2024.10.01
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人と組織の変革を支援するコンサルティング会社・株式会社ジェイフィールが、「オランダ」「幸福度」「教育」をキーワードとするウェビナーを開催。現地の小学校で教員として働き、教育関係者向けにオランダの学校視察のコーディネートも行う三島菜央氏が、コンサルタントの村田太氏と共に、子どもの幸せについて語りました。
村田太氏(以下、村田):ここまでオランダの全体像をお伝えしましたが、ここからは今回のテーマの「幸福度と競争力」を見ていきたいと思います。
スイスにある国際経営開発研究所IMDが、競争力ランキングというのを毎年出しているんですが、そこのセンター長の方が「競争力と幸福度の相関関係はない」と言っているんですね。実際には、オランダもそうですけど、競争力も幸福度も高い国ってたくさんあります。ただすべてがそこに相関があるわけではないと、この所長さんはおっしゃっています。
私は専門家ではないので、「そうです」とも「そうでもない」とも言えませんが、このウェビナーが終わった後に、競争力と幸福度が両立するかどうかをみなさんお一人おひとりが解釈していただければいいかなと思います。
日本でも国連の「World Happiness Report」などがいろんなメディアで報じられています。ただ、順位が低い・高いというのはわりと報道されるんですけど、どう測定しているかといった細かいことは、もしかしたらあまり報道されていないかもしれません。
幸福度は人が感じる主観的なものですが、それを客観的に測るということをやっています。「生活評価」というのは、ギャラップ社の世界調査の結果を用いていて、感情はイエス・ノーで答えて、ポジティブ・ネガティブを分類します。
東アジアがそうらしいんですけども、日本は十段階評価の時に10や1などの両極端につけないという国民性があります。なので、こういうレポートを見ると、「日本人は本当にそうなのか?」と精度の部分を言われたりもしますけども。とはいえ、順位がどうこうというより、どう感じているかはしっかり見ていく必要があるのかなと思って、あえてこの幸福度の結果を持ってきました。
これは3年間の平均で、1位は北欧のフィンランドで、幸福度が高いと言われています。日本は47位と低いかもしれませんが、少し中身を見ていきたいと思います。
村田:幸福度の違いを説明する6つの要因というのがあります。これ自体がランキングに影響するというものではなく、幸福度を分析するためにこの要素を用いるということです。北欧は6つの項目の評価が相対的に全部高いので、幸福度が高くなる傾向があるという分析も出ています。
オランダを見ると、赤字の4番(生きる上での選択の自由)と5番(他人への寛容さ)が比較的に北欧と変わらないぐらい評価が高いんですね。スライドの重回帰分析の結果を見ると、三角は「有意義な影響を及ぼしていない」なので、「一人当たりGDP」が高くて「健康寿命」が高いからといって幸福とは感じないということなんですね。
逆に言うと、「社会的支援」や「人生の選択の自由度」「寛容さ」がポジティブな感情に影響を及ぼしていると出ている。人生の選択の自由度や寛容さの評価の高さがオランダの人たちの幸せにつながっているのであれば、この3つは自分でコントロールできるというか、自分の意思や行動で変えられるものだと思うんですよね。
今回は学校関係者の方もいらっしゃいますが、取り組み次第ではこれを育むことってできるのかなと思っています。
菜央さんに聞いてみたいんですけども。「社会的支援」「人生の選択の自由度」「寛容さ」の3つはオランダの強み、特に下2つの選択の自由と寛容さはオランダの特徴かなと思うんですけど、オランダにいる菜央さんはどのように感じますか?
三島菜央氏(以下、三島):私は最近フードバンクのボランティアを始めたんですけど、「この曜日がいい」と言ったら「もうその日はボランティアは足りています」と言われたりして。あ、ボランティアって足りることってあるんやみたいな。
生活が大事なので一生懸命働いていらっしゃる方も多いと思うんですけど。うちもそんなに金銭的な余裕があるわけではないんですけど、仕事以外で自分を見出だせる場所がないとけっこう味気ない人生になるかなという感覚があって。仕事ばかりの人生は、あまりこちらでは喜ばれないというか選ばれない感じはしますかね。
あと仕事に関しても、自分が楽しいと思っていなければ辞めるというのはけっこう強いんじゃないかと思います。
他者に対する寛容さで言うと、私はそんなに嫌な思いをこの国でしたことはなくて。自分が他人に何かいいことをしたり、他人に対する自分の寛容さがあることで、誰かに寛容に受け入れてもらえるみたいな感覚を持つ人が多いんじゃないかなと思うところは少しあります。
村田:なるほどね。ガイドブックなどにもオランダは自由と寛容の国みたいに書かれることもあるので、もともと国民性としてそれがあるのかなと思うんですけど。
ただ、困った時にいつでも助けてくれる存在とか、自分は1人で生きていないんだという感覚が、日本よりちょっと強くあるのかなと思ったりもしています。ありがとうございます。
村田:ここまでが大人の部分の幸福度でしたが、ここからは子どもについて。オランダは子どもの幸福度が世界一と言われていますので、菜央さんの分析レポートも含めてご紹介できればと思います。
三島:これはユニセフのレポートの切り取りです。
子どもの世界がどのように作られているか。状況から政策、資源、ネットワーク、人間関係、行動と来て、その先に結果があると言われています。ただ単に「幸せですか」「そうじゃないですか」という簡単なものではなく、子どもが幸せになるためにはどのような要素が必要で、その先に結果があるということがわかる図です。
その「結果」を示す観点が「精神的幸福度」「身体的幸福度」、そして「スキル」となっています。
精神的幸福度は生活に満足しているかどうか。精神的に幸福にしていなければということで、極端な例かもしれませんが自殺率がカウントされています。
身体的幸福度は、裕福な家庭はけっこう有機野菜とかを選ぶんですけど、中間層になると肥満が増えると言われていて。過体重になると死亡率が上がることに直結しやすいので、命を維持できるような環境が子どもたちにあるかどうかですね。
スキルは、学力の他に社会的スキルがあります。社会的スキルが高いと人とつながりやすかったり友だちが作りやすいということで、この3つの観点で見られています。
それを見た時、日本は身体的幸福度は世界で1位なんですね。
給食などもあるし、過体重の子どもが少なくて、死に至るようなことがあまりない。例えば医療がすごく発達していて、低体重で生まれても生きられるということも含まれるんですけど。そういった意味で、日本の子どもたちは身体的にはものすごく恵まれている、幸せであるということなんですね。
一方で精神的幸福度は37位と非常に低い。これは自殺率とかが影響しているところもあると思うんですけど。27位のスキルのところでは友だちが作りにくい。たぶん周りにどう見られているかとか、そういったところが思春期を迎えた児童生徒に大きくなってしまうと。
三島:オランダは平均的に高い位置にあって、総合的に1位になっている。
詳しく見ていくと、例えば(スライドに)「学校への帰属意識が高いと生活満足度が高い」とあります。(2020年)当時ですけれども、オランダの子どもたちは学校への帰属意識が高いというところがわかっています。
論文などを見ると、深刻ないじめはその先50年にすごく影響するらしいんですけど。オランダの子どもたちにもいじめは起こっているんですけど「相談できる人がいる」と答えている子どもの数が多いということもわかっていたり。
(スライド左に)「より外遊びをする子どもは幸福度が高い」とありますが、オランダは公園がたくさんあったり、無料で動物のいる牧場に入れたりする。また、宿題がほとんどないので自分の時間を過ごすことができるということですね。
右側、「孤独ではない大人の存在は子どもへも良い影響」を与える。大人にとっても頼れる人ですね。「あなたは子どもに問題があった時に誰に頼りますか」と言われた時、オランダ人は「友だち」と答える人が多いんですね。そういった人をオランダの人たちはたくさん持っているのかなと。誰かに頼ることができるから孤独である必要がないのかなと思います。親の精神的なhealthinessが子どもたちに影響するということですね。
左下、「友だちとの人間関係は幸福度に大きく影響する」。15歳で「友だちが作りやすい」と回答する子が多かったり。その右は「保護者との時間は心の安定」。つまり「幸福度」につながりやすいんですけれども、ワークライフバランスが世界トップクラスというのがあります。
右下は「家族のサポートが大きいと精神幸福度は上がる」。確かに娘の小学校を見ていても、おじいちゃんやおばあちゃんが迎えに来ている光景をよく目にします。みんなで育てるとか、みんなでいろんなものを担うみたいな感覚が強いのかなというところがありますね。
村田:私がオランダに行った理由の1つがここにあるというか。教育の基本は家庭にあるというのがオランダの根本にある考え方で、学校と家庭とか学校と社会の関係性みたいなところが少し日本と違うのかなと思ったりするんですけども。家庭と学校の関わり方の特徴的な点とかあったりしますか。
三島:オランダは教員不足が深刻です。日本も深刻ですけどオランダもかなり深刻です。物価の上昇で家賃も上昇して、先生の給与ではなかなか生活が立ちゆかないというのが特に都市部で顕著に見られます。
オランダの学校はオープンなので、保護者に「助けてほしい」と言う学校も多く、それに対して働き方が柔軟な保護者が「じゃあ手伝います」と言いやすい。
根底には自分の子どものためにやっているというのもあると思うんですけど、自分の子どもの教育環境をよくするということは、他の子どもたちにとってもいいことだし、他の子どもたちの教育環境が良くなれば、また自分の子どもに戻ってきますよね。
基本的に、自分の子どもだけにフォーカスして何かやるというよりは、みんなのために何かをするという考え方ですね。自分の子どもにも何か益があるという考え方で、けっこうWin-Winな感覚を持って保護者が教育に参加するところがあります。
例えば、近くの森にテーマ学習で行く時に、保護者が車を出して子どもたちを乗せて森に行ったり。「そこで事故にあったらどうするんだ」という議論が起きやすいのが日本かもしれないんですけれども……。
村田:絶対日本は起きますね。
三島:オランダ人からすると、事故が起こる確率と、子どもたちの教育や経験が豊かになることを比べると、どっちがいいかというのは一目瞭然じゃないかっていう。そっちを取るところがあるんじゃないかなと思います。
村田:まさに自分の子どもの学校で感じたものと逆というか。お互いが自分のことばかりを考えるところとまったく逆だなと思いながら聞いていました。
村田:(スライドの)これはユニセフの2016年のレポートです。
「子どもの格差から見る幸福度」ですね。日本はやっぱり所得の格差があったりして。でも意外だったのが、教育の格差は日本よりオランダのほうがあると。このへんは、日本と違って学校を自分たちで選ぶという根本の違いもあるのかなと思っているんですけども。
私が思ったのは、教育の格差がこんなにあるにもかかわらず、生活満足度の格差が少ないというか、要は満足しているのがすごくオランダらしいなと思って。
この4つの指標がすべて3分の1以内の上位に入っているデンマークが1位なんですけど、残念ながら日本は2つ以上の指標でデータが不足しているということで、大事なポイントを比較できないんですけども。
三島:その格差の部分でいうと、オランダは学区制がないので、学校を自由に選ぶことができるんですけど、私は必ずしも学区制がないことがいいことだとは思っていなくて。なぜかと言うと、学区制がないといい地域にいい学校が集まって、そうではない地域にいい学校ができないという地域の差がものすごく出やすくなるんですね。
土地の値段によってそこに住めるか住めないかが決まり、どういうクラスの人たちかというのが出やすくなるので。もちろん別の地域からいい学校に通わすということは可能ではあるんですけど、基本的にはどの学校に入るかという時に住んでいる場所はけっこう大きな要素になります。
そうなると、どうしても所得に応じて学校が決まるということになってしまうのかもしれません。移民が多いとかオランダ語を話せる子たちが少ない地域と多い地域で世帯の所得格差が起きて、そこで教育の格差が生まれるということが起きてしまうのかなと思うので、何かしらのてこ入れをしないとここの格差は埋まらないんじゃないかと思います。
村田:両方の指標を見て私が思ったのは、生活満足度につながる精神的幸福度と、友だちをすぐ作れるなどの社会スキルって大人になった時にすごく大事な要素だなということです。
学校教育ってなんなんだろうなと考えた時に、日本とオランダの両方の学校教育を経験されている菜央さんの中で、一番の違いって何ですか? 言える範囲で(笑)。
三島:もちろん塾とかはありますけど、オランダは日本ほど教育産業が盛んではないんですね。日本は受験産業とか学校外の教育産業があまりにも発達しすぎているので、お金がある人たちがより良い教育、プラスな教育を受けられて、そうじゃない人たちはそういうものがまったくない状態になるというのが、あまりにも顕著に出過ぎている。
教育の格差が経済の格差につながり、経済の格差が教育の格差につながるっていう負のループにどぷっと足を突っ込んだ状態になっているなと。オランダもそんなに楽観的になれる状況ではないですけど、でも学校終わったらみんなが塾に行くということはまずないので。
そういったところはすごく大きくて、親は支出があるし、子どもたちは時間を取られる。そういうのがほぼない社会とはやはりぜんぜん違うなと思います。
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