2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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――今回は「一流マーケターの視点で政治を分析する」というテーマでお話をお伺いしたいと思います。もうすぐ衆議院議員総選挙があり、政治に対する関心が高まっている一方、政治ってちょっと取っつきづらい部分が多いですよね。
そこで、アメリカの大統領選挙がマーケティングと深く関わっているように、日本の政治もマーケターの視点で見てみると新しい気付きや視点が得られるのではないかなと考え、山口さんに政治のお話をお伺いしてみようと思った次第です。
山口義宏氏(以下、山口):最初に率直に言うと、僕は「社会全体を変えたい」という欲求は薄いほうです。社会問題の一つひとつを見れば悲惨なことがあって、「変えたい」という感情が湧くことはあるけれど、総じて見ると、世の中はポジティブな方向に向かっていると思います。もっと変化が速くなればいいし、現状の政治には問題がいっぱいあるけど、全部ダメだという目線ではなく前進していると思っているので。
また個人の価値観としては、何かに自分の時間を投資したら成果や手応えがあることに時間を使いたい。逆に、自分が介在することで成果にレバレッジが効かないことは、モチベーションが持続しない。
そういう視点から、大人の義務として選挙での投票活動はするんですけれども、それ以上の政治への関与は少ないというか、企業に比べて政治は実行推進の合意形成やスピードの遅さがあって、自分の特性との相性が悪いと思っているので、政治には直接的に関わることを積極的に避けている。それが僕の政治に対する基本的なスタンスです。
なので、今回は「僕のマーケティングの目線からは、政治の世界がどう見えているか」という話に絞ってお答えできればと思います。政治の仕組み、選挙、政局のプロではないことを最初にお断りしておきますね。
山口:まず、「政治の仕事とは何か?」を僕なりに切り取ると、国や地域など広い範囲の人々に関わるテーマで意思決定をして、最終的には「ルールを決めること」で大きな影響を与えるものだと捉えています。政治家の狙いどおりに合意形成できるか、決めたあとに推進できるかどうかは、有権者の支持が持続するかどうかの影響が大きいですよね。
その「自分なりのあるべき姿は持ちながらも、有権者が何を求めているかも理解し、有権者からの支持を得る」部分は、まさにマーケティングと重なる部分に見えてます。
マーケティングは、あえて矮小化した言い方をすれば、「ターゲット顧客層の態度と行動の変容によって『消費』を促す」わけです。政治の場合は「選挙での投票」と「世論での支持」を促して、その支持を基盤にさまざまな意思決定と実行をしていく構図に見えます。
なので僕はその目線で、政治家の発言、メディア報道、SNSで見かける世論、支持率の変化の関係を、マーケティングの生きた教材目線で興味深く見ています。
ーーなるほど。今のはマーケティングと政治の共通点でしたが、逆に決定的に違う点はどのようなところでしょうか?
山口:外から見ている印象だと、政治と企業のマーケティングの決定的な違いは、政治や行政は「公」の存在なので、自分たちがサービスを提供する対象者を選別して絞り込めないという点ですね。企業のマーケティングは、顧客をある程度は自由に選べるんですよね。それこそ、顧客がITを使えないと買えないECだけで売ることもできる。でも、行政はITを使えない人を切り捨てられない。
もちろん政治の意思決定でも、実際は優先順位をつけざるを得なくて、特定の層や何かの政策への資源の傾斜配分はしているはずです。だけど、どこかの層への資源配分を「非効率だから」とゼロにはできないし、そもそも公の役割には、民間の仕組みで報われなかった方々や、がんばりたくてもがんばれない環境の人々への再配分もあるので、当然「非効率」を理由にゼロにすべきではない部分もあるじゃないですか。
政治は考え方だけでなく、政策によって恩恵や損失の利害関係まで違う人たちを束ねて合意形成するという意味では、その難しさの種類が企業経営と決定的に違うように見えます。
企業のリーダーは、少なくとも株主と、一定の基準でスクリーニングされて採用された社内からの一定の支持を取り付ければ、リーダーとしてコトを推進できます。政治家が巻き込んで味方にすべき人々と比べれば、その数も多様性も桁が少ないので、企業は意思決定の合意形成にかかるコストは政治とくらべれば低いと感じます。
山口:余談ですが、たまに企業経営で成功して名を成した人が政治家に転身しますが、政治家としては大きな実績を残せないまま、あきらめて企業経営の場に戻ってくることもあるじゃないですか。
創業オーナーで株も多数持っていた経営者は、絶大な権力集中があって、ある程度のことはなんでも自分の考えた通りに実行しやすいんですよ。それと比べたら政治家の世界は、リーダーとして権力を握るまでに待つ年数も長い上に、リーダーになったからといってすべてを思い通りに意思決定して実行できるわけではない。
邪推だけど、経営者から政治家に転身してから企業に戻ってきた方々は、そのあたりの権力構造の複雑性や、自分の考えを推進して社会に実装する前の時間軸の長さが、あまりにも違うことに耐えられなかったのでは? と思います。いや、僕も耐えられる気がしないので、気持ちはよくわかるんですが(苦笑)。
つまり、企業の世界で成果を出せる人が簡単に成果を出せないということは、取り巻くルールがかなり違う世界なんでしょう。
――そこが政治の難しさでもあるんですね。
山口:企業はもう先がないと思ったら、言葉は悪いですが、特定の顧客層を切り捨てるし、事業もあきらめたら売るとか撤収しちゃうという自由度がある。だけど、政治は「あそこはもう人口が増えないし、財政も赤字のままだから来年から予算を回しません」とやれるわけではないし、やるべきでもない。ただ、稼ぎ手の現役世代の人口が激減していく日本の社会では、投資リソースは減っていくし、徐々に無い袖は振れないみたいな話がそこらじゅうで起きてしまう。
財政の持続性を考えたら、政治としては誰かに恨まれても断行したほうがいいテーマはあるはずです。でも、政治家は口にしたら袋叩きに遭うので言えないし、やれないし、やる勇気が持てないし、選挙で勝ち続ける見込みが見えないので持ち出さない。そんなテーマが山のようにあるんだろうなと思います。そういうテーマは、支持率という大事な政治リソースが消耗するので、よほど信念があって、立場も強い人しかやれないですよね、きっと。
企業経営は、業績というわかりやすい評価の物差しがあるので、業績の結果がついてくると、リーダーの方針に反対していた株主や社内外のステークホルダーの反発もおさまるじゃないですか。これ、こっちもびっくりするくらいにおさまるんですよ。それこそ反発してた人の一部は「実は自分は最初から信じていた」と言いたげな記憶が塗り替わるくらいの勢いで、ドミノが倒れるように社内の空気が変わることがたくさんあるんですよ(笑)。
でも、政治の世界はそもそも評価する有権者やメディアによって重視しているものが多様で、かつ測定も難しいものが含まれるので、「結果を出して黙らせる」というアプローチも難しいですよね。
山口:そもそも報道や世論を眺めていると、定量的な結果はあまり評価対象ではなくて、メディアで見かける話し方やプレゼンの良し悪しの印象論こそ、評価のウェイトが高そうに見えます。まぁ僕も含めて、政治家の活動や内容をすべて勉強して把握なんてできないのでしかたないんですけど……。
企業経営と違い、政治はたとえ何かの成果を出していたとしても、世論の継続的な支持がないと選挙に勝てないのでリーダーは実権が保てない。企業経営者なら、菅総理みたいに口下手だけど、やるべきことは着実に推進みたいな人はけっこういます。業績さえ良ければ求心力は保てるので。でも、政治の世界はそれでは難しいのでしょう。
――なるほど。他にもそういった「これはおかしいな」「気をつけて見たほうがいい」ということはありますか?
山口:政治の世界で個人的に気になってしまうのは、有権者側のPDCAサイクルが機能していないことです。端的に言えば、政治家側がまじめに公約を掲げて、まじめにそれを推進するインセンティブ(報奨)が弱いように見えます。もちろん良心にしたがってまじめにやっている方が大半だと思うのですが、まじめに公約を考えて実行すると選挙で勝てるかどうかと、支持率を維持できるかは別問題に見えます。
山口:「あれ?」と思うことの象徴例は、東京都知事選。小池百合子さんが最初の都知事選で掲げた7つの公約の達成はほぼ0だったのに、2回目の選挙に圧勝で再選するという構図をみると、これは政治家からしたら「公約をまじめに考えて守るインセンティブがない」じゃないですか(苦笑)。
まじめに実現の可能性を検討して、当選後に実行推進して成果を出す人が評価されるのではなくて、なにも達成していない人が圧勝する。これこそ、政治における「政治家の振る舞い」を規定する、悪しきインセンティブ構造だし、僕ら有権者側が気をつけるべきことと思います。
「公約達成0でも圧勝」という事実からは、「政治家はメディアが報道したくなるプレゼンテーションのパフォーマンスが大事だから、メディア受けする立ち振る舞いでHackしちゃえばいい」という学びになりかねない。
それは裏を返せば「有権者側は投票行動においてPDCAサイクルを回していない」ということだし、「公約の達成状況」をそこまで気にしていないという不都合な真実です。まぁ、僕もそこまでリサーチして投票できているわけではないので、生活者の実感としては仕方ないよなと思うのですが。
逆に言えば、小池さんは生活者の支持を得るためのPRのセンスとしては、天才的なものがあると感じます。コロナや五輪の話題でも、常に政府や菅総理よりも自分が先に大衆が求める不安を察知し、断固とした対応を取ろうというメッセージを発する。政府は、小池百さんの後手にまわっていると思われないために、小池さんの動きを察知したら、先に対応策を発表するみたいな動きに見えることもありました。
マーケ目線で言えば、世論の支持を得るPRの要諦は、小池さんのHack技術をしっかり観察すれば学べるものがたくさんあると思います。
――普通の企業だと、最初に立てた目標が達成されなかったら……。
山口:ありえないですよね(笑)。10個の目標を掲げて達成が0だったら、間違いなく株主から信用を失って少なくとも経営者はクビですよ。でも政治であれば、支持率が高くて選挙に強ければ成り立つ。そこは民間の組織とはまったく違う力学があるように見えます。
選挙民に対して掲げた公約達成は0でも断トツで当選するなら、まぁ、政治家からは「有権者はなにも見ていない」とナメられてもしかたない結果ですよね、シビアに言えば。
「振る舞い」の問題でいうと、目立たないけど地道に改善して進めるという行為はすごく大事です。企業であればそういうまじめな人も評価して、ちゃんと処遇をしなければ、普通は組織として壊れていくわけです。
でも政治家は、自分の影響力を保ってやりたいことを実行するには選挙で勝ち続け、支持率も高く維持しなければいけない。そうすると、とにかく適切なタイミングでかっこよくプレゼンする能力や、リーダーの失点をヒステリックに騒いで攻め立てて衝突構造の絵をつくったほうが、マスメディアの露出が増えるし、それでSNSでも拡散するし、政治家としての認知が上がるんですね。
僕個人は、積極的な支持政党はない、いわゆる無党派層ですが、小池さんにしろ、自民党にしろ、野党にしろ、メディア露出に最適化して言動を最適化していくような、マーケティング的なHackの先鋭化には不安を覚えます。コロナにおいてあれだけ多くの死者を出したNY州でも、一時期プレゼンをキリッとやるクオモ知事は絶大な人気があったわけで、これは別に日本だけの話ではないと思いますが……。
山口:一方で、僕が見ていて「政治の世界も、マーケティングの世界と似ているな」と思うのは、野党が与党を激しく責め立てることでメディア露出をし続けているけど、支持率はそこまで伸びていないということです。誤解ないように伝えると、僕は別に野党の政策を嫌悪してこう言ってるわけじゃないです。再配分に関しては一部賛同できる部分もありますし。
詳しくは『情報参謀』という本に書いてありますが、政治の報道や世論は、テレビで報道されることが起点で拡がる傾向があるそうです。そしてテレビで報道されるには、短時間でも緊迫感が伝わるようなわかりやすい対立構造とキャッチフレーズで誰かを責め立てるシーンが有効だそうです。これは本を昔読んだ僕の曖昧な記憶からの咀嚼なので、本の著者が書いたことを正確に表現できていないと思いますが、良い本なのでぜひ読んでみてください。
野党が与党や政府をチェックするのは重要ですが、より良くするための建設的な議論を超えて、激しく罵っていく姿はよくニュースで流れてきます。純粋な思いのある野党の政治家の方も多々いると思いますが、少なくともニュース報道で見かけるシーンは、揉め事のシーンのような見え方の切り取りが多く、さながら対立構造を煽ることでリーチを広げていく炎上マーケティングのようにも見えます。
最近は内閣の支持率も悪化してますが、新聞の世論調査報道を見る限り、野党の支持率も1桁台のまま伸びていません。つまりサイレントマジョリティで、そこまで野党を積極支持する人は増えていないということです。
山口:マーケティングの世界で観察してきた印象ですが、炎上マーケティングは、無名の認知ゼロからニッチな存在として知られるステップには有効性があります。でも、相手を罵って炎上を煽るようなマーケティングを続けるブランドが市場シェア2桁になることは見かけません。
炎上マーケティングは対立構造を煽るなかで強烈な支持者を獲得することと引き換えに、対立構造を煽るコミュニケーションへの嫌悪感を持つ層もたくさん生み出す副作用があります。でも、嫌悪感をわざわざ口には出さないのが大半で、支持者の声を過大評価し、失望する離反者を過小評価してしまいやすい構造があります。
炎上マーケティングを駆使していくと、既存顧客ファンは盛り上がるけど新規顧客獲得は伸び悩む。それは現在の野党の伸び悩む姿と重なるものがあるし、サイレントマジョリティの多くはそのあたり敏感に感じ取っているのかなと思います。
そういう意味で、野党が与党を激しく詰めていき、準備していたキャッチフレーズで煽るような姿ではない、新しいあり方やコミュニケーションを野党は模索しないと、新規支持層の獲得は厳しいのかもしれません。検証しているわけではないですが、マーケティング目線ではそのように推察しています。
あとこれは野党だけの話ではなく、政治家全体への不信感をつくっている可能性もあります。つまり与野党の議員に限らず、炎上マーケティング的なやり方をする政治家がいて、炎上を起こす政治家=悪貨が、まじめに地道に政策立案を積み上げている政治家=良貨を駆逐する、足を引っ張って政治家全体への関心を低下させている構図にも見える、ということです。
……これ、めちゃくちゃ政治家や政党に喧嘩を売っていますね(苦笑)。まぁ、検証されていない与太話と思って聞き流してください。
――はい(笑)。
山口:そうではないかたちで信頼を得ている人もいらっしゃると思うんですけど。炎上とまでは言わなくても、その時のメディアに最もウケるパフォーマンスに言動が最適化できる人のほうが選挙に強いのは、企業の世界でもあるあるです。
会社で例えると、社長や上役が見ている時のプレゼンは抜群だけど、「あいつ、プレゼンばっかで何もやらない」みたいな人がいるじゃないですか。だけど、僕ら有権者はプレゼンしか見ていないから、プレゼンがうまい政治家に投票するわけですよ。
じゃあそれを解決する方法は何かというと、常に「僕ら有権者側が賢くなるしかないですね」という話になるんですが……。それはなかなか、僕も含めて賢くなれないので難しいですよね。僕は個人の振る舞いはインセンティブで変わると思うので、「政治家が悪い」というよりは、根本的に「政治家の言動をそのように導いている、投票している私たちが悪い」と捉えています。
そういう意味で、政治家のことを蔑んでバカにする目線はブーメランだと思っています。もし、政治家がダメだと思うなら、僕ら有権者側に政治家を育てて導くメッセージが足りないということなんで。
――巡り巡って、自分たちの問題ということなんですね。
山口:政治家を批判するのはどんどんやればいいと思うんですけど、逆に、いいことをしていたら褒めてあげたいと僕は思います。政治家ってなにも褒められないじゃないですか。
今コロナの感染者数は悪化している(※インタビューは8月に実施)けど、先進国の中では、感染者数や死亡者数の数字では日本は相対的にはよくやっているほうじゃないですか。もちろん感染者や死亡された当事者やご家族からしたら統計の数字に意味がない出来事という心情はわかるのですが、先進国での被害状況と生活の自由度という視点では決して日本は悪くはない。
経済影響は先進国の中でけっこう悪いほうなんですけど、「いろいろ文句を言っていますけど、先進国の中でここまで死亡者が少ないのはよくやっていますね。とはいえ、○○はもっと改善してほしいのでがんばれ」ぐらいのことは、政治家でも僕ら有権者側でも、もう少し言ってもいいんじゃないのと思っちゃいますね。
僕は、基本的には自分も経営側だし、仕事でもクライアントの経営層に寄り添うため、やはりリーダーとして踏ん張る側への心情的共感が強いバイアスはあるので、そこは差し引いて聞いてもらいたいですが……。
その上で、ダメなことはダメと指摘する。ダメな部分の指摘も褒めるのも、両方やってあげたい。そういう意味で、いい政治を望むんだったら、フォロワーシップも良くしていかないといけない。
山口:公約を1個も達成しない人が再選してしまうのは、やはりフォロワーシップとして誤ったメッセージを発していますよね。我々が、そういう雑な公約の掲げ方を積極推奨するゲームに仕立ててしまっているんですよね。
「ちゃんと実行しないと次の選挙に落ちるんだ」と、政治家に対しても与党だろうが、悪いことしたらけなされるし批判されるけど、いいことをして成果を出したら、褒められて支持率が上がるということを、リーダー側にポジティブな成功体験を経験させなきゃいけないですよね。
別に小池百合子さんをそこまで嫌いじゃないし、あのビシッとプレゼン感は僕も素直に惹かれるんですけど、すごくわかりやすい題材なのでいっぱい例にしちゃうんですが(笑)。基本的に政治のレベルは国民のレベル・有権者のレベルだと思うので、フォロワーシップ側である僕らが成熟しないと、政治のレベルは上がらないんじゃないかなと思っています。
ーー確かに……。
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