2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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前島恵氏(以下、前島):前半もかなり広めにお話いただきまして、後半のテーマはこれからのメディア、最初の話題として僕がやっているメディアにすごく関わってくるんですけれども、マネタイズの話から始めたいなと思います。
先ほど出ていたジャーナリズムの公共性とか、いろいろあるんですけど、そもそもメディアって会社です。新聞社も株式会社なんで、そういう意味でいうと、儲からないとどうしようもない。儲からないとジャーナリズムが保てないというのもあります。
僕自身もメディアをやってて、なかなかマネタイズが難しいなと思っていて、PV主義以外で食える方法はないかなということで、こういうイベントとかやったり、いろいろ試してるんですけど。まず、ログミーのほうで、これまでの現状とこれからみたいなところで、マネタイズの話をしていきたいと。
川原崎晋裕氏(以下、川原崎):ログミーのマネタイズですか。
前島:はい。
川原崎:ログミーはマネタイズできないですよ。書き起こしをつくるのがどれだけ大変か。60分の原稿を書き起こすのに普通に5時間はかかりますからね。それをどうやってマネタイズするんだって話ですよ。PVが1円も儲からない時代に。
でもイベントの記事を書き起こすのは、それなりに需要があるんですよね。ただ、参加者1人2千円取って、50人集まりました、売上10万円ですというイベントから、記事広告代20万よこせというのは無理じゃないですか。だからそうでないところからお金をいただくという話になるんですけど、すごく儲かるとかはないと思います。
前島:ありがとうございます。続いて中野さんにハフィントンポストのマネタイズの話を。
中野渉氏(以下、中野):私は全く経営はやってないんで編集のほうなんですけども、ハフィントンポストジャパンができてから、ほぼちょうど2年になるんですけども、アメリカは10周年イベントをやって、U2のボノが挨拶したりして、アメリカすげーなと思いました。
ただ日本は2年で、今度イベントやるんですけど、基本的にはゼロから始めたわけですが、マスコミはデジタルをやる時にはもともとの読者がいると思うんですけど、うちはゼロから始まって、今、月の固定読者が月1,300万以上、そういうふうな言い方をしてますけれども、開始当時に比べると3倍4倍、それ以上人が増えてきてます。
じゃあ儲かるかと言ったら、なかなかネットの事業って、ネットのメディアの仕事って儲かるものではないなとは思ってます。ただ赤字じゃ困るので、じゃどうやって儲けるかということでやっております。
ただ比較的順調には、ページビューが伸びてきて順調にいってると思うんで、たとえば組織が大きくなって編集者が増えるとか、記事本数もそれに伴って増やしてますし、あと営業部隊というのも年明けから作りまして、営業をやる専門の人を採用している。
それは今まで他の会社にお願いしてたんです。でも、これからは自分のところでも極力営業するようにしようと。それに伴って、ネイティブ広告、記事広告。雑誌なんかでもよくありますけれども、それも極力増やしていこうということでやってまして。
記事広告を専門に担当する記者を雇って、クオリティのいいものを出そうと。かつ、きちんと明示して、これは広告ですとわかるような形でやっております。そんな感じで、今までニュース・エディターだった私の肩書きがビジネス&マネー編集長になったり、そんなふうにして担当者を増やして、今やっているところです。ただもう一度繰り返しますけど、たぶんなかなか儲かってるなという業界ではないです。
前島:そうですね、新興メディアが生き残る1つの道として、大手の傘下に入る道があるのかなと思っていて、ここのメディアラボ自体がそうだと思いますし、ハフィントンポストの日本法人を合弁会社で朝日が作ったっていう、そういう新興メディアにお金だったりを出していこうという姿勢は、朝日新聞さんにあるんですか。
山川一基氏(以下、山川):そうですね。何らかの評価できたり、使っていただいてさらに価値が上がるんであれば、当然やりたいと思っています。一方で、ここは難しいですが、同じようなメディアをやってるところ同士がくっついても、もうこの世界はあんまり変わらない気がしていて。
それよりも例えば、新しいテクノロジーだったり、人工知能とかIOTとかウェアラブルとか、そういったところのほうにむしろ、次の世界があるんじゃないかと考えているのがメディアラボという組織です。
もちろんそういうことを否定するわけじゃなくて、その中でいろんな新興メディアがあります。ただ我々としてもですね、デジタルでやっていて、しかも、そんなにすごく大儲けて万々歳というわけではない状態です。
新聞で今までうまくやっていた、しかしネットはサブスクリプションと広告っていう世界がやはり全然通用しない世界なので、そこに対するソリューションがあれば、ぜひ一緒にやらせていただきたいという気持ちは強いです。
川原崎:今の話で思ったんですけど、Webメディアという話で、これはログミーじゃなくてコンサル領域の話でいくと、どのジャンルをやるかで収益化できるかできないかが決まっちゃうんですよ。ビジネスとか、例えば不動産とか、RPMがとても高いジャンルじゃないと絶対無理で、カルチャーとか芸能、芸能はPVで押し切れるんですけど、カルチャーとかは普通にやるとまあ無理という。
川原崎:他の手段としては純広告をとっていくしかないんですが、そういうメディアがどうするかっていうと、バイアウトするしかないと思っていて。バイアウトする意味って、おっしゃるとおり確かにメディアがメディアを買ってもあんまり機能しなくて、例えばクレジットカード会社だったり、占い課金をしてるところだったり、出口が儲けられるところに売るから、つまり仕組みと集客がセットになるから意味があるわけですね。
それで思ったのが、新聞社さんって、新聞だけ配達してるのがもったいないなって。スーパーとかと提携して、野菜とかを配達して売ったほうが儲かるんじゃないかなとか。これは別に嫌味じゃなくて、仕組みというとこをあくまで考えれば、新聞だけを売る必要は特にないんじゃないかっていうのが1番思っている。
前島:流通網でいうと、佐川急便とかヤマトとかに匹敵するような網があって、その中で新聞だけを配達する状況というのはどうですかというお話でした。
山川:まったくその通りだと思います。販売網の活用というのは、実は今までやってなかったわけではなくて、たとえば地域によっては牛乳も運んでいたり、売ったりして、あとは物販も販売店によってやってたりします。ただ、新聞だけを配ることに特化した組織なんで、この人にはこれを、この人にはこれをというのが、なかなか融通が利きにくい配達網ではあるんですが、そうも言っていられないんで、それを活用したり、もしくはちょっと変えたり工夫することによって、新しいものをやろうというのは考えています。アイデアがおありの方がいましたらぜひ、名刺交換してください。
川原崎:ソフトバンクと組んで、携帯の契約営業とか、あっちのほうが儲かりそうですけどね。朝日新聞のニュースアプリをプリインストールしておいて。
山川:後ほどくわしく(笑)。
前島:逆に川原崎さんは大手と組んでやるならここだ、みたいな。たとえばnanapiのけんすうさんがKDDIに買収された時に、やりたいことができるからあえて入ったみたいな、そういう対象としてみると、ここがいいとか。
川原崎:はじめは僕もログミーをどこかが10億円ぐらいで買ってくれて、南の島で一生暮らしたいなと思っていたんですけど、よくよく考えたらそれはだめだなと思って。公平性がなくなりますよね。
たとえばフジテレビに買われたら、フジ以外の番組の書き起こしができないですし、朝日新聞さんに買われたら、朝日新聞さんの謝罪会見の書き起こしができなくなると、それは良くないなと思っていて。
寄付で運営して、Wikipediaみたいになって、上から僕のバナーがでてきて、寄付してくれみたいな。「PayPalボタンはここだよ」みたいなことが最終形態だなと思っています。
前島:なるほど。その根底にある意識って、やっぱりジャーナリズムの精神的なものなんですか。
川原崎:かっこわるいことはしたくなくて、人から尊敬されていたいですよね。起業家なんで(笑)。
前島:1つ個人的に聞きたいのは、サイゾーに勤められていた時からそれはあった気持ちなのかという。どういうふうに変わっていって起業するに至ったのか。
川原崎:起業ですか。
前島:起業というか、いわゆるサイゾーが配信してるのって、わりとポップというか。
川原崎:起業した理由とは関係ないですけど、日刊サイゾーができた時というのは、Webメディアが世の中に出始めた瞬間ぐらいなんですよね。これから新聞どうするんだ、みたいなことが言われはじめたくらいの頃ですね。
その時思っていたのが、サイゾーの社内にもすごい優秀な編集者とかデザイナーさんだったりがいるわけですよ。だからその人たちが作るものと、Webしか知らない人が作ったものが同列に語られているのが、全然クオリティが違うし、まったく実力も違うというのに腹が立ってですね。
ログミーをやってるのも、そういうすごいクリエイターだけど、上手く世に発信できていない人とかの手伝いがしたいというのが1番大きいんですよね。なので、そういう支援をしようと思うと、できるだけ中立の立場でいないといけないのがあって、さっきの話のマインドでいうと、そこに繋がってます。
前島:買収されるとどっかの傘下に入るから、それよりはもう寄付によって成り立って……。
川原崎:そのほうがいいですね。ユーザーにお金を払ってもらってですね。
前島:ありがとうございます。
前島:ちょっと急ぎ足なんですけど、次はニュースのあり方。前半でもニュースのあり方に片足突っ込んでいたようなとこがあって。そのあと客席をまわって、どんなお話を聞きたいかを聞いてきたんですけど。
全般的に聞きたいのは、炎上をどう捉えるか。朝日新聞さんは言わずもがなで(笑)、ログミーさんも最初は著作権の問題とかがありましたし、ハフィントンポストさんは特にコメント欄の活用。
あれもある種の新しいニュースの形なのかなって。コンテンツに読み手の意見が読み込まれていくような形ですけど。炎上をどう捉えているかとか、世間の炎上に対してどう反応しているかみたいなところで考えてること、ポリシーなどがあればお話いただきたいなと。じゃあ中野さんからよろしいですか。
中野:そうですね。確かにFacebookのコメントがたくさんつくときもあります。特に民族系の話、中韓の話とか、そういうヘイトスピーチっぽいものが。右とか左とかですね、そういう話は結構いろいろと話が盛り上がりやすいんですが、一応ガイドラインがありまして。
差別的な言葉とか、根拠がないのに人を罵倒するようなコメントはこちらの権限で見えないようさせていただいてます。ただそうでなければ、言ってることが真っ当というか、論理的に間違ってなければ、それは消さないんですけれども、そういったような基準を持ってやってるというところですね。
うちはたぶん、そんなに炎上はさせないようにはしている、そんなに煽るような見出しの記事は、そんなにはないと思うんですけど。それを意識して皆取り組んでいます。
前島:インド版のハフィントンポスト立ち上げに関わっていらっしゃるそうで。日本だとああいうコメント欄ってすぐ罵倒しあいになちゃって成り立たないという記事もある中で、海外の違いってどうですか? 同じ媒体でも、パソコンの活かされ方みたいな。
中野:インド版の立ち上げというか、見に行ったぐらいなんですけれども。日本はまだまだコメント文化が発達してない、そこは山川さんのほうが詳しいかもしれないですけど、もともとアメリカは、ものすごいコメントが付く、100件とか、それ以上すぐついてしまうんですけど、ただ日本にはそういう文化がないので、日本でやってみたいなっていう声があったんで、はじめたのがうちの媒体です。
今後、そういう盛り上がりを作れる部分っていうのはあると思うんですが、ただ、あんまり品がないというか、そういうのはよろしくないので、建設的な議論になるように意識してやっております。
前島:はい、ありがとうございます。では、川原崎さんよろしいでしょうか?
川原崎:炎上とどう付き合っていくかみたいなお話ですか?
前島:そうですね。
川原崎:ログミーが炎上したのは、完全にやっちゃいけないことをやっただけなんで、全然関係ないお話ですね。今は95%以上ちゃんと許可を取ってやっております。大丈夫です。炎上ってわけじゃないんですが、うちは登壇者の方から一字一句書き起こすのはやめてくれって言われることが多くて。
前島:オフレコ的な?
川原崎:これはオフレコ関係なくて、すごいおもしろいんですよ。普通、編集したほうが自分の意図したことと違うことが伝わると思うじゃないですか? でも書き起こされたほうは絶対にそう思わないんですよね。全文書き起こされるほうが圧倒的に嫌だという。
前島:わかります。なるほど。
川原崎:うちは別に揚げ足を取るつもりはないんですけど、言ったことを全部書き起こされると人って口が滑るので。経営者とか政治家とか、責任ある立場の方が公共の場で発言された内容は、それはもう報道なので、言ったことは言ったでしょっていうのが当たり前だと思うんですけど。一般の人とか、文化人の方とかは、そこは別に言い方とか表現とかで揚げ足取りにいってもしょうがないですし、それは本意ではないので、事前にちゃんと原稿お見せして、言い方がまずいところを直していただいたりっていうのはやっています。炎上、ちょっと関係ないですけど。
前島:ありがとうございます。
前島:先ほどの炎上の話と、プラス日本におけるコメント文化みたいなところで、そもそも可能なのかとかお考えがあったら。
山川:そうですね。本当に難しいテーマなんですけど、1つ言えるのは、建設的な議論を知ってもらえるような仕組み作りは喉から手が出るほど欲しくて、それはぜひやりたいと思ってるんですけど、なかなかそこのソリューションが見つかんなくて苦しんでるっていう状況ですね。
つまり、それこそNewsPicksさんがやられたようなことを我々はやりたかったわけです。あそこはいろんな仕組みがあって、なかなか炎上しないっていうか、場合によってはしてますけど、それもありの意識高い系の人たちが話し合うっていう。しかもほとんど実名。
アメリカもそうですよね。Facebookでログインだったりして、基本的には実名による議論だし、やっぱり人格攻撃とか変なことをやるっていうのは、周りがいさめたり、相手にしないって文化が相当できてるので。
それでもニューヨークタイムズのコメントなんかで炎上したりしますけど、それもありっていう感じの世界になっているのと比べると、日本は相当遅れていると想定されるので、特に弊社がそういうのをやったら、もう炎上することは火を見るより明らかなものですから、そこは慎重にやろうということになってしまいます。
それでさっきの話なんですけど、ハフィントンポストさんと一緒にやらせてもらっている世界ではあります。ただ、そこに価値があるっていうのは、さっきのニュースの深さの話でいくとすごく重要なポイントで。
ニュースのコモディティ化が進んでいくと、議論のほうの価値が極めて高くなっていて、スター記者もそうですよね。つまり同じニュースなんだけど、この人が書いたらどうなってるかが見たいと。同じニュースなんだけど、皆がどう考えてるのか知りたいっていう世界が、やっぱり次の1つのメディアの在り方だと思うので。
そこを我々のバリューチェーンに入れたいっていう気持ちはすごく強いですけれども、現実にはそこの部分は2ちゃんねるに行っている。2ちゃんねるで炎上していて、そこがいいかどうかは、だいたい悪いんですけど、でもそこに皆が集まってきているのは事実だと思います。
前島:コメントをコンテンツの一部としてみるっていうことですか。それともコメントで、そこからまた新たな記事にしていく……?
山川:ハフィントンポストさんはそうですよね。そのコメントを元にまた取材したりとかっていう世界があって。それ実は、我々でwithnewsっていうのを立ち上げて、これは僕らのセクションではないんですけど、それに近いような、これを取材してみたいな話でインタラクティブでやっているものは別にあります。
僕がさっき言ったコンテンツの話で、そうしたものをコンテンツ化できる世界を作れたらおもしろいと思います。ただ、なかなかそれが意欲的にうまくいくような世界っていうのが、今のところ自分的にも会社的にも見えてないのがちょっと残念なんですけどね。
前島:NewsPicksの場合は経済に特化しているのと、あとは返信できないとかいろいろそのトピックと仕組みが合わさって上手くいっているのかなと思うんですけど。それが一般のニュースとか文化とか、あと国家とかが絡んでくると結構難しいっていうことなんですかね。
山川:それもありますし、例えば弊社が、例えばユーザベースさんと提携して、NewsPicksって実は朝日の色が入っていて、どうなの? ってなる可能性もあることから考えると、そもそも色がついてると思われること自体に、そういうのを生み出しにくいっていう世界なのかもしれません。
世の中の状況を見ていてそういう気がするので、そうじゃない世界で建設的なコメントができるものを作りたいと思っているなという感じですね。実は新聞には「声欄」っていうのがあって、一般読者のコメントが載ってるんですよね。その中でコミュニケーションが生まれることもあります。何年何月のなんとかさんに対して感想とか返事とかって。
前島:完全にWebとは違う時間間隔ですね。1週間前とか1カ月前とかの投稿に対して返信し合ってみたいな。
山川:そこで一応生まれているんですけど、ただそれもやっぱり編集の手が関与する。中身は変えませんけど、どれを選んでどれを使わないっていうのがある。いずれにせよ、そこに対する要求とか読んでる人が言いたいとか読みたいとかっていうのは確実にあるんですよね。
私も記者の時に、書くと必ずすごい反響があるテーマが2つあって絶対にすごく反応があるのが、移民の話とお年寄りの話。
後期高齢者制度という医療制度があって、それの高齢者の負担がちょっと増えるときに、若者は将来もっと大変なんだということを書いたら、朝日新聞は姥捨て山かみたいな感じですごい勢いで反応がくる。
それはそれで意見だからいいんですが、そういったようなものが建設的な議論になっていけば、お年寄りへの理解も深まるし、若者も「ああ、そうなんだ」っていうのがあるっていう世界を実は作っていきたい気持ちが凄く強いです。
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