2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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田中森士氏(以下、田中):お三方ありがとうございました。ここからはパネルディスカッションに移っていきたいと思います。今回のイベントのタイトルが「我々はコンテンツ制作とどう向き合うべきか」ということで、こちらの認識ではコンテンツ制作にお悩みの方々にお越しいただいていると思っています。
今日はなぜこの組み合わせなのかということなんですが、実はかっこでくくれるんです。それは何かと言うと、自然体というか楽しんだ結果、いいものが生まれている。楽しんだ結果、コンテンツになっている。そういったところがすごく似ているんです。
例えばSUUMOタウンの岡さんの編集方針ですと、SUUMOタウンさんはライターさんに楽しんで書いてもらうことを意識しています。その結果、なぜかSEOの対策になったり、エンゲージメントが高くなったりすることが起きている。
ヌケメさんもペルソナを設定しているのか、していないのかわかりませんが、とにかく自分が作りたいものを作っています。その結果、今や世界中からワークショップ講師のオファーが来るまでになり、世界中を飛びまわっておられるケースです。
小林さんもそうです。好きでその格好をされているわけですよね。その結果、ご自身がコンテンツと化したわけです。世界中から引っ張りだこで。年末年始はキューバのハバナでお過ごしになったということですが、これもオタク系のイベントのオファーがあったということですよね?
小林秀章氏(以下、小林):キューバはね、太陽ギラギラの国なのに、意外とオタクが多いんですよ。
田中:ウチにこもって日本のアニメとか見てると(笑)。
小林:そうです。
田中:なるほど。その話もおもしろいです。というわけで、私はみなさんのコンテンツ制作の方向性が同じじゃないかと思って今回オファーをさせていただいた次第です。では、さっそくパネルディスカッションに入っていきましょう。
田中:まず1つ目のお題。「何のためにコンテンツを制作するのか」。コンテンツマーケティングの視点で言えば、行動を促したり、何らかの企業利益につなげたり、そういった目的があるわけです。お三方の立場はそれぞれ違いますが、まずは岡さんから。何のためにコンテンツを制作するのでしょうか?
岡武樹氏(以下、岡):自分たちが「SUUMOタウン」というコンテンツを作っている理由としては、まずSUUMOという不動産情報サイトが、ある程度知名度の高いサイトになっていて、「家を決めよう」「引越しをしよう」という人には接することができている、ということがあります。
そのうえで、「サイトに来る前の人たちにアプローチをするためにはどうしたらよいか」と考えて、引越しや家の情報だけじゃなく、「街」を紹介することによって、まだアクションを起こしていない潜在層にリーチしたい、と思いながらSUUMOタウンは運営をしています。
田中:マーケティングですね。
岡:そうですね。
田中:ありがとうございます。ではヌケメさん。
ヌケメ氏(以下、ヌケメ):僕はけっこう、自分が生活していて「足りていないな」というものに関わることが1つ、自分の方向性としてあるんです。
例えばヌケメ帽という、日本語が刺繍されたキャップのシリーズがあります。英語のTシャツとかは普通に街にあふれていますよね。でも日本語をジョークにせず、ちゃんとかっこいいものとして扱ったデザインはぜんぜん足りていないな、という気持ちがあったんです。
なんというか、英語のTシャツやキャップみたいなものを英語圏の人が見たときにどんな気持になるのかずっと興味があって。自分の母国語は日本語なので、僕がそれを体験しようと思ったら日本語がデザインに使われた洋服になるだろうなと思ったんです。
実際にやってみると、やっぱりグラフィックとしての造形よりも先に意味が目に飛び込んでくるんです。気持ち悪い体験だったんですけれど、「想像通りだな、おもしろい体験だな」と思いました。
ヌケメ:あと「グリッチ」というテーマにすごく惹かれたのは、ふだんいろんな機械に頼って生活していますよね。でも、それがどういうロジックで動いているかは、とくに意識せずに生活していると思うんです。その機械が壊れたときに、「あれ、なんで壊れたんだろう?」「ふだんはどうやって動いていたんだろう?」みたいなことを想像するきっかけになると思っていて。
例えばカーナビでテレビを見ながら移動していて、トンネルに入ったら一瞬、映像が乱れますよね。「あれはなんでだろう?」と考えると、「トンネルに入ったからだ」「ということは、トンネルの中は電波が悪いから(映像が)乱れているのか?」みたいな。
僕はそういう構造にちょっと思いを馳せるきっかけとしてグリッチがあるなぁと思っていて。そこが自分の興味の中心ですね。「これ、どうやって作られているんだ?」という。
田中:その気付きを与えるために、コンテンツというかアートを作っておられる?
ヌケメ:そうですね。僕にとってはコンテンツそのものが目的というよりも、コンテンツによって与えられる気付きのほうがメインになる感じですね。
田中:なるほど。コンテンツマーケティングの文脈で言うと、あんまりそういうコンテンツがないんですよね。そこで気付きを与えるというか。例えば認知を獲得するためのバズ目的だったり、あとは先ほども申し上げましたが、悩み解決ですよね。
そういったソリューションのためのコンテンツがあるのですが、今のお話をうかがって、その「気付き」というのはこれからのキーワードの1つになるような気がしました。では、小林さんお願いします。
小林:はい。私自身がコンテンツであるという立場からすると、狙ってはいけないんですけれども、気付いたらなっていた……みたいな感じですね。だけど、だからといって先ほどのLINEスタンプみたいなものを売ろうとすると、これは失敗に終わるわけです。
ということは、やっぱり狙ってもダメというか。「何のために」という目的をあんまりガツガツ設定したらいけないのかなと思っているんですよ。
田中:なるほど。
小林:先ほど田中さんが「コンテンツとは何か」を定義されて、「的確な人に的確な情報を届ける」とありましたよね。結局、今流行っているオウンドメディアを立ち上げたり作業したりするのには、時間とお金がかかるんです。
それが空振りに終わって何にもならなかったら、虚しいことになるかもしれない。でもコンバージョン率が上がらなかったら「これは失敗か」と決めつけられるかというと、そうでもなくて。要するに、測れない・見えない価値が大事なんじゃないかなと思っているんです。
田中:なるほど。
小林:自慢するのもアレだけど、私は各国に行って「日本のイメージをちょっと上げてきたぞ」という自負が多少はあって。そんなのはお金に換算できないけど、やっぱり行くと「あ、日本から来てくれた」みたいに歓迎してもらえるムードがあるんです。
そういうのは、なんだか価値を提供してきたような気がしているんですよ。「(お金に換算すると)いくら?」と言われても、いくらかはわからない。
田中:なるほど。
小林:「クールジャパン」とか言われているけど、私は大変心配なんです。とくに「海賊版を厳しく取り締まろう」という意見、あれは大事なものを殺してしまうんじゃないかと思っていて。確かに理屈では、海賊版を作ることによって本当の制作者の懐に入るべきお金が入らないんだから、それは止めないといけない。
その理屈は正しいんだけど、キューバみたいな国ではやっぱり貧しい人たちが一生懸命、こう……(海賊版を)回して日本のアニメとかを見ているわけですよ。そうすると、日本に対する親しみや日本のイメージがすごく上がるんです。
「キューバのアニメオタクが全員すらすらと言える日本語は?」その答えは「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします」なんですよ。
(会場笑)
みんなすらすらと言うんですよ(笑)。そのくらい日本は向こうからの受けがいいんです。そういうこともあるので、「何のために」と決めてガツガツやらずに、結果的にその数字にならなくても「なんだか価値が提供できたぞ」という感じがしていればいいんじゃないかなと思います。
田中:日本企業はすぐに経済効果・費用対効果と言いたがるんですよね。だけど、それだけじゃないんだと。例えば認知を高めれば、 間接的に国益になるだろうということですよね。ヌケメさん、何か言いたそうな顔をされていますね。
ヌケメ:本当にそうだなと思います。海賊版が出回ることは、短期的な損益として計算しやすいからそれを止めよう、みたいな話になっているんだと思うんです。長期的な利益は計算しにくいじゃないですか。長い目で見たときに「日本に愛着を持ってもらえたほうが結局は得だよね」みたいなことは数字にしにくい。
特許を取るのはまた違いますけれど、たぶん短期的な利益を確保しようとするとああいう考え方になるんだろうなと思います。海賊版は悪いとか、漫画村の問題とか、確かに悪いことだと思いますけど「ダウンロードは全部禁止しよう」みたいなことはやり方として間違っているし……とは常々思っています。わかりみが深い話でしたけど。
田中:今の話はSUUMOタウンの運営方針ともリンクしますよね。直接的な費用対効果を求めるわけではない。つまりお金の回収を目的としていないオウンドメディアですよね。
岡:そうですね。一応PVも見ているんですけれども、PVのみを目指す指標に設定していないんです。TwitterやFacebook、あとはブログとかの反応をしっかり見ています。
実際に記事をすごく気に入ってくれた人が「今引っ越しはしないけど、これを見たことによって今後SUUMOで家を探そうかなと思った」「SUUMOのイメージがちょっと良くなった」とか。お金に換算するのは難しいけれど、そういうことを重要視していますね。
田中:まったく同じことですよね。海賊版ではないけれど、お金をかけて作ったコンテンツを無料でばらまくのは「そこでお金を回収するつもりはない」ということですよね。非常に示唆に富んだお話でした。
ここで、みなさんに付箋を1人1枚ずつ配らせていただきます。気になったことや質問事項を書いていただきますと、このパネルディスカッションのあとに質疑応答の時間が10分15分ございますので、そこで回答させていただくという流れになっております。
じゃあ次の話題にいきたいと思います。ずばり「良質なコンテンツとは?」。何をもって良質かというところで話を展開していただけるでしょうか。じゃあ、これは小林さんから。
小林:そうですね。一般論で考えると価値には2種類あって、おもしろいか役に立つかのどちらかだと思うんですよ。
役に立つほうは、例えば見る側が目的を持って検索して、目的を達成する。「やった」と思って価値は受け取るんだけど、目的が達成された以上、(その情報を)どこが出しているかまでは見ない。その企業のイメージがアップするところまでつながるかはわからないんです。
一方、おもしろいほうはファンになる人が出てくる。そこ行けばいつもおもしろいものが読めるとなれば、やっぱり喜んで行きますよね。そういうところに本当の価値があるんじゃないかなと思うんですよ。
田中:企業としては、お金をかけて運営するわけじゃないですか。私は頭がマーケティング脳なので……。そのお金はどうやって回収すればいいんでしょうか? どこにキャッシュポイントが?
小林:実は、おもしろいコンテンツはなかなか発見してもらえないという悩みがあって。「こんなにおもしろいことを出しているのに、見つけてくれなきゃ困るよ」というところがあるんですよ。むしろ、そこをどうしているのかを聞きたいです。
田中:それはですね、いろんなマーケティングテクノロジーツールを使って……。
小林:あ〜。
田中:適切な人に適切なタイミングで届けるためのツールというか、システムの開発が進みつつあるんです。実用化も進んでいるところです。なので、テクノロジーの力を借りることになります。
小林:なるほど。前回に「いかにもマーケティング臭がするものは、みんな離れていっちゃうよ」という話があって、まさにそうだと思っていて。だから見る人の立場になって、親身になっておもしろいものや役に立つものを提供するのは良いコンテンツだと思います。
でもその裏で……私も歩いていると、「写真を撮らせてください!」と寄ってくる人がいるんですけど、そのときついでに「LINEのスタンプ、出てるんですけど」と言ってもたいして効果がなくて、むしろイメージダウンになっているんじゃないかと思っていて(笑)。
田中:確かに、買うイメージが湧かないです。
小林:ガツガツすると、悪質なコンテンツになってしまうので(笑)。もういいんです。
田中:悪質なコンテンツ(笑)。
小林:「みんなが喜んでくれればそれでいいや」くらいに考えて、ガツガツしないほうがいいんだなと思っています。
田中:わかりました。ありがとうございます。
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