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岸田奈美 氏(全1記事)

バリアをあとからなくすにはお金も時間もかかる 作家・岸田奈美氏が語る、障害をつくらない考え方

2017年から定期的に開催されている、飲めば飲むだけ寄付になるスタンディングバー「KIFUBAR」。みんなで一緒に飲みながら「より良い社会、より良い未来」を語りあうイベントです。今回はそのスペシャルバージョンとして、さまざまな社会課題の解決に取り組む5名の登壇者によるトークイベントが開催されました。本パートでは、障害のある家族との日常を綴ったエッセイが話題となった作家の岸田奈美氏が登壇。自身のこれまでと、ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を営む株式会社ミライロでの取り組みについて語りました。(登壇者の肩書きは講演当時のものです)。

車椅子の母とダウン症の弟とのスリーマンセル

岸田奈美氏:では、僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきたいと思います。岸田奈美と申します。それでは、乾杯~!

ありがとうございます。岸田奈美と申します。お願いします。

肩書きを「作家」とすごくかっこよく書いていただいたんですけど、実は作家と名乗ったのが先週からで、もう1つ肩書きがあります。株式会社ミライロという会社の社長特命担当というすごく仰々しい、1人しかいない肩書きを持っております。

ちょっと聞きたいんですけど、私のブログの記事やnoteの記事、新聞記事などなんでもいいんですけど、「最近読んだことあるよ」という方はいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます! すごい、けっこういる。ありがとうございます。ツイッターランドの住人ですね。ありがとうございます。

(スライドを指して)ここに家族が写っているんですけど、私は今3人家族で暮らしていて。お父さんがいたんですが、私が中学2年生のときに心筋梗塞で亡くなりました。享年39歳。ちょっとすごい名前なんですけど。あとお母さんと弟と私の3人家族です。このスリーマンセルで生きております。

車椅子に乗っているこの女性がお母さんです。お母さんは私が高校1年生のときに大動脈乖離という、心臓につながる一番太い血管がバリバリっと裂けていく病気になりました。手術中の致死率、亡くなってしまう確率が8割を超えるという大手術だったのですが、その手術の後遺症で下半身麻痺になってしまって今は車椅子ユーザーとして生活をしています。

私のパーフェクトな弟がおりまして、岸田良太という彼は、生まれつき遺伝子の異常でダウン症という症状があって知的障害があります。

今25歳なんですけど知的レベル的には3歳児程度なので、みなさんがしゃべったら本当に3歳の子どもとしゃべっているような感じなんです。だけどものすごく優しいし、とても丁寧だし、本当に愛想がいい、パーフェクトな弟です。

弟がすべていいところを持っていって、すべての残りカスを集めた人間が私、岸田奈美なんですけど。

(会場笑)

車椅子の母の動画がミャンマーや中国で話題になった、意外な理由

天は私にも得意なものを創りたもうてですね、「文章力がちょっとだけある」と言われて育ちました。それが嬉しくて、noteというブログサービスでいくつか記事を書いたんですが、これが一番読まれた記事です。私の弟が地域のコンビニで万引きを疑われたことがあって。

実際は万引きをしていたわけじゃなくて、そのコンビニの店長が大変優しくて障害がある弟にすごく理解があったというオチがついている話なんです。これをたくさんの人に読んでもらえて、弟について知ってもらえたのが嬉しかったですね。

私もツイッターランドの住人なので、Twitterでけっこういろんな情報を発信しているんですが、「見た」と今つぶやいてくださった方、ありがとうございます。車椅子に乗っているうちのお母さんが手だけで車を運転するという動画を出したんですね。これが実は500万回再生されまして、今なぜかタイとミャンマーでこの動画が爆バズりしているという。

なぜかというと、これには裏話があって。ミャンマーは輪廻転生の仏教なんですよ。つまり障害者は前世で悪いことをした人だと思われているんですね。だからまだ「障害者は自業自得だ」という差別がすごく残っているんですよ。

一応仏教の国なので助けてはくれるんですけど、「その人と一緒に生きていく」「その人の生活レベルを上げる」という考え方がまだミャンマーにはない。

そのミャンマーで障害がある人たちがこの動画を見たときに、「日本すごいな」「車椅子の人、障害のある人が外に出てバリバリ車を運転しているなんてあり得ない」と。「こんなにいい国があるんだ」ということで爆バズりしているんです。

1周回ってなぜか昨日から中国で流行りだして、うちのおかんが中国で「めちゃくちゃ美人な車椅子のユーザーがいる」みたいな感じで出ていて「ちょっといけすかねぇな」と思っているところです。

(会場笑)

月に1回は家族と一緒に知らない場所で知らない経験をする

ということで、実はいろいろ書いているんですけど、私は自分のエッセイを書き始めたのが3ヶ月前からなんですね。初めて書いたらそれが話題になって、今noteという私のブログに月100万PVアクセスがあるんですよ。

今はいろんな雑誌や媒体で書かせてもらっています。

noteにはサポートという投げ銭機能があって、主にこのお金で作家活動をさせてもらっています。サポートをしてくださる方々の期待に応えようということで、今は「月に1回は知らない場所に行って知らない経験を家族として、それを記事にします」というのをやらせてもらっています。

ということでハワイに行ったり、スペインに行ったりしているんですが、もし「この国に行って家族について記事を書くとおもしろいかもしれないよ」というのがあれば言っていただけたらと思います。今は絶対に月に1回新しい体験をすると決めているので、なにかあれば誘ってください。

最近やったのは「サーフィンがおもしろいから、ちょっとサーフィンをやりに来てよ」「ボルダリングをやりに来てよ」とか言われたりするので、それをやりました。なにか楽しい体験があればお待ちしております。

バリアをあとからなくすにはお金と時間がかかる

作家としてはこういう活動をしているんですが、実は株式会社ミライロという会社に勤めている時間のほうが圧倒的に長いんですよ。作家活動は3ヶ月なんですが、ミライロは勤務して10年目です。大学1年生のときに社長と副社長に出会って一緒に会社を立ち上げた、ミライロの創業メンバーです。

ミライロという会社がなにをやっているかというと、障害のある当事者の視点からバリアフリーのコンサルティングやアドバイスを行っています。今60人くらい社員がいるんですけど、そのうち10人はまったく目が見えなかったり歩けなかったり耳が聞こえなかったりする、障害のある社員です。

車椅子の母も一緒に働いています。なぜかというと、私がミライロの創業メンバーに入ったのは母に活躍してもらえる場を増やしたかったから。そういう意味でやっています。すごいですね。いい娘です、本当に。

(スライドを指して)いろいろやっていて、例えば施設、建物の設計の監修にアドバイスということで、これは結婚式場です。車椅子の方や杖をついている方でもチャペルに参列しやすい建物づくりをやらせていただいたりしています。

車椅子に乗っている状態の、高さ106センチの目線だからこそわかること、気付けることがあるんですね。普通の人が図面を見てもなにも気付かないかもしれないけど、ふだんから車椅子に乗っている人はその図面を見たときに「ここ、車椅子の人と歩いている人がすれ違えないからすごく時間かかりそう」「この段差はなくしてほしい」と気付くんです。

障害、バリアというのは、あとからなくそうとするとお金と時間がものすごくかかるんですよ。階段をなくそうとすると、時間とお金がかかるんです。最初から作らないというのは、お金がかからないことです。なので、「どうせ作るなら、あとから改修が必要ないように完璧な状態で作りましょうよ」ということで企業にコンサルティングをしています。

ハードは変えられなくてもハートは変えられる

もう1つが、「ハードは変えられなくてもハートは変えられる」というコンセプトでやっているユニバーサルマナー検定というのがあって。うちの母はこの検定の研修講師として活躍しています。

これは目が見えない人や耳が聞こえない人、歩けない人、またはおじいちゃんおばあちゃんに対してどういうふうに向き合ってどうやってサポートしたらいいかを全部教える検定です。

この検定をみなさんがもし受けに来てくれたら、まず車椅子に乗ってもらって車椅子の人の目線を体験してもらって、どういうサポートをしてもらったら安心するかなということを学べます。

私はもともと6年間くらい広報部長として広報をやっておりました。 あとはアプリも作っています。これは「Bmaps」といって、バリアフリーの店舗情報です。食べログのバリアフリー版と思っていただくといいですね。10万件のお店のバリアフリー情報を誰でも投稿できて誰でも閲覧できます。

車椅子の人が渋谷とか、こういうごちゃごちゃしたところに行ったときにこれを起動すると、車椅子やベビーカーで入れるお店が見つかります。そういうアプリも作っています。

そんな感じでバリアフリーやユニバーサルデザインを広めるサービス、プロダクトというPRを経験していました。6年間そういうまじめな領域でまじめな文章を書き続けてきたので、今はなんとなく「その領域でやっちゃいけないこと」「ここまではいいけどちょっと炎上しちゃうよね」「敵ができちゃうよね」というラインがわかってきているんですね。

だから、知的障害のある弟や車椅子の母の楽しい体験談をいい感じで広がるように書けたというのは、いいことかなと思います。

もし広報面やPR面、文章を作っていく方面でお悩みの方がいらっしゃったら、ぜひお話しできればなと思います。すみません、今日はありがとうございました。

(会場拍手)

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