールしていく必要があるのか? レディ・ガガの来日プロモーションをはじめ、クリエイティブディレクターとして数々の功績を残すPARTY中村洋基氏と、ITジャーナリスト・林信行氏がその妙に迫る。(IVS 2013 Fallより)

ユニクロにおける佐藤可士和の役割

中村:もうひとつは、結構企業っていうのは、当然のことですけど、人材力だなと思っていて。私は昔、電通という本社だけで6千人、7千人いる会社にいて、まあみんなブランドがあるんで優秀なんですよ。で、すごいいい人材が、「あんまり仕事ないなー」とかって言いながら、うようよしているような。すごい人材環境に恵まれた会社で。

自分で立ち上げると、世の中ってやっぱり人材不足なんだなって。特に今、このベンチャーの流行のおかげで、若いエンジニアが世の中から姿を消してしまって、みんな楽天さんとか、サイバーエージェントさんとか、DeNAとかに行っていて。これやばいな、みたいのを思っていますね。それは、たぶんどの会社さんも、そういう「いいエンジニアいないか?」みたいに悩まれているんだろうなと思いますね。

:人材っていうか、その役職づくりっていうか。PARTYの社長の伊藤さんが、それこそ、IT企業とかテクノロジー企業だとCTO、チーフ・テクノロジー・オフィサーっていうのはいるけれど、チーフ・クリエィティブ・オフィサー(CCO)みたいなのがなかないない。それって大事ですよね。

中村:CCOは、ほぼいないんですよね。たとえばユニクロとかだと、ある時期から佐藤可士和さんとかをアドバイザリーボードというか、アートディレクターに迎えて。一応何をする上でも、「可士和くん、どうかね」みたいなことが発生したりするんですよ。それはある意味、僕らからしたら面倒くさいですけど、経験に裏付けされた、そういうクリエイティブの市場のなかにアウトプットするんだったら、これくらいのものを作んなきゃいけない、っていうフィルターを超えたり。ぜんぜん別な考え方を持ってきたりするとか。

「もともとのユニクロの社の精神だったらとても思いつかない」とか、「社長にこんなこと言ったらぶん殴られるに決まっているから、とても言えない」みたいなことを、多分、乗り越えられてその人がいる、っていう。その混血児というか、そういう血が入ること、特にコミュニケーションに関係することをやっているんだから、結構そういうことって大事なんじゃないかなって思うんですけど。

クリエイターは「空気を読まないこと」が仕事

:クリエイティブとかデザインとか、全体をまとめるものだから、ある意味ちょっと超越した立場で、空気を読まずにできるって大事。そういう意味で言うと、外部の人のほうがそういうのは向いているんですかね? 社内の人より。

中村:でもたぶん、広告のクリエイターと呼ばれている人の存在意義って、ほとんどそれくらいしかないと思うんですね。と言いつつ、「みんなはこんなこと考えていますよ」とかっていうふうに、ちょっと立ち止まらせて。テレビCMとかをやっているような大きい会社、儲かっている会社なら別ですけど、そうじゃない場合は、広告に支払う金額っていうのは、やっぱりできるだけ少なくして、いかに自分たちがまず作るもののベースってのをよくしていくか、ほとんど資本を割かなきゃいけないと思うんですよね。

そうするとまあ、せいぜいアドセンスぐらいでいっか、みたいなところから始まっていくと思うんですけど。それがドライブがかかっていくと、あるところから急にこう、お金かかるようになるんですよね。アドセンスだけでは効かないとか、「これからどうすればいいんだろう」って悩みだすときになって、急に初めて「どうやって自分の会社のサービスとか、世の中とコミュニケーションを取っていたっけ?」ということを考えだすそういう視点が、備わっている人が身近にいると楽ですよね、きっとね。

マスメディア×ITは、いまがいちばんおもしろい

:ちょっと今、広告の話が出たところでね、先ほどのセッション(「ITビジネスを成功させるための「クリエイター」との付き合い方とは? GREE、PARTYらが語る極意」)で一番盛り上がったのが、質疑応答のとき代理店の方が手を挙げて、新しい時代、これまでのマスメディアと ITの融合が今まさに起きているって話だったんですが、そこらへんちょっと話してもらっていいですか……? 中村:一番最後にあった話として、なんか、マスメディアがもう終わっていくんじゃないか、みたいな。そんなこと言ったっけ、って思ったんですけど(笑)。日本でいうと、圧倒的にテレビが力が強くって、その力はたぶん誰も認めるところで。僕らがちょっとWEBの広告のキャンペーンとか、新しいサービスを作って軽く流行ったところで、自分の実家のお父さんお母さんとか知らないだろうって。

全国で、3千GRPとか出して、テレビCM出したらあっという間にお茶の間に届けうるものになる、というぐらい、テレビっていうのはみんなが見てるスクリーンなんだけど。それが終わりつつある、ところまではいかないんですけど、どんどん細分化されていっているっていうのは、まあ間違いないっていう話をしたんですね。

というのは、もともと日本だけがおかしくって。それは、テレビ局の陰謀なのかもしれませんが、日本ぐらいしか、メインの7チャンネルばっかり見てる民族っていないんですよね。他はもう、地上波はあっても、もっと衛星放送とかが普及していたりすると、もう初めから視聴率が10%とか、半澤直樹で40%とれるとかって、なかなかあり得ないんですよ。

もっと細分化していると、各々のバジェット(予算)が減っていって、インターネットの力が代わりに強くなったりしていって、みたいなことが外国ではどんどん起こっているんですけど。日本では、とはいえ、まだまだ強いんですよね。

これは半分、嘆かわしいことと思うかもしれないし、もう片方で言えば、チャンスだと思うんですよね。まだまだ日本はこういうことができるから、じゃあみんなが見ているテレビの上で、どういうことしてやろうかっていうことを考えなきゃいけない。テレビ局さんも、すごい民放とかって焦っているんですよ。たとえばフジテレビがこの前、視聴率で首位から落ちたとか。民放全体が視聴率が減っていってるとか。でもそれって、みんなの身の回りにある有益な情報がすんごい増えているから、当たり前のことなんですよね。

:そうっすね。

中村:なので、テレビがつまんなくなったっていうことだけじゃなくて。そのときはどうすればいいかと言うと、もっと面白いソフトを作ってあげなきゃいけなくって。そのときに、もしかしたら、僕らは今までテレビっていうメディアはすごい神域、お金的にも関わっている人間的にも、なかなかこう触れないメディアだったものが、逆になんか「こちらに何かないですか?」みたいな感じで、手を差し伸べてくれている。それが実は今起こっている状況で。

シンプルに言うと、スマートフォンを使って、みんながテレビやっているなかに参加できるようになったらどうだろう、とか、そういうことなんですけど。そうじゃなくても、経営者がやっているサービスとかが、実はテレビと混在一体となったときに、もっと面白いものができるとか。そういうのも結構、今こそ差し込めるチャンスなのかもしれなくって。

もっと時間が経ったら、テレビってそんなにみんなが見てるメディアじゃないから、わざわざそこに高いお金かけて投資しないよ、ってなっちゃうかもしれないし。割とこう、今が一番、テレビにとっても僕らにとっても面白い時期というか。

:いろんなやりがいが。

中村:何か血が混ざり込んで、やりがいがある時期になってきているんじゃないかって僕は思うんだけど。

答えがないから自分を信じる

:テレビでボケと突っ込み両方やっちゃうんじゃなくて、ボケだけ言えば、みんなソーシャルメディア上でツッコミ入れてくれるとかっていうね。そういう巻き込み方もあるでしょうしね。 中村:コミュニケーションも結構違うんですよ。テレビでいうと、ひな壇芸人っていうのが突っ込んで、それでちゃんと笑いが取れるんだけど、ネットだったら、みんなが突っ込んでくるじゃないですか。ツイッターとかで。なので、ちょっとコミュニケーションが違ったりしますよね。

結構、だから難しい。クリエイティブっていう表現は答えがないんだけど、逆に言うと、答えがないからもっと自分を信じていい、というか。「君を信じるものを俺も信じるぜ」みたいなふうに、表現っていうものはしていいんじゃないかなと思うんですね。

:ちょっともう、そろそろ時間がなくなってきたので。壇上でも効果測定とか、フォーカスグループのインタビューとかって確かにアリだけども、ずっと突き詰めていっちゃうと、結局それって他の人たちもできるようにしかならない。やっぱりそうじゃなくて、「これが答えなんだ!」っていうようなものを出して未来を創る、っていうアプローチも、他と違いを出すために重要なんじゃないかっていう。それこそがまさにクリエイティブで、みたいなところですよね。

中村:そうですね。どこも自分らしさを出さなかったら、企業である以前に、みんなひとりひとりの人間であるわけで。自分の思ったこととか、自分がこういうふうになったほうがいいんじゃないか、ということが、世の中に認められたら気持ちいいっていうのが、なんか単純な欲求なので。それを全部殺すことないというか。周りが思ってる、周りがみんな欲しいと言ってるものだけを世の中に出すんじゃなくて。「これでどう?」って言って作ってみてから世の中に問う、ぐらいでもいいんじゃないかな、と思ったりもします。

クリエイティブでの差別化が勝敗をわける

:じゃあ、これで時間になったようなので、最後、まとめのコメントを。

中村:はい、じゃあ話の総括としてですが、クリエイティブとは、周りの意見にときには耳を貸さず、自分が信じるものをただただ作って、世の中に出していいんだよ、と僕は言いたいということです。ありがとうございます。

:ありがとうございました。これまで、クリエイティブって言葉を聞いて、あ、それはなんか、コストファクターじゃないけど、そこにちょっとお金かけるよりも、もっと行動のほうで頑張ろうと思っていた会社も結構、多いんじゃないかと思います。

実際、クリエイティブの部分で頑張ったからといって、それがどれだけ会社の利益に繋がるのかというと、なかなか測定が難しい部分もあるし。そもそも、短期で考えるのか、それとも長期で考えるのかによっても、全然見方が変わってくると思うんですけれども。

でもやっぱり、自分としてのアイデンティティを築いて、他の人たちが真似できるところじゃなくて、自分の軸を打ち出して、レッドオーシャンのなかで戦っていく上では、そういったクリエイティブなことをやらなければいけない。

これまでそういったことを考えてなかった企業ほど実は伸びしろが大きいんで、ぜひ自社のなかでそういったものを持ってらっしゃらない企業の方は、それこそPARTYさんとかと組んで。これをやるとこんなに楽しく仕事が変わるんだとか、こんな表現の仕方もあるんだということを、感覚として身につけてもらうと、すごく会社にとっていい刺激になるんじゃないかなと思います。ありがとうございました。

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