2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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――今、「政治の意思決定のプロセスが見えない」という批判がたくさん出ています。企業でもその問題はあって、特にトップダウンの傾向の強い会社だと、経営層の鶴の一声じゃないですけども、その方向に全員が向かわせられるようなことがありますよね。
「それはちょっと違うんじゃないかな」と思っている人がいたとしても、「もう決定だから」ということで強制的にせざるを得ない状況もある。ただ、万人がよしとする意思決定ってできないじゃないですか。
山口義宏氏(以下、山口):それは意思決定じゃないですよね。万人がよいと思うことはすでに明白な話だから(笑)。やはり賛否が分かれることを決めて、その結果によって未来が大きく変わることが意思決定だと思います。
――その賛否が分かれる中でも意思決定をしなければいけない時に、山口さんが心がけていること、どうやって判断を下すかという考えがあれば、教えていただきたいです。
山口:なるほど。難しい。考えればなにかしら決められると思うんですけど、どっちかというと「決めた後の態度」が難しい。賛否が分かれるということは、否定論者からの抵抗があるわけですよね。
だから「決めたら揺らがない」ことが一番大事かなと、僕自身は思います。例えば意思決定する人だって、(賛成と反対が)6対4だったら、実際は4割の不安や懸念を気にしながら決めているわけですよ。だけど「そうだよね、懸念があるよね。やはり弊害が出るよね」という気持ちを周りに見せたら、揺らいでいる気持ちをくすぐられて自分がふたたび揺れてしまうわけです。
そのゆらぎが見えた結果、意思決定したはずなのに周囲も見透かして組織では実行されなくなる。なので「いろいろあるけど僕は決めたので、実行して結果が出るまではやり通します」と、一切ぶれないところを見せる。これがリーダーのものすごく大事な役目だと思いますね。このあたりは賢さより胆力です。逆に言えば、組織の成果がリーダーの賢さと比例するわけではないのも、このあたりのリーダーの胆力も大事な変数だからだと思います。
山口:ブランド戦略でも企業の経営戦略でも、不安を持ちながら決めることはいっぱいあるんですが、例えばA案とB案で「B案で決めました」という時に、「実はA案があって、こっちも良かったんです」という情報を見せたら、ノイズでしかないですよね。
企業のCIとか広告でも、とにかく捨てた方の話は社内ではしない。実にリーダー側からの傲慢な目線で、批判されそうな言い方かもしれないんですけど、決めちゃったら捨てたものは一切振り返らないし、「振り返らない所作」をするというのも、ある種のリーダーの立ち振舞いのマナーかなと思います。迷いが見えると、部下は気持ちよく走れないですよ。
僕もそれを心がけているし、僕の仕事はクライアントに意思決定をしていただいて、そのあとの具現化に向かって、揺らがないで走っていただくためのサポートすることなので。あらためてそんなリーダーの立ち振舞いの基礎の基礎を僕から言うのもおこがましいので言わないですけど、そう思っています。
リーダーが揺らいだら、信じてついていこうとした人も揺らぐので、絶対にトップが揺らがないと見えることが大事なんだと思います。
――意思決定する側に必要なのは「揺らがないこと」なんですね。他にも山口さんが意識されているような「リーダーの条件」があれば、ぜひ教えていただきたいんですけれども。
山口:コミュニケーションや価値観、表に出る振る舞いとか、「どういう人がいいリーダーですか」と聞かれたら、10人いたら10通りのリーダーシップのスタイルがあると思います。
ただ、リーダーシップが組織で機能する要件の中には、リーダーシップだけじゃなくて、必ずフォロワーシップとの相性があるわけですよね。
例えば、僕が自分がやりたくても下手くそでできないこととか、パフォーマンスが悪いことがあっても、それを理解してフォローしてくれる部下がいたら、チームとしては破綻せずに経営できるじゃないですか。
でも、「そんなこともお前はわかんないのか」と責め立てて、フォローしてくれる人がいなかったら、リーダーとしてのパフォーマンス機能は落ちる。このように、基本的にリーダーシップはフォロワーシップとの組み合わせによって成果が変わるもの。まずこれが1点目。
2点目は、リーダーシップのスタイルは本当に千差万別なので、「これならいい」というものは、正直ないと思っています。ただ、やっちゃいけないこととか、リーダーをどう評価するかの原則はあると思っています。
――「やっちゃいけないこと」って、例えば何がありますか?
山口:言い方が難しいですけど、ブラック企業だとか労働基準法違反だとか、いろいろな話があるじゃないですか。それから「嘘をついちゃいけない」って一般論がありますよね。さっきの政治家の話で言うと、例えば公約を掲げたのに1つも達成しないって結果的に嘘つきじゃないですか。
――結果的には、そうですね。
山口:企業のリーダーもそういう結果的に嘘になることがあって、その中には「ベストを尽くした結果うまくいかなかった人」と、「確信犯の嘘つき」がいるわけですよね。……この話は、敵ばかり作りそうだ(笑)。
――(笑)。
山口:でも、それでも成り立つ人がいるわけですよね。それはもしかしたら愛嬌かもしれないし、圧倒的なカリスマ性かもしれない。言っていることめちゃくちゃな嘘八百でも、フォロワーシップで付いていく人がいれば、組織は成り立つんですよね。
そういう意味でいうと、最初「嘘をつくのはよくない」と言おうとしたし、基本的によくないんですけど、賢い人が多い組織ほど嘘をついたらダメですよね。それは嘘がばれるから。賢い人が多いと、気づく人も多いですからね。
――それは意思決定した後の、伝え方の問題にもなりますよね。
山口:メリットもデメリットも洗い出して、「僕はこういう考えです」と透明性を持って説明したほうがいいのは、一人ひとりの思考力が高い偏差値が高い組織だと思っています。思想で強く握れていない中途採用が多い組織なんかは、そういう客観性ある説明がないとうまく動きません。
でも、新卒採用が中心で、上に強い忠誠心がある組織なら、すごく雑な言い方すれば「絶対にAだからAに向かって走るぞ。エイエイオー!」とやったほうが、成果が出るという局面がいっぱいあると思いますね。
山口:そういう意味では、「(意思決定は本来)メリットもデメリットも両方透明性を持って伝えなければいけない」という入り口を、僕はリアリストの視点で疑っていてケースバイケースということですね。なんか、話してると独裁者肯定みたいな話をしてますが、これは企業経営の話であって、政治だと話は別で透明性は大事です(笑)。
――そうですね。現実的に考えると、透明性はどの組織でも本当に必要なのかという話ですね。
山口:組織のパフォーマンスや成果を最大化することにおいては、迷ったプロセスを開示したほうが信頼を得られて一緒に走ってくれるようなフォロワーシップもあるし、そうじゃなくて、もうガシッと決めたことだけを言うことで成り立つフォロワーシップもあります。
ドナルド・トランプさんのスタイルがそうですよね。「AかBか迷って迷って、昨日の晩まで死ぬほど迷ってAにした」なんて、トランプさんは絶対に言わないじゃないですか。「絶対Aが正しい」と言って、お祭り騒ぎで盛り上がる。ある種のフォロワーシップとの関係が成り立っていますよね。
メディアとかSNSの一部の人たちは(組織的な)偏差値が高い人が多いので、そういうリーダーシップを認めない言説が多いんですけど、実際は機能することも多いわけです。感じの悪い話をしている自覚はありますが、そこは使い分けだと思いますね。
――リーダーシップはフォロワーシップとの組み合わせによって変わる。それはよくわかるんですけど、そうなった場合、周りのメンバーを選べるリーダーもいれば、そうでない人もいますよね。
山口:おっしゃるとおりですね。
――経営者層だったらある程度は選べると思うんですけど、中間層のリーダーだと選べないですよね。その場合は自分をフォロワーシップというか、周りに合わせて変えるべきなのか、それともそうじゃないのか。
山口:乱暴に言うとその2択ですよね。これはすごいグッドクエスチョンだと思っていて、なぜかというと、自分のやり方をフォロワーシップに合わせてアジャストできることは、人事権のないリーダーの必須スキルなんですよね。
自分に人事権がない中間管理職であったり、経営者であっても、雇われ経営者がどこかの会社に雇われて社長をやった瞬間に、「俺と相性が合わないんで」と言って全員クビにしたり入れ替えたりしたら、総スカンじゃないですか。
基本的に、組織のメンバーを自分と相性のいい人だけにできるのは、創業社長だけですよね。先ほどグッドクエスチョンと申し上げたのは、リーダーの中でも創業社長は、どちらかというとそのスタイルが強いと思っていて。
山口:創業社長って、例えばスティーブ・ジョブスがパナソニックの部長をやってうまくいったのかというと、おそらく瞬殺でダメだっだと思うんですよ。
――おもしろい(笑)。
山口:世界一の会社を作った人でも、フォロワーシップとの相性が悪いとダメだと思うんです。彼が創業社長で、彼が選んだ幹部で、彼に心酔している人たちがついてきているから、たとえ傍若無人な振る舞いがあったとしても成り立つんですよね。
だから自分に人事権がない中間管理職のリーダーは、フォロワーシップにアジャストして、適応するというマインドがないとうまくいかないと思います。逆に、創業社長はそれができない人がいっぱいいると思います。それができないからこそ起業したという人も、表では言わないけどいっぱいいます。
――そうかもしれないですね(笑)。
山口:極論、「俺のリーダーシップに合わせて社員と部下を全員替えたい」と思う人は、むしろその人が組織を出て、違う会社を作ったほうがいいですね。それは悪いことではなくて、それフォロワーシップに合わせることができないんだったら、自分のリーダーシップが機能するチームを自分で作るという選択をするのも、1つのリーダーの生きる道だと思います。
山口:それから僕が心がけていることとして、逆に「この人はリーダーとしてどういう人かな」と見る時のチェックポイントがあります。それは何かというと、「言っていることは話半分で聞いて、やっていることだけを見る」ということですかね。
人の本音って絶対に「やっていること」に全部出るんです。顧客インサイトの調査も一緒なんですけど、例えば……友人に「好きな人のタイプは?」と聞いて、「こういう人が好きです」って答えてもらうじゃないですか。そのあと、「では実際に付き合っていた人はどうですか?」と考えてもらうと、矛盾がいっぱいあるわけですよ。
――好きなタイプと付き合っている人はちょっと違うよね、という話ですよね。
山口:そうそう。実は後者に好みの本音が隠れているわけですよね。経営者もそれは一緒で、「世界を変えるために俺は仕事をしている」と言っている人も、実際は女子アナと合コンばかりしていたりとか(笑)。そういう人もいるんですね。別に両立していれば、勝手に世界を変えることも合コンも両方やってもいいと思うんですけど(笑)。
要するに「やっていることを見ろ」ということです。組織のリーダーシップにおいては、やっていることを見ると「何に時間とお金を使っている人か」という本音の部分が見えてくるんです。トップが投資していることが本当に大事なことだし、逆に何に時間とお金を使っているかを見ると、リーダーの本音が見えますよね。
――やはりご一緒されているクライアントさんの優秀な経営者の方だったりとか、一緒にブランドをやっているリーダーの方は、そういった方が多いですか?
山口:成果を出す人、ビジョンの実現に向かう人は、間違いなくそこにコミットして時間と意識を使いますよね。
ブランドという目線で言えば、ブランドって素敵なビジョンをいろいろ掲げるし、最近で言い方だとパーパスとか、いろいろありますけど。でも、本当に思っていないことだったら掲げないほうがいいと思っていて。
というのは、思っていないことを掲げたところで有名無実化して、結局機能しないので。思っていないことは言わないし掲げないというのが、原則だと思っていますけどね。思っていないことは信じていないことなので、投資も活動も続かない。シンプルにそう思います。
それこそ例えば現在進行系のクライアントのCEOの方は「自分は革命にしか興味がない」と言うんですね。「供給側も消費者側もポジティブになるような革命が起こせる業界にしか興味がなくて、革命が起こせそうなのがこの業界だから、この業界での起業を選んだ」と言って、実際にそれにフルコミットしてやっています。
やはり「動機の純粋性」があるというのは武器ですよね。意思決定もシンプルになるし、決めたあとの実行力も高くなり、そういう人は成功率も高いと感じます。
――政治的な話に戻ると、「どんな公約を言っているか」より、「何をやっているか」をみたほうがいいということですよね。
山口:それこそ議員だったら、法案の提案があるはずですよね。法律に限らなくても、なにかしらのルールを作るために何をやっているか、どう動いているのかを調べるのが、一番ファクトがわかるはずです。
政治は基本的に議論をして決めて、決めたことがルールになって、行政のルールとして運用されていくというパターンがあります。だからどれだけ議論しても、結局行政ルール化しないとなにも変わらないじゃないですか。
ということは、意思決定する動きをどれだけ主導したのか、主導して人を動かしたり、手を動かしているのか。動いていることが何かを見ることが、そのリーダーを見るときの本質ですよね。
――そうですよね。ありがとうございます。お話全体を通して、政治や政治家を見る視点が新しく得られたのかなと思います。次の選挙では「言っていること」ではなく「やっていること」を見て、候補者の本質を見定めてみたいと思います。山口さん、本日はありがとうございました。
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